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「映像の重要性に気がついているCIOはひと握り」-日本SGI和泉社長が語る新たな情報システム


 日本SGIが、事業構造を大きく転換させている。

 それは、まさにハードウェアベンダーからソリューションベンダーへの転換だといっていい。

 現在、日本SGIにおけるハードウェアの売上高比率は約3割。日本SGIを指して、高性能グラフィックワークステーションベンダーであるとの見方は過去のものとなっている。

 日本SGIの和泉法夫社長は、「CIOは、ERPやCRMをはじめとする文字や数字だけの情報システムに留まらず、映像や画像を活用した社内システムの構築を、そろそろ視野に入れるべきだ」と訴える。


企業情報システムに映像と画像を取り込む効果

日本SGIの和泉法夫社長
 これまで企業情報システムにおいては、映像や画像というのはそれほど重視されてこなかった。

 映像や画像が活用されていたのは、設計部門におけるCADやCAE、各種の実証実験の際に利用されるシミュレーションツール、デザイン部門のデザインツールなど、特定部門に限定されていたからだ。

 だが、ワークステーションの高性能化と低価格化。さらに、文字、数字と映像、画像を融合するソリューション提案の増加などによって、企業情報システムに映像と画像を持ち込む世界が広がりつつあるというのだ。

 「企業情報システムに映像や画像を取り込むことによって創出される大きな効果を、きちっと理解しているCIOはまだひと握りに過ぎない」と、和泉社長は語る。

 和泉社長は、一例として、自動車メーカーにおける採用事例を示して見せる。

 自動車のショールームに設置されるITソリューションといえば、見積もりシステムが一般的だ。営業担当者や顧客が操作して、購入希望の車種の見積もりやローンシミュレーションができるというものだ。

 これらの多くは文字と数字で構成されている。画像が取り込まれていたとしても、外観カラーやシートカラーを確認するために、静止画をもとにした自動車の写真が表示される程度だろう。

 ある自動車メーカーでは、このシステムにおいて映像や画像をふんだんに取り込んだものを構築した。

 システム構築に当たって社内を見回して見ると、デザイン部門や設計部門のデザインデータ、衝突試験の際の画像データなどが大量に蓄積されている。これらをショールームにおける販売促進の材料に活用しようというわけだ。

 「どうやって自動車がデザインされたのか、デザイナーの思い入れはどこにあるのか。そして、衝突試験データを見て、安全性がいかに確保されているのかといったことも映像を通じて確認できる」というわけだ。

 実際の動画を見ることで、自動車のデザインを手がけたデザイナーの思い入れが直接伝わったり、安全性をデータから確認できたりというように、顧客に対して、これまでとは比べものにならないほど質の高いメッセージが提供できるようになったのだ。

 これまでは社内向けにしか活用されていなかった、こうした映像データおよび画像データを、販促ツールとして再利用することで、ショールームにおける戦略的営業ツールに転換した好例だといえよう。

 実際、この自動車メーカーではシステムを導入したショールームでの成約件数が増加しているという。

 「わずか数年前までは、映像を活用した情報システムは、制作に費用がかかりすぎる、あるいは制作期間が長い、専門家が必要である、高価なシステムが必要である、という状況にあり、一部の大手企業での採用に限られたものだった。しかし、いまやこうした問題はすべて解決されているといっていい。あらゆる企業が、文字と数字に加え、映像と画像を組み合わせた情報システムを低コストで短期間に構築できるようになった」(和泉社長)

 だからこそ、CIOは映像や画像にもっと関心を持つべきだというのだ。


日本独自の提携戦略を加速

 日本SGIは、昨年来、提携戦略を加速している。

 その動きを見ると、日本SGIがソリューションベンダーとしての位置づけをさらに加速させているのがわかる。

 そして、米SGIとはまったく異なる方向性を打ち出していることも明らかだ。

 例えば、NECが40%、NECソフトが20%の資本構成を持っているのに加え、昨年3月31日付けで、キヤノン販売が10%の資本参加、ニイウスコー、ソフトバンククリエイティブも資本業務提携をするといった「意外」ともいえる資本構成となっているのもその証しだ。

