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新興国・中小企業向け事業モデルを中国で確立するデル


 デルが中国市場において、事業拡大に力を注いでいる。それは、マイケル・デル会長兼CEOが、今年だけでも、中国に4回も訪れていることからもわかる。

 その背景にあるのは、成長著しい新興国市場の最先端事業モデルとして、また、中小企業向け事業モデルとして、中国市場への取り組みを最優先しているからだ。

 では、デルは中国市場でどんな展開を行っているのだろうか。今年10年目を迎え、中国国内だけで6000人規模の社員を抱える、中国におけるデルの取り組みを見てみよう。


中国に根ざした活動を展開

中国に進出して今年で10年目を迎える

デル中国のアレックス・ヤン副社長
 中国におけるデルの事業は着実に成長している。

 第2四半期におけるデルの売上高成長率は前年同期比33%増、出荷台数は38%増、デルを除く業界全体の成長と比較すると同社の伸び率は3倍という大きな成長を遂げているのだ。

 デルの中国国内におけるシェアは第2位。中国に地盤を持つレノボがトップシェア。そして、デルと僅差でヒューレット・パッカードが続く。

 デル中国のアレックス・ヤン副社長は、「デルは中国の企業から230億ドルのパーツおよびコンポーネントを購入し、500億ドル以上ものGDPへの推定貢献額がある。推定雇用創出件数も200万件以上にのぼる。さらに、7000時間以上もの奉仕活動を行い、四川大地震では、930万人民元の支援と、6トンの物資支援を行った」と、中国に根ざした活動を行っていることを強調する。

 また、20カ所のトレーニングセンターを活用するほか、学校を対象にしたPCやインターネットの利用に関するトレーニングプログラムを実施しているという。


中小企業開拓に600社のパートナーと契約

今後、中国市場で1200都市にまで拡大する
 中国において、特に同社が力を注いでいるのが、中小企業向けビジネスだ。

 そして、その基盤づくりには余念がない。

 デルは、わずか2年前までは、Tear1およびTear2と呼ばれる国内90都市にターゲットを絞り込んだ事業展開を行っていた。それを2008年以降、1200都市にまでターゲットを拡大し、中国市場における存在感を高める姿勢を見せる。

 「2008年時点で未開拓の地域において想定されるPCの需要規模は580万台に達する」と、アレックス・ヤン副社長は試算する。

 そのために同社では、中国全土に広がる600社のパートナー企業と連携し、86%の都市をカバー。この半年の間に155カ所に設置した中小企業向けソリューションセンターを、1200カ所にまで拡大する計画を打ち出した。さらに巡回型のソリューションセンターによって、年間100都市を巡回。このカバー領域を1200都市にまで拡大する。

 「デルの名前を知っていても、デルの製品を見たことがない人が多い。また中小企業のなかには、ITをまったく導入していないという企業も少なくない。Tear3以下の中堅、中小規模の都市に関しては、パートナーモデルを活用して展開していく」という。

 20カ所のトレーニングセンターを設けているのも、PCの利活用に向けた普及啓蒙活動が不可欠だからだ。


300都市以上での店頭展示も開始

デル中国のコンシューマ事業統括責任者のマイケル・ヤン氏
 もちろん、チャネル展開ではコンシューマ向けPCのパートナーシップも見逃せない。

 コンシューマ向けPCでは、オンライン、電話、量販店という3つの販売チャネルを用意しているが、中でも、ここにきて動きが活発なのが量販店を通じた販売だ。

 昨年12月には、中国最大となる国美電器(Gome)、今年4月からは蘇寧(SUNING)での店頭展示販売を開始。300都市以上での展示販売を可能とした。

 「第2四半期における中国のコンシューマPCユーザーは、10倍に増加している。新デザインや新コンテンツの提供によるパーソナル化の推進、チャネル戦略の拡大、パーソナル・コンピューティングに向けたコミュニティハブとして、Dell.comを活用していることなどが成果をあげている」(デル中国コンシューマ事業統括責任者・マイケル・ヤン氏)という。


デルの製品を店頭販売する国美電器 同じく蘇寧

Dellプロダクトグループのジェフ・クラーク上席副社長兼ジェネラルマネージャー

インドにも中小企業向けの製品を展開。今年から広告を開始する
 一方、チャネル以外では、製品戦略も特筆できる。

 それは、新興国市場向けおよび中小企業向けブランドとするVostroの投入だ。

 Vostroは、ITプロフッェショナルを持たない中小企業において、導入の敷居を引き下げることを狙った製品だ。

 試用版ソフトの搭載などの不要なソフトを極力排除し、電話サポート体制の確立、低価格での提供といった特徴を持つ。

 これは新興国攻略のための戦略的製品と位置づけられ、中国以外にも、インドなどにも市場攻略のための中核的製品として投入していく。

 「中国国内の7200万の中小企業を対象に導入を促進していく。手ごろな価格、信頼性、実用性、サービス/サポート体制、そして、管理のしやすさという点で、他社にはないものを提供している。今後もこの領域の製品ラインアップを強化していきたい」(Dellプロダクトグループのジェフ・クラーク上席副社長兼ジェネラルマネージャー)とする。


