「CSRの取り組みは公開しないと損」、SAPがサステナビリティ支援の新製品

活動を効率的に分析し、開示する仕組みを提供

 SAPジャパン株式会社(以下、SAP)は2月3日、企業のサステナビリティ戦略を支援する新製品「SAP BusinessObjects Sustainability Performance Management(以下、SPM)」を提供開始した。企業の経営状況や環境活動、社会活動などCSR(企業の社会的責任)の取り組みについて、パフォーマンス管理や報告書による開示を支援できる。


CSRの取り組みは公開しないと損

バイスプレジデント インダストリー戦略本部兼バリューエンジニアリング本部長の脇阪順雄氏

 バイスプレジデント インダストリー戦略本部兼バリューエンジニアリング本部長の脇阪順雄氏によると「欧米では企業価値の向上を目的に、こうした情報を開示するのが当たり前となっている。投資家から資金調達する面からも、それは戦略的に取り組むべき課題なのだ。翻って日本ではどうかというと、こうした活動を“ひけらかさない”のが美徳と考えられているのか、アジア諸国と比べても対応が遅れている」という。

 この分野では名の知れた業界団体として、オランダに本部を置くGRI(Global Reporting Initiatives)がある。企業がサステナビリティ報告書を作る際のガイドラインを作成している非営利団体だ。このGRIが企業のサステナビリティ活動に対してA~Cのランク付けを行っているのだが、上位となる「A+」「A」ランクを与えられている日本企業はわずかに1社。韓国では「A+」が25社、「A」が6社存在するのに対し、何ともさびしい状況なのだ。

 また、The Carbon Disclosure Project(CDP)が、合計運用資産額55兆ドルに達する475の機関投資家を代表して、企業に気候変動に関する情報開示を求めた結果、回答率が欧州で82%、ブラジルで76%、米国で66%、韓国で50%だったのに対し日本は37%と、ここでも意識の低さを露呈している。

高まるサステナビリティパフォーマンス開示への要請GRIから「A+」「A」ランクを受けている日本企業は1社のみCDPの情報開示要請に対する日本の回答率は37%

 しかし脇阪氏は、今後、国内のサステナビリティ市場は拡大すると見ている。「韓国は初めから欧米を見据えてビジネス展開している一方、日本は国内市場が大きいため、そこに閉じている感がある。一方、世界でサプライヤ選定や投資先選別にサステナビリティが重要視されているのは厳然たる事実で、多くの日本企業も活動内容を開示しないことが損という認識を抱きはじめている」というのだ。

 日本企業もCSRをおろそかにしているわけではない。むしろ、そのパフォーマンスは世界でも最高水準という。「ただ、その開示が苦手なだけで、システム的にも『必要な情報の散在』『組織階層とプロセスとの整合性欠如』など開示への課題を抱え、変化を続ける標準規格へ追随できていないだけなのだ」(ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部 GRC/EPM事業開発本部 GRCグループマネージャーの中田淳氏)。


GRI準拠のKPIライブラリを備えたSPM

 このサステナビリティのパフォーマンス管理・報告を支援してくれるのがSPMである。サステナビリティ戦略を遂行するための多彩な機能を備えており、まず、設定したサステナビリティ目標を、戦略マップ上に可視化してくれる。目標に対してはKPIを定義し、目標と活動をリンクさせ、活動の進ちょく、予実管理を実行。サステナビリティ管理をリアルタイム化してくれるほか、目標未達の活動があれば、責任者は誰で、どんな改善が最適かまで提示してくれる。必要なデータは「SAP ERP」などの同社製品あるいは他社製品から自動収集が可能で、システム化されていない属人的なデータも、専用のリクエストフォームやアンケートフォームを使って集められる。

 最大の特徴は、KPIとして、GRIフレームワークなどに準拠した100種以上のライブラリを標準搭載する点で、GRIの「認定ソフトウェアおよびツール・プログラム(Certified Software and Tool Programs)」で第一号の認定を受けている。

 このように「戦略立案とリスク低減」「ベンチマークと分析」「正確なレポーティング」を行ってくれるのが同製品だが、これ以外に「SAP Carbon Impact」といった別製品もあり、組み合わせることで「エネルギーと二酸化炭素」「製品安全と製品責任」といった、より詳細で広範なサステナビリティ管理が行えるという。

サステナビリティパフォーマンスの向上と外部への開示を支援目標を戦略マップ上で可視化目標と活動をリンク。図では「水の消費量」に関するKPIにより、「サプライヤA/Bの2製品から水の使用量の少ない方を選択」という判断が行われている

外部への情報開示の仕組みを搭載データ収集はSAP製品・他社製品問わず行える



SAPは支援と実践の両軸でサステナビリティを推進

SAP自身のサステナビリティ目標

 SAP自身もサステナビリティには意欲的に取り組み、企業としての自己改革を進めている。目標として、1)2020年までにCO2排出量を2000年レベルへ削減、2)BoP(低所得者層)とSAPの顧客ビジネスを結びつける活動、3)2014年までに売上高2倍と利益率35%の達成を掲げ、1)に関しては「世界経済後退の影響もあるが、オフセットを利用せず直接的な排出削減により、2009年に前年比16%減を達成した」(脇阪氏)という。

 GRIのランクでもSAPはすでに「B+」の評価を受けており、「A+」に向けて活動しているところだ。

 こうした実践を基に、SAPユーザーが同じようにサステナビリティを実現できるよう、製品提供や支援を進める意向。「もしも全世界のユーザーがCO2排出量を16%削減できたのなら、それは社会への大きな貢献だ」(同氏)とした。





(川島 弘之)

2010/2/3 15:35