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エプソンが複写機メーカーに本気で挑戦するオフィリオ複合機の狙い


エプソン販売・真道昌良社長(右)とオフィリオ複合機
 セイコーエプソンが、6月17日から順次出荷を開始している「オフィリオ複合機」は、同社にとって極めて大きな意味を持つ製品だ。

 カラーレーザープリンタ技術をベースに開発した中小企業向けデジタルカラー複合機と位置づけられる同製品は、一見すると、これまでのカラーレーザープリンタ製品の後継機として、大幅な低価格化を図った製品であるとしか受け取れないかもしれない。だが、「この製品にはオフィスの出力環境を大幅に改革するポテンシャルがある」とエプソンでは説明する。そして、オフィスの出力機器でリードする複写機メーカーに対する、プリンタメーカー・エプソンの宣戦布告の意味が込められているといっていい。

 「オフィリオ複合機」は、カラーレーザープリンタ技術をベースに、コピー、スキャナー、FAXなどの機能を搭載した複合機。なかでも、7月下旬に出荷が予定されているA3対応機の「LP-M5500」および「LP-M5500F」シリーズが主力となる。ベースモデルとなるA3対応機の「LP-M5500」は、29万8000円から。FAXおよびADF付属モデルで39万8000円からの低価格を実現した。

 詳細な仕様については、本誌の別稿に譲るが、ここでは、この製品が持ついくつかの大きな意味について深堀りしてみたい。


導入意欲をかき立てる「30万円」という価格帯

 ひとつめは、オフィリオ複合機そのものの位置づけだ。

 価格設定からみれば、ベースモデルの29万8000円を下に、さまざまなオプションを付属させることで50万円台まで広がるが、この30万円から50万円という価格帯は、オフィスの出力機としては、ちょうど空白地帯となっているエリアだ。

 もともとモノクロレーザープリンタが、この価格帯を占めていたが、低価格化によって10万円台のエリアへと主力が移行している。そして、50万円以上は、カラーレーザープリンタ複合機や、カラーデジタル複写機などがある。今回の製品は、ポッカリと空いたエリアを埋める製品なのである。

 しかも、30万円からという点に意味がある。エプソン販売の真道昌良社長は、「調査によると、カラー複合機をどの価格ならば導入するかとの設問に対しては、30万円という価格帯に、最も多くのユーザーが反応している。オフィスへの導入意欲をかき立てることができる価格帯の製品」というわけだ。

 同社の従来製品に比べて45%の低価格化という高いハードルに挑んだのも、この価格帯にまで引き下げることが、オフィスの出力の世界を変える重要な要素だと踏んだからなのだ。


30万円という価格帯が複合機の空白地帯になっている 中小企業はカラー複合機に対して30万円くらいを妥当な価格と判断している

オフィス環境の変化に対応

 2つめのポイントは、中小企業や部門が出力機を導入する際の課題解決の実現に力を注いだ点だ。

 この点では、2つのポイントがある。出力機の統合化と、カウンターチャージ方式からの脱却だ。

 オフィスを見回すと、多くの出力機が存在していることがわかる。複写機、FAX、プリンタなどが点在し、オフィスのスペースを占拠している。カラー出力のために、モノクロレーザープリンタに加えて、カラーインクジェットプリンタの双方を設置しているという企業もあるほどだ。

 だが、これら機器の用途をよくよく考えてみると、これだけの機器が本当に必要なのかという疑問にぶつかる。例えば、FAXで文書を送信するという作業は、以前に比べて大幅に減ってはいないだろうか。インターネットの普及で、文書などはネットでやりとりすることが増えているからだ。また、複写機の利用についても同じだ。プリンタの高速印字、印字品質の大幅な向上によって、複写機でコピーするよりも、プリンタから直接、必要枚数をプリントするという方法が増加している。つまり、FAXも複写機も、すべてのオフィスが、専用機として個別に所有しておく必要がなくなりつつあるともいえる。

 また、FAXと複写機、プリンタがオフィス内に点在して置かれているようだと、その作業動線が複雑化する。コピーをとって、それをFAXで送信するというのに、オフィス内をあっちに行ったり、こっちに行ったりしていることになってはいないだろうか。

