シスコ、グリーンITソリューションを体系化-建物全体から働き方まで省エネに
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は7月7日、ITやネットワークプラットフォームを活用して企業が抱える環境への取り組みを支援するソリューションを発表した。
企業のグリーンITを広範にカバーする体系的なソリューションで、「データセンターにおけるエネルギー消費削減」「データセンター以外のオフィスIT環境のエネルギー消費削減」「建物全体のエネルギー消費削減」「ワークスタイル変革によるエネルギー消費削減」の4つに分類される。
■データセンターを省エネ化する「Data Center 3.0」
テクノロジー担当 シニアディレクターの木下剛氏 |
「データセンターにおけるエネルギー消費削減」は、次世代データセンター構想として提唱する「Data Center 3.0」で実現する。これは、データセンター全体の統合・仮想化・自動化を進め、ITリソースの利用効率を高める構想で、投資効率の向上のほか、運用管理の簡素化とサービス提供の迅速化が可能となる。また、SANやネットワークにおいても統合と仮想化を行うのが特徴で、サーバーのみの仮想化に比べ、より高い効果が得られるという。
具体的には、コアスイッチとして「Cisco Nexus 5000シリーズ」を提供。ユニファイドファブリックソリューション(UCS)により、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)技術を用いてFCとEthernetを統合し、サーバーに搭載するネットワークアダプタ数やケーブル数を大幅に抑制する。
加えて、ケーブルの省エネにも着目。「サーバーの性能向上とともにネットワークの高速化が進むと、ネットワークの消費電力も無視できなくなる。特にケーブルは見落とされがちだが、一般的にデータセンターにはサーバー台数×4~6本のケーブルが存在しており、消費電力削減にはケーブルへの考慮が欠かせない」(テクノロジー担当 シニアディレクターの木下剛氏)ことから「SFP+Copperケーブル」を採用。
「銅線でGigabit Ethernet(GbE)を行うとケーブル片端あたりの消費電力はおよそ1W。FCは高価だったり扱いが難しいというイメージがあったりで、銅線を使ったまま10GbEを行うことがよくあるが、その場合、消費電力は4~8Wにまで上がってしまう。一方、SFP+Copperケーブルを利用すれば消費電力はわずか0.1W。銅線による10GbEと比べて、1/40~1/80に省エネが図れる」(同氏)。
国内ではヤフーや日本ユニシスが、Cisco Nexusによって仮想化されたデータセンターを構築しているが、「従来のデータセンターでシングルコアサーバーを主流に運用を行っている場合に比べ、UCSでは20倍の電力効率が実現できる」(同氏)という。
シスコのグリーンITへの取り組み | ネットワーク、ストレージ、サーバーの統合・仮想化・自動化を実現するData Center 3.0 | ユニファイドファブリック例。ケーブル数など削減するほか、SFP+Copperでケーブルの省エネも |
■それ以外のIT機器を省エネ化する「EnergyWise」
「データセンター以外のオフィスIT環境のエネルギー消費削減」では、オフィスIT機器を対象とした電力削減の取り組みとして「EnergyWise」ソリューションを提供する。「IT機器の消費電力のうち、データセンターの割合は45%で、残り55%がオフィスIT機器が占めている。このうち、8割がデバイスによる電力消費」(同氏)であることから、EnergyWiseでは、ネットワークに接続されたIP電話や無線LANアクセスポイントなどのデバイスを対象に電源制御を行う。
まずネットワーク接続された機器の消費電力を計測し、どの機器が、どこでどれだけ電力を消費しているかを“見える化”し、次いで、この計測データに基づき、どのような対策を行うとどれだけ省エネになるかを“見える化”。これらを基に設定されたポリシーで各機器の電力をコントロールして消費電力を最適化する。
