Adobe事業戦略発表会~制作ツールから、利益最大化までの統合ソリューションへ


 アドビシステムズ株式会社は4月22日、都内で事業戦略発表会を開催。米Adobe SystemsからCEOをはじめとする各ビジネスユニットのトップが揃い、2009年に買収したオムニチュア事業や、5月28日の発売を予定している「Adobe Creative Suite 5(CS5)」の紹介、エンタープライズ戦略など経営戦略の説明を行った。

米本社CEOのナラヤン氏(中央)をはじめ、各事業を統括するトップが顔を揃えた



iPhone OS向けツールの開発は打ち切り

 発表会では、CS5の目玉となるはずだったiPhoneアプリが開発できるツールが、AppleがiPhone OS 4でサードパーティの開発プラットフォームを事実上閉め出したことで利用できなくなった点に記者の質問が集中した。

 米Adobe Systems社 社長兼CEOのシャンタヌ ナラヤン(Shantanu Narayen)氏は、「HTML5は素晴らしいが、Flashはアニメ、インタラクティブなコンテンツなどで幅広く利用されており、Flashの革新は続けていく。我々はFlashをどんなデバイスの画面でも表示できるようにしたいと考えているが、Appleはこのプラットフォームを採用しないという選択をした。締め出しをしたら、閉め出された人々は同じ船に乗ることができる。Google、RIM、Blackberryなど革新を望むパートナーと広く協業していきたいと思っている」とコメント。

 CS5製品を統括する、クリエイティブソリューション事業部門担当上級副社長のジョン ロイアコノ(John Loiacono)氏は、iPhone OS向け開発ツールへの投資は打ち切ったことを言明した。

Flashの圧倒的な普及率が強調されたFlashプラットフォーム



コンテンツ作成ツールから収益最大化までを含む統合ソリューションへ

米Adobe Systems社 社長兼CEOのシャンタヌ ナラヤン氏

 CEOのナラヤン氏は、Adobeは「これまでの単純なコンテンツ制作から、コンテンツの最適化を行い、そこから収益を上げることが重要」と述べた。オムニチュアの買収により、今後コンテンツ制作の段階からコンバージョンレートを計測する機能などをシームレスに盛り込み、制作したコンテンツのアクセス解析まで一貫したソリューション提供も可能となることから、単なる制作ツールから収益化までのソリューションツールへの革新を強調した。

 また、今後デジタルコンテンツもWebだけではなく電子書籍、モバイル用アプリケーションなどの複数フォーマット、表示デバイスもPC、ネットブック、スマートフォン、テレビなど家電まで多様化していくため、1つのソースであらゆるプラットフォームに対応するマルチプラットフォーム対応戦略が強調された。

 また、基幹系のアプリケーションをエンタープライズに対して提供する中で、紙をメインとした非効率的なプロセスから効率的なオンラインプロセスへ移行するお手伝いをしていきたいと述べた。

 マルチプラットフォームについては、前述の通りAppleの戦略によりiPhoneおよびiPadからFlashコンテンツが閉め出された形になったが、Web上の「動画の75%がFlash」であり、日本の携帯電話では多くがFlash対応機種となっているなど、すでに広く普及している強みが繰り返し強調された。

米本社CEOのナラヤン氏をはじめ、各事業を統括する役員が顔を揃えた。日本これだけの顔ぶれが揃うのは初めてだというクリエイターの制作プラットフォームから、オムニチュアを得て収益最大化までを一貫してサポートするコンテンツプロバイダーやマーケッターの統合プラットフォームへ
2010年第一四半期は、CS5発売前だが、売り上げ8億5870万ドルと順調なすべり出し。景気は回復基調にある中でCS5が発売されるため、一層の飛躍を期待しているという2010年後半には、FlashPlayer 10.1とAIR 2がリリースされる見通しだ
CS5製品を統括する、クリエイティブソリューション事業部門担当上級副社長のジョン ロイアコノ氏。デジタルパブリッシングは専門チームを設けて取り組んでいるという米雑誌「Wired」と取り組んでいる、回転させることもできる3Dモデリング画像や動画なども盛り込み、タッチパネルでの直感的インターフェイスを搭載した電子出版物のデモ



基幹系情報も取り込み、成果の最適化を目指す

米Adobe Systems社ビジネスプロダクティビティ事業部担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのロブ ターコフ氏

 エンタープライズ市場についてはビジネスプロダクティビティ事業部担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのロブ ターコフ(Rob Tarkoff)氏が戦略説明を行った。

 ターコフ氏はまず、DCS(ドキュメントコラボレーションソリューション)とCIS(カスタマーインタラクションソリューション)を2本柱として挙げた。

 DCSは、出版やコンテンツ制作の現場をサポートするソリューションで、紙からデジタルへ、マルチスクリーンおよびマルチデバイス対応を支援するソリューションとなる。Acrobat.comなどのホステッドサービスを今後拡充し、オプションとして提供していくとした。

 またCISについては、機関投資家がアナリストから情報を引き出し、活用していく「直感的ワークスペースの未来」と題したデモを披露。リアルタイムの市況データやアナリストの分析、実際にオンライントレードにより投資を行う際の社内承認システムまでが統合したプラットフォームで提供される様子を見せた。

 投資アナリストのコメントについてより詳しく聞きたい場合は、アナリストにチャットで質問したり、アナリストの経歴を確認したり、また市況データをグラフ化して、競合他社の業績とひとつのグラフで比較するなど情報の視覚化による効率化を狙ったバーチャルデスクトップソリューションだ。

 ターコフ氏は、SAPやMicrosoft、Oracle、IBMなどのプラットフォームを統合し、必要なものを呼び出して見せるプラットフォームであることを図示し、「いままでのバックエンドサービスと競合するものではなく、すでに構築されているシステムを統合していくソリューション」と位置づけた。


既存のバックエンドサービスをと置き換わるものではなく、情報はバックエンドから引き出してきて、コンポジット化して視覚的に把握しやすくする2010年の注力分野として、DCSとCISを挙げた
DCSでは、文書フォーマットとして広く普及し、動画や3Dなどを取り込んで進化するPDFプラットフォームをベースとした強みを強調CISの導入企業と利用画面イメージ
「xPerience Finance Corp」という仮想の企業のCIS利用デモ。機関投資家の業務に必要な情報をコンポジット化したデスクトップアナリストのコメントを読む際に、あわせて経歴を閲覧したり(中央ペイン)、アナリストと直接チャットで対話することもできる(右ペイン下)





(工藤 ひろえ)

2010/4/22 16:16