 「ソリューションの提供という点では、まだNECグループとのシナジー効果は十分ではないといえるかもしれない。また、キヤノン販売との関係も、まだ表面化する段階にはない。しかし、近いうちに、その成果を日本のユーザーに提供できるようになるはずだ」と和泉社長は語る。

 先ごろ、CeBITで話題を集めた言花(KOTOHANA)も、NECとの共同開発によるものだ。

 また、現在、キヤノン販売の社員が6人、日本SGIの社内で教育を受けている。キヤノン販売の村瀬治男社長も、「日本SGIとの資本提携は、将来への布石。コンテンツの中身にまでタッチできる日本SGIの存在は、イメージング機器を取り扱う当社にとっても大きな意味がある」と語る。

 こうした資本提携ばかりではない。

 アドビシステムズとの提携により、ドキュメント管理ソリューションのコンサルティングビジネスの参入や、アドビが買収したマクロメディアのMacromedia Breezeによるエンタープライズ向けソリューション戦略の開始。オブジェクト指向アーキテクチャーを基盤とした画像表示エンジンを開発するカナダのコンテント・インターフェイス・コーポレーションとの資本提携を含めた戦略的提携のほか、ベンチャー企業のリミック・ポイント、黒沢デジタル・アーカイブ、エム・ピーテクノロジーズ、イーブック・システムズなど、この1年の提携戦略は、まさに矢継ぎ早だ。

 「近い将来に向けたグラフィックスソリューションの広がり、そして、それを提供できる体制づくりが急務となっている。画像に関する技術を持つ企業とは積極的に協業を進めていく考えであり、当面は提携戦略の手綱を緩めるつもりはない」と和泉社長は語る。

 こうした提携戦略は日本独自のもので、米SGIの動き方はまったく異なる。先にも触れたように、資本関係はあるが、一般の米子会社の日本法人という親子関係にはないと言いきっていいだろう。

 日本SGIでは、昨年11月、コンテンツ総合マネジメントソリューション「Silicon LIVE!」を発表したが、これも日本SGI独自のものであり、米SGIは直接関与していない。

 Silicon LIVE!では、デジタルコンテンツの生成、アーカイブ、配信、エンドユーザーでの表示機能など、コンテンツを総合的に支援するソリューション群を網羅したもので、企業における映像、画像までを含めたデジタル・アセット・マネジメント(DAM)ソリューションの提供を実現するものだ。


 「これからはコンテンツが主役の時代」だと和泉社長は語る。

 「企業内に蓄積されているリッチメディアを、いかに生かし、戦略的情報システムとして活用するか。もはや、映像、画像は限られた企業だけが取り扱うものではない、ということをCIOは知らなくてはならない」と改めて強調した。その点でも、Silicon LIVE!の提唱や、それを実現するソリューション群の提供、そして、パートナーとの提携戦略が、日本SGIの事業戦略の上では重要な鍵になるのだ。

 3月末から4月にかけても、新たな発表が同社から相次ぎそうだ。そのなかのひとつには、日本版SOX法に関連するソリューションも含まれることになりそうだ。日本版SOX法は、ドキュメント管理のノウハウが求められる。そこに、グラフィックソリューションをどう組み込むかも注目されるところだ。

 昨年11月には、400万人の規模を持つ丸井のクレジットカードで、情報漏えい対策のセキュリティ対策コンサルティングとソリューション導入を担当するという実績もあがっており、こうしたビジネスも今後の同社の柱のひとつになりそうだ。

 日本SGIが打ち出す提携戦略のひとつひとつのピースが重なり合っていくと、日本SGIの目指す方向が明確になってくるといえそうだ。

 「来年になれば、その方向性が多くの人に明確にわかるだろう」と和泉社長は、自らが描く青写真の完成がもうすぐであることを示して見せた。

 日本SGIの進化と変革は、まだまだ続きそうだ。



URL
  日本SGI株式会社
  http://www.sgi.co.jp/


( 大河原 克行 )
2006/03/22 00:00

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