特に未使用時でも消費される待機電力の削減に有効。こうした機能は「Cisco Catalyst」シリーズに実装されているため、特に大掛かりな設備投資は不要という。フェーズ1では、シスコ製のIP電話や無線LANアクセスポイントなどから制御を行い、順次、PCやIPカメラなど他社製品もコントロールできるように拡張を行っていくとのことで、「現在それに向けて、デバイスベンダーなどとパートナーシップを進めているところ」(同氏)という。
■建物自体を省エネ化する「Connected Real Estate」
ビル設備管理システムをITで代替するCRE |
グリーン東大工学部プロジェクト。照明・空調制御、電力使用量測定といった機能をルーターに統合 |
IT機器における消費電力の増大は大きな問題だが、オフィス全体の消費電力でみると25%に過ぎない。では最も消費電力が大きいのは何かというと、58%を占める「空調・冷暖房」や11%を占める「照明」だ。これらの消費電力を削減するには、一貫したオペレーションサイクルが有効となる。しかしそのための設備が整っている、いわゆる「インテリジェントビル」は、国内のビルのうち1割にも満たない。
インテリジェントビルでは、「監視カメラ」「外気温」「室内温度・照度」「赤外線センサー」「電力使用量」に関する設備が、ビル設備管理システムなどで一元管理されているのだが、そうではないビルでは建物全体の消費電力を一貫して最適化するのは難しい。
「建物全体のエネルギー消費削減」は、この一元管理をITによって実現しようというもの。「Connected Real Estate(CRE)」ソリューションとして提唱しており、IPネットワークを“ビルユーティリティ”として提供するとともに、この上にビルディングシステムを乗せることで、ITシステムとビルディングシステムの統合を実現するという。
これにより、ビル設備管理システムが備わっていない場合も、共通基盤上で各種ビル設備のコントロールを実現。建物や部屋の中に人が存在するか否かを検知して、空調や照明を自動制御したり、各種ビル設備の省エネ度を記録したりすることが可能となる。
事例としては、東京大学工学部が挙げられる。東京は日本最大の電力消費都市だが、その中でも東大が特に消費量の多いポイントだったという。東大工学部では対策として、2030年までに消費電力を50%削減する「グリーン東大工学部プロジェクト」を進めており、その一環としてCREが活用されている。
「この事例では、当社製ルーターに、電力使用量の測定・表示などを行う機能を統合。部屋の使用状況に応じた、空調・照明の自動制御やリモートからの電源制御などを実現している」(同氏)とのこと。
■人と人との働き方を省エネ化する「Connected Workplace」
フリーアドレスやテレプレゼンスなどを実現するConnected Workplace |
最後が「ワークスタイル変革によるエネルギー消費削減」。ネットワークによって人々を結びつけ、コラボレーションやクリエーションの場を提供する「Connected Workplace」ソリューションによって働き方を変革し、生産性を向上させるとともに、消費電力の削減にも貢献するという。
具体的には、無線LANやIP電話の活用により「フリーアドレス」や「コラボレーションエリア」をオフィスに導入するほか、社外からも安全に社内ネットワークにアクセスできるしくみを整えることで、従業員がどこでも好きな場所で仕事が行えるようにする。加えて、ビデオ会議やWeb会議により、移動の削減も図る。
「当社でもConnected Workplaceを推進しており、2009年5月時点で世界各拠点合計461カ所に設置が終わった。オフィススペースの利用率は40%向上し、ITケーブル使用量は54%削減。電力消費量は40%削減することに成功し、CO2換算値で車両8000台からの年間排出量に相当する年間約3万7000トンもの削減効果を実現している」(同氏)。
シスコでは2006年より「EcoBoard」を設立。グリーンを会社の優先事項とし、省エネ化に努めてきた。今回発表されたソリューションの中には、以前より提供されていた内容や構想が含まれているが、「国内で初めてグリーンITソリューションとして体系化し、グリーンITとしてシスコが正式に国内発表するものだ」(同氏)と説明。今後も、テクノロジーを通じて企業の抱える環境への取り組みを支援すると同時に、自社のグリーン化により環境への栄養を軽減していくとしている。
2009/7/7 16:34