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HPが推進するHP StorageWorks Gridとは何か?


 10月7日の記事(「10億通のメールを3秒で検索する」、日本HPの新ストレージシステム)でも既報のとおり、日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は真のILM(Information Lifecycle Management)を実現する新しいストレージアーキテクチャ「HP StorageWorks Grid」を発表した。

 このHP StorageWorks Gridには、かなり高度なインテリジェンスが組み込まれており、データを格納することが主目的だった従来のストレージとは一線を画するものがある。このため、従来のストレージに慣れ親しんできた人(特に経験の豊富な玄人ユーザー)には少々理解に苦しむ側面も持っている。今回は、こうした斬新なコンセプトに基づくHP StorageWorks Gridの仕組みについて、米Hewlett-Packard(以下、HP) ネットワークストレージソリューションズ 上級副社長兼ジェネラル・マネージャのボブ・シュルツ氏とネットワークストレージソリューションズ ILM CTOのジョン-ルーク・シャテレイン氏にお話を伺った。


米Hewlett-Packard ネットワークストレージソリューションズ 上級副社長兼ジェネラル・マネージャのボブ・シュルツ氏
米Hewlett-Packard ネットワークストレージソリューションズ ILM CTOのジョン-ルーク・シャテレイン氏

データを格納するだけの時代から積極的に活用する時代へ

 これまでは、企業のデータをどのストレージにどんな形で格納するかさえ考えていればよかった。しかし、近年の競争社会を勝ち抜くには、ただデータを格納しておくのではなく、そのデータをいかに活用するかが重要になってくる。つまり、ストレージに格納されたデータから企業にとって価値のあるものを作り出さなければならないのだ。

 こうしたデータ活用を可能にするには、データの運用、管理、検索などを実現するソフトウェアをストレージハードウェアと連携させてあげればよい。しかし、データ容量が急激に増大しつつある現在、これに耐えうるストレージ容量と高速アクセス、高度な情報サービスを提供するには、ハードウェアとソフトウェアの密接な連携、そしてこれらの高い拡張性と柔軟性が不可欠になる。このため、データの格納を主目的とした従来型のストレージにソフトウェアを追加するくらいではもはや力不足であり、データ活用を主眼においたまったく新しいストレージシステムを一から設計し直す必要があるのだ。

 そこで、HPは、これからのストレージを支える新しいアーキテクチャとして「HP StorageWorks Grid」を開発した。HP StorageWorks Gridは、スマートセルと呼ばれるモジュールにデータを格納し、そのスマートセルに属性を与え、企業のポリシーに応じてデータを効率的に格納、活用できる仕組みを提供する。いわば、真のILMを実現するためのストレージアーキテクチャである。

 本連載で過去に取り上げた「日本HPに聞く次世代のストレージ・ビジョン[後編]」でも属性という用語が登場している。記事中では「ILMを含め、HPが目指すストレージ像のかなりの部分を2005年に実現できる見込み」としており、スマートセルや属性といった新しい考え方が初めて導入されたHP StorageWorks Gridは、HPが目指す理想のストレージに向けた重要な第一歩といっても過言ではないだろう。


インテリジェンスが内在するスマートセルで構成されたHP StorageWorks Grid

HP StorageWorks Gridによって統合されたシステム。従来のシステムは、さまざまな役割を持つ独立したコンポーネントを組み合わせたものなのに対し、StorageWorks Gridに基づくシステムは、均一の機能と性能を持ち合わせたスマートセルが有機的に相互接続されたものとなる(出典:日本ヒューレット・パッカード、以下同様)。
 HP StorageWorks Gridで要となるのが“スマートセル”である。スマートセルは、ストレージシステムを構成するハードウェア、ソフトウェア、サービスなどを仮想化したコンセプトであり、もっと具体的な側面で見ればストレージシステムの処理能力にも相当するものだ。ストレージシステムは、これらのスマートセルがピア・ツー・ピアという対等な立場でグリッドを構成することにより成立している。

 一般にピア・ツー・ピアのグリッドでは、グリッドを構成する各ノードがそれぞれ似たような機能を持ち合わせており、複数のノードを束ねることで処理性能の向上を図ったり、一部のノードが停止しても他のノードがそのノードの役割を代理することでシステム全体が停止しない耐障害性を実現したりしている。HP StorageWorks Gridも、こうしたピア・ツー・ピア・グリッドの考え方を踏襲しており、どのスマートセルもすべて同じ機能を持ち合わせている。そして、スマートセルは互いにミラー構成をとり、どれかひとつが停止しても自動的に他のスマートセルがジョブを引き継いでストレージシステム自体が停止しないように工夫されている。さらには、スマートセルの数を増やすことでストレージ容量や処理性能を高めることも可能だ。

 スマートセルの利点は、ストレージシステムを必要なときに必要なだけ拡張できることだ。つまり、そのときに必要なだけのストレージ容量を持てる“Just in Time Storage”を実現できる。もし、ストレージ容量の追加が必要になったらスマートセルを追加すればよい。時代とともに技術は進歩していくので、新しいスマートセルは従来のスマートセルよりも大容量かつ高性能なものになる。これにより、過剰な初期投資を避けながら、そのときそのときに適切なストレージ容量と処理性能を持ち合わせたストレージシステムを最小限のコストで迅速に構築、運用できるようになる。