デルが中国国内に持つ3つの戦略拠点

中国におけるデルの規模と3つの主要拠点

中国・廈門(アモイ)にあるChina Customer Center(CCC)
 もともとデルは、中国に3つの戦略的拠点を配置している。

 ひとつは、日本を含むアジア向け製品の生産を行っているCCC(China Customer Center)である。

 廈門に設置されているCCCでは、98年からPCの生産を開始。1万5000平方メートルを誇る中国向けPCの生産棟と、同じ面積を誇る日本、韓国、香港などのアジア市場向けPCを生産する生産棟がそれぞれ置かれ、アジアにおけるPC製造の中核拠点となっている。

 2つめの拠点が、大連にあるデルインターナショナルサービスセンターである。ここでは、電話による販売活動拠点、カスタマサポート拠点としての役割を担っており、中国国内向けの販売/サポート活動のほか、日本のコンシューマ製品の問い合わせ窓口として活用。日本語がしゃべれる中国人スタッフなどを配置しているのが特徴だ。

 そして、もうひとつの拠点がCDC(China Design Center)だ。


デルデザインセンターは、上海市内のショッピングセンターの階上にある
 CDCは、2001年に開設した拠点で、同社がラインアップするすべてのデスクトップPCの開発、設計をはじめ、これまでに22製品が、同センターから市場に送り出されている。

 エコにも配慮した省スペースデスクトップとして話題のStudio Hybridも、CDCで開発されたものだ。

 「ここでは働く社員の57%が、博士号や修士号を持っている。また、10カ国以上から集まっている。Inspiron、Studio、Vostro、Optiplexなども中国で開発されたもの」とCDCのジョン・ターリガー エンジニアリングマネージャーは説明する。

 CDCは、もともと製品の検証施設としてスタート。その後、エントリークラスのデスクトップの開発を担当。2004年以降は、デスクトップ全般やノートPCの一部にも対象を広げ、現在では、同社PC製品の開発、設計におけるコアスキームを同センターが担うことになっている。

 「上海を拠点として、全世界向けの製品を開発している。PC市場は、アジアでの成長が著しく、中小企業の成長も高い。カスタマの大きい市場、成長の早い市場のそばに、開発・設計拠点を置くことで、市場の変化を製品開発にフィードバックすることができる。また優秀な人材を獲得する、あるいは主要なパートナーやサプライヤーがアジアに集中しているという意味でも、上海に拠点を配置する意味がある」(CDCのジェニファー・ラガン エンジニアリングマネージャー)という。


CDCのジョン・ターリガー エンジニアリングマネージャー CDCのジェニファー・ラガンエンジニアリングマネージャー

CDCで開発される製品と内部の様子
 同センターでは、デスクトップPCでは約3~4カ月、ノートPCでは6~7カ月をかけて開発、設計する。

 インダストリデザインからスタートし、CADによる設計、プロトタイプ製作後に、ツールデザイン、ツールメインキング、モックアップ製作に取り組み、品質検査、製品化という流れをとる。

 「こうした設計・開発の間にも、カスタマリサーチ、オンラインサーベイによる結果を反映させる。小売店とのパートナーシップにより、リテーラーの状況を逐一反映させることもできる」とする。

 CDCの特徴は、市場直結型の開発体制を確立している点にあるといえそうだ。


CDCの役割の変化。年を追うごとに重要性を増している CDCでは、製品化されるたびに開発メンバーが寄せ書きする Studio Hybridも上海のCDCで開発された

成長著しい中国市場の可能性とは

マイケル・デル会長兼CEO
 今後、中国市場の市場成長率には目を見張るものがある。

 フォレスター・リサーチの予測によると、2006年には2億2500万台が利用されている中国国内のPC市場は、2015年には5億4900万台となり、2位となる北米市場の2億7700万台の2倍の市場規模に達すると見られている。

 デルCEOは、「今後、中国の5億人の人たちが接続することになる。特に中小企業での接続率が高まってくる」として、中国市場の成長性に期待する。

 また、Dellプロダクトグループのジェフ・クラーク上席副社長兼ジェネラルマネージャーは、「今後5年間でラップトップは10億台販売されることになるだろう。そのなかで中国市場が果たす役割は大きい」として、「中国のインターネット利用は56%増加しており、中国のラップトップ所有者のうち、50%がデスクトップを所有したことがない。そして、2011年までにアジアのモバイルワーカーは6億7100万人に達し、世界全体の就労者の67%を占めることになる」と、特に、中国におけるラップトップPCの潜在需要の高さを示す。


アジア太平洋・日本地区担当上席副社長のスティーブ・フェリス氏
 こうした中国の市場性について、アジア太平洋・日本地区担当上席副社長のスティーブ・フェリス氏は、「中国の顧客に対して、オンライン販売やパートナーを通じた簡便な販売形態によって、デルの高い技術とソリューションにアクセスできる体制を確立し、パートナー企業に対しては、デルのブランド力を活用し、利益を最大化していただく体制を整えた。そして、デル自身も直販方式の拡大によって、成長率を加速させる。デルを新興国および中小企業、コンシューマユーザーに選択されるブランドとして確立することが早急の課題」と語る。

 中国市場は、デルにとって、多くの新興国に向けたビジネスモデルを確立する場であり、同様に、中小企業向けビジネスモデルの加速にも大きな意味を持つ。そして、中国で開発、製造された製品を、中国のサポート拠点を通じて支援するという体制も整える。

 デルCEOが中国市場を重視するのは、同社の大きな課題であり、そして成長には不可欠な、新興国向けビジネスおよび中小企業向けビジネスの拡大に向けた足がかりを作る場でもあるからだ。


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( 大河原 克行 )
2008/11/07 00:01

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