「マイクロソフトの本気を感じた」-CECがDynamicsビジネスに踏み込んだ理由


 「当社では1998年ごろ、SFAからCRMの事業に参入し、自社パッケージを中心にビジネスを展開してきた」と語るのは株式会社シーイーシー(以下、CEC) ソリューションビジネス本部 第1ソリューション部の溝道修司部長だ。CECではすでに、自社パッケージで500社の顧客を持つというが、自社製品があるにもかかわらず、なぜDynamics CRMを積極的に販売するようになったのか。同社にその理由を聞いた。

マイクロソフトの思いを感じ、Dynamics CRMの展開を決断

CEC ソリューションビジネス本部 第1ソリューション部の溝道修司部長

 溝道部長は、「競合製品の登場やニーズの高まりに伴って、さまざまな機能が要求されてきた。しかし、当社はSIerでもあり、製品開発だけに専念するには限界があった。そこを補ってくれたのがDynamics CRMだった」と当時を振り返る。

 マイクロソフトでは、国内での製品発表のかなり前から、パートナーに取り扱いを働きかけていたが、CECが最初に製品を見た時には機能面も十分でなく、「正直難しいと思った」という。しかし、「2005年にDynamics CRMを再度見た時には機能が一新されており、そこにマイクロソフトの底力を感じた」(溝道部長)ことで、考えをあらためた。前述したように、製品開発でも自社パッケージだけでは限界があるが、「徹底的に製品開発に投資ができるマイクロソフト製品を扱い、それで足りないところ、つまり導入して定着させることに注力すればビジネスを拡大できるのではないか」(同部長)と考えたのだ。

 マイクロソフト側の姿勢も、溝道部長は評価する。競合ベンダーと異なり、「米本社の副社長やシニアマネージャーなどが、直接意見を聞いてくれるのが大きい。製品を作っているのは米国かもしれないが、日本の意見をきちんと吸い上げる姿勢がある」点を溝道部長は特筆すべき点として言及。また製品としては、「進化が止まった製品は扱いにくいが、ロードマップが明確で、開発にきちんと投資されているのがわかる」ことも、意味がある。こうしたことから、「マイクロソフトの思いを強く感じた」という。

 マイクロソフト Dynamics事業統括本部 マーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの齋藤誉氏も、これについて「日本でのDynamicsビジネスが好調ということもあって、本社からも直接パートナーとコミュニケーションさせてくれ、という要望がある。現行バージョンのDynamics CRM 4.0では準備期間が短かったこともあり、さほど多く取り入れられたわけではないものの、ライセンス形態の拡充などは日本の要望で実現したもの。次期バージョンに向けてもかなり要望を上げているので、改善されてくる部分も多くなるだろう」とした。

 もちろん、Dynamics CRMがすべてにおいて万全だったわけではない。マイクロソフト側のバックアップ体制のおかげでこれまでは事なきを得ているが、CECも製品のバグや、システムのサイジングなどで苦労したという。また、ワールドワイドでは数百種類提供されている業種別などのテンプレートが、国内向けではまだ少ないという問題もあり、溝道部長はこういう点の改善を要望する。これについて齋藤氏は、国内向けのローカライズには相当な手間がかかるため、そのまま利用可能なテンプレートとしての提供は難しいものの、パートナーが参考資料として活用できるよう、情報の提供などを検討するとの意向を示している。

 一方、CECが取り扱った当初の懸念だった、すでにある自社CRMパッケージとの競合については、「例えば、エンタープライズで、どうしてもかなりのカスタマイズが必要な場合には既存パッケージ、それ以外はDynamics CRMといったように提案をわけ、競合を避けられている」(溝道部長)と説明。同部長は、「すでに3:1の比率でDynamics CRMのビジネス割合が多くなり、事業の柱に成長している」とビジネスの現状に言及した。

