富士通・山本正己新社長の横顔を、取材メモから追う


 4月1日付けで、富士通の社長に就任することが発表された山本正己氏。Enterprise Watchおよび僚誌であるPC Watchでは、これまでに何度となく山本次期社長に誌面にご登場いただいている。これまでの発言を通じて、山本次期社長の横顔を追ってみたい。


富士通の“平成維新”に挑む

富士通の次期社長に就任する山本正己氏

 山本次期社長は、1954年1月11日、山口県出身の56歳。1976年4月に富士通に入社後、15年間にわたり、OASYSの開発に携わったのちに、PC事業に異動。1999年12月にパーソナルビジネス本部モバイルPC事業部長、2002年12月にパーソナルビジネス本部長代理、05年6月に経営執行役兼パーソナルビジネス本部長を経て、2007年6月には経営執行役常務兼ユビキタスプロダクトビジネスグループ長として、PC事業と携帯電話事業を統括。2008年6月からは経営執行役常務兼システムプロダクトビジネスグループ長として、サーバー製品やクラウド事業なども担当するなど、プロダクト事業で長年の実績を持つ。

 「私は富士通で15代目の社長。徳川でいえば、最後の将軍」と、冗談交じりに山本次期社長は語る。

 だが、山口県下関出身という自らの生い立ちに重ねながら、「私は長州の出身。明治維新ならぬ、富士通の平成維新に挑む」と語る。


ものづくりへのこだわりは富士通随一

 プロダクト事業に長年携わったきた経緯からも、ものづくりへのこだわりは、富士通のなかでも随一だ。

 Enterprise WatchおよびPC Watchの取材や、これまでの記者会見のなかでも、ものづくりへのこだわりに対するコメントが数多く聞かれている。

 2007年当時、パーソナルビジネス本部長を務めていた山本次期社長が、筆者のインタビューに対して、こんなことをいっていたのが印象的である。

 「富士通のパソコンへのこだわりは、物づくりと者づくりに尽きる」――。

 その言葉の意味を次のように語る。

 「富士通がお客さまに提供できるものはなにかといえば、それは、安心して使ってもらえる品質の実現、そして、安定稼働させる信頼性である。それを実現するためには、自ら実験を行い、自ら技術を開発し、顧客からのフィードバックを聞き、それをものづくりに反映させる。こうしたものづくりに対して、社員全員がこだわりをみせているのが富士通のパソコン事業。だからこそ、世界最高の品質が実現できる。私は、パソコンへのものづくりにこだわりを持つ社員(=者)が、開発、設計、生産、販売のすべてに携わっていることを自負している」。

 2008年2月22日に、島根富士通における累計生産2000万台の式典に参加した山本次期社長は、「日本でこれだけのPCを生産した拠点はほかにはない。製品づくりの技術やノウハウの高さが認められた結果。島根富士通に対しては、中国に負けるな、ではなく、中国を引き離せという指示をしている。日本の高い品質維持と、コスト低減努力によって、今後は中国のメーカーに生産委託していた企業が、島根富士通に生産委託をするという動きも出てくるのではないか。今回の2000万台はあくまでも通過点。3000万台に向けて、さらに富士通のものづくりを進化させていく」とした。

 ・島根富士通、2,000万台の生産を達成(2008年2月22日)


2008年2月22日、島根富士通での累計2000万台出荷記念式典で、限定222台の記念モデルを手にする累計2000万台出荷記念式典のテープカットに参加。右から2人目が山本次期社長

 野副前社長時代になって、黒川元社長時代に比べて「ソフト、サービス」といった言葉が前面に出てきたことがあった。その点について、山本次期社長に質問したことがあった。

 山本次期社長は、「富士通は、ソフト、サービスだけを提供する会社ではなく、ソフト・サービスとプロダクトの両輪を提供する会社。この両輪を活用することで、成長を遂げていくことになる。富士通は、ハードとソフト、サービスのすべてのものづくりを自前でできるのが特徴。IT分野においては、ハードとソフト、サービスをやって、初めてものづくりの会社であるといえる」とした。

