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「ネット動画の視聴履歴をメタデータにするMitterを軸に展開」メタキャスト伊藤CEO


 今回のゲストはメタキャストの伊藤社長です。伊藤さんもまた商社出身者です。投資をする側から投資を受けて事業を成長する側へと転身した伊藤さんが、創業者のビジョンを生かしながらネット上の動画視聴のメタデータの収益化をいかにして進めていくのか、お話を伺いました。


メタキャスト・伊藤CEO 伊藤 健吾
株式会社メタキャスト 代表取締役社長&CEO

1998年に三井物産株式会社に入社後、IT・エレクトロニクス分野の各種プロジェクト・新規事業に従事。2002年、米国の関係会社Mitsui Comtek Corp.に出向。米国内における新規事業の開発、ベンチャー投資などを手がけたあと、三井物産本社に帰任。以降、ディスプレイ・モバイルの新規事業開発・事業投資を担当。2007年6月、当社社外取締役に就任。2008年4月より現任。
ブログ:http://d.hatena.ne.jp/itokenv/


三井物産からベンチャーの社長へ転身

小川氏
 メタキャストといえば井上(大輔)さんと対談したことを思い出します。彼から新しいCEOを迎えると連絡をいただいたときは驚きました。

 伊藤さんがメタキャストのCEOとして就任された経緯を教えていただけますか?


伊藤氏
 僕は総合商社の三井物産に入社して、新規事業やベンチャー投資などを手がけていました。もともと三井物産からメタキャストが出資を受けていた時期があり、そのときの担当としてメタキャストにはかかわっていました。具体的には2007年6月ごろからメタキャストの取締役になり、今年の4月からメタキャストのCEOになりました。


小川氏
 というと今は三井物産の資本は入っていない?


伊藤氏
 ええ。いまはngiグループが50%で、あとはグロービス、東大エッジキャピタル、そして役員という株主構成です。


小川氏
 メタキャスト=テレビブログ、という印象でしたが、今は事業そのものも違うんですよね?


伊藤氏
 ビジネスのコアや実現したいことは変わらないつもりですが、事業体は変わりました。今は動画コンテンツをメタデータ化することを軸としたサービスを展開しています。


小川氏
 伊藤さんがメタキャストに投資をしている部門にいらしたことは分かりましたが、三井物産からメタキャストに完全に移ることになったのはなぜでしょう?


伊藤氏
 三井物産では液晶TV関連のビジネスをしていましたが、そのころからハードではなくソフトやネットなどのコンテンツを扱うビジネスをしたいとは思っていました。画面より、そこで見るコンテンツが重要なわけで、だからケータイやPC、あるいはテレビを見るうえでナビの仕組みが必要と思っていたんですね。

 ご存じの通り、メタキャストは、もともとはHDDレコーダーにとりだめていた動画情報を、ブログのクチコミでつなごうとするビジネスモデルでした。最初はそれがきっかけで、メタキャストに関心を持つことになりました。KNNの神田さんがやっていたバーをご存じですよね? そこで呑んでたら井上さんがやってきて、そこで何か大きなことを一緒にやりたいよね、と盛り上がったのがきっかけですけど(笑)。


小川氏
 へえ(笑)


伊藤氏
 そこから1年くらいかかって社内稟議(りんぎ)しはじめました。三井物産の社内でも若手で何かやろうという感じで盛り上がっていましたし。ちょうど小川さんの「Web2.0 BOOK」なども読んでいました。


小川氏
 ありがとうございます。


伊藤氏
 その結果、時間はかかりましたが、メタキャストへの投資を決めて、僕自身が取締役としてかかわることになったわけです。

 ただ、商社は今、資源ビジネスが中心ですからね。あまりいい相性ではなかったのか、結果的には三井物産からの資本が抜けて、その分をngiに引き受けていただくことになりました。小池さんには足を向けて寝られません(笑)。


動画管理のCGMサービスMitterは、はてブ+Twitter

小川氏
 三井物産が抜けても伊藤さんは残った。その伊藤さんがやりたい事業とはなんでしょう?


伊藤氏
 現在、われわれの事業は、動画関連メタデータを収益に変えるという目的の下に、動画保存支援サービスのMitterツールバーの配布と、動画管理を行えるCGMサービス「Mitter」、それから動画検索 「SAGURI」の運営をやっています。

 もともとメタキャストが何をやっていたかというと、まずHDDレコーダーとブログを融合させるサービスであるテレビブログがあって、そのあとにPCにインストールする動画管理アプリであるTAGIRIを配布して、テレビブログからテレビ番組のメタデータをダウンロードしてPC内に録画したテレビ番組を簡単・便利に視聴できるサービスをしていました。

 ところがそうこうしているうちにYouTubeがどんどん盛り上がって、世界中の人が面白い動画のさらに面白いシーンだけをネットに上げてしまうようになって、サービスのあり方を少し考え直さなくてはならないと思いはじめたわけです。


小川氏
 はい。


伊藤氏
 そこでTAGIRIツールバーというWebブラウザ組み込みのソフトを作って公開したところ、120万件もダウンロードされるヒットとなったんです。TAGIRIツールバーはネット上の動画をダウンロードするツールです。もともとTAGIRIを流行らせようとして作ったんですけど、ツールバーのほうが流行ってしまった(笑)。

 だからそれを受けて、Mitterという、動画共有サイトで視聴した動画に対する評価やコメントを加えたうえで管理したり公開したりできるサービスを開始したんです。同時にTAGIRIツールバーも、Mitterツールバーという名称に変更することも決めました。

小川氏
 今はMitterがメインサービスになっているわけですね?


