「クラウド時代にも暗号化は必要」、米PGP ダンケルバーガーCEO

中小規模向けのクライアント暗号化ソフトも発表

米PGP 社長兼CEOのフィリップ・ダンケルバーガー氏

 「将来的にはより多くのデータが、クラウドの中で分散することになるが、そこで共有される情報も暗号化される必要がある。また、クラウドコンピューティングが現実なものとなれば、いろんなものを組み合わせて連携を取っていかなくてはいけない状況になるので、セキュリティモデルが3つもあったら困ってしまう。基本的なモデルが必要になるだろう」―。そう話すのは、米PGP 社長兼CEOのフィリップ・ダンケルバーガー氏だ。来日した同CEOに、暗号化プラットフォーム戦略について話を聞いた。

 PGPは7年前の設立以来、一貫してデータの保護に注力してきた企業であり、共通のプラットフォームの上に複数のアプリケーションを構築するというビジョンのもとで、製品を展開してきた。ここが、他社との違いだと、ダンケルバーガーCEOは主張する。同社では、メールの暗号化から始まって、FTPの暗号化、エンドポイントデバイスやモバイルデバイスの暗号化、ファイルサーバーの暗号化などを提供しているが、これらの製品を統合して、「PGP Universal Server」によって暗号鍵の格納とライフサイクル管理、認証などを行える点が、大きなメリットだというわけだ。

 なぜ、こうした考え方が重要かといえば、暗号化の導入がスムーズに行えるからだ、とダンケルバーガーCEOは説明する。共通の暗号化プラットフォームを採用しているため、アプリケーションを増やそうと思った際には、容易に機能を拡張可能。もっとも手間がかかり、コストに影響する鍵管理の部分についても、統一した管理プラットフォームによって一元管理できるのだから、その負担を軽減できるのである。ダンケルバーガーCEOによれば、PGP Universal Serverは現在7000社の顧客で利用されているというが、こうした点が評価され、半分以上の顧客が、1つだけでなく2つ以上の暗号化アプリケーションを利用しているのだという。加えて、実際に、こうした管理上のメリットを意識し、PGPのプラットフォームに乗り換える動きもあるとした。

 「データの保護という観点では、インフラの保護からデータそのものの保護に重点が変わってきた。データはある意味通貨と同じであり、ビジネス上の価値とつながってくる。誰もがデータにフォーカスを当てているように思われる。当社では、多くのデバイスをサポートすることで、どんなところでも、データそのものを保護できる手段を提供する」(ダンケルバーガーCEO)。

 また、昨今話題のクラウドについては、「クラウドコンピューティングのように、コンピューティングリソースやデータが分散する時代になれば、それらのデータも適切に暗号化する必要が生まれてくるし、(各国に分散する可能性があるため)グローバルなコンプライアンスを理解しなくてはいけない」という点を指摘。「PGPは、事業の半分を海外で行っているほか、国際標準にも焦点を当てており、この領域では、当社の採用しているアーキテクチャや製品の価値が大きく発揮されることになると思う。さまざまなセキュリティ製品をワンストップで提供できるようにしている大手セキュリティベンダーもあるが、データ保護技術に関してはエキスパートとはいえない」と主張した。

中小企業にも適切な暗号化製品を提供する

 こうした統合機能としてのメリットを訴求する一方で、PGPの日本法人では、中小企業にフォーカスした製品もラインアップを強化している。5月26日に発表された「PGP Whole Disk Encryption Workgroup Edition」もその1つで、Windows環境の10~150ユーザーにフォーカスした製品として提供される。機能としては、クライアントPCのディスク暗号化、USBデバイスの暗号化、公開鍵を利用した暗号化ファイルの作成といった機能を利用できる。

 製品は、Windowsクライアント向けのエージェントソフト「PGP Whole Disk Encryption」と、直感的なGUIを備えた管理ツール「PGP Whole Disk Encryption Controller」から構成され、導入や運用管理を容易に行えるよう工夫されているという。

 ダンケルバーガーCEOは、「日本だけではないと思うが、SMBは短期間で導入したいという意向があるし、マイクロソフトのソリューションを利用するケースが多い。他社は、1つの製品で何でもカバーしてしまおうというアプローチだが、当社はユーザーのサイズに即した製品を提供する。中小企業は単一環境で利用するケースが多く、そういった企業の既存インフラに合う製品を作っていきたい」と、この製品を提供した背景を説明。また、日本PGP 代表取締役の北原真之氏は「まずは、外に出すノートPCやUSBメモリなどから守っていこう、というコンセプトは分かりやすい。まずはそこから暗号化製品を訴求したい」との意気込みを示した。

 なおPGPでは、共有ファイルサーバーを暗号化する「PGP NetShare」を提供しているが、ダンケルバーガーCEOによれば、これが今一番伸びている製品とのこと。きめ細かいポリシーに従って透過的なファイル暗号化を提供するソフトだが、年率50%を超える成長をしているという。北原氏も「この製品に対する問い合わせが増えている。不況によるコスト削減効果を期待してか、ファイルサーバーの統合が増えているが、データが1つに集まることに不安を感じているのではないか」と話し、国内でも注目されるようになってきたと述べている。




(石井 一志)

2009/5/26 17:36