 一方、2006年11月に、来日した米Microsoftスティーブ・バルマーCEOを囲んで、日本のPCメーカー各社幹部が提案を行った「PC Innovation Future Forum」の席上で山本次期社長は、「PCはデジタル機器の中で主役となる存在であることをいち早く宣言し、そのためのインターフェイスの標準化といったことを進めていく必要がある。家電製品にも良いところがあり、例えば子供からお年寄りまで自由に操作できるといった点は、PCも取り入れていく必要がある。また、その一方で、日本はモバイルPCを世界に広めていく役割を担っている。日本の携帯電話は世界でもっともリッチなファンクションを実現している。PCにおいても携帯電話と融合したような本当のユビキタス端末を日本発で提供していかなければならないと考える。マイクロソフトには、メーカーがカスタマイズできる機能を今後も継続して搭載してほしい。日本のPCメーカーは新しいことに積極的であり、日本での新しい挑戦を積極的にウォッチしても、日本を新しいファンクションの発信地として認めてほしい」と語った。

 ここにも、ものづくりへの自負を背景にした姿勢が見て取れよう。

 ・マイクロソフトが日本のPCメーカー8社とPC Innovation Future Forum開催(2006年11月6日)


マイクロソフトのPC Innovaion Future Forumでスティーブ・バルマー氏に提言する山本次期社長フォーラム終了後に出席者全員で行った記念撮影の様子

サーバー事業ではグローバル規模でものづくりへのこだわりを徹底

 2008年4月には、サーバー事業を担当する立場として、Windows Server 2008の会見に登壇。「2008年5月には、最新の仮想化技術の確実な適用を支援する富士通Hyper-V仮想化センターを開設し、導入検討から事前検証までをワンストップで支援する。また、NAPなどのWindows Server 2008の新機能を国内工場でセットアップし、お客さまの要件にあわせて設定、試験を実施し提供する体制を整えた」と、ここでも富士通のものづくりへのこだわりを背景にした体制を構築していることを強調。

 ・マイクロソフト、Windows Server 2008など企業向け次世代プラットフォーム3製品を正式発表(2008年4年15日)


2008年4月15日のWindows Server 2008の会見で富士通のWindows Server 2008に対する取り組みを紹介会見後に関係者とともに記念撮影。右から2人目が山本次期社長

 最近では、富士通テクノロジーソリューションズ(FTS)での展開について、次のような表現をしている。

 「これまでは、50対50の出資比率のなかでプロダクトを投入してきた。だが、100%子会社化したことで、100%富士通のプロダクトとして展開できるようになった。これにより、富士通の意思が、プロダクトのなかに強く入るようになる」。

 これはグローバル規模で、富士通のものづくりのこだわりを徹底しようという山本次期社長の気持ちの表れだ。

 PC事業を統括していた際に、山本次期社長の右腕として活躍した五十嵐一浩経営執行役をFTSに送り込んだのも、富士通ならではのものづくりの姿勢を、FTSにDNAとして植え付けようという狙いがある。


リチウムイオン電池発火事件にはJEITA委員長で対応

 2006年10月に、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)で、パーソナルコンピュータ事業委員会の委員長を務めていた山本次期社長は、そのとき、急きょ設置されたノートPCリチウムイオン電池安全利用特別委員会の委員長を兼務した経緯がある。

 ・JEITA、リチウムイオンの安全利用に関する特別委員会を設置(2006年10月27日)


2006年10月26日、JEITAのパーソナルコンピュータ事業委員会委員長を務め、会見に臨む山本次期社長PC出荷統計の発表とともに、リチウムイオン電池の発火問題に関して、ノートPCリチウムイオン電池安全利用特別委員会を設置し、同委員長も兼務

 リチウムイオン電池を搭載したノートPCによる発火事件によって、PCユーザーの間に、ノートPCに対する安全性に不安が出ている事態を重くとらえたJEITAが設置したもので、セットメーカーとしての電池に関するノウハウを持ち寄り、専門家によるワーキンググループによって電池パックおよびノートPC本体の設計/評価に関する業界の指標を策定。電池メーカーなどで構成される社団法人電池工業会とも連携を取るといった役割を担った。

 山本次期社長は委員長として、「二度とこうした問題が起こらないようにしなくてはならない」と強い口調で宣言。「安全対策、障害発生の検出および障害の進行を、いかに断ち切るかといった技術的対策、障害が発生した際に被害を局所化する取り組み、障害要因の解析を確実にするための指針などについて検討を進める。JEITAと電池工業会が策定した指針とを統合し、手引書として、あるいは規格化へと進展させ、日本発の指針として、公的なものにしていきたい」とした。

