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NECが乗り出すパソコン低価格戦略
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NECが、企業向けパソコンのMate Jシリーズ、VersaPro Jシリーズにおいて、戦略的ともいえる低価格戦略に乗り出した。
ノートパソコンのVersaProシリーズでは9万9800円から、デスクトップパソコンのMateシリーズでは、5万4800円からという価格設定。これまで低価格路線では、外資系パソコンメーカーの後塵を拝していたNECだが、5月の新製品では、「デルに追随できる価格」という戦略的価格設定の製品を投入することで、外資系が先行する低価格パソコン市場で巻き返しを図る考えだ。
今年度、NECの企業向けパソコン事業はどう変化するのだろうか。
■ 中小企業・SOHOをターゲットに
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NECパートナービジネス営業事業本部ビジネスPC事業部・田中重穂事業部長
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NECは、2004年度上期の企業向けパソコン事業戦略として、2つのポイントを掲げた。
ひとつは、中小企業、SOHO市場向けの市場開拓である。
大手企業向けには、同社の直販営業部門により、サーバービジネスなどを通じた販売展開が可能で、「2003年度でも1000台単位の大型商談はかなりの数があった。大手企業の需要は根強く、今年度も大型商談には継続的に取り組む」(NECパートナービジネス営業事業本部ビジネスPC事業部・田中重穂事業部長)というように、従来のビジネス戦略の延長線上で事業を推進する考えだ。だが、その一方で、外資系メーカーによる低価格戦略が一気に加速している中小企業およびSOHO向けの事業は、今年度の重点強化ポイントと位置づけており、これによって企業向けの出荷拡大を図る考えだ。
その具体的な施策として、同社が取り組むのが、いわば「仕組み」、「タマ」、「サービス」の3つだ。
仕組みでは、同社がかねてから用意しているIT拡販支援サービスを活用することで、販売店の手間を極力減らし、販売効率を高める施策となる。
同社では、全国の販社がWebを通じた企業向けパソコン販売が行えるように、その仕組みを提供する「GCB(グッド・カスタマ・ベース)」と呼ばれる仕組みを用意していた。これまでに約70社のディーラーが採用し、販社が簡単にWeb販売サイトを立ち上げることができた。
しかし、「仕組みはあっても、どうやってサイトに顧客を呼びこむのか、あるいは呼び込んだときに、魅力的なタマ(=製品)があるのかという問題があり、当初狙っただけの成果が出ていたとはいえない状況だった」と田中事業部長は語る。
外資系パソコンメーカーがWeb販売の比率を高めているのは、仕組みだけでなく、顧客を呼び込む営業・マーケティング戦略、そして魅力的な価格の製品があって成り立っているのは周知の通り。NECが、販社とともに取り組んだGCBは、「器があっても中身がない」という状況だったともいえる。
NECでは、まず仕組みに関して若干の変更を行い、IT拡販支援サービスとして、販社が特定ユーザー向けのクローズドのホームページを立ち上げる支援を行うとともに、ダイレクトメールやEメールを発信するための支援や、販売サイトを立ち上げるための支援策などを用意したほか、新たにe販売代行サービスとして、販社の名前を前面に出しながらも、実際にはNECの販売サイトにつながり、ユーザーが同サイトで購入した場合には、手数料を販社に支払うという仕組みも用意した。e販売代行サービスは、NECのビジネスPCなどの販売サイトである「得選街」のスタッフが担当。Web運営から、販売、納品、与信管理など行う。同サイトにおいて、ユーザーが入力したパスワードなどにより、どこの販社の紹介で、NECのサイトに訪れたのかを判断することができるという。
■ Jシリーズのラインアップを大幅に強化
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VersaPro Jシリーズのベーシックノート
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こうした仕組みの提供以上に課題となるのが、「タマ」の提供だ。
今回、NECでは、Jシリーズと呼ばれるWeb向けの販売モデルのラインアップを大幅に強化。Webで販売可能な製品ラインアップを広げた。通常のMateシリーズ、VersaProシリーズの筐体や部品をそのまま利用して設定されているJシリーズは、今回のラインアップ強化で、基本モデルの32機種中29種にまで、Jシリーズの設定を拡大。Webで購入するユーザーの選択肢を広げた。
「Webでは、価格訴求が求められるが、製品ラインアップを増やしたことで、より戦略的な訴求が可能になる」としている。
