日本IBMの「地球を賢く」する研究、技術構想を紹介
執行役員 研究開発担当の久世和資氏 |
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は2月24日、研究開発チームの2010年度方針に関する説明会を開催。「Smarter Planet」構想の実現に向けた日本における取り組みなどを紹介した。
世界中に散らばるIBMの研究開発拠点。日本では大和研究所が代表格となるが、特徴は「立地にこだわらず、最適な人材を最適な研究に導入できる体制」(執行役員 研究開発担当の久世和資氏)にある。
また、スムーズな研究開発、産学官との連携を実現するため、さまざまな仕組みを導入しており、例えば、経営戦略に直結した技術ロードマップ「GTO(Global Technology Outlook)」を基に、世界規模で研究の進ちょくや意思決定を統一する開発プロセス「IPD(Integrated Product Development)」を採用。社外との連携にも取り組み、共同で「世界初」の開発を目指す「FOAK(First of a Kind)」プロジェクトを推進している。
久世氏は「昔は社内の製品開発がメインだったが、現在は社会問題などを解決するような技術開発に主軸を置いている。これはIBMでできることではないので、さまざまな機関との連携を積極的に進めている」と、コラボレーションの重要性を紹介。
日本の大和研究所では、3次元プロセッサや光インターコネクト、あるいはPlayStation 3/Wii/XBOX 360などに搭載されている先進プロセッサなど、多岐にわたる研究開発を実施。2009年の実績としては、ブログのテキストとユーザーの行動パターンを複合的に分析する技術「テキスト・ネットワーク分析」や、前後の文脈から不適切な表現を検出できる「音声テキスト分析技術」、仮想ディスクストレージ「IBM XIV Storage System」のクラウド化による障害復旧時間の大幅短縮、といった成果を挙げている。
IBMの研究開発拠点 | 2009年、国内研究開発の主な成果 | 2010年の重点エリア |
Smarter Planet構想の概要 |
そして2010年度、日本IBMの研究開発チームが重点を置くのが、「Smarter Planet」の実現だ。これは2009年1月に示した新コンセプトで、「あらゆるものが機能化し、相互接続され、インテリジェントになってきている今、交通や環境、エネルギー、医療といった地球規模の課題を、地球がよりスマートな惑星になることで解決する考え方」。より端的に言えば「デジタルインフラと物理インフラが一体化した世界」(同社)を目指したものとなる。
Smarter Planetでは、都市、交通システム、エネルギー、ヘルスケア、製品などのスマート化を、実践すべきイノベーションとして挙げているが、「日本では、特にヘルスケアとエネルギーの分野に注力する」と久世氏。エネルギーを例にとると、「電気自動車が脚光を浴びているが、充電が課題。充電ステーションを作っても現状ではまだフル充電に10分以上かかってしまう。そのため最近では、コンビニや交差点で停車した際に、ちょっとずつ充電するような仕組みが検討されているが、そのためには新しい課金の仕組みを作らないといけない。その仕組みについて、他団体とも意見交換しながら研究を進めている」(同氏)という。
そのSmarter Planetを実現するための重要技術として研究しているのが、「データ分析と最適化技術」「Stream Computing」「Hybrid Systems」なるもの。
Smarter Planetの時代になると、処理される情報量は今とは比べ物にならないほど膨れ上がる。その膨大なデータをOLTP並みの速度でリアルタイムに処理しなければならず、何か革新的な技術が必要となる。
Stream Computing。投資判断への活用例 |
その1つがStream Computingで、「センサーなど複数の情報ソースから到達するデータを複合的に分析判断し、即座の意思決定を可能にする計算パラダイム」(同氏)と説明。株売買を例に取ると、NYSE(ニューヨーク証券取引所)のVWAP(出来高加重平均)や企業財務情報、ニュースサイトの情報、米国大洋大気庁の情報など、さまざまなソースからデータを取得。それらをアプリケーション上で処理する際に、必要な分析をリアルタイムに行って、投資判断の自動レコメンデーションが可能になるという。
そのために開発したのが、分析をリアルタイムに行うミドルウェア「InfoSphere Stream」。まだ提供はされていないが、すでに発表済みとなっている。
また、そこまでリアルタイム性が突き詰められると、ハードウェアでもネットワークスピードでの処理が要求される。それを実現するのがHybrid Systemsで、「汎用システム」「アプライアンス」「ネットワークスピードサブシステム」「計算特化サブシステム」といった要素を組み合わせ、ターゲットとするアプリケーションの特性に合わせてソフトウェア・ハードウェアすべてのレベルで事前最適化したシステムだと説明。「従来、システムの性能は2 年に2倍の速度で向上するといわれているが、Hybrid Systemsならば2年で4倍の性能アップが可能。10年後には、現在のシステムより1000倍の差が開く新システムの開発を進めている」(同氏)。
このシステムにより、「例えば、自動車を製造する際、衝突実験や流動実験などを基に試作車をつくり、実走テストを経て製品化となるが、Hybrid Systemsでは試作車を作らず、コンピュータ内のシミュレーションで済ませられるようになる。また原子力産業においても、老朽化特性のモデル化により原子炉の寿命延長が可能になるなど、多くのビジネスで変革が期待できる」(同氏)という。
Hybrid Systemsの概要 | Hybrid Systemsにより、2年で4倍の性能向上力が見込まれる |
日本IBMは“賢い地球”に向け、産業別事業開発チームとの連携など、IBMの総合力活用に着手している。ワールドワイドでは基礎研究に3000名、ハードウェア・ソフトウェア開発も含めると4万5000人ほどの研究開発者が存在する。日本だけでも千数百名ほどの規模だ。久世氏は「それでも今回紹介したプロジェクトはIBMだけで実現できることではない。今後も企業や官公庁、大学との連携が欠かせないものとなる。2010年も協創によるイノベーションを推進していくので期待してほしい」とまとめた。
2010/2/24 14:52