 その成果は、現在のノートPC用リチウムイオン電池の安全性強化に生かされている。

 一方で、パーソナルコンピュータ事業委員会委員長を務めた2006年度の任期中は、PCがマイナス成長へと転じた厳しい状況にあり、最初の会見となった2006年度第1四半期の国内PC出荷は、3年ぶりの前年割れとなった。

 もちろん、これは市場全体の流れであり、委員長としての責任が問われるものではない。

 当時、山本次期社長は、PC市場がマイナス成長した理由を、「海外旅行者数が過去最高になったこと、地上デジタル放送の浸透に伴い、薄型テレビの需要が増加したこと、金利の上昇により住宅の駆け込み需要やローンの借り換えといった動きが見られるなど、お金の使い方が分散したために、個人向けPC市場が一時的に落ち込んだ」と分析。「だが、個人需要では、地デジ対応などの新たな機能での訴求が可能。PCの需要は止まったわけではない」として、その後の地デジ機能搭載PCの需要拡大を予想してみせた。


迅速な対応を見せたWindows Vista搭載PC

 2007年1月30日深夜0時に発売されたマイクロソフトのWindows Vista。このとき、山本次期社長は富士通のPC事業の陣頭指揮をとっており、東京・有楽町のビックカメラ有楽町店に駆けつけ、業界関係者とともに発売を祝った。

 ・Windows Vista深夜発売レポート【ビック有楽町編】(2007年1月30日)


2007年1月30日、Windows Vistaの深夜0時の発売にあわせ、有楽町のビックカメラに駆けつけた山本次期社長深夜0時とともにくす玉を割る。後列左から2人目が山本次期社長

 山本次期社長は長年にわたり、PC事業に携わってきた経験から、「80年代はデータ処理の時代、90年代はインターネットの時代、そして、Windows Vistaの発売によって、2007年はデジタルコンテンツの時代が始まることになる」と新時代の到来を予測してみせた。

 また、Windows Vistaの発売にあわせても、「PCビジネスで一番重要なのはスピード。新しいテクノロジーを迅速に提供するだけでなく、お客さまとの間のスピードを速めることも必要。また、お客さまの生の声をいかに製品に早く反映するかも重要な課題であり、そのためには国内生産が重要な要素」と強調した。

 Windows Vista発売後の富士通のPCは、好調な売れ行きを見せた。

 発売第1週目には前年同週比12.8%増、第2週目は6.6%増。市場全体が第1週目には6.1%増、第2週目に3.4%減のマイナス成長であったことに比べると、その好調ぶりがわかる。デスクトップ市場では上位5機種中4機種を富士通のPCが独占。ノートPCでも上位5機種中2機種が富士通となった。

 ・Windows Vista搭載PCが各メーカーから一斉登場(2007年1月15日)


2007年1月15日、Windows Vistaの会見で登壇した山本次期社長このとき富士通は17シリーズ47機種を投入したWindows Vista発表に際して各社首脳とともに記念撮影。右から2人目が山本次期社長

 だが、このとき、山本次期社長はひとつの誤算を明らかにしている。

 初期出荷において、Windows Vista搭載PCの30モデル中11モデルで、Windows Vista Home Basicを搭載。さらに、初期出荷の構成比では約6割がHome Basicになると読んでいたのだが、実際には、Home Premiumモデルを中心に販売が動き、富士通の読みとは逆の状況になったのだ。

 そこで、山本次期社長はすぐに戦略を変更。生産計画を一気に見直し、Home Premium搭載モデルの生産比率を短期間に引き上げた。この迅速な行動が、富士通のPC販売の好調ぶりにつながっている。

 また、この時期に富士通はリビングPC「FMV-TEO」を発売した。「Windows Vista時代の新たな使い方の提案。だが、すぐに実績につながるとは思っていない。長い期間をかけてじっくりと育てていく製品」と山本次期社長は位置づける一方で、DESKPOWERで新たに用意した液晶一体型PCのEKシリーズを投入し、同製品では、富士通が得意とする地デジなどの機能を排除し、インターネットやメールを楽しむといったコストパフォーマンスを追求。富士通PCとして上下方向にバランスを取った幅広い製品ラインアップを用意してみせた。

 メインストリームの製品だけでなく、付加価値モデル、価格訴求モデルといったところにも、同時に戦略的な種まきを行うところに、山本次期社長ならではの手法があるといえる。