最低でも月に1回のペースで、価格を前面に打ち出したキャンペーン展開を行い、これによりユーザーの関心を引きつける考えだ。
そして、サービスという点では、情報発信およびプロモーションの強化がある。
先に触れたキャンペーン展開はもとより、NECビジネスPC通信といったユーザー向け情報メールを創刊し、販社を通じてユーザーへ配信。販社と顧客のパイプを継続的に結びつけ、サイトへの誘導を行うとともに、広告展開によって、価格訴求や製品の優位性などを訴える考えだ。
「6月だけを見ても、広告費用は前年同月比3倍から5倍の規模になっているはず。年間を通じて、なるべく露出を増やしていきたい」としている。
これにより、「仕組み」、「タマ」、「サービス」という3つの観点から、販社支援を行い、中小企業およびSOHO市場の拡販を行う考えだ。
■ 戦略的価格による製品展開を本格化
同社が中小企業、SOHO向けの市場開拓と並んで、もうひとつの今年度の重点戦略として掲げているのは、「市場価格への対応」。端的に言えば、低価格戦略にも前向きに取り組んでいくことを示したものともいえる。
今年5月の発表製品では、同等機能をもった製品に比べて最大で28%もの低価格化を実現。平均値下がり率でも19%という引き下げを行った。
これまでNECでは、MateシリーズおよびVersaProシリーズにおいて、標準シリーズとは別に「Rシリーズ」という製品を用意していた。
標準シリーズも、RシリーズもBTO対応でき、筐体や仕様も同じというものだが、唯一異なるのは販社への仕切り体系で、競合メーカーが安い価格で提案してきた場合などに、Rシリーズの仕切り体系を利用することで、ある程度、価格対応が可能になるという戦略的位置づけを担っていたものだ。
しかし、2つのシリーズを用意するというこの仕組みは、制度を複雑化し、販社の混乱を招くという課題へとつながっていた。
今回、同社では、価格の見直しとともにも、重複した製品をなくし、仕切り体系をRシリーズに一本化。戦略的な仕切りを前提とした体制へと移行した。
さらに、より低価格化を実現するために、NECのビジネス向けパソコンでは、初めてともいえる「余計な機能を削ることによる低価格化」を図ったのも特筆される。
同社のMateシリーズおよびVersaProには、これまでひとつの弱点ともいえるものがあった。
それは、すべての製品に、レガシーポートを用意していた点であった。
「官公庁や学校などの物件が多いため、FDドライブなどを入札の条件や他社との差別化とする案件が多かった。そのため、現行機種でもこうしたかつての技術を継続的に搭載してきた」という。
5月の新製品では、ノートパソコンの場合、FDドライブ、シリアルポート、パラレルポート、PS/2ポートといったレガシーポートを削除し、USBで代替。さらに、PCカードスロットが2基あったものを1基に、内蔵FAXモデムや大容量バッテリなどの据え置き利用では使用頻度が少ないと思われる機能を削減。旧OSのサポートをせずに最新OSのサポートだけに特化するといった仕様定義の「ベーシックノート」と呼ばれる製品を追加したのだ。
また、デスクトップでもAGPスロット、Gigabit Ethernet、IEEE 1394ポートなどを、高機能モデルの付加価値機能とし、新たに用意したスタンダードタイプと定義された製品ではこれら機能の搭載を見送ることにした。
この低価格化によって、ノートパソコンでは15%、デスクトップパソコンでは21%の価格低下が可能になり、競争力のある製品ラインアップが可能になったという。
■ 前年比2桁増の成長を目標に
このようにNECの企業向けパソコン事業は、今年5月以降、大幅に強化されたともいえる。
「前年比2桁増が最低限の目標。個人的には、さらに高い目標に挑みたい」と田中事業部長は意欲を見せる。
企業向けパソコン事業、個人向けパソコン事業の2つをあわせるとトップシェアを誇るNECだが、企業向け市場における富士通、日本IBMの健闘、そして、着実に差を縮めているデル、日本ヒューレット・パッカードの動きも気になり、予断を許さない状況にあるのは間違いない。
今年度に入り、仕組み、モノ、サービスが整い、さらに戦略的ともいえる低価格化にも乗り出し始めた点は大きく評価できるだろう。
だが、気になるのは、ユーザーが企業向けパソコンに触れられる場所が皆無ともいえる現状だ。
かつてのBit-INNなどのNECによるパソコンショウルームがなくなり、いまやNECのビジネス向けパソコンに触れることができるのは、イベント開催時など限られたシーンしかないともいえる。
それに対して、デルの場合は、全国各地にデル・リアル・サイトを設置し、企業向けパソコンに触れる場が数多く用意されている。その差はあまりにも大きいとはいえないだろうか。
NECが、得意とする安心感を生かしたビジネス向けパソコン事業を推進するのであれば、こうした場を早期に作ることが先決といえるのではないだろうか。
■ URL
日本電気株式会社
http://www.nec.co.jp/
( 大河原 克行 )
2004/06/10 21:08
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