 では、スマートセルを増やすという作業は物理的に何をすることなのか。「今日のスマートセルは、物理的にいえばPCのようなものにあたります。スマートセルのボックスには、筐体の中にプロセッサやストレージが含まれています。最初にいくらかのストレージ容量を持ったボックスを導入し、ストレージ容量が足りなくなったら新しいボックスを購入してバックプレーンで接続していきます。この作業を通じてスマートセルがグリッドに追加されます。このような説明だけでは現実味が乏しいように感じるかもしれませんが、弊社はすでにスマートセルのボックスを発売しています。その代表例が、HP StorageWorks Reference Information Storage System(RISS)です。HP StorageWorks RISSでは、この製品に用意された各種オプションを物理的に追加する作業がスマートセルを増やす作業に相当します(シャテレイン氏)」。


当初は従来のストレージシステムにRISSを単純に追加する形がとられるが、いずれはディスクサブシステム、テープライブラリなどもスマートセルの一部として仮想化され、ストレージシステム全体がスマートセルから構成される形へと進化していく。

マルチベンダ環境への対応を容易にするオープンプロトコルの採用

 ストレージをグリッド化するというアプローチは他社でもすでに提唱されている。例えば、ネットワーク・アプライアンスのストレージグリッドアーキテクチャやIBMのStorage Tankなどがある。シュルツ氏は、他社のストレージグリッド技術とHP StorageWorks Gridとの違いを次のように説明する。

 「他社のストレージグリッド技術は既存のハードウェアに何らかの管理ソフトウェアを組み込んで実現しているのに対し、HP StorageWorks Gridはグリッドそのものにインテリジェンスを持たせているところが大きな違いです。これは、グリッドを構成するスマートセルそれぞれにインテリジェンスを内在させたからこそ達成できたものです。この結果、スマートセル同士で高度かつ有機的な連携がとれるようになり、これまでできなかったストレージの機能を実現できるようになります。また、グリッドの内部構成を動的に変更できますので、グリッドそのものに高い柔軟性が生まれます。もう一つの強みは、HP StorageWorks Gridがすでに実用化されている技術だということです。つまり、弊社のストレージグリッド技術は単なるコンセプトではなく、実際の製品としてすでに入手できる段階にあるわけです」。

 HP StorageWorks Gridには、物理的な側面で見ると、ディスクサブシステムやテープライブラリなどのストレージハードウェア、これらを運用管理するための管理ソフトウェア、データを活用するための各種ストレージサービスなどが含まれている。通常、多くの企業は、さまざまなベンダの製品が混在したマルチベンダ環境でストレージシステムを構築しているが、このようなマルチベンダ環境でもHP StorageWorks Gridがしっかり機能するのだろうか。

 「現時点では、HPの製品のみがHP StorageWorks Gridをサポートしています。しかし、これでは真のストレージグリッドを実現できませんので、将来的にはマルチベンダ環境に対応できるように持って行きたいと考えています。そのために、HP StorageWorks Gridはオープンプロトコルを採用しています。例えば、ストレージ管理にはSNMP、アプリケーションの接続にはSMTP、MAPI、HTTP、SOAP、CIFS、NFSといったオープンプロトコルが用いられます」。

 「他社のグリッドは、直接会話することができないハードウェア同士を連携させるためにゲートウェイを介在させています。しかし、ゲートウェイを介在させる方式は、そのゲートウェイがパフォーマンス上のボトルネックになりかねません。また、ゲートウェイに障害が発生すると、グリッド自体が破たんしてしまいます。弊社がスマートセル同士のピア・ツー・ピア通信にこだわる理由はここにあります(以上、シュルツ氏)」。


SDKの提供によって独自アプリケーションも統合可能に

ストレージシステムは、サーバーにストレージを直結するDAS(Direct Attached Storage)から、ストレージをネットワーク化してサーバーからのリソース共有を可能にするネットワークストレージへと進化してきた。そして、これからはストレージシステムにインテリジェンスを与え、リアルタイムな拡張性と情報サービスが提供されなければならない。これを実現するストレージアーキテクチャがHP StorageWorks Gridである。
 ただし、他社のコンポーネントをしっかりと制御、管理しようと思ったら、他社独自の部分がどうしても現れてくる。こうした標準から外れる部分については、個別に対応していく必要がありそうだ。シャテレイン氏は、他社のコンポーネントとの連携に対して次のような解決策を提示する。

 「HP StorageWorks Gridはオープンプロトコルを採用しているわけですから、他社コンポーネントとの連携もオープンプロトコルで達成したいと考えています。ですから、ある局面においてはオープンプロトコルを使ってもらうように弊社から働きかける必要があるかもしれません。また、2005年初めにはSDK(Softwear Development Kit)を提供する予定ですので、これを使っていただければ他社の製品もHP StorageWorks Gridに組み込めるようになります。そして、このSDKはベンダのみならずエンドユーザーにも活用していただくつもりです。企業によっては、自社で開発した独自アプリケーションを持っている場合があります。このSDKを利用していただけば、こうした独自アプリケーションもHP StorageWorks Gridに統合できます」。

 HPは、これからもHP StorageWorks Gridに基づくファイルサービス、アーカイブソリューション、管理ソリューションなどを次々と発表し、HP StorageWorks Gridの基礎を固めていく意向を示している。HP StorageWorks Gridによって構築された最新のインフラストラクチャは、企業のあらゆるビジネスに対して多種多様な情報サービスをリアルタイムに提供する。この結果、企業は制限なく成長を続け、混沌なく変化し、さらには運用管理を妥協なく簡素化できるようになるのだ。




URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/
  HP StorageWorks Grid
  http://h50146.www5.hp.com/products/storage/grid/

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( 伊勢 雅英 )
2004/10/18 00:00

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