マイクロソフトvsグーグル、使える企業向けメールサービスはどっち?【最終回】

Exchange OnlineとGoogle Appsを比較する

 Google AppsとMicrosoft Online Servicesの特徴を2回にわたって紹介した。今回は、利用者視点でそれぞれを比較してみる。


ユーザー視点で比べてみる

 利用者にとって使い勝手がいいシステムこそ、最良のシステムだ。まずは、ユーザー視点で、両サービスを比較してみよう。

 Google Appsは、コンシューマ向けに提供されているGmailと同じ使い勝手となっている。すでにGmailを使っているユーザーであれば、違和感なく使えるだろう。

 ただし、初めて使うユーザーにとっては、一般的なメーラーと操作性が異なるので戸惑うかもしれない。例えば、キーワード検索で過去メールを探し出すという機能は、階層型フォルダでメールを管理している人にとっては、なかなかなじまないかもしれない。また、メールにラベルをつけて管理するというのも、最初は戸惑うかもしれない。導入する場合は、従業員のIT習熟度を理解しておかないと、サポートで苦労しかねないので注意が必要だ。


基本的にはGmailと同じ。バズなどベータ公開されているアプリケーションは初期設定では入っていないGoogle AppsのGmailで初期設定されているラベル。「重要」「要対応」など、ビジネス利用を意識したものが用意されているコンシューマ向けと同様、Labsで公開されている実験的な機能を利用することもできる
オフライン機能を有効にしていれば、インターネットに接続していない場合でも、メールを確認することができるGoogle Apps以外のメールアカウントも一つにまとめて管理できる画像付きの連絡先も作成可能

 とはいえ、直感的に操作できるのがGmailの特長でもあるので、時間とともにこうした問題は解決するだろう。あとは、ユーザー個々の活用度合いが高まるようにしてあげればいい。

 一方のExchange Onlineは、Outlook 2003/2007と高い親和性がとれるよう設計されている。というよりも、OutlookそのものがExchange環境下で使ってこそ、最大限に性能を発揮するようデザインされているアプリケーションなので、当たり前といえば当たり前の話といえる。

 すでにOutlookをメーラーとして利用しているのであれば、何の心配もなくExchange Onlineを利用できるだろう。また、初めてOutlookを使うという場合でも、Windows標準のOutlook Expressなどを使っていれば、あまり違和感なく使うことができる。これまで受信したメールをOutlookに移行するのも簡単だ。このあたりが、Exchange Onlineを選択する安心感につながっている。


Outlook 2007に用意された、さまざまな並べ替え機能スレッド表示を選択すると、やりとりしたメールを一つにまとめることができるWebブラウザ版のOutlook Web Access。残念ながらスレッド表示などの並べ替え機能はサポートしていないが、Outlookと同等のインターフェイスを再現している
RSSリーダー機能も用意Outlook側で行った設定はそのまま反映されるので、Outlook Web Accessからも同様にRSSリーダー機能が使える

 こうやって比べてみると、両社のコンセプトの違いが明確になり、非常に興味深い。Google AppsはあくまでもWebで完結することを目指しており、柔軟性の高いオンラインサービスといっていいだろう。グーグルのこれまでの実績を考えれば、正しい方向に進んでいる。

 一方のMicrosoft Online Servicesは、あくまでも企業システムをクラウド化することで得られるコストメリットや管理負荷の軽減にフォーカスしている。システム自体も、すべてクラウドで運用することも可能だし、一部をクラウドにするといった柔軟性を持たせている。オンプレミスの企業向け製品を提供し続けているマイクロソフトならではだ。


iPhoneから使ってみる

 クラウドサービスなのだから、モバイル端末からも積極的に利用したいところだろう。どちらのサービスも当然のことながら、モバイル環境からのアクセスに対応している。

 ここでは、iPhoneでどのように使えるのか検証してみる。iPhoneは、スマートフォンとして国内で認知されており、Windows phoneでもなくGoogle Phoneでもない“中立”的な印象を持つ端末として選択した。


iPhoneは、ExchangeやGmailなど主要なメールサービスを標準でサポートしているExchange(Exchange ActiveSync)を選択することで、Exchange OnlineもGoogle Appsも利用できる。なお、Gmailを選択するとメールサービス以外は利用できないので注意が必要Exchangeを選択すると、メールのほか、連絡先とカレンダーを同期できる
iPhoneからメールの送受信が行える。Exchange Online上の連絡先もそのままiPhoneで利用できるiPhoneのカレンダーと同期することも可能。もちろんiPhoneのカレンダー上で入力した予定はGoogle Appsに反映される

 結論からいうと、どちらも同じように利用できる。というのは、Exchange Serverとの同期をサポートするExchange ActiveSyncをiPhoneがサポートしており、Exchange OnlineもGoogle Appsもこれを利用することができるからだ。

Outlook Web Access上で利用しているモバイル機器を管理することが可能。ここからモバイル機器上のデータを遠隔消去することも可能

 異なるのは、Exchange Onlineなら、iPhone内のデータを遠隔消去する「リモートワイプ」という機能が使える点だ。iPhoneなどのスマートフォンは紛失する可能性が高い。リモートワイプは、紛失したスマートフォンに保存されているデータを遠隔操作で消去するもので、これを使えば情報漏えいのリスクを軽減することができる。同じActiveSyncを利用しているGoogle Appsだが、このリモートワイプには対応していない。企業で使う場合には、意外に重要な機能ではないだろうか。