全世界でのIAサーバー出荷50万台の旗は降ろさない

 富士通は、2010年度に全世界で50万台、日本国内で20万台のIAサーバーの出荷を目指している。

 今年に入ってからも、「全世界50万台の出荷の旗は降ろさない。調査会社のデータを見てもらえれば、富士通のIAサーバー事業が大きな成長を遂げていることがわかるはず」と自信を見せていた。

 これは、2008年度実績と比較すると、海外では1.8倍規模、国内では2倍以上という意欲的な目標だ。

 この計画を打ち出して最初の四半期となった2009年度第1四半期(4~6月)が終了した時点で、本誌では、山本次期社長に単独インタビューを行っている。

 ・「IAサーバー年間50万台」を目指す富士通-最初の四半期の成果は?(2009年8月11日)


 そこで山本次期社長は、「第1四半期の成果は50点。一定の評価はできるが、満足はしていない」と、厳しい自己評価を下した。

 「出荷台数では計画に対して未達。その点では満足はしていない」と50点の減点理由を示す一方で、「富士通がこれまでの延長線上にはない新たな施策を打つ体制が整ってきたという点では、一定の評価はできるはず。特に、富士通の考え方、コンセプトを早い時期から理解していただき、富士通の本気ぶりを感じていただいたパートナー企業が、当社の製品を積極的に扱っていただいているという成果が出ている。チャネル政策の新たな提案も効果につながっている」とその理由を語る。

 だが一方でこんなことも語る。

 「全世界50万台のIAサーバーの出荷、国内20万台というIAサーバーの出荷計画は、数字を達成することも大切だが、それ以上に富士通が変わり、世界で生き残る体質に転換することが最大の目標となる。2009年度は、富士通が変革するための数々の仕掛けをすることが最大のポイントであり、富士通が変わることが成果となる」

 富士通に変化をもたらすことに果敢に取り組んできた山本次期社長ならではのコメントといえる。

 富士通が出遅れていたブレードサーバーにおいても、PRIMERGY BX900の投入によって、「富士通の意思を反映した製品を投入することができた。富士通だからこその安心感を提供できる製品であり、この領域においても、一気にシェアを拡大するチャンスを得たと考えている。ブレードサーバーは富士通が持つ技術力や総合力をもっとも生かせる分野であり、最重点分野に位置づけている」とした。

 ・富士通、Xeon 5500番台を搭載したブレードサーバー「PRIMERGY BX900」(2009年5月12日)


2009年5月12日、富士通フォーラムの会場でブレードサーバーPRIMERGY BX900を発表する山本次期社長富士通のx86サーバーの成長戦略についても言及

 IAサーバー以外にも、山本次期社長は取材のなかで言及している。

 ミッションクリティカルシステムの置き換えについては、「思い通りの成果があがっているとはいえない」とし、「市場における認知度、理解度という点でも、必ずしも高いとはいえない。残念ながら、私が見る限り、オープンサーバーに対する信頼性への理解がまだまだ低い。特に日本のユーザーに対しての認知を高めていかなくてならない」とする。

 また、「一定の領域であれば、オープン環境に移行してもいいのではないか、という考え方も出はじめている。国内で信頼性の高いハードウェアを生産し、ミドルウェア、アプリケーション、システムインテグレーションまで一気通貫で提供でき、コストと信頼性を両立できるのが富士通の強みだといえる」とする。

 さらに、富士通とサン・マイクロシステムズの関係については、「この2、3年で関係は劇的に変化した。Solarisが、サンによって継続的に提供される環境が整い、3年後、5年後はどうなるか、という回答が明確に出た。サンと富士通が役割分担を明らかにし、その上で、富士通がSPARC Enterpriseのラインアップを広げながら、事業を拡大していく。Sun FireとPRIMEPOWERのラインを統合したことで、部材調達面でのメリットも出ており、コスト競争力を高めることもできる」としながらも、「サンに関しては、守りを重視する。まずは、Solarisに対する安心感を再認識してもらう必要がある。だが一方で、グローバルでの展開を考えた時には、富士通にとっては攻めととらえることができる」とする。

 IAサーバーのPRIMERGY、UNIXサーバーのSPARC Enterprise、基幹IAサーバーのPRIMEQUEST、メインフレームであるGSシリーズの4種類のサーバーラインを持つことについては、「富士通は、これからも顧客の資産を守るという姿勢には変わりがない」と前置きしながら、「PCサーバーはコストパフォーマンスを武器に、IAサーバーやUNIXサーバーは信頼性を武器に戦っていく。もちろん、サーバーラインが複数あることで、開発、生産、調達に関するリソースが分散し、量産効果が発揮しにくいということもある。だが、4つのサーバー製品を持った上で、いかに競争力を発揮するかということが、富士通が取り組むべき課題」とする。

