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新生レノボは、中堅・中小企業を攻略できるのか


 レノボ・ジャパンが、天野総太郎社長体制になって1カ月を経過した。

 具体的な中期経営計画が発表されるまでには、あと数カ月を要するようだが、それでも、年率2けた増という成長戦略の実行に向けたいくつかの方針が、すでに明らかにされている。

 このあたりのスピード感は、デルの最前線で鍛えた天野社長らしいところだ。就任数週間で、この方針を明らかにしただけでも、今後、レノボのビジネススピードが加速するであろうことを期待させる。

 その新生レノボ・ジャパンが、次の一手として明確に打ち出したのが、中堅・中小企業でのシェア拡大策である。

 切り札となるのはLenovo 3000ファミリー。コスト競争力を前面に打ち出し、新聞広告などを通じた訴求を積極化するという。

 この手法は、天野社長自らがデル時代に実践したやり方そのままだ。いわば、自らが作り上げたものを、立場を変えて崩しにかかることにも通じる。

 天野社長は、「デルにはすばらしい仕組みがあり、すばらしい人材がいる。だが、直販には限界があるのも事実。そこにレノボのチャンスがある」として、デルへの挑戦を明確に口にする。

 直販の限界を、パートナービジネスを主軸に据えるレノボによって越えることができるというのが、天野社長の基本的な考え方だ。

 就任記者会見で、「近い将来には、国内ナンバーワンシェアを取る」と宣言したのは、NEC、富士通という国産メーカーを抜き去るというよりも、言い換えれば、今年、瞬間風速ではあるが、トップシェアを獲得したデルを抜きさることを強く意識した発言だとも受け取れる。

 国内で地盤を固め、いよいよトップシェア獲得に王手をかけたデルにとっては、思わぬ強敵が登場したことになるともいえそうだ。


デル前社長の影響を受けているのか?

レノボ・ジャパンの天野総太郎社長
 就任会見直後に、天野社長にインタビューする機会を得た。

 インタビュー内容に関しては、PC Watchを参照してもらいたいが、この中で、ひとつ気がついたことがある。

 天野社長の発言には、前デルの社長である浜田宏氏の発言と、かなり近い発言が一部にあったことだ。

 とくに、コスト意識を持った筋肉質な企業体質を目指すことを明確に示す点、そして、人材育成に力を注ぐ点では、その共通性を強く感じた。

 天野社長は、インタビューのなかで、「将来、レノボ・ジャパンから、アジア・パシフィックで活躍できる人材を多数排出したい」と語った。これは、デル社長時代の浜田氏が語っていたことと同じである。

 レノボの場合、デル以上にグローバルカンパニーとしての意識が強い。さらに、レノボは、中国を本拠とした企業の血が強く流れている企業だけに、アジア・パシフィックで活躍するということは、デル以上に、経営の中核に進出することを意味する。天野社長自身も、その立場になるべきだと、自らを奮い立たせる。

 「確かに、浜田さんとは、長年、一緒に仕事をやってきましたから、そこから学んだこともあります。ただ、あそこまで恐ろしいことは言いませんけどね」と、冗談を交えて、自らの経営スタイルに少なからず影響を及ぼしていることは認める。

 しかし、天野社長は、デル流のやり方が、レノボではそのまま通用しないことは百も承知だ。

 「レノボ・ジャパンには、大変優秀な人材がいる。そして、強い信頼関係を持ったパートナーがある。これを生かす経営をしていきたい」と語る。


言葉は共通化されているのか?

