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GoogleのAndroidはエデンの園の“知恵の樹の実”か白雪姫の“毒リンゴ”か


 GoogleからAndroidが携帯電話を最初のターゲットとして発表された。携帯電話の製造コストが10%程度下がるとGoogleはコメントしたが、そのためだけのプラットフォーム提供ではない。オープンプラットフォームはメーカーだけでなくユーザーにもメリットを生む。そして将来、Androidは携帯電話だけでなくデジタル家電、メディアプレーヤ、カーナビ向けにも提供されるという。だが、オープン化にはメリットだけではなく試練も存在することを忘れてはならない。


GoogleがAndroidとOpen Handset Allianceを発表

 11月5日(米国時間)、Googleから「Android」が携帯電話向けオープンプラットフォームとして発表された。それと同時に、「Open Handset Alliance(OHA)」というGoogleが中心となるアライアンスも発表された。

 AndroidはLinuxベースのOS、ミドルウェア、ユーザーインターフェイス、アプリケーションを含んだプラットフォームだ。まず始めに携帯電話向けのプラットフォームとしてAndroidのSDK(ソフトウェア開発キット)が、各OS(Windows、Mac、Linux)用エミュレータとともに提供された。すべてがオープンソースとして提供され、必要な機能だけを選択したプラットフォーム上のアプリケーション開発が可能になる。例えば、低価格なローエンド端末から高機能なハイエンド端末まで、同一プラットフォームの携帯電話製品を開発できる。

 OHAは携帯電話メーカーや通信事業者などを中心に30以上の企業が参加し、日本からはNTTドコモ、KDDIも参加している。OHAに参加する各社は、オープンなプラットフォームを活用することで開発期間やコストの削減ができ、新しいサービスの提供に注力できるようになる。


共通化された携帯電話プラットフォームがもたらすメーカーとユーザーへのメリット

 現在、携帯電話をサービス提供のためのプラットフォームとして見ると、必ず差異がある。画面サイズや対応メモリ程度であればよいが、搭載されるJavaのバージョンやWebブラウザが異なり、同じプログラムを実行した際の動作が異なるのだ。これは、キャリアや機種によって設計が異なり、発表された後では大幅に変更できないことに起因する。

 携帯電話がAndroidに沿って開発されることでプラットフォームとしての共通化が高まり、アプリケーションの動作環境に由来する懸念が解消される。動作環境が均一化することでアプリケーション開発が容易になり、携帯電話を活用した今までにないようなサービスがさまざま開発されていく。

 ユーザーは、携帯電話上のソフトウェアやサービスを自由に選択し、組み合わせることが可能になる。また、携帯電話の機種変更をしても使い慣れたソフトウェアを使い続けられ、データの互換性に頭を悩ませられることがなくなる。

 1つ、例を挙げよう。

 携帯用フルブラウザと呼ばれるWebブラウザがある。携帯用フルブラウザのメーカーは、年間100機種前後も発表されるすべての携帯電話に対し自社製品が確実に動作するか検証しなければならない。ユーザーはキャリア名と機種名を確認しなければ、携帯用フルブラウザが使用できるかわからない。このような状況では、メーカーはフルブラウザビジネスを限られた領域でしか行えず、ユーザーは携帯電話と携帯用フルブラウザを使ってネットコンテンツを楽しむことを制限されてしまう。

 しかし、Androidに対応した携帯電話であれば、キャリアがどこで機種名が何かといった確認は不要になる。メーカーはAndroidで確実に動作するかを検証すればよく、ビジネスチャンスが今まで以上に拡大する。ユーザーは使用したい携帯電話がAndroidに対応しているかを確認すれば、制限なくいつでもどこでもネットコンテンツを楽しむことができる。


オープン化はメリットと試練を同時に突きつける

 メリットしかないと思われるオープンプラットフォームにも、確実にリスクは存在する。オープン化は「ハイリスク・ハイリターン」という緊張感を加速する、ともいえるのだ。

 オープン化を進める上で認識しなければならないポイントは、企業間競争の激化と不具合影響の拡大という「企業存続の試練」だ。

 オープン化によって、企業規模に関係なくビジネスチャンスを平等につかめるようになり、さまざまな業界からの相互参入が活発になる。ユーザーが製品・サービスを自由に選択するようになると、より優れた製品・サービスを開発しようと企業間競争が激化する。体力だけに自信を持ち、独創的なアイデアや俊敏性、ユーザー志向を持たないままの企業は淘汰(とうた)されてしまうだろう。

 ユーザーに支持される製品・サービスを提供できたとしても安心はできない。その製品・サービスに不具合が発生した場合、共通化したプロセスにのっとって開発された他の製品・サービスにも同じ影響を与える可能性があり、被害が拡大する。少しでも障害・被害対応を間違えれば今まで築いてきたユーザー評価はもちろんのこと社会的信用も失墜し、存亡の危機にまで発展してしまうだろう。

 Androidには「オープン」というエデンの園の「知恵の樹の実」のような面と、「企業存続の試練」という白雪姫の「毒リンゴ」のような面が確実にあるのだ。ハイリスクということを認識しつつ、メリット享受を最大化したいと思うのは私だけではないだろう。



URL
  Googleの発表リリース(英文)
  http://www.google.com/intl/en/press/pressrel/20071105_mobile_open.html


( もり いっけ )
2007/11/14 09:00

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