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「テクノロジー優先の他社に対し、Baiduはユーザーサービスを優先」Baidu(百度)井上社長
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今回のゲストは中国企業としてNASDAQにも上場している、検索大手のBaidu(百度)社長の井上俊一氏です。井上さんと筆者は互いに前々職時代に同じプロジェクトに携わったことがあり、数年前から時折情報交換をさせていただいていました。そのころから一貫して検索サービスのプロフェッショナルとして仕事を続けてきた井上氏ではありますが、Yahoo!からの転身は筆者にとって意外でもありました。経緯と、今後の展望について伺いました。
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井上 俊一
百度株式会社 代表取締役社長
1993年上智大学理工学部電気電子工学科で学士号を取得後、東京工業大学総合理工学研究科にて精密機械システムを専攻し、1995年に工学修士号を取得。
大学院修了後、セコム株式会社インテリジェント・システムズ研究所で画像処理のリサーチエンジニアを務める。その後、エキサイト株式会社のCTOとして、ウェブ検索やカテゴリ検索を始めとして翻訳やメールなどあらゆるサービスの開発および運用を指揮した。またヤフー株式会社では検索事業部長として、Yahoo! Inc.と共同でウェブ検索(Yahoo! Search Technology)の開発や検索連動型広告の開発を行ったほか、Yahoo!知恵袋などのYahoo! JAPANの検索関連プロダクトの全指揮をとるなど、約10年間にわたり一貫して検索サービスの開発およびビジネス化に携わる。
2008年8月1日に百度株式会社の代表取締役社長に就任。
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■ 検索を軸とした企業にいることが自分の本分
小川氏
ごぶさたしております。前の連載でインタビューして以来、いや僕のイベントにご登壇いただいて以来ですね。
Yahoo!での最終経歴はなんでしたか? また、どうしてBaiduの社長を引き受けたのでしょう?
井上氏
Yahoo!では検索事業部の事業部長でした。
Baiduにきた理由ですか、理由はいくつかあるんでしょうけど…、なんでしょうね(笑)。
うーん、やはり一番大きな理由は、検索にもっとフォーカスしたいということだったんでしょう。小川さんも知っている通り、自分のキャリアを考えると検索が中心じゃないですか。それを軸に据えたい。検索を軸に回っている会社に進みたい、と考えていたのが大きいですね。
小川氏
Yahoo!は検索の会社ではない? …まあ、検索を軸とした会社ではないですね。
井上氏
検索が主体というわけではないですね、事業としては。それはともかく、検索を軸としたこれからの会社で、しかも中国で大成功して8年で圧倒的、70%以上のシェアを持つ会社はどんな会社だとBaiduには関心がありました。CEO兼創業者であるロビン・リーの経営能力にも興味を持っていましたから。その後ロビンから誘いを受けて、少し考えた結果、そのオファーを受ける決心をしました。彼らの成功体験と自分の経験をマッチすればいいサービスを作れる、と思いましたし。
小川氏
Baidu自体は、日本にいつきたんでしたっけ?
井上氏
2006年12月に日本法人を設立しました。2007年の3月にベータ版でサービスインして、2008年1月に正式にBaidu.jpでのサービス開始をしました。
■ 知名度の向上が課題
小川氏
日本では具体的にどうビジネスをやろうとしている?
井上氏
サービスは検索中心ですから、まず検索を軌道に乗せたいと思います。最後発なので、誰も知らないじゃないですか、Baiduを。
小川氏
普通の人は(百度を)なんて読むのかさえ分からない(笑)。
井上氏
ところで小川さんはフィードパスを辞めてから何をされてるんでしたっけ?
小川氏
そこですか(苦笑)。いまはモディファイという会社を経営してます。個人向けのRSSリーダーなどの無償サービスと、企業向けの情報共有ツールなどの有償サービスをやってます。お互い知名度をもっと上げないといけないですねえ(笑)。
井上氏
Baiduは業界の中ではまあまあ知られてきましたけど、一般ではほぼゼロ。大きな課題だと思います。技術的な面に関する不安はないんですよ、開発計画に関しても問題ないです。Baiduの検索には、日本語であってもいままで日本人の手が入ってなかったんですけど、日本人を採用して、どんどん良くなってきています。
小川氏
どうやってその課題を克服しようと考えてますか?
