富士通、「新要件定義手法」を確立-要件定義の合意への手引き

100件の実プロジェクトへ適用目指す

テクノロジーサポートグループ システム生産技術本部 SI生産革新統括部長代理の若杉賢治氏

 富士通株式会社は10月7日、システム開発で重要となる要件定義の課題を解決する「新要件定義手法」を確立したと発表した。同日より富士通が手がけるシステム開発に適用していく。

 新要件定義手法は、要件定義における1)要件の品質、2)合意形成の品質、3)マネジメントの品質にまつわる問題を根本的に解決するための3つの方法論を体系化したもの。

 要件定義には「誰が要件に責任を持つのか」「経営層-業務部門-情報システム部門の3方向でいかに合意形成するか」「要件の成熟度(内容がどこまでできているか)をいかに把握するか」といった課題が存在する。「ところが実際は、責任所在がはっきりしないまま、合意形成がされないままプロジェクトが進んでいくことがあり、要件定義までに時間がかかったり、下流工程で手戻りが多発したりするケースが多い」(テクノロジーサポートグループ システム生産技術本部 SI生産革新統括部長代理の若杉賢治氏)。

新要件定義手法が提供する解決策

 新要件定義手法では、この問題を解決するための「要件の構造化」「因果関係からみた要件の可視化」「要件を成熟させるプロセス」という3つの方法論を体系化した。

 要件は、つまるところ目的と手段の繰り返しで定義されるものだ。「要件の構造化」では、この各目的・手段を、3つの役割(経営層、業務部門、情報システム部門)ごとに整理し、「経営の目的」「施策」「業務要求」「実現手段」「システム機能」の5階層に構造化する。こうすることで、役割ごとに定義すべき要件、部門間で合意すべき要件が明らかになり、またしっかりと5階層すべてがそろっているかどうか――つまり、要件の完全性を分析することが可能になるという。

 例えば、「全国統一データベースを構築し、情報の鮮度維持を行う」という要件があったとしよう。ここで「情報の鮮度維持」は「経営の目的」に、「全国統一データベースを構築」は「実現手段」に当てはめられる。定義されたものがこれだけだとすると、5階層で残りの「施策」「業務要求」「システム機能」が欠けていることになり、要件としては不完全であるといえるというわけだ。

要件は目的と手段を繰り返して繰り返し定義したもの5階層に構造化し、役割ごとに定義すべき要件を明らかにする5階層に欠けている層があれば、その要件は不完全であるといえる
多数の要件をすべてこの5階層に当てはめて、関連を一目で把握できるワークシートを用意

 「因果関係からみた要件の可視化」では、多数の要件をすべてこの5階層に当てはめて、関連を一目で把握できるワークシートを用意する。要件ごとに5階層すべてがそろっているかや、要件の十分性(上位要件のために必要な下位要件が定義されているか)、妥当性(下位の要件によって実現される上位要件が定義されているか)が備わっているか、を客観的に分析。どの部分で合意形成が必要なのか、といった判断や、優先順位付けによる要件の絞り込みが可能になるという。

 さらに要件を成熟させるために、要件ごとに「テーマ別レビュー」「調整レビュー」「テーマ横ぐしレビュー」「残課題検討/現場要望の取り込み」「全体レビュー」といった12のタスクを設け、タスクごとに利害関係者の合意形成を満遍なく取るための作業を定義するのが「要件を成熟させるプロセス」。

 各タスク完了時に、各要件の検討度合いを38の評価軸で評価することで、要件の成熟度を把握。適切なタイミングで対策(内容検討が遅れている要件へのテコ入れ、期限内に検討しきれない要件を対象外とするなど)を打つことにより、要件確定に至る過程をコントロールすることが可能という。

要件ごとに12のタスクを設け、タスクごとに検討度合いを38の評価軸で評価要件の成熟度を把握し、適切なタイミングで対策が打てるようになる

 富士通では、2007年から「ソフトウェア開発のものづくり革新」における「設計の革新」の一環として、要件定義項目間の整合性確保などの「形式品質(要件定義で守らなければならない記述ルールが守られているか)」の向上に取り組んできた。今後は新要件定義手法を用いることで、「内容品質(要件の具体的な内容面での品質)」の確保に取り組んでいく方針。

 新要件定義手法を社内・グループに展開し、2010年度末までに100件の実プロジェクトに適用を目指すという。そのために一定規模(3億円)以上のプロジェクトに関しては社内ルールとして導入を義務づけるほか、品質管理部門に対する教育も順次行っていくという。





(川島 弘之)

2009/10/7 15:55