非機能要求グレード検討会、「非機能要求グレード」の完成版を公開
発表会には参加各社の代表が出席 |
非機能要求の分類 |
非機能要求グレード検討会の活動スケジュール |
NTTデータ、技術開発本部 副本部長の木谷強氏 |
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下、NTTデータ)、富士通株式会社、日本電気株式会社(以下、NEC)、株式会社日立製作所(以下、日立)、三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(以下、MDIS)、沖電気工業株式会社(以下、OKI)の国内SI事業者6社が参加する「システム基盤の発注者要求を見える化する非機能要求グレード検討会(以下、非機能要求グレード検討会)」は2月25日、「非機能要求グレード」の完成版を同日より公式Webサイト上で公開したと発表した。
非機能要求は、情報システムの構築において重要な要素となっているが、システムの検討段階で発注者(ユーザー)と受注者(ベンダー)があらかじめ共通の認識を得ることは難しいのが実情。検討会では、こうした課題を解決する手法として、「非機能要求グレード」の確立を進めてきた。「非機能要求グレード」は、システムの基盤部分にフォーカスし、非機能要求を、1)可用性、2)性能・拡張性、3)運用・保守性、4)移行性、5)セキュリティ、6)システム環境・エコロジー、の6つに分類。これらの水準/度合いを情報システムの性格によって段階的に表記することで、情報システムの強度や品質の見える化を実現する。
今回発表した「非機能要求グレード」完成版は、2009年5月に公開した第1版をもとに、さまざまな業種の企業から寄せられた391件のパブリックコメントを反映するとともに、東京海上火災保険と東京ガスが保有するシステムを用いた適用評価の結果を通じて改良を重ねたもの。具体的には、利用方法や内容に関する解説を拡充するとともに、非機能要求グレードの項目・レベルの総見直しを実施。さらに、利用形態を改善し、非機能要求グレードを自由にカスタマイズできる「スプレッドシート」を新たに公開している。
NTTデータ 技術開発本部 副本部長の木谷強氏は、「2008年4月に非機能要求グレード検討会が発足して以来、3回目の公開で完成版を確立することができた。検討にあたっては、当初からベンダー企業だけでは偏った評価になると考え、ユーザー企業を巻き込んで顧客へのヒアリングや机上評価などを実施したほか、一般からもパブリックコメントを募集。そして、それらの意見をもとに改訂を図ることで、ユーザー企業、ベンダー企業ともに活用しやすいツールを目指した。また、発注者企業2社による適用評価では、非機能要求グレードを活用することで、従来に比べてシステム開発のコスト改善や運用リスクの低減が期待できることが実証された」と、完成版に至るまでの経緯を説明した。
「非機能要求グレード」完成版は、「グレード表」「非機能要求項目一覧」「樹系図」の3つのツールと「利用ガイド」から構成される。「グレード表」は、非機能要求の中でも、特に重要な項目に関する要求レベルについて早期に検討できるようにするためのツール。世の中のシステムを信頼性の重要度の観点から3つに分類したモデルシステムと、各モデルシステムで求められる要求レベルの参考値を用意している。
「非機能要求項目一覧」は、グレード表で挙げた項目以外に要件定義時までに確認が必要なシステム基盤に関する非機能要求項目について要求レベルを確認するためのツール。利用者は、各項目の要求レベルを選択することで、詳細な非機能要求まで確認することができる。「樹系図」は、「グレード表」や「非機能要求項目一覧」にある非機能要求項目を一覧化するためのツール。システム開発の要件定義までの過程において、受発注者が確認すべき要求項目の順序をツリー状に示すことで、他のツールと併用して非機能要求を確認する作業の効率化を実現する。
解決のアプローチ:非機能要求グレード | モデルシステム | グレード表(システム基盤の非機能要求に関するグレード表) |
NTTデータによる非機能要求グレードの活用 | 富士通における非機能要求グレードの活用 | NECにおける非機能要求グレードの活用 |
日立における非機能要求グレードの活用 | MDISによる非機能要求グレードの活用 | OKIにおける非機能要求グレードの活用 |
検討会参加6社では、完成版の公開にともない、「非機能要求グレード」のIT業界での本格的な普及を目指すため、情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(以下、IPA SEC)に「非機能要求グレード」の著作権を無償で譲渡する。IPA SECでは、経済産業省による情報システムの信頼性向上のための施策の一環として、2010年度から「非機能要求グレード」の普及と利用促進に向けた活動を開始する。
IPA SEC 所長の松田晃一氏は、「IPA SECでは、情報システムの信頼性向上にかかわる課題として、上流工程における発注者と受注者間の的確な合意が難しい点と、信頼性と経済性がトレードオフになっている点の2つがあると考える。非機能要求グレードは、これらの課題を解決するための有効なツールであり、来年度以降、積極的に活用していきたい。まずは、できるだけ幅広くユーザー企業に活用してもらうことを目指し、さまざまな業種・業界への適用拡大と活用事例の収集を行うとともに、教材コンテンツの作成や事例紹介セミナーなどを展開する。そして、次のステップでは、ユーザー企業などからのフィードバックを受けて、グレード表の拡張や標準化に向けた検討・調整を進めていく」としている。
IPA SEC 所長の松田晃一氏 | IPA SECにおける非機能要求グレードの活用 | IPA SECの活動スケジュールと今後の展開 |
なお、検討会は、IPA SECへの移行が完了する3月31日をもって活動を終了するが、参加ベンダー6社は引き続きIPA SECの活動に協力しながら、各社内で「非機能要求グレード」を活用したシステム構築を実践していく予定。
2010/2/26 00:00