 こうしたオフィス環境の変化に対応して投入されたのが今回のオフィリオ複合機ということになる。

 もうひとつのポイントであるカウンターチャージ方式からの脱却は、プリンタに慣れ親しんだ企業が待ち望んでいたものだったといえる。また、カウンターチャージを敬遠し、導入に二の足を踏んでいた中小企業ユーザーにとっても大きなインパクトがある。

 カウンターチャージは、複写機の世界では一般化している手法で、使用量にあわせて代金を支払うというもの。これが複写機におけるメンテナンス費用徴収の構造となっている。ユーザーは、これによって、故障したらすぐに駆けつけてもらえるという手厚いサービスが受けられるのだが、なかにはこれを必要としないユーザーもいる。また一枚あたりのプリント費用を低く抑えたいというユーザーにとっては、カウンターチャージによる契約を敬遠する例もあった。

 もともとプリンタでは、メンテナンスフリーと呼ばれる手法を採用し、ユーザーは、故障した場合には修理センターに連絡したり、トナーを自分で購入して交換したりといった形をとっている。このため、ランニングコストを低く抑えることができる。オフィリオ複合機でも同様の手法が採用されているのだ。

 「一般的なカラー複写機では、保守費用(=カウンターチャージ)などを含めるとカラーコピー1枚あたり35円から40円程度かかっていたが、オフィリオ複合機では、17.1円で印字できる」と真道社長は語る。

 デジタル複写機の導入を躊躇っていた中小企業の導入を顕在化できると読んでいるのだ。

 こうした企業における出力機導入における課題解決に回答を提示したのが今回のオフィリオ複合機ということになる。


レーザープリンタの普及を追い風にできるか

複合機に求められるニーズの変化
 そして、もうひとつの要素として見逃せないのがオフィスのワークスタイルの変化である。

 先にも触れたように、オフィスにおいて、これまでの出力機の中心は明らかに複写機だったが、オフィスのプリンタ利用の増大によって大きく変化している。トナーカートリッジの消費量を比較しても、プリンタのトナー消費量は、複写機のトナー消費量の約2倍になっている。ここからも利用形態が変化してきていることがわかるだろう。

 エプソンは、1999年にほぼ同様のコンセプトで「コピーステーション」という製品を投入している。

 だが、それは成功したとはいえなかった。

 失敗の理由はいくつかある。

 複写機での出力が多く、レーザープリンタがオフィスに受け入れられる土壌がまだ形成されていなかったこと、製品に搭載された技術が複写機に比べて未熟だったこと、耐久性で複写機と大きな差があったこと、そして、カラー化のニーズが少なく、カラー複写機よりもカラー印刷の低価格を実現するメリットが打ち出せなかったことなどだ。

 だが、その環境が大きく変わっている。オフィスではプリンタが主力の出力機として利用されるようになり、エンジンにもエプソンが開発した自社エンジンが採用されている。これは、電子写真式のエンジンの研究開発を発端とすれば、実に約25年をかけてようやく完成させたものだ。さらに、カラー化のニーズも顕在化しようという段階に入り、エプソンがインクジェットプリンタやカラーレーザープリンタで蓄積したカラー化技術が生かせる。いまやオフィス文書の約2割がカラー化されているというが、エプソンでは、早期にこれを4割にまで引き上げたい考えだ。

 そして、プリンタの普及は、オフィスの主力出力機には避けて通れなかったカウンターチャージ方式を脱皮するトリガーを引いたともいえる。以前ならば、「手厚いサポートができないプリンタメーカーに、オフィスの主力出力機の市場では勝機があるわけがない」とまで言われてきたが、それも変わりつつある。

 この点も以前とは異なる市場環境の大きな変化のひとつだといえる。

 「世の中のワークスタイルの変化とオフィス環境の変化、技術進歩、そして低価格化できるノウハウの蓄積というすべてのベクトルが一致した絶好のタイミング。このタイミングに、オフィスが本当に求める製品を提供できたと自負している」と、セイコーエプソン情報画像事業本部LP事業部・鈴木隆史事業部長は語る。

 エプソンは、オフィリオ複合機によって、オフィスにおける出力機の勢力図を変えようとしている。その大きな味方となっているのはオフィスの環境変化である。この追い風にどう乗ることができるかが注目される。



URL
  セイコーエプソン株式会社
  http://www.epson.co.jp/

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( 大河原 克行 )
2005/06/24 00:00

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