 2009年夏の取材の際に、山本次期社長が課題としていたのが、中堅・中小企業の領域の拡大だ。

 この分野においては、富士通のシェアはわずか10%。「PCや、大手企業におけるサーバー市場においては、30%前後のシェアを獲得しており、これが富士通のあるべきシェアだとすれば、中堅・中小企業市場は、明らかに富士通が弱い市場。いままでの販売方式にこだわらず、徹底してチャネルを活用していくことが必要である」とする。

 富士通全体では、2年で2倍とする国内IAサーバー事業計画は、こと中堅・中小企業に関しては3倍という目標が掲げられている。このシェアをいかに引き上げるかが、今後の国内のIAサーバー事業の成否を左右することになる。


クラウド時代に向けたシステムビジネスの戦略策定も

 一方で、2009年度からは、システムプロダクトビジネスグループの統括とともに、次世代システムインフラ推進室室長を兼務し、クラウド/SaaS時代に向けたシステムビジネスの戦略策定に取り組む役割を担ってきた。

 ・「企業内クラウド構築を支援」、富士通がインフラ製品・支援サービスを強化(2009年10月27日)


2009年10月27日、クラウド戦略について会見する山本次期社長。これが常務としては最後の会見富士通のクラウド戦略の全体像について説明した

 「時代の流れがクラウド、SaaSへと向かうなかで、データセンターに対する需要は旺盛。その中核を担うのがIAサーバー。3~5年後のIAサーバー市場においては、全出荷量の半数をデータセンター向けビジネスが占める可能性もある。富士通の信頼性、省エネ性などが生かすことができる領域でもある」とする。

 また、「クラウドビジネスは、サーバー、ミドルウェア、システムインテグレーション、コンサルティングといたさまざまな要素によって実現されるもの。これらを統合した形で提案し、ビジネスモデルを構築することが差別化になる。富士通はそこに強みがある。CPUを開発できるのは、世界中を見渡しても、インテル、IBM、そして富士通しかない。これがものづくりの強みにつながり、クウラド事業でも優位性を発揮できることにつながる」と強気の姿勢を見せる。

2010年1月22日に行われた社長交代会見の様子

 では、山本次期社長が語る富士通の課題とはなにか。

 「最大の課題はグローバル化。グローバルカンパニーとしては駆け出しの会社である。真のグローバルITカンパニーというにはまだまだ力不足。日本、欧州で地盤を作り上げ、それから北米、アジアに展開していく。特に、北米は、富士通にとって、アウェーの市場であり、日本や欧州のやり方がそのまま通用するとは思っていない。PC事業においては、北米でタブレットPCで高いシェアを持っている。市場全体が大きくはないため、台数は少ないが、着実に利益を確保している。こうした北米におけるPC事業の経験も北米市場攻略に役立つだろう」

 その一方で、いまの富士通についてこうも語る。

 「富士通には先輩たちが培った文化がある。心血注いで築き上げた強い体質がある。他社に比べると筋肉質な強い会社になっていると思うが、これを来年、再来年と続け、攻めの形を常態化できるようにしたい」。



 ところで、山本次期社長の経営手法はどんなものになるのだろうか。

 長年、山本次期社長の取材を続けてみて感じるのは、現場主義を徹底するというのが山本次期社長のやり方であるという点だ。この手法は、これからも踏襲することになりそうだ。

 「本当に優れた経営者は、自らは本社にいて、さまざまな情報を知ることができ、そこから経営判断を行う人だろう。だが、私は現場に行って、自分の目で見て判断したい。それが私の手法。できれば、社長就任後も国内はもとより、月1回は海外に行き、自分の目で確かめたい」とする。

 山本次期社長が目指す経営者の姿は、やはり行動型の経営者だ。

 実は、かつてざっくばらんに会話をしている時に、こんなことを話してくれたことがあった。

 「自分らしさが出るのは、若い社員と飲んでいる時」。

 これも現場主義を貫いてきた山本次期社長だからの言葉だ。社長になっても、これを続けたいと思っているのだろう。最近は、芋焼酎に凝っているという。





(大河原 克行)

2010/1/29/ 00:00