製品で足りない部分にノウハウを活用、相互補完でビジネスを展開する

 また、Dynamics CRMがCRMの幅広い領域をカバーしていた点も、CECにとっては魅力だった。それは「当社のCRMパッケージはSFA寄りだったが、Dynamics CRMはマーケティング、コールセンターなど幅広い機能を持ち、SFAのお客さまを深掘りしていくにも都合がいい」(溝道部長)からだ。さらに、機能がそろっているといっても、日本のユーザー向けにはまだまだ足りないところもあると感じたCECでは、そこにもビジネスチャンスを感じた。そこで、「当社がそこを補てんし、これまで培ったノウハウと組み合わせて新しいビジネス展開ができると感じ、Dynamics CRMの発表時に、戦略的にテンプレートを用意した」(同部長)という。

 CRM/SFA製品は過去にもブームがあったため、あらためてCRMの導入を検討する企業でも、実は、過去にCRMの失敗プロジェクトを抱えていたところが多い。従って、導入には慎重な姿勢を持っている企業も多数あり、過去の失敗を分析し、今回は失敗しない仕組み作りにつなげていく提案が求められる。そうした部分で、「CRMですでに500社への導入実績を持つ当社のノウハウがここで生きてくる」(溝道部長)というのだ。溝道部長は、「例えば、どこの部署がどれだけ使っているか、想定通りの使われ方をしているか、といった点を見ると、活用されていない部分というのが見えてくる。データが入っていないと、経営者から重要な情報が見えないので、そうした部分を洗い出して、定着の支援を行っている」と例を挙げて、自社の取り組みを説明する。

 また、Dynamicsが持つ機能自体にも、活用を促進する要素がある。「ユーザーが使い慣れたOutlookとの連携機能を持つので導入と蓄積はしやすいこともあるが、本当のDynamics CRMの強みは、Excel連携が素晴らしいことだ」との点を溝道部長は指摘。「競合製品ではBIツール連携をうたっている製品も存在するが、これではユーザーが異なるツールの利用法をまた覚えないといけない。企業において、データを活用するフェーズでのExcel利用は広まっており、データを徹底的に活用できる環境を作れるという意味では、Excel連携のできるDynamics CRMが最適ではないか」と述べた。

 こうした点を踏まえてDynamics CRMを推進した結果、CECでは、200ユーザー規模で利用する医療メーカーの川澄化学工業をはじめ、現在までに10社程度へ導入。さらに、Dynamics CRMでは国内最大の事例となる、6500ユーザーの導入を、とある公共機関で進めているところで、2008年のPartner of the Yearも受賞するに至っている。

次の展開「XRM」にも魅力、適用領域の拡大を図る

マイクロソフト Dynamics事業統括本部 マーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの齋藤誉氏

 一方のマイクロソフトでも、パートナーとの協業関係については非常に重要視している。前述のように、本社の要職にある人物が直接ヒアリングをしているのもその表れであるし、2006年の国内展開発表時にも、「パートナーモデルを最重視する」と当時のダレン・ヒューストン社長が表明。実際に、多くのパートナーとの協業モデルを築いてきた。

 特に、マイクロソフトが積極的にメッセージを発信し始めた「XRM」戦略については、よりパートナーが果たす役割が大きくなるなってくることから、今後もパートナーとは関係を強化していきたいという。XRMとは、簡単にいえば、Dynamics CRMをプラットフォームとして利用し、顧客管理以外にも適用しようというもの。CRMでは活用対象が主に営業関係の人員に限られるが、XRMの場合、使い方次第では、対象となる分野、人員が大きく広がってくる。パートナーが新しい適用領域を見つければ、マイクロソフトにも、パートナーにも、大きなメリットをもたらせるのだ。

 CECでもこの点については魅力を感じているとのことで、溝道部長も、「まだ具体的な話ではないが、教育系や医療業務系、官庁系などのソリューションを今後検討していきたい」としたほか、齋藤氏は「当社がすべての適用領域を探すのは現実的ではない。嗅覚(きゅうかく)のあるパートナーに期待したい」との表現で、パートナーに対する期待を表明した。なお、米国では6月3日に、Dynamics CRM 4.0とXeon 5500プロセッサを用い、5万人を超える同時使用ユーザーに対応したというベンチマークテストの結果を発表。「XRMで求められるスケーラビリティを備えていることが証明された」(齋藤氏)としている。




(石井 一志)

2009/6/15 16:12