 とはいえ、iPhoneからの使い勝手でいえば、どちらも同等の機能を提供しているので、どちらのサービスを選んでも問題はないだろう。


管理者視点で比べてみる

 管理者にとっては、両サービスの使い勝手はどのようになっているだろうか。基本となるユーザー登録のほか、ユーザー権限の設定や各種オプション機能のオンオフといったものが用意されている。

 Microsoft Online Servicesをみると、既存システムとの連携機能が充実している。例えば、Exchange Serverをすでに運用している場合、共存利用できるように設定したり、Active Directoryとユーザー情報を同期するといった機能が用意されている。このあたりはマイクロソフトらしい機能といえる。


Microsoft Online Servicesのユーザー追加画面メールボックスは、256MBから25GBまで柔軟に設定可能
共通の連絡先を作成したり、受信拒否リストの設定なども行えるExchange Serverとの共存環境を構築したり、Active Directoryとのディレクトリ同期といった各種ツールも用意

 一方、Google Appsをみると、グーグルが提供する各種サービスとの連携機能が充実している。この機能を使うことで、ベータ公開されているサービスを自動的に利用可能にするといった使い方が可能だ。実験的なサービスが日々公開されているので、自社に有益なものをいち早く取り入れられるのがメリットといえるだろう。


Google Appsのユーザー追加画面。氏名とユーザー名を指定するだけとシンプルベータ機能や新サービスを追加するかどうかも自由に設定可能
ユーザーアカウントの一括更新のほか、既存メールシステムからの移行ツールも用意ActiveSyncを利用することで、スマートフォンなどからもアクセス可能になる

 どちらのサービスも、これまで自社でメールサーバーを運用していたときと比べると、サービスのみに絞られているのがわかるだろう。管理者にとっては、ユーザーに対しどのようなサービスを提供するかといった業務に専念できるのが利点だ。このあたりは、実際に試してみると、両サービスでできることがさらに理解できるだろう。


企業に最適なのはどっち?

 両サービスの機能と使い勝手を見てきたが、どちらが企業に最適なサービスなのだろうか?

 まず、価格面で比べてみると、Google Apps Premier Editionが1ユーザーあたり年間6000円。一方のExchange Onlineは1ユーザーあたり月額522円。それほど大差ないように思えるが、Google Appsの場合、Standard Editionという50ユーザーまで無償のサービスが用意されている。少人数で使いたい場合は、このStandard Editionを利用するのが最適だろう。

 では機能面ではどうだろうか? Exchange Onlineが提供するサービスは非常にわかりやすい。Exchange Serverの機能がほぼ提供されているので、実績などを基準に選択することができる。一方のGoogle Appsは、Gmailという基本サービスに加えて、日々新たなサービスが追加されているので、契約時には想像していなかったサービスが追加される可能性はある。実験的なサービスを積極的に試したい企業にはGoogle Appsが最適だろう。Active Directoryと連携した安価なメールサービスなら、Exchange Onlineが最適といえる。

 もう一つ、大きな判断基準となるのが、Outlookを使うのかどうかという点だ。

 Outlookのフル機能が使いたければ、Exchange Onlineが最適だ。Google AppsでもOutlookは使えるが、無駄なくOutlookを使い込みたければ、Exchange Onlineを利用するのがいいだろう。

 一方、PCに依存しない環境で仕事をしたいのであれば、Google Appsを選ぶのが最適だ。Webブラウザさえあれば、OSに依存することなく、いつでもどこでも同じ環境で仕事ができる。もちろん、Exchange OnlineでもOutlook Web Accessを使って同じことができるが、Office製品との親和性の高さゆえに、割り切った使い方ができないのは事実だろう。

 Microsoft Officeを継続して使うのであれば、おすすめはExchange Onlineだ。というのも、現行のExchange OnlineはExchange Server 2007という一世代前の製品がベースになっているが、早ければ今夏にも最新のExchange Server 2010ベースに切り替わるからだ。Exchange Server 2010ベースになれば、夏に発売が予定されている最新版のOffice 2010とさらに統合されるので、今以上に気持ちよく使いこなすことができるからだ。






 両サービスの違いを浮き出そうと考えて、今回の企画を進めた。しかし、取材を進めてみると、サービス自体の設計思想は違うものの、利用する側からみれば大きな差がないというのが意外な結果だった。どちらも競合のいいところは自社サービスにすぐに反映するため、提供されるサービス自体は差がほとんどなかった。逆に言えば、メールそのものは枯れたシステムであり、差別化は難しいということだろう。採用する企業の立場でみれば、メールシステムの外出しを検討するのにいい時期がきているといっていいのではないだろうか。

 今回、マイクロソフトとグーグルという2社のサービスだけを比較したが、もちろんこのほかにもクラウド型のメールサービスはいくつも存在する。試用サービスを各社用意しているので、これを機に本格的に評価してみるといいだろう。





(福浦 一広)

2010/4/16/ 06:00