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NECが上海のPC生産拠点で取り組むSCMの現状


 現在、NECのPC生産の主力拠点は、徐々に、中国・上海へと移りつつある。

 コンシューマPC事業および企業向けPCをはじめとするすべてのNEC製PCの生産を担当するNECパーソナルプロダクツでは、最終的には、完成品ベースで約7割を上海での生産に移行するという目標を掲げており、それに向けた取り組みが本格化しているところだ。

 この移行の成否を握るのが、PC生産におけるSCM(Supply Chain Management)だといっても過言ではないだろう。

 NECパーソナルプロダクツでは、一般的に言われる「SCM」を、部品の調達から商品の生産、販売までトータルに最適化する活動という意味で「VCM(Value Chain Management)」という名称で呼んでいるが、この活動の中で部品の調達と生産をつなぐ「VMI(Vendor Managed Inventory)」という仕組みがある。

 日本の事情とは異なる、上海ならではの事情も作用しており、そのあたりもうまく吸収する仕組みがこの上海版VMIでは導入されている。

 NECパーソナルプロダクツが取り組んでいる上海のPC生産VMIの現状を追ってみた。


4社のODM、13社のサプライヤーを結ぶVMI

NECパーソナルプロダクツ資材部調達サプライチェーン・グループマネージャーの真壁雅雄氏
 現在、NECのPC生産は、米沢の生産拠点のほかに、中国・上海における生産を強化している。

 上海では、ノートPCの生産委託先として3社のODMベンダー、デスクトップPCでは1社のODMベンダーを活用し、ベース・ユニットでみれば、ノートPCの全量、デスクトップPCの一部を、これらのODMベンダーで生産している。この4社はいずれも台湾資本のODMである。

 完成品ベースでは、約7割を上海で生産するという目標に対して、現時点では約5割のところにまで達しており、上海VMIの稼働が与える影響は少なくないといえるだろう。

 同社が上海でのVMIに取り組んだのは、昨年10月のことだ。

 「中国の法制度は複雑であり、また不透明な部分も多い。綿密な現地調査や事例研究を重ねた」というのは、上海VMIの立ち上げを担当したNECパーソナルプロダクツ資材部調達サプライチェーン・真壁雅雄グループマネージャー。「法制度の確認や、コスト査定を何度も繰り返し、慎重に慎重を重ねシステムを構築した」と説明する。

 上海VMIの稼働時期は当初から2004年7月に決定していた。

 「11月からの冬モデル投入を前に、試験稼働を含めて、確実に運用ができることを確認しておく必要があった。これを前提に考えれば、少なくとも7月には本格稼働させられるのが最適」というのがその理由だ。

 市場調査を進める一方で、液晶、メモリ、HDD、オプティカルドライブの4つのコンポーネントについて、対象となる13社との間で、VMI構築に関する話し合いを行い、2004年7月の稼働を目指して準備を進めてきたのだ。


保税倉庫を活用することで数々のメリットを生む

上海VMIのオペレーション概要
 上海VMIによって目指した成果のうち、もっとも大きな効果を発揮したのが、保税倉庫を活用するなど、中国の税制制度をうまく利用した仕組みの構築だ。

 従来の仕組みでは、サプライヤーごとに通関するといったことが通常だったため、物流費用などが、その都度かかる仕組みだった。また、税関を通過するまでに3日間程度要することもあるため、特定の部品はODMベンダーに供給されても、別の部品は、まだ通関していないというようなタイムラグが発生することもあった。

 新たに構築した上海VMIの仕組みでは、外高橋保税区の保税倉庫を利用することで、ここで一度部品をストックし、必要な時に必要な分量の部品をまとめて通関するということが可能になった。これにより、毎日、必要な量だけを共同通関、共同配送することができ、物流費用面でのメリットとともに、不要な生産タイムラグの削減も可能になったのだ。

 また、保税段階では、NECパーソナルプロダクツの資産とはならないため、資産の削減という点でのメリットもある。

 もうひとつのポイントは、生産量にあわせた部品の供給が可能になった点だ。

 これまでは、一度、ODMベンダーに部品が入庫されてしまうと、これを部品が足りない別のODMベンダーで使用すると、煩雑な手続きが必要であるとともに、それだけで18%も課税されるという問題があった。だが、これも保税倉庫を活用することで、必要な量を必要なODMに対して供給できるようになるため、複数のODMに対しても、適正な在庫量を維持できるほか、それに伴う生産委託先間の部品の移動といったこともなくなる。この点でのメリットは大きいといえよう。

 さらに、これは中国国内だけではなく、余った部品も日本の生産拠点へと移行できるようになるというメリットもある。

 生産拠点における部品の欠品と余剰のバランスは、複数のODMベンダーをコントロールする海外メーカーにとって大きな課題だったが、これが保税倉庫を活用したVMIによって、一気に解決したことになる。


生産リードタイムの大幅な削減にも効果

NECパーソナルプロダクツ資材部企画管理マネージャーの横山和之氏
 上海VMIでのもうひとつのメリットが、生産リードタイムの短縮である。

 やはり海外生産の最大のデメリットは、国内生産に比べて、生産リードタイムが長いという点である。

 これまでは、事前に余裕をもって部品を調達し、これをODMに入庫し、その後、生産に3日間、輸出手続きに2日間、船便での輸送に2週間というように、かなりの時間がかかっていた。具体的には、部品発注の段階から見れば6週間以上、部品がODMの倉庫に入ってからでも約4週間かかっていたという計算になる。

 だが、適正在庫量での流通が可能になったことで、余裕を持った調達が不要になり、結果として2.5週間もの時間短縮が可能になったという。

 「リードタイムが短縮すれば、より優位なコストで部品調達が可能になる。市場への変動対応力も高まる」(NECパーソナルプロダクツ資材部企画管理マネージャーの横山和之氏)というわけだ。

 こうした上海VMIの効果は、コスト削減効果や、効率的な生産体制の確立という点に直結。製品の品質向上や最終製品の価格低下にもわずかながらではあるが効果を発揮しているともいえそうだ。

 「物流費用は約2%の削減が可能になったと試算している。サプライヤーもこの効果を知り、積極的に協力体制をとってくれている」(真壁グループマネージャー)という。

 現在、キーコンポーネントを中心に34アイテムが上海VMIの対象となっているが、最終的には50~60アイテムが対象となる予定だ。

 また、今後は、部品が通関したかどうかといったデータを、サプライヤーとODM、NECパーソナルプロダクツがそれぞれリアルタイムで共有できるように、自動化を図っていく予定だという。

 「まだまだ効率化できる部分はある。今後も改良を加えていきたい」と真壁グループマネージャーは語る。

 上海VMIの効率化が持つ意味はますます重要になる。それだけに上海VMIの成否が、NECのPC事業全体の生産体制の改革につながるのは間違いなさそうだ。



URL
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/


( 大河原 克行 )
2004/11/30 00:00

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