社員500人未満を中小企業と定義しているが、そのなかで主軸をどこに置くかに差がありそうだ
 レノボ・ジャパンの社員は、日本IBMからの転籍組で構成されている。そこに、デル出身の天野社長が陣頭指揮をとる形で参画した。

 そこで筆者が個人的に気になっているのは、言葉の共通認識の点だ。

 IT分野を取材している記者ならば当然の知識として知っているのが、日本IBMがいう中堅・中小企業と、NEC、富士通がいう中堅・中小企業には、大きな差があるという点だ。

 日本IBMの場合、年商100億円を超える企業が中小企業の分類にも入るのに対して、NEC、富士通がいう中小企業は年商10億円以下までを含めている。これを知らずに、言葉を同じ意味に理解していると、まともな記事が書けない。

 日本IBMが中小企業と口にした場合には、NEC、富士通がいう中堅企業、あるいは一部大手企業と呼ばれるところまで含めてとらえなくてはいけない。

 デルでいう中堅・中小企業というのも、NEC、富士通のいう中堅・中小企業に準拠したものだ。あるいはもう少し年商規模が小さいところまで含めているかもしれない。

 このように、中堅・中小企業が指す範囲は企業によって違う。日本IBM出身者とデル出身者という、中堅・中小企業の認識に最も差がある人材によって構成される組織編成のなかで、レノボの社内に、その指す範囲が共通的な認識として、「根付いているか」という点が気になる。

 個人的には、レノボがいう中堅・中小企業には、日本IBMの中堅・中小企業のテリトリーは当てはまらない、と考えている。もし、ひとこと、「中堅・中小企業」といった場合に、社員によって、その範囲の認識に違いがあるようならば、市場にレーザーフォーカスは当たらない。

 中堅・中小企業の攻略を成長戦略の柱とする上では、まずここを共通認識として、徹底的に根付かせることが必要だといえる。


パートナービジネスを得意とできるか?

販売チャネルの強化策
 もうひとつ、気になる点は、天野社長自身が、パートナービジネスの経験がないという点である。

 天野社長自身、デルで中堅・中小企業向けの直販ビジネスモデルを成功へと導いた手腕が高く評価されているが、パートナービジネスは、まさに対岸の戦略。レノボのパートナー会社のなかには、天野社長の就任で、直販ビジネスへのシフトを懸念する声もあったほどだ。

 天野社長も、パートナービジネスの経験がないことは認めている。「いま、勉強中であり、パートナーの方々からもさまざまなお話を伺っているところ」と、課題のひとつであることを漏らす。

 だが、先にも触れたように、直販ビジネスの限界を感じていたというのが天野社長の本心。「直販は、メーカーが打った施策に反応して、お客様に製品を購入していただくが、これが買い換え需要になったときには、どうしても価格訴求からは逃げられなくなる。成長段階にある場合にはいいが、成長が鈍化したときに、このモデルのやり方では、利益ある成長が難しくなる。一方、パートナービジネスでは、パートナーと一緒になって市場を拡大していくことができ、さらにソリューションに関する仕掛けも深い部分でできる。価格訴求ではなく、コンサルティング、アプリケーション、サービスという付加価値で勝負できるようになる。ここに、直販モデルにはない魅力がある」と語る。

 天野社長が描く理想のパートナービジネスを、天野社長の「得意のバッティングフォーム」へと早期に仕上げられるかがもうひとつの課題だといえよう。

 いずれにしろ、レノボ・ジャパンは、天野新社長体制によって、これまで、少しずつ変化してきた日本IBMの体質を、さらに変化させることになるのは明らかだ。

 それが中期経営計画にどう反映されるのか、そして、ビジネススピードの変化や、中堅・中小企業市場における成果にどうつながるかも楽しみだ。

 まずは、1年後の変化を楽しみにしておきたい。

 そして、そこから数年後に、中堅・中小企業のユーザーの間から、レノボといったときに、ThinkPadよりも、Lenovo 3000が最初に想起されるようになったら、天野社長が打ち出すレノボの新たなビジネスモデルは成功したといっていい。



URL
  レノボ・ジャパン株式会社
  http://www.lenovo.com/jp/ja/
  国内シェアNo.1に向けた第1歩を踏み出す
 ~レノボ・天野新社長インタビュー(PC Watch)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0925/gyokai179.htm


( 大河原 克行 )
2006/10/03 00:00

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