富士通、野副氏辞任の経緯などを間塚会長が説明-「辞任は社長としての適格性の問題」


富士通の間塚道義代表取締役会長
記者会見の様子

 富士通株式会社は、4月14日、元富士通社長の野副州旦氏の辞任、相談役解任の経緯などに関して説明を行った。

 同社では、野副氏が横浜地方裁判所 川崎支部に申し立てていた「取締役への地位保全の仮処分」が、4月6日付けで取り下げられ、この通知が4月8日に富士通に送達されたことを機に、「しかるべき話をする時期と判断」(富士通の間塚道義代表取締役会長)。これまでの経緯および見解を説明するものとして、会見を開いた。

 富士通の間塚道義代表取締役会長は、「今回の問題は、野副氏が付き合っていた当該企業が反社会的勢力かどうかということが焦点ではなく、社長としての適格性の問題である。富士通は、当時もいまも多くの金融機関と取引が可能であり、それにもかかわらず、反社会的勢力と疑わしい風評があるファンドであり、野副氏自身も怪しげとしていたファンドと付き合う必要があるのか。風評が事実であった場合のリスクを考えれば、個人的に自粛する、関与させないというのが社長としてのリスク感覚であり、この点で社長としての適格性を欠いていた。富士通は、反社会的勢力との風評がある企業と付き合ってはいけないというのが、会社としての判断」などとした。

 富士通によると、3月15日付けで、野副氏が横浜地方裁判所 川崎支部に申し立てた、取締役の復帰を求める「地位保全の仮処分」について説明。3月23日、4月6日の2回設定された審尋期日で両社の言い分を主張し、富士通では、辞任を求めた際の録音データや調査データを証拠として提出。4月6日付けで仮処分手続きは結審したという。

 だが、結審の日に、野副氏が申し立てを取り下げたことを指摘した上で、同社・間塚道義代表取締役会長は、「野副氏の取り下げについては、非常に疑問を感じている。裁判所は客観性、公正さが担保された究極の外部調査委員会であり、もし野副氏がマスコミに向けていうように外部調査委員会の判断が必要ならば、お互いの言い分や証拠を出し合った裁判所の判断を得るべきだ。当社は、裁判所の判断を得て、公明性を世間に公表しようとしていたことから、今回の野副氏の、結審後の取り下げは、誠に遺憾である。野副氏は裁判所の判断を避けながら、記者会見ではこれまでと同じ主張を繰り返し、さらに取締役として復帰することは求めていないなど、事実に反する主張をしている」などとした。

 野副氏は、4月7日に記者会見を開き、富士通の役員および幹部社員に対する損害賠償や名誉回復を求める考えを明らかにするとともに、同社役員2人を対象に、ニフティの再編に関して、損害金額は約50億円とする提訴請求書を発送。株主代表訴訟を起こす姿勢を見せている。さらに、富士通社内に第三者による調査委員会を設置し、事実解明に取り組むよう要望を出していた。

 富士通では、「裁判所は公明性がある。調査委員会の設置を主張するのであれば、裁判所の判断を得ることがよかったのではないか。調査委員会を設置する考えはない」(間塚会長)としたほか、株主代表訴訟を前提とした提訴請求の被告が、間塚会長と、秋草取締役相談役の2人だったことを明らかにした。提訴請求の内容は、野副氏が不当に辞任させられたために、すでに実現が確実だったニフティの売却により得られた利益が失われたことを理由としているという。

 これに対して富士通では、「野副氏は、2009年9月25日の事情聴取の際には、ニフティの売却というのではなく、ニフティの企業価値を高めるためにどのような案があるのかを検討している段階であり、特定の企業に売却することを決めているわけではない。『現在、3案くらいが検討されているのではないかと思う』と述べ、社内でも経営会議や取締役会などで機関決定したことはなく、ニフティの売却が決定間近であるとの認識はまったくなかった。現在、法律に従い、監査役会で対応している」とした。

