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IT業界の企業買収トレンドはどこへ向かうのか
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企業買収ニュースのない日はない、というほどにぎわいを見せるIT業界。しかし、ここ数年の企業買収は21世紀直前直後とは明らかに異なるトレンドが現れている。以前はシェア拡大を目的とした競合他社による企業買収だったが、現在は新しいビジネス領域への展開を目的とした他業種企業による買収がほとんどだ。
■ 買収ニュースに沸くIT業界
11月12日(米国時間)、IBMによるCognos買収が発表された。約50億ドル(1株あたり58ドル)を投じ、2008年第1四半期に買収完了の見通しだ。また、10月11日(米国時間)、OracleはBEA Systems買収に関する提案を10月9日に提出したことを発表した。約67億ドル(1株あたり17ドル)での買収提案だったが両社は合意に至らず、この提案は無効となった。さらに、10月7日(米国時間)、SAPがBusiness Objects買収に関する提案を行ったと発表。48億ユーロの買収規模となり、2008年第1四半期の完了を目指す。
たった1カ月の間にIT業界の雄ともいえる3社が企業買収に向けた動きを見せたほか、SymantecによるVontu買収やDellによるEqualLogic買収といったニュースもあった。Microsoftによれば、今後5年間において毎年20社を買収する計画があるという。これら一連の流れを考えると、残り少ない2007年はもちろんのこと2008年以降も企業買収ニュースがIT業界をにぎわすだろう。
■ 2000年前後の合併はシェア拡大が目標
少し時計を巻き戻して、2000年問題に沸いたころの2000年以前まで歴史をさかのぼろう。
TANDEM Computersを1997年に買収したCompaqは、1998年にDigital Equipment Corporation(DEC)も96億ドルで買収し、コンピュータ業界最大(当時)の合併を行った。そして2001年、CompaqとHPの合併が発表され、約1年間にわたる合併騒ぎを経た2002年5月、870億ドルを誇る大合併が完了した。この合併に対し、メディアやアナリストは懐疑的だった。両社の製品群があまりにも重複していたために失うものが多いと予想し、事実、合併後のブランド名や組織体制などに混乱が生じた。結果、従業員の退職やユーザーの不安を招き、競合他社にすきを見せ、新生HPは一時迷走した。
合併の混乱を収束した新生HPは、製品開発や製造、出荷、サポートに至るすべての面で効率化を徹底。次第にユーザーの信頼を得ていった。新生HPは市場シェアを圧倒的なスピードで獲得し、現在では約30%のサーバーシェア、約18%のPCシェアを持ち、市場での存在感を確かなものにした。
シェアという観点から見ると、HPはTANDEMやCompaq、DECの製品群やノウハウ、施設や人的なリソースを買収することでシェアを着実に拡大していったといえる。ビジネスの観点から見れば、ビジネスをより堅牢で確実なフェーズに昇華させるための企業買収だったといえるわけだ。
■ 2004年、企業買収トレンドに変化が現れる
新生HPが誕生し、着実に合併効果が見えてきた2004年12月、IT業界の企業買収トレンドに大きな節目が訪れた。セキュリティ関連ソフト最大手のSymantecとストレージ関連ソフト最大手のVERITAS Softwareが合併すると発表したのだ。Symantecは「これは共通な見解を持つ業界リーダー同士の合併であり、両社が同じ製品群を持たないことがメリットだ。コスト削減を目的としたものではない」とコメントした。また、製品ブランドの保護、従業員の保護を明確に打ち出し、ユーザーと従業員の混乱を起こすことを防いだ。
このニュースは当初、シェア拡大のための企業買収に慣れていたIT業界には異様なことと受け取られ、「同じ製品群を持たない両社が合併する必要があるか、両社による提携で十分ではないか」と言われていた。
約半年の合併期間を終え、新生SymantecはSymantecとVERITAS Softwareの製品を組み合わせたソリューションを発表。合併によって1+1が2以上となる戦略の正しさを証明した。この合併が今までと異なるポイントは、製品群が重複しないことで従業員の雇用整理や製品統合といった作業が発生しなかったこと、速やかに合併を完了させることで、競合他社にすきを見せることなくビジネスを円滑に続けられたことだろう。
■ 企業買収新トレンドは「新ビジネスへの参入」
ここで冒頭のIBMのCognos買収、OracleのBEA Systems買収、SAPのBusiness Objects買収を思い出してほしい。これら3社の動きや他の企業買収ニュースにおいても、同じ製品群を持った企業による買収とは言い切れないだろう。では、何を目標として企業買収を行うのか。
これらの企業買収は、既存のビジネスにダメージを与えることなく、新規ビジネスへの安全な参入を果たすことを目的としている。
SymantecとVERITAS Softwareの合併になぞらえると、とてもわかりやすい。
新しいビジネス領域への参入を決定した企業は、参入先の市場において大きなシェアを既に持つ企業を買収する。また、企業統合において必要以上の社内調整に時間を費やすことなく、社員や製品群を保護する。ユーザーに与える影響を最小限にし、企業買収による製品の相乗効果をユーザーへ提案し導入する。これらにより、既存ビジネスや顧客に影響を出すことなく安全かつ素早く、新規ビジネスへの参入が可能になるわけだ。しかも、シェアやユーザーを獲得したことでさらなる認知度や市場影響力も同時に手に入れることができる。
企業にとっては劇的でありつつもメリットが多い企業買収だが、IT業界全体としてはもろ手を挙げて歓迎、といえない事態になる日も近い。併存する形で発達を続けてきた異なるビジネス領域が、企業買収という形で境界線がにじみ、結果としてビジネス領域の統合・融合が起きる。企業買収によって大企業がさらに強大となり、少数の大企業がIT業界の覇権を握ることで、業界全体に停滞感や閉塞感が生じてしまう可能性があるからだ。
ユーザーは企業が進もうとしている方向や進めようとしている戦略を理解し続ける必要がある。
■ URL
IBMプレスリリース
http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/22572.wss
Oracleプレスリリース
http://www.oracle.com/corporate/press/2007_oct/bea-offer-ltr.html?rssid=rss_ocom_pr
BEA Systemsプレスリリース
http://ir.bea.com/?page=releasedetail&ReleaseID=268881
HPプレスリリース
http://www.hp.com/hpinfo/newsroom/press/2001/010904a.html
Symantecプレスリリース
http://www.symantec.com/press/2004/n041216.html
( もり いっけ )
2007/11/21 09:00
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