データセンター事業に本気の日本SGI、「ユニークなビジネスモデルで勝負」


 2009年の米Rackable Systems(以下、Rackable)による米SGI買収を契機に、同年9月より日本SGI株式会社がデータセンター事業へ本格参入。Rackableのデータセンター向け製品の国内展開を開始した。同市場には後発となる日本SGIが、今後、どのような戦略を描くのか。マーケティング本部 データセンタービジネス担当部長の増月孝信氏と、営業統括本部 データセンターソリューション営業本部長の松本豊氏に話を聞いた。


マーケティング本部 データセンタービジネス担当部長の増月孝信氏営業統括本部 データセンターソリューション営業本部長の松本豊氏



データセンター事業に踏み出した日本SGI

 SGIが米破産法11条(チャプター11)の下での破産保護申請と、Rackableへの資産売却を明らかにしたのは2009年4月のことだ。統合は速やかに進み、同年5月には、買収後もSGIの社名とブランドを存続するとの方針をRackableが発表。中・大規模データセンターやHPC市場に向けて、クラスタコンピューティングやスケーラブルサーバー、ストレージ技術、データマネジメントソフト、HPC、可視化技術などをそろえる“新生SGI”が誕生した。

 これに伴い、SGIと密に連携してきた日本SGIも、同年9月にRackable製品の取り扱いを発表。データセンター事業に本格的に踏み出す意向を示した。「日本SGIにデータセンター事業というイメージはないと思うが、すでに事業本部を設立し、事業の4本柱の1つとして精力的に取り組んでいる」と増月氏は語る。

 提供するのは、エンタープライズ・データセンターサーバー「Foundation Rack」、クラスタコンピューティング製品「CloudRack」、モジュール型データセンター「ICE Cube」の3種だ。


ハーフサイズで実装密度を高めた「Foundation Rack」

 Foundation Rackは、22U/36U/40U/44Uのサーバーシステム。特徴はハーフサイズサーバーを採用する点で、奥行き半分のサーバーの背面同士を向かい合わせる「Back-to-Backマウント方式」により、44Uラックで最大88台の高密度を実現している。

 柔軟なBTOによる構成のカスタマイズが可能なほか、サーバーの前面にI/Oを集約し、保守効率を向上。熱処理には、廃熱をラック中央の通風空間から上へ排気する独自機構を採用する。

 加えて、サーバー内部への給電過程で、AC/DC変換を1度で済ませる「DC(直流)電源オプション」によって電源効率を向上。その電源効率は92.6%におよび、「大規模なデータセンターでは、数千万円から億単位の電力コストを削減できる」(増月氏)という。

 ただし、Foundation Rackにも1つ問題がある。昨今、データセンターではラック列を並べ、その間にホットアイルとコールドアイルを形成するのが一般的だ。ところが、内部の通風空間から上へと廃熱するFoundation Rackではアイルの形成が難しいのだ。


Foundation Rackの概要DC(直流)電源オプションの概要



優れた冷却技術と電源技術を備えた「CloudRack」

CloudRackファミリー

 それを解決しようというのが、CloudRackの登場背景。標準19型ラックにサーバートレイを挿入する同製品では、Foundation Rackの高密度・電源効率を維持しつつ、一般的なサーバー搭載形態を採用した。

 システムも大幅に見直し、冷却ファンや電源をラックに集約。通常よりも大型の14cmファンをレイアウト可能にすることで、効率的な冷却を実現している。BTOでSSDを選べば、サーバーの駆動部を完全に排除できるので、故障の可能性も少なくできる。

 さらに、先進的な「Power XEテクノロジー」を搭載。配電バランスが不均等で、過度の電力を必要とする場合がある3相電源に対して、一度電力をプールして最適な配電を行うことで、電力の無駄遣いを極力抑えることが可能という。

 ラインアップは、最大216コアを搭載可能な「X2」と、最大912コアを搭載可能な「C2」の2種類。ワークグループクラスタからデータセンターにおける大規模スケールアウトまでカバーする。最高室温40℃での稼働試験では、PUE(エネルギー効率化指標)1.4を達成している。


優れた冷却効率と高い信頼性Power XEテクノロジーの概要

最高室温40℃の稼働試験でPUE 1.4を達成CloudRackのBTO構成例



1台に最大1540Uの収容スペースを誇る「ICE Cube」

ICE Cubeの概要

 最後がモジュラー型データセンターのICE Cubeだ。40m×8mのコンテナ内に最大1540Uの収容スペースを確保し、最大2万2400コア、または11.8ペタバイトのストレージを搭載できる。冷却、電源、ネットワーク機能もすべてコンテナ内に実装。データセンターファシリティを不要とし、1台のコンテナから小さく始めて、必要に応じて拡張できる。