井上氏
どうやって使ってもらうかが考えどころですよね。GoogleやYahoo!の領域、つまりWebサーチから挑戦したのではだめだろうと思っています。最終的にはそこでの勝負ですけど、まずは周辺の、例えばイメージ、ビデオなどのエンタメ系のサーチで戦うべきでしょう。楽しく使えるもの、Google以外の新規参入の検索エンジンに対して心理的な抵抗がない人たちを取り込めると思いますし。
■ 収益モデルとカルチャーにGoogleと違い
小川氏
事業モデルは?
井上氏
検索連動型広告ですね。アドセンス的なサービスは今はないです。まずBaiduのサイトで検索してもらってそこで広告を出すのが基本です。
もちろんパートナーはいますので、そこでの検索結果に広告を出すということはやりますが、コンテンツマッチを広く出すというのはまだないんですよ。だから、ほぼ自社の検索結果連動広告による収入が売上のすべてですね。
小川氏
話は違いますが、Baiduのカルチャーはどんな感じですか? 中国企業と仕事はしたことがありますが、中国企業で働いた経験はないんです。
井上氏
うーん。まず外資のベンチャー、という言い方でいえば、Google的ですね。Yahoo!的ではない。検索を軸にしている、という点でそういうことになるでしょう。
ただ、Googleとの一番の違いはフィロソフィーだと思います。Googleは技術ドリブンの会社です。テクノロジーオリエンテッドという印象が強い。われわれも技術ドリブンではありますが、ユーザーオリエンテッドなんですよ。
小川氏
具体的な違いは?
井上氏
Googleは技術的にブレイクスルーをとても大事にしている。Baiduはユーザーが楽しんでくれそうならやる。Googleは世界の情報を集めてオーガナイズするという考えを持っていると聞いていますが、Baiduはそんなことは思っていない。Googleが「整理する」というのは誰も使わない情報でも整理するということを言っていると推測しています。われわれはそうではなくて、あくまでも使われる情報とサービスを提供したいですから。
中国企業、ということについては、それほど大きく何か違うということはない気がします。開発は基本的には中国でやっていて、エンジニアは日本には一人しかいません。日本に閉じて日本で優秀な人を集めるのは大変だし、高いじゃないですか。中国には優秀な人材のプールがあって、日本語や日本のカルチャーを理解している中国人も多いんです。だからこれは大きな強みですね。
小川氏
なるほど。
■ 中国企業ならでは強みを生かしつつ日本市場への浸透を
井上氏
開発の基本は検索のテクノロジーです。Baidu全体でいえば、Webサーチは日本最大のサイトよりも大きなトラフィックを持ってるんですよ(笑)。だからわれわれも当然Webサーチに力を入れていますが、それを軸にアシストするサービスが違うんですね。例えばポストバーというサービスがあります。要は掲示板みたいなものですけど、クエリーを入れて結果がなかったら、そのクエリーに関する掲示板を作って、ユーザーに回答してもらうというものです。コミュニティにサポートしてもらうわけです。いまは画像などのファイルをアップできるようにもなっています。人名などもWikipediaのような感じで調べられるようになりました。
そのほかにも、さまざまな手法でWebサーチを補完することを考えています。圧倒的なトラフィックを使って、お客さまのニーズを取り出していくということには、素晴らしい感動があります。
小川氏
話を戻して中国企業としてのBaiduについて、もう少し語ってください。外資、それも中国企業の現地法人で働くということは?
井上氏
角度を変えたお答えですけど、自分にとってYahoo! Japanの成功体験は強烈です。Yahoo!の成功はやはりソフトバンクとの合弁だったということが大きいと思いますね、ほんとに。日本での成功の方程式を最初から分かっていたんですね。
ところがGoogleは米国で作って、それを多言語化すればそれで成功する、と思い込んでいた。ところがGoogleの思惑は日本だけではなく、アジアでは他地域に比べて、必ずしも成功しているとはいえない。日本でも韓国でも中国でも台湾でも、一番になれていないわけですから。
だからこそ、最近は哲学を曲げ始めた感じがしますよね、交通広告やイベントなどを開催したりして。
小川氏
はい。
井上氏
Baiduは、最初からその国のことをちゃんと考えてローカライズしています。中国の国内では中国語以外の検索はさせてないんです。日本でも同じで、日本国内のサービスでは日本語に特化して、日本人向けの検索結果を出しています。
小川氏
Baiduは中国以外はまだ日本だけでしたっけ?
