Enterprise Watch
バックナンバー

NGNとの一体化で、提唱から29年目に本物になるNECの「C&C」


NEC矢野薫社長
 夏の3連休の最終日となった7月17日。NECは、静かに107回目の創立記念日を迎えていた。

 NECでは、連休に入る直前の金曜日となった7月14日に、矢野薫社長が全社員を対象に約20分間にわたり、メッセージを投げかけ、NECの今後の方向性について改めて言及した。

 また、17日付けで、NECのOBや関係者などに対して、矢野社長が中核事業として掲げるNGN(Next Generation Network:次世代ネットワーク)に対する考え方、ユビキタス時代への取り組みなどについて、メールで方針を示してみせた。

 これらのなかで、矢野社長は、改めて「C&C」という言葉に言及した。


 C&Cとは、NEC中興の祖と呼ばれる小林宏治会長(当時)が、1977年に米アトランタで開催された「インテルコム'77」で提唱した言葉である。

 Computer & Communicationを意味するC&Cは、「コンピュータと通信の融合」を示したものであり、NECの現在の企業理念でも、「NECはC&Cをとおして、世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します」というように、そのなかでC&Cの言葉が使われている。

 NEC社内向けのメッセージのなかで矢野社長は、「来年は、C&Cが提唱されてから30年目を迎える。それを前にして、いよいよ本当の意味でのC&Cの時代がやってきた」と語った。


 一方、関係者に当てたメールのなかでは、ユビキタス社会の到来を指摘しながら、それを支える社会基盤システムとして、NGNに注目が集まっていることを示し、「NGNに支えられたユビキタス社会の姿は、まさに1977年に当時の小林宏治会長が提唱したC&Cの世界であり、コンピュータ技術と通信技術の融合を進めてきた当社にとって大きなチャンスと受け止めている」とした。

 社長就任以来初めて迎えた創立記念日に、矢野社長は、自らが事業の中核と据える「NGN」と「C&C」とを、ひもづけて見せたといえる。


企業ネットワーク領域での協業強化を発表する矢野社長(左)と米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO(右)
 NGNは、Next Generation Networkの略であり、一般的にはIP技術をベースとした次世代ネットワークのことを指す。つまり、その言葉から、ネットワークインフラそのものを指すものだととらえられることが多い。また、これが転じて、NTTをはじめとするネットワーク事業者のみを対象としたネットワークインフラ事業だと受け取ることもできる。そうした意味では、かなり限られた事業領域を指しているように感じられるだろう。

 実際、NGNは、ITU-TやETSIといった機関を通じて標準化作業が進められてきた経緯があり、ここでもNGNは、固定網、モバイル網を統合したIP網として、安全性、堅牢性などにも踏み込んだ、従来の電話網を代替するネットワークインフラと位置づけられている。

 だが、NECが語るNGNとは、もっと幅広い意味を持たせたものである。

 だからこそ、「NGN」と「C&C」という言葉が関連性を持って語られているのだ。


 先頃、NECは、報道関係者を対象に、同社知的資産R&Dユニットにおける研究開発成果を公開した。

 これは、NGN時代に向けたNECの成長戦略を支える研究開発成果と位置づけられて紹介されたものだ。

 これを見ると、NECがいうNGNの概観が見えてくる。

 このなかでは、一般的にNGNといわれる次世代光IPネットワークや、無線/光アクセスといったトランスポート領域の研究開発だけにとどまらず、ミドルウェアをはじめとした各種ソフトウェアのほか、サービスプラットフォームの提供、BtoBからBtoCに至るまで、企業活動に不可欠なソリューション、われわれの生活に密着したサービスの領域までもが含まれていた。

 具体的には、携帯電話を利用した課金や決済、Push to Talkと連動したマルチメディアサービス、VoIPを提供するサービス基盤のほか、企業ITシステムの構築に不可欠なネットワークソリューションなどだ。

 NEC執行役員兼中央研究所長・國尾武光氏は、「NGNというのは単なるキャリア系システムの構築、提供を指すのではない。その裏にある企業IT・ネットワークシステムの部分にこそ、NGNの事業機会がある」と語る。