 「ICE Cubeは、このスケーラビリティが最大のメリット。将来の拡張を考慮してオーバースペックで建設し、何十年もかけて償却する従来のデータセンターと違って、少ない初期投資で構築し、導入・運用の簡素化も図れるのだ」(増月氏)。


日本では建築規制が導入の壁、「特区に期待」

 しかしながら、日本では現状、コンテナ型データセンターは建築基準法の対象になってしまう。消防法に準拠した設備が必要となり、構築・運用コストが上昇。規制の対象とならない米国と比べて、およそ2倍にのぼるとの試算もある。

 そこで総務省がクラウドの普及を見据え、国内に次世代データセンターを構築する必要があると判断。2010年4月に建築基準法や防災法を適用除外する「データセンター特区」の創設を発表した。候補地は、冷却に必要なエネルギーを節約できる北海道か東北。国内外の事業者を誘致し、約10万台のサーバー規模を想定する同計画に、日本SGIも期待を寄せている。

 「コンテナ型の導入は、MicrosoftやGoogleをはじめ、海外では常識。北米だけでなく、欧州や中国でも進んでいる」(増月氏)。

 コンテナ型データセンターは導入も簡単だ。実際に導入している様子を見ると、トラックで運んだコンテナをエアークッションに乗せることで、たった4人で運べることが分かる。設置する場所も、電源や冷却の設備は不要で、普通の倉庫で事足りてしまう。

 「コンテナ型に対して、従来のデータセンターが価格競争力に欠けるのは当然。日本はすでに立ち後れている、その危機感を抱かなければ、新サービスの立ち上げ競争にも勝てなくなるだろう。いま、新しい形のデータセンターに取り組んでいかなければ、今後、日本のデータセンター事業は成り立たなくなる恐れがある。その意味でモデルケースとなる特区には期待している」(松本氏)。


ユニークなビジネスモデルで勝負

「高密度実装」「低消費電力」「BTOモデル」が共通キーワード

 では、日本SGIはどのように事業を展開するのか。3種の製品に共通するのは、「高密度実装」「低消費電力」「BTOモデル」という特徴だ。これらを基に「製品スペックではなく、ビジネスモデルで勝負を挑みたい」と松本氏は語る。

 データセンターの目的は、「効率的なシステムを構築すること」ではなく、「効率的なシステムで最適なサービスを提供すること」だ。運用が回らなければ意味がない。そこで、「単なる箱売りではなく、データセンター全体を最適化するコンサルティングを提供する」(松本氏)のが基本戦略となる。

 「他社では製品を納品して終わりというケースもある。当社は、保守・運用までしっかり見るのがスタンス。全体ソリューションとして設計し、TCOをどれだけ削減できるかを具体的に見せる。そのため、運用監視のようなものから、適切なサービスを適正価格で提供できるよう経営的なコンサルティングまで提供していく。Rackableでも常にデータセンターレベルでの最適化を心がけてきた。あまり語られてこなかったこの点を市場に訴求していくつもりだ。サーバースペックや価格勝負ではない、このユニークなビジネスモデルが、当社の戦略であり、他社との差別化要素となる」(同氏)。

 もちろん、これは日本SGI単独でできることではなく、パートナーとの協業が不可欠だ。すでに協和テクノロジーとバッテリサイジング分野、APCジャパンとデータセンターアセスメント分野で提携済みで、「さらに水面下で数社と協議中。そのほか、SIerとサービス提供のための協業も欠かせないし、OEMモデルも検討中」(同氏)という。

 今後は「SGIのポリシーに従ってブランド浸透を図っていく。製品としては、BTOの優位性を保つために最新技術をいち早く取り入れながら、電力、冷却技術に関して研究開発を継続していく」(増月氏)方針だ。

 「Rackableは創業当初から現在のクラウドに取り組んできた」(同氏)。先見の明ともいえる先進的な製品を手に入れて、データセンター事業へかじを切った日本SGI。事業をスタートさせて、まもなく1年が経過する。建築規制が壁になったように、今後も先進的であるが故の障壁があることだろう。しかし、海外に対して力を失いつつある国内のデータセンターに対し、日本SGIの戦略は、進むべき道を指し示している。この分野でどう存在感を強めていくか、今後の動向に注目したい。





(川島 弘之)

2010/5/11 00:00