 一方、辞任の経緯については、「ニフティの再編に伴う、あるIT企業との経営統合が課題として採り上げられ、そのなかで、野副氏が反社会的勢力との関係が疑われるファンドを、このディールに関与させることを考えていることが明らかになった。このファンドと取引関係を持つことは、FUJITSU Wayに照らし、ふさわしくないとの判断に至り、2009年2月下旬から3月上旬に、秋草取締役相談役から野副氏に注意。これを野副氏も認め、あのファンドは怪しげなのでやめたとの報告を受けた」。

 「だが、このファンドの代表者と相変わらず連絡をしていることが判明した。2009年9月に大浦取締役、秋草取締役相談役と協議し、野副氏とその人物の関係は非常に強く、関係を継続し、プロジェクトにも関与させていることは、社長として不適格であるとの判断に至った。社長の中途辞任あるいは解職は、異例のことだが、問題は当社代表取締役社長としての適格性である。社長の立場にある限りは、こうした企業を事業に関与させないという判断が、グループ17万人の従業員を預かるトップであり、かつFUJITSU Wayの最高の体現者としてとるべき態度である」とした。

 また、「一部で報道されているような、取締役会を無視し、密室で辞任を迫ったという事実はない。取締役の、多数の合意の上で、役割分担として一部のメンバーで野副氏に辞任を要請したもの。仮に、辞任しない場合には、取締役会で代表取締役の解職を議題とする予定があり、野副氏にもこの旨を伝えてあった。また、取締役会での解職ではなく、辞任という方法を提案したのは野副氏自身が問題を認識して決断するのであれば、あえて解職というような手段をとるよりも、穏当であろうと考えた結果によるもの」とした。

井窪保彦弁護士
富士通の藤田正美副社長
富士通では、同じ内容の「お知らせ」と「会見補助資料」を配布。会見補助資料では、「反社会的勢力」の表現が用いられた

 これについて、同席した富士通の代理人弁護士、井窪保彦氏は、「辞任を求めた場の録音テープを聞いたが、糾弾するようなやりとりはなく、野副氏も落ち着いてやりとりをしている雰囲気であり、裁判所にもこれを提出した」と補足した。

 野副氏は4月7日の会見においては、「約1時間にわたり糾弾が続いたことから、上場廃止を避けるためにはやむを得ないと誤信するに至り、辞任要求を受け入れた」としていた。

 一方、富士通では、一部の企業に対する「反社会勢力」の表現に関して、「特定企業や個人が反社会的勢力であるといっているわけではなく、また反社会勢力と関係があると断定した事実もない。当社の見解は反社会的勢力との関係が疑われる、正確にいえばその疑いを示す情報や資料がある」(間塚会長)とした。

 また、富士通の代表取締役社長の辞任理由が「病気療養のため」となっていたことについて、野副氏は「辞任を迫られたものであり、病気の事実はない」と反論していたが、これに対しては、「体調を崩していたのは事実。社長時代から通院しており、請求書もある」(富士通の藤田正美副社長)とした。

 だが、「野副氏にはインサイダー情報の提供や、金品の授受、違法行為などがなさそうであり、辞任を提案。野副氏と合意の上で、病気辞任とした。問題と考えた企業の不評被害、野副氏の名誉、富士通への風評も考慮し、理由を病気辞任としたが、結果としてこのような状況となり、株主、投資家、東京証券取引所をはじめ、多くの関係者に迷惑をかけたことをおわびする」(間塚会長)とした。

 さらに、野副氏の辞任に伴い、数人が配置転換されたことについては、「役員、幹部社員の配置換えを行ったのは事実である。だが一時的なものである」(富士通の藤田正美副社長)とした。

 なお、富士通では、「今後の成り行きでは、野副氏を提訴することも視野に入れて考えている」(間塚会長)としている。

 最後に間塚会長は、「今回の件は、そうした関係が疑われる企業と付き合っていいかの経営判断である。17万人の社員、家族を含めると60万人、70万人いる。社長は、一段高い倫理感、鋭敏なリスク管理で必要であるということで行ったものとして理解してほしい」と繰り返した。

 午後4時から行われた記者会見は、約20分間にわたる間塚会長の説明のあと、質疑応答に1時間30分以上の時間を割き、1時間55分にわたって行われた。




(大河原 克行)

2010/4/15 00:00