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成長戦略とはいえない「成長戦略の実行」を掲げるNEC
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金杉明信社長
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3年ぶりの増収、そして、3年ぶりの最終黒字となったNECの2003年度連結決算。この数字を見る限り、西垣浩司副会長が社長時代から進めてきた構造改革が、いよいよ成果をあげたことが証明されたともいえるだろう。
それは、「ここまで財務体質の改善を経営の第一の目標においた事業運営は過去にはなかった。3-4年で将来の成長のベースづくりに全社をあげて取り組み、その成果が出た」、「最大の課題となっていた財務体質の強化に関しても、有利子負債残高を3160億円圧縮し、NET D/Eレシオも、0.95倍と1を切り、着実に成果があがっている」などとした金杉明信社長のコメントからも明らかだ。
そして、構造改革そのものについて、金杉社長はこう言及する。
「ここ数年にわたり、NECは、事業の選択と集中による構造改革に取り組んできた。かつては、総合エレクトロニクスメーカーの名のもとに、技術があればなんでもやっていたが、これを見直し、コア事業とノンコア事業を明確に分離し、コア事業へと集中する構造改革をダイナミックに推進してきた。技術だけで先行するのではなく、マーケットが要求するものを的確に提供できるようになった」
DRAM事業のエルピーダへの移管をはじめとする構造改革への取り組みは、先頃、PDP事業をパイオニアへ売却するなど、依然として力を抜いていない。そして、課題事業であったネットワークインフラ、パソコン事業なども改善の道を辿り、パソコン事業は、わずかではあるが念願の通期黒字を達成した。
数字上では、明らかに構造改革の成果が出ている。だが、金杉社長は、この手綱をゆるめる気はないようだ。
■ 2004年度は「成長戦略実行の年」
NECは、4月28日、2003年度の連結決算発表と同時に、2004年度の経営方針を発表し、そこで、金杉社長は、「2004年度は成長戦略実行の年」と宣言した。
「私は、エグゼキューション(=実行)にこだわる。そして、結果を出すことに力を注ぎたい」
数値上の目標は、2004年度売上高は前年比1%増の4兆9400億円、営業利益は20%増の2200億円、税引前利益は12%増の1800億円、当期純利益は71%増の700億円の計画。数値だけ見ると、売上高ではわずか1%増となるが、日本航空電子が連結対象から外れることや、PDP事業のパイオニアへの売却分による売り上げ規模の縮小を勘案すれば、事実上は4%増の伸びとなる。また、営業利益の2200億円は、営業利益率で4.5%と、中期経営計画で目指す7%に向けて着実な一歩を記す1年と位置づける模様だ。
「2004年度の計画を達成することで、利益率7%、ROE15%の中期計画の達成に向けて、確かな進展を果たす年にしたい」と金杉社長は語る。
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プロセス改革によるトータルコストダウン
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その2004年度の経営課題として、金杉社長は、「事業遂行力の強化」、「成長戦略の具体化、実行」、「構造改革の総仕上げ」の3点を掲げる。
「事業遂行力の強化」では、プロセス改革によるトータルコストダウン、マーケット対応力の強化の2つがポイントだ。
2003年度は、地上デジタル放送などの新たなシステム開発投資がかさんだこともあって、開発費超過や原価低減未達などの問題が発生していた。
「例えば、地上デジタル放送向けシステムでは、仕様が固まり切らないうちに開発が進み、さらに最終の期限が決まっているという厳しいもの。結果として、多くのリソースを集中的に投入することになった」と説明する。これが、ITソリューション事業の営業利益率の低下にも大きなインパクトとなって表れている。
この経験をもとに、今年4月にはプロセス改革推進本部を新設して、開発、生産、販売のトータルビジネスプロセスの改革、効率化に踏み込み、2004年度のコストダウン目標として3800億円、開発棚卸および開発リードタイムの半減、棚卸回転日数を前年度比2割減という目標を予算化して取り組んでいく姿勢だ。
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SI/サービス収益向上への取組み
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マーケット対応力の強化
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とくに懸念となっていたSI/サービス事業に関しては、地上デジタル放送やJavaによるシステム開発などの先行投資案件のノウハウを横展開することで約100億円、集中購買やオフショア開発の拡大などによる外注費低減策で50億円、コラボレーション型プロジェクト管理システム「ProcessDirector」の活用促進などによる開発生産性の向上で約70億円の収益向上を目指す。
また、マーケット対応力の強化としては、ソリューション営業体制を強化。重点ビジネスユニットとして、ブロードバンドソリューション、業種ソリューション、国内営業、社会インフラソリューションの4つのビジネスユニットを位置づけ、キャリア、企業ネットワークマーケット、大手企業、中堅企業、官公庁、自治体、放送事業者、航空・防衛関連マーケットを重点市場とする。
さらに、これら4つのビジネスユニットを含む11のビジネスユニットに再編。それらと、R&Dユニットを結ぶ「マーケティングユニット」を新設する。このマーケティングユニットの責任者には、金杉社長自らが就任し、「私自身が、チーフ・マーケティング・オフィサーとなり、R&D部門の成果を、事業化へとつなげるスピードをアップする」とした。
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ネットワークをベースとしたソリューション事業の本格展開