 この研究開発成果の披露においても、企業IT・ネットワークシステム、サービスプラットフォーム、トランスポート、端末機器の4つの領域においての技術を紹介し、「いずれもが、NGNを実現するための重要な研究開発成果」(國尾執行役員)と語る。

 NECの知的資産R&Dユニットでは、技術領域を42個に分類した研究開発を進めており、すべてがNGNを起点とした取り組みになるとしている。

 この42個の技術領域は、インフラそのものでは収まらないものも含まれている。ここでも、NECが、NGNをネットワークインフラだけにとどめていないのがわかる。


知的資産R&Dユニットの研究開発領域 NGNの事業領域

 NECは、7月3日付けで、インターネットプロバイダであるBIGLOBE事業を分社化し、NECビッグローブ株式会社としてスタートを切った。

 NECでは、この新会社設立にあわせて発表したメッセージのなかで、BIGLOBEがNGNにとって重要な役割を果たすことを示した。

 NECビッグローブでは、これまでのインターネットプロバイダ事業(ISP事業)のほか、企業向けにインターネットサービス基盤を提供する「プラットフォームサービス事業」、コンシューマ向けに広告、EC、有料コンテンツ等の事業を展開する「ブロードバンドメディア事業」の2つの付加価値サービス事業を成長領域と位置づけている。

 とくに、プラットフォームサービス事業では、ISP事業で培ったネットワークインフラ構築の俊敏性、信頼性、柔軟性を生かすとともに、NECのソリューション力と組み合わせた企業向けソリューションの提案が行われる。これは、単にネットワークインフラを企業に提供するというのではなく、サービス事業まで含めてNGNの環境を提供することでもあり、ここに事業機会を創出しようとしているのだ。

 また、ブロードバンドメディア事業でも、ネットによる課金/決済といったECの提供、広告収益型のビジネスモデル、ビデオオンデマンドなどの有料コンテンツの配信サービスを展開していく考えであり、これも、NGNを利用したASPモデルとしての事業機会創出につながる。

 NECビッグローブは、当面の間は、あくまでもISP事業を収益の中心とするが、将来的には、この2つのサービス事業が売上高の半分を占めることになると予測。まさに、NGN時代の成長エンジンだと位置づけている。

 ここでも、NECが、NGNの範疇(はんちゅう)を、サービス、ソリューション領域までとらえていることがわかる。


NGN領域の開発費は約200億円増に
 矢野社長は、今年5月29日に行った事業方針説明のなかで、NGN元年を迎えたことを強調する一方、NGNによって、サービスアプリケーション、サービスプラットフォーム、トランスポートシステム、各種端末機器の市場が活性化すること、そして、企業ICTシステム、電子政府、社会インフラへの投資が加速することを示した。

 「NGNによって、キャリアだけでなく広い範囲での投資が活発化することになる」と矢野社長は語り、加えて、「先行商談の受注拡大、来年度以降に向けた体制強化、開発加速など、NGNに対してリソースを集中させる」と方針を示した。

 実際、研究開発投資だけを取り上げても、2006年度におけるNGNへの投資額は前年に比べて約200億円程度増額している。他の分野が縮小傾向にあるのに比べて特筆されるものだといえる。ここでも、NGN領域にリソースを集中させていることがわかる。

 矢野社長が率いるNECは、NGN戦略へ集中することを成長戦略の柱としている。これが、中期経営計画で掲げるROE 15%、営業利益率7%達成の必須条件になるというわけだ。

 ネットワークを軸として、ソリューションを展開するNECは、NGNという旗頭のもと、提唱から30年目を迎えようとしているC&Cの実践に挑むことになる。



URL
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/

関連記事
  ・ NEC矢野社長、「今年度は営業利益1300億円を確実に達成、NGN戦略にも集中する」(2006/05/29)
  ・ NECと米Microsoftが協業強化、企業向けネットワークや次世代サーバーで協力(2006/05/24)
  ・ NEC、IT基盤の新方針を発表-ビジョン具現化のための新サーバーも提供(2006/07/18)


( 大河原 克行 )
2006/07/21 11:35

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.