「グローバルとの連携でメリットを提供、日本発の事例も作りたい」-米Dellの公共分野向け戦略


 米Dellでは2009年1月より、組織を対象市場別に再編するとともに、グローバルな連携を強めている。その中で、大企業向け、中小企業向け、コンシューマ向けとともに1つの事業部として展開されているのが、「公共」向けビジネスである。数多くの競合が存在する公共向けのビジネスで、Dellがどう存在感を出していくのか。来日したDell グローバル公共事業 統括責任者のポール・ベル氏と、デル株式会社 執行役員 北アジア地域 公共事業本部 統括本部長の郡信一郎氏に話を聞いた。

バックアップ体制を整えて教育、医療市場の獲得を目指す

米Dell グローバル公共事業 統括責任者のポール・ベル氏

 過去、新聞の一面広告でコンシューマに強く訴求したことなどから、ともすればPCベンダーとしてのみ認知されがちなDellだが、「実は、ソリューションプロバイダとしてもトップ10に入る売り上げがあり、当社はITサービス会社としての力を蓄えている」(ベル)のが最近の姿。国内の公共分野でもシェアを順調に伸ばしており、第3位のシェアを持っているという。

 その中で、ベル氏がまず重点領域として紹介したのが、教育市場だ。Dellは教育機関向けに「コネクテッドクラスルーム(Connected Classroom)」というコンセプトを掲げているが、2週間前には、これを中国へ導入したことが発表された。コネクテッドクラスルームは、教室の内だけにとどまらず、教室外との連携を行える環境を提供し、双方向かつリアルタイムなコミュニケーションを実現するのが特徴で、ベル氏は、「今の子供はテクノロジースキルが高いので、双方向で楽しんで学習できるようになる」と説明する。

 もちろん、子供だけにメリットがあるのではなく、「何より、学習の仕方がパーソナライズできる点がメリットだろう。先生は生徒の習熟度をリアルタイムに把握できるため、もう少し説明した方がいいのか、次に進めた方がいいのかを判断できるようになる」とのことで、郡氏も、「例えば英語の授業中にスペルのテストを行い、その結果によって、授業の途中でも進め方を判断できる。これがまさにリアルタイム化のメリットだろう」と述べ、生徒、教員の双方にメリットがあるとアピールした。

 教育以外では、医療機関向けソリューションも注力する分野になっているという。ベル氏は、例として電子カルテソリューションを挙げ、「紙のカルテでは、患者のデータがあちこちに分散してしまいがちになるが、電子化によってデータを集中管理できれば、より高度な情報を医師が活用できるようになる」という点を指摘。さらに、「この患者にはどういう治療、どういう薬が有効なのか、といったデータを蓄積し、パーソナライズして考えていくことが21世紀の医療といえるのではないか。医療画像の取り扱いが容易にでき、どこでも手軽にCTやレントゲンの画像が見られるようになるのも、電子化のキラーアプリになるだろう」と、導入効果をアピールする。

 こうしたソリューションは、教育や医療のレベルを向上させるものとして、国内でも導入効果が期待されるが、一方で課題もまだまだ大きいのが現状。中でも、大きな導入障壁となるのがITへの理解度だ。地域や個々の学校・病院が置かれる環境によっても大きく左右されるが、比較的上の年代では、ITに対する理解度がまだ高くない場合が多い。そこで、ITに抵抗のない若い世代に働きかけていくのはもちろん、誰もがきちんとシステムを使いこなせるようなバックアップ体制が重要になる。

 ベル氏はこの点について、「技術が普及するにつれ、苦い経験があった人もいるだろう。導入時にはPCさえ入れればいい、ということではなく、利用者に対して、ソフト、トレーニング、テクニカルサポートといった点もきちんと提供しなくてはいけない」と話し、ソリューション自身の改良とともに、体制面でもバックアップする必要性を強調した。そのためデル日本法人では、ソリューションの日本化だけにとどまらず、国内のパートナーとの連携を進めていく考えで、先にコネクテッドクラスルーム導入が発表された中国でも、Dell中国法人が同様の体制を取っているとした。

HPCではグローバルとの連携を生かす、日本からの事例発信も

デル 執行役員 北アジア地域 公共事業本部 統括本部長の郡信一郎氏

 また、Dellが期待しているもう1つの分野が、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)市場だ。以前は大規模なスーパーコンピュータが使われていた分野だが、近年では安価なx86サーバーベースのソリューションも数多く登場し、利用されるすそ野が広がってきている。標準ベースの安価なソリューションを提供するのが得意なDellにとっては、その力が大きく発揮できるのだという。

 「当社では、大規模案件にかかわるだけでなく、中小の研究機関にアプローチするなど、日本においてもHPCの大衆化に向けて働いてきた。オープンスタンダードに注力する当社では、進展があった時にはすぐにそれを取り入れられるし、広範囲なサーバー技術を持っているので、HPC固有のニーズにあった形でそれを提供できる点も強み」(ベル氏)というわけだ。

 そのためにデル日本法人では、「500万円以下、900万円以下、といった手ごろなエントリーパッケージを用意し、HPCの大衆化に力を入れてきた」(郡氏)。また、業界標準であるがゆえに、最初に導入した構成に縛られず、研究結果に応じて能力を上げていくといった拡張性もある。

 さらに、HPC用途に適したストレージを持つ点も、大きな強みになっている。PowerVault、DELL|EMCのストレージに加えて、拡張性に優れたiSCSIストレージ「EqualLogic」製品を買収で獲得したことで、顧客のニーズにあわせて柔軟な提案を可能にしているのだ。ベル氏によれば、「HPCのお客さまはみな、(計算で得られた)データの取り扱いには一様に慎重」とのこと。そのため、ニーズに応じて、可用性と拡張性を提供できるDellのストレージラインアップが評価されているという。

 郡氏も、「iSCSIが増えたといっても、まだFC SANが8割を占める状況だが、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)のように50台以上のEqualLogic製品を導入した例もあり、これに刺激されて導入が増えるかもしれない。いずれにしても、お客さまのニーズを満たした製品ラインアップをそろえていくことが重要だ」と述べ、ラインアップの広さが強みだとした。

 加えて、事業部の再編でグローバルな連携が強まったことにより、日本の顧客にもメリットを提供できると説明する。もちろん、グローバルで提供しているサービス、ソリューションをすべて国内に当てはめるのは現実的ではないが、例えば、「HPCでは、小規模な環境であっても、研究結果を世界で共有していることがよくある」(ベル氏)そうで、そうした場合、Dellが同じ研究をしている海外の研究所と取引があれば、同じチューニングでアプリケーションを提供する、といったことも可能になる。

 逆に、大阪府立大学でのGPGPUの事例に見るように、日本の方が進んでいるところもある。これについて郡氏は、「研究機関では、研究の目的の1つが、新しいテクノロジーの実用化だということもあり、活用に積極的。日本の中で競い合うのではなく、人類のために貢献するということを視野に入れ、新しい技術を活用しているところもある」と述べ、日本発の事例も作っていきたいとの考えを示している。




(石井 一志)

2009/9/18 16:29