井上氏
はい。日本で成功してアジア語圏にでて成功したいという思いがありますね。日本は重要なマーケットです。
ユーザーのニーズ分析が重要ですよ、検索結果をみて、その国の人がうれしいと思うかどうかが大事ですから。
小川氏
韓国はどうですか?
井上氏
韓国は難しいかな、NAVERが強すぎるし、相対的にクローズドなマーケットですから。日本とはまた違う意味で難しいです。Googleのシェアも2~3%でしょう。
■ 検索が好きで異文化交流を積極的に楽しめる人材を得ることで成長を期す
小川氏
分かりました。日本市場において、検索自体のシェアを伸ばす方策は?
井上氏
繰り返しになりますが、Webサーチの代替として使っていただこうと思うと難しいですね。画像とか動画、Baiduにきてもいいと思ってくれる人たちにフォーカスします。これだったら使ってもいいと思ってもらうことです。そのためには提携も必要ですね。
小川氏
機能特化型サーチにも競合がたくさんいます。
井上氏
そうなんですけど、画像サーチもまだGoogleでさえ、やり尽くせているわけではないと思うんですよ。Googleが対応をあきらめちゃうようなところ、日本に特化した画像検索をすれば勝機はあるのではないですか。
動画サイトは、YouTube、ニコ動など、いろんなところにコンテンツが分散しています。横ぐしでもってこれるかというと、けっこう難しいですよね? また、中国のサイトにも日本の動画はいっぱいあります。日本語のインターフェイスで中国のサイトがひっかかってもいいと思うんですよ。日本のローカルのサイトよりはカバレッジが広いと思います。
まあ、いずれにしても、2009年のBaiduはまだアーリーステージにいます。まだ人材採用とプロダクトの開発に力を入れている時期で、そこがうまくいって初めてプロモーションに積極的になれるのかなと。まだ人材と開発にフォーカスすべき時期なんですよ。
小川氏
募集している人材は?
井上氏
まずは企画とか、プロダクトマネージャーかな。ユーザーの気持ちがわかる人がいいですよね、テクノロジーに偏重してなくていいんです。プラス、検索業界にいなくてもいいけど、いまの検索に限界を感じている人が欲しいですね。新しい領域を含めて、なにかできると思ってくれる人、検索=“クエリをテキストボックスにいれて検索”というメンタルブロックがない人がいいですね。
小川氏
いまの陣容は?
井上氏
いまの日本法人は30数名で、中国系が7~8人ですね。社内の公用語は日本語です。中国人のスタッフも日本で採用していますので。
日本法人のカルチャーとしては日本の企業文化を守りたいところですが、本社とのコミュニケーションは大量に発生するし、出張もある。もちろん開発も共同で行うわけで、その異文化コミュニケーションの経験を楽しめる人でないと務まらないですね。
小川氏
たしかに。
井上氏
そこがアメリカとも違うところかな。Baiduは本社で日本語しゃべる人がたくさんいるんですよ、しかも人材のボリュームゾーンは新卒が多いんです。幼いときから日本のテレビや映画、カルチャーに触れてきた人が多いんですね。アメリカの会社とは違うところです。日本人の採用も、検索そのものに興味がある人と、中国とかかわりたいと思う人のどちらかが多いのがBaiduのいまの特徴ですね。
小川氏
なるほど、分かりました。
最後に、Googleとの戦いに対してひと言お願いします。
井上氏
中国でも二番手はGoogleなんです。そこでGoogleがどう戦っているかを目の当たりにしているのがBaiduです。その戦いで自分たちが勝った理由も知っているわけです。だからこそ、日本でもそれをやろうとしています。毎日チャレンジの連続ですけどね。
小川氏
分かりました。今日は長時間、ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2009/01/20 00:00
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