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成長戦略実行としては、ネットワークをベースとしたソリューション事業の本格展開、モバイル事業のさらなる拡大、プラットフォーム事業の再強化、戦略投資による成長戦略の加速の4点がポイントとなっている。
キャリア向けおよび公共、企業向けエンタープライズソリューションを担当するブロードバンドソリューションビジネスユニットと、ミッシュンクリティカルシステム、金融システム、ネットワークソフトウェアを担当するMC(ミッションクリティカル)システムビジネスユニットを新設。
ブロードバンドソリューションビジネスユニットでは、「携帯電話のビジネスが、新しい収益源創出に向けた動きを見せている。それに伴い、料金システムの高度化、運用管理システム、VoIPサービス基盤の確立など、2000-3000億円規模のプロジェクト獲得を見込んでいる。すでに7つのプロジェクトが内定しており、キャリア向けのシステム構築が2004年度の大きな柱になる」と話す。
2003年度実績では、NTTドコモの基幹システム「CiRCUS(サーカス)」を稼働させており、その実績をもとに次世代サービスへのシステム構築プロジェクトを推進する考えだ。
また、MCシステムビジネスユニットでは、IPテレフォニー、VoIPを切り口にトータルソリューションを拡大。ITとネットワークの統合環境製品であるUNIVERGEを核に、SIPサーバーでのナンバーワンシェアの実績をもとに、まずは8000社にのぼる同社PBXユーザーへアプローチする考えだ。「BBオフィスソリューション、CRM/コンタクトセンター、基幹ネットワーク再構築、ITとネットワークの統合システムインテグレーションによって、国内の中期計画として3000億円の事業規模を目指す」という。
■ モバイル事業が成長の柱に
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モバイル事業のさらなる拡大
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2つめのモバイル事業のさらなる拡大という点では、国内においては、第3世代携帯電話事業の加速を掲げる。
国内事業に関しては、PDCで獲得したトップシェアを、第3世代携帯電話でも発揮し、「第3世代においても、国内市場を制覇したい」(金杉社長)と強気の姿勢を見せる。
携帯電話事業の収益性の向上として、PDC並の収益率を目指した開発の効率化や、集中購買による原価低減などにも取り組むほか、テレビやモバイルコマース対応端末の投入など新サービスへの対応も迅速に図る考えだ。
一方、海外市場向けでは、中国市場を重点市場と位置づけるとともに、ハイエンド製品への注力、オペレータとの連携強化が課題。デザインハウスを活用した開発の効率化や、グローバルSCMの活用により、市場変動に対しても柔軟な対応を図れるようにするという。
携帯電話の2004年度の出荷計画は、前年比2割増としており、約1800万台強の年間出荷が見込まれているが、金杉社長は、「2004年度上期末の時点で、当社が出荷する携帯電話の構成比では、2Gと3Gが逆転することになるだろう」としており、第3世代携帯電話事業の成長を鍵と見ている。
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プラットフォーム事業の再強化
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戦略投資による成長戦略の加速
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プラットフォーム事業の再強化では、サーバー市場でトップシェアを持つExpressシリーズおよびストレージのiStorageなど、ソリューションを支えるコンピュータプラットフォーム製品の拡充とともに、ネットワークプラットフォーム事業では、ネットワークプラットフォーム開発本部の新設により、次世代プラットフォーム製品の開発およびグローバル戦略が可能な製品群の品揃えを強化する考え。
そして、戦略投資による成長戦略の加速では、国内ソリューション事業の強化として、コンサルティング事業の強化、業種SI力、アウトソーシング体制の強化を推進。また、中国・アジアを中心としたソリューション体制強化などのグローバル事業体制の強化、ユビキタス時代のソリューションおよび次世代ネットワーク製品の開発などの先進ソリューション/製品の開発促進を掲げている。
こうした一連の取り組みによって、金杉社長は、2004年を「構造改革の総仕上げ」ともいえる1年にしたい考えだ。
■ 慎重すぎる成長戦略
しかし、成長戦略実行の年としているものの、「成長戦略」というには、やや慎重すぎる部分も垣間見られる。
その背景には、主力となるSI/サービス事業における営業利益率がどこまで回復するかが、依然として不透明であるという点があげられよう。収益性を期待できないプラットフォーム事業に対して、SI/サービス事業は、まさに収益の柱。この回復がどこまで果たせるかが、大きなポイントだろう。
また、好調なモバイル事業に関しても、インフラまわりの需要が見込まれるものの、中長期的なプロジェクトであることから、今年度への収益面でのインパクトという点でも予断を許さないというのが事実。昨年度の地上デジタル放送のような収益性の悪化という事態は避けられそうだが、今年度の収益にどこまでインパクトをもたらすかは不透明だ。ましてや、市況の人気に左右されるモバイルターミナル(=携帯電話)の需要はまさに水ものだ。
そして、エレクトロンデバイスに関しても、2003年度で黒字転換を果たしたものの、今年度上期の成長予測とは裏腹に、下期の不透明感を指摘する声もある。これも成長戦略を慎重なものにしている要因といえる。
このようにコア事業の3つの領域において、いくつかの課題が見られるのが2004年度のNECを取り巻く環境だ。
成長戦略の実行がどこまでできるか。まずは、中期経営計画達成に向けた「ホップ」の段階だけに、飛ばしすぎない経営戦略となっているのを感じざるを得ない。
( 大河原 克行 )
2004/05/07 00:00
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