伊藤氏
 そうです。MitterとMitterツールバーで何をやろうかというと、動画を見たという履歴や嗜好(しこう)はメタデータになるという視点です。動画の視聴履歴を管理することで、前に見た動画の中で気に入った動画をもう一度見たり、面白い動画を誰かに紹介したりすることができます。なんの動画を見たかもメタデータです。テレビブログのころは、テレビを楽しく見る、というユーザー体験に注力していたわけですが、テレビとネットの融合がなかなか進まない現状にあって、ならばMitterで、ネットの動画を見たという体験をメタデータにしていこうというようにシフトしました。Mitterは、例えてみるとはてなブックマーク+Twitterのようなものです。人が見て面白いと思った動画をカンタンにみられるし、特定の人をフォローして、この人が面白いと思う動画なら、見てみようという体験ができるものです。


小川氏
 収益モデルは?


伊藤氏
 売上はまだそれほどあがってません。目指しているのは広告による収益ですね。メタデータを使ったナビゲーションや、人とコンテンツのマッチングをすることで広告メディアになれるだろうと思っています。Mitter.jpのメディア価値を高めるために、集積したデータベースをビジネス向けに売ることも考えています。ネット動画のなにかしらを見たという履歴を3億件は集めていますから。例えば企業がうったパブ(広報)がテレビメディアにどう乗って、伝搬していくかをフォローできたりするわけです。これはクロスメディアレーダと呼んでいます。


小川氏
 テレビブログは今後どうするのでしょう?


伊藤氏
おそらくMitterに統合させていくことになるでしょう。


動画視聴のメタデータサービスをすべてMitterブランドに一本化する

小川氏
 なるほど。従業員はどのくらいになりましたか?


伊藤氏
 アルバイトいれて14人くらいかな。


小川氏
 現在Mitterのユーザーはどのくらいですか?


伊藤氏
 Mitterのツールバーのダウンロード数は120万くらいですが、週に一回動画を見る、というレベルをアクティブユーザーと考えると1割くらい、つまり12万人くらいになるでしょうね。

 Mitterのユーザーは、テレビを見るときみたいに、うしろに倒れてみる人というか、わざわざ動画をザッピングしてみるヘビーユーザーではない人たちを中心に考えて、誰にでもカンタンに使ってもらうことを目指しています。


小川氏
 会員登録するとできることは?


伊藤氏
 ツールバーを使うと動画ファイルのダウンロードができるわけですけど、動画を見たというログをサーバーにためていけます。ダウンロードだけならツールバーユーザーなら誰でもできるが、見たものをサーバーにためておけない、という違いですね。

 さらに見た動画から、公開・非公開を決められて、共有もできます。お気に入りの履歴も見ることができます


小川氏
 対応する動画共有サイトは?


伊藤氏
 YouTube、ニコ動、アメーバビジョン、Googleビデオ、Dailymotion、Veoh、Vimeo、Seesmic、Tudou、MySpaceです。これらのサイトからはみな、ダウンロードできます。

 今後はダウンロードはできなくてもMitterにはログを残せるという意味で、対応メディアを一気に増やす方針です。また、さっきも話しましたがTAGIRIツールバーはMitterツールバーに名称変更しました。今後はすべてMitterのブランドに集中していこうと思っています。ダウンロードも録画機能、と名称を変えるつもりです。SAGURI動画検索。テレビブログ。これらをMitterブランドにサービス統合しなくてはならないと思っています。


小川氏
 ブランド名は少ないほうがいいですよね。そのほかの課題は?


伊藤氏
 早く収益化することですね。これまでに6億円ほど調達しましたが、早く黒字化をしなくてはならないと思っています。今はデータベース販売で、視聴履歴などのリサーチをビジネスにしようと考えていますが、早く広告モデルも立ち上げたい。ユーザーが増えればインフルエンサが増えるだろうし、バイラル動画の広告市場を狙いたいですね。

 メタ情報を動画にマッチングしていくうえの課題ですが、通常、誰にでも見てほしいがゆえに、動画をアップする際に正しいタグをつけてない人が多いんですね。ならば見た人にタグをつけてもらってメタデータ化を進めたいと考えています。それらを応用して、人の履歴とあわせたターゲティング広告を展開できればと思っています。


小川氏
 なるほど。ところで、創業者の井上さんと橋本大也さん、そしてCEOの伊藤さん。この組み合わせは…。


伊藤氏
 そう、冗談で言ってますが、Googleと同じ構成なんですよ(笑)。同じように大きく成長できればいいですね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/09/09 00:00

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