日立、横浜の新・環境配慮型データセンター訪問記

グループ総力を結集したシステムを見る

横浜第3センタ

 株式会社日立製作所(以下、日立)は8月6日、7月21日に開設した環境配慮型データセンター「横浜第3センタ」を記者向けに公開した。今回は「統合管制センター」「免震装置」「UPS室」「屋上緑化」「サーバー室」などを取材できたので施設の特徴などをレポートする。

 横浜第3センタは全国で19棟目、横浜で3棟目となる環境配慮型データセンター。日立グループの総力を結集し、データセンター省電力化プロジェクト「CoolCenter50」やIT省電力化計画「Harmonius Greenプラン」の成果を採り入れたのが特徴という。

国内19番目の環境配慮型データセンター新データセンターの特徴

施設

 新データセンターは、活断層からの距離が最短約20km、外洋からの津波・高潮の影響が少ない横浜市内に設立された。建築面積は1719平方メートル、延べ床面積は1万961平方メートル。地上7階、塔屋1階の「プレキャストプレストレストコンクリート(PCaPC)圧着工法」を採用した鉄筋コンクリート(RC)造となる。

 PCaPC圧着工法は、柱・はりなどのRC部材をあらかじめ工場で製造する工法。それらを建設現場に持ち込んで組み上げていくことで、工数や廃材を大幅に削減できるほか、コンクリート内にあらかじめPCケーブルの緊張力を加えることで、コンクリートの引張強度を大幅に高められるのが特徴となる。

 地震に対しては、堅固な土丹層の支持基盤の上に、地震波の増幅を抑える「直接基礎」を敷き、建物との間に計27個の積層ゴムによる免震装置を採用。ケーブル類もキャスター付きの台車に乗せることで揺れから保護している。

PCaPC圧着工法を採用27個の免震装置ケーブル類もキャスター付きの台車に乗せることで揺れから保護

セキュリティ

 敷地セキュリティとしては、外部敷地境界に2.8メートルのフェンスを設置。人物・車両ゲートは常時閉鎖され、中央監視・制御されている。各種センサーや監視カメラ、警備員によるセキュリティはもちろん、建物ではIDカードや指静脈認証による徹底した入退室管理を行い、横浜第3センタのある3号館には、2号館経由でしか入ることができない導線となっている。

サーバールーム

 サーバールームは、延べ床面積が6000平方メートル。標準的なサーバーラックなら1000本以上の収容が可能となっている。アウトソーシングによる運用代行・システム稼働監視、システム障害支援など豊富なサービスを体系化しているほか、クラウドサービス「Harmonious Cloud」もここから提供される。サーバーラックと空調機をパッケージ化して提供する「モジュール型データセンタ」も活用することで、次世代の高密度ラックにも対応。

 空調には、NTTファシリティーズと共同開発した「FMACS-V」を採用して省電力化を図り、3次元熱流体シミュレーター「AirAssist」により、最適な空調効率が得られるような環境を構築している。

 内部空間は天井高3000mm、床下600mm。広さを備えることで効果的なエアフローを実現している。

 入り口には、回転扉を1人用に小さくしたような「サークルゲート」を設置。人感センサーや荷重センサーで人数を厳密に監視し、1人ずつでしか入れないよう入退室の物理セキュリティを高めている。

標準サーバーラックを1000本以上収容可能。モジュール型データセンタなども配置される空調機はFMACSを採用。熱流体シミュレーターで最適な空調効率を実現している

電源

 電源設備としては、近接の変電所より地下埋設の66kV送電線を引き込み、常用・予備の2系統受電を設置。加えて、N+1の非常用自家発電設備、N+1のUPSシステムにより、安定した電力供給システムを実現している。

 UPS室には、総合効率95%の高効率な「UNIPARA」を予備を含め計3基設置。負荷容量の増加に応じたUPSの無停止増設を可能にし、最大5基の拡張性を持たせた。冷却装置のほか、冬期には外気冷房するためのダクトも設置している。

総合効率95%の高効率なUPSを採用現在UNIPARAが計3台設置されている。将来の拡張にも対応外気冷房のためのダクト

防火

 消火用には、超高感度煙感知器「VESDA」のほか、200本以上の消火用窒素ガスボンベを用意。大気中の78%を占める窒素ガスを消化剤として利用することで、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数ともにゼロの消火を実現している。

200本以上の消火用窒素ガスボンベ選択弁

屋上緑化

屋上での空調効率化

 屋上には、空調室外機を設置。その入気温度を下げるため、「ポーラスコンクリートパネル」と「屋上緑化」を採り入れた。ポーラスコンクリートパネルは、カキ殻・軽量骨材・植物繊維をセメントで結合したもので、浸水性・保水性・通気性に優れた建材。表面に遮熱コーティングが施されており、屋上床表面の温度を5~10度下げる効果があるという。そのパネルが敷き詰められた床面の上、高さ1メートルほどのところに空調室外機を設置し、周りを緑化することで、温度低下の相乗効果を実現している。

ポーラスコンクリートパネルを床面に敷設高床に空調室外機を設置周りを緑化

統合管制センター

 こうした設備やIT機器を集中管理するため、専任のエンジニアが24時間365日で常駐する「統合管制センタ」が設置されている。現状70名のスタッフが3交代制で詰めており、大きく映し出された5つのモニタに、「設備」「インシデント」「ネットワーク」「サーバー」「入退室情報」がリアルタイムに表示。運用管理ツール「JP1」をはじめとした監視システムにより、館内すべての情報が一元管理されている。

統合管制センタの概要実際の様子5つのモニタに情報がリアルタイム表示される

目標PUEは1.6、他データセンターへの展開も目指す

 横浜第3センタの目標はPUE1.6。省エネ化を進めるほか、日立では「社会イノベーション事業」への傾注として、情報通信システムと電力・電機システムの融合を進め、その重点施策の1つとして今後も「環境配慮型データセンター事業の推進」を行っていく方針。具体的には、日立の他のデータセンターへの展開や、ビル・設備設計も含めたデータセンター事業者への支援事業などを検討していくという。





(川島 弘之)

2009/8/7 00:00