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IEEE 802.11a/b/g無線LANのユニークなテストテクニック

新たにテスト標準化をめざしてIEEE 802.11tが誕生

 これまでにはないユニークな手法による無線LANテストシステムが登場した。米国のAzimuth Systems,Inc.(以下、アジムス)が開発した「Azimuth 300W/800Wシリーズ」(販売元:東陽テクニカ)である。このシステムは、コントロール可能なRF(Radio Frequency:無線周波数)環境をつくり、一定かつ再現可能な測定が行えるというものだ。つまりこれら製品によりシールドルームがなくとも再現テスト、距離などのスケーラビリティテスト、自動テストなど3つが可能となる。一方で、無線LANのテスト方法についての標準化をすすめるIEEE 802.11tのワーキンググループがスタートした。アジムスはここにチェアマンを送り込んでおり、1ベンダの枠を超えての業界活動にも精力的に取り組んでいる。


Azimuthの副社長 ワールドワイドセールス ビジネスデベロップメント、C.J.ミューレル氏
 これまで無線LANのテストにはいくつかの問題点があった。通常、無線LANベンダではノイズの影響がない環境でテストするために、シールドルームをもっている。しかしこれには限界があって、たとえば電波が飛ぶ距離などを測定するモビリティテストには、何百メートルもの距離が必要で、そのようなシールドルームをもつことはきわめて困難だ。

 あるベンダでは、屋外で実際に端末を台車にのせてアクセスポイントから離したり近づけたりなどのテストをしているという。これだと、再現テストを実施するごとに、携帯電話などのノイズを拾ってしまうために結果にバラツキが生じ、正確性に欠けることも起こりやすい。Ciscoのサンノゼ工場のように広大なシールドルームを持つところもあり、このような長距離テストもできなくはないが、テストの都度、環境を構築しなければならず実際は大変だという。

 こうした問題点を解決するためのものが、「Azimuth 300W/800Wシリーズ」である。これらの製品を提供しているアジムスは、2002年ボストンに設立されたきわめて若い会社だ。おおよそ米国でのスタートアップ資金に相当するベンチャー企業の資本金平均が300~400万ドルという中、同社は1300万ドルもの資本を集めており、それだけ同社に対する投資家たちの思い入れが、並々ならぬものであることを物語っている。これもまさに、アジムスがもつユニークな無線LANテスト・ソリューションなるがゆえのことであろう。また役員にも、半導体やRFのテストに関してかなりの経験をもつ者が多く、この辺も同社の信頼性を高めている理由なのかもしれない。


シャーシに無線LANカードを、テストヘッドにアクセスポイントを

Azimuth 800Wのシャーシ(上)と、ステーション・テスト・モジュール(下)。この写真では、シャーシの左側に4枚の同モジュールが搭載されている

(図1)モジュールが装着されたAzimuth 800Wシャーシ(右下)とテストヘッド(右上)、それによってエミュレーションされる無線LANネットワークをイメージ化したもの(左)
 ところで有線LANと無線LANのテストはどう違うのであろうか。「有線のEthernetなどの場合はロスをはじめ遅延、ジッタ、ライン先頭のブロッキング、エラー解析など5項目程度のテストですむ。しかし無線LANの場合は25項目くらいのテストが必要」と、副社長 ワールドワイドセールス ビジネスデベロップメントのC.J.ミューレル氏(Mr.C.J.Meurell)はいう。

 その項目の中には、セキュリティやローミング、QoS、ロードバランシングほかがあり、たとえばQoSは無線LANでVoIPを実現しようとしたとき必要になるし、ロードバランシングは空港などで1つのアクセスポイントにユーザーが集中していたときに負荷分散させるために必要になってくるのである。こうした無線LANテストに課せられた条件をクリアして、アジムスでは2つの無線LANテストシステム「Azimuth 300W/800Wシリーズ」を投入した。

 これらのシステムによるアジムスのユニークな無線LANテストのやり方はこうだ。まずテスト用のモジュール(ステーション・テスト・モジュール)にテストすべき無線LANカードを入れ、シャーシに搭載。またアクセスポイントはテストヘッドという別ボックスに入れる。こうすることで、カードもアクセスポイントも完全にシールドされた環境になる。そしてモジュールとテストヘッドとの間をRFケーブルで接続させ、擬似的な無線LAN環境を作り出してテストを行う(図1参照)。

 また距離テストの場合は、サーバーに搭載されたAzimuth DIRECTORソフトウェアでアッテネータ(減衰器)を制御し、あたかもクライアントPCとアクセスポイント間の距離を離したり縮めたりするような見かけ上の距離調節でテストができるという仕掛けである。実際のテストでは、マルチベンダのカードやアクセスポイントなどを混在させてテストすることも可能だ。


テスト範囲を拡大させる3つのモジュール

 またミューレル氏は「Azimuthシリーズには各種テストが行えるよう3つのモジュールを用意している。第1がステーション・テスト・モジュール。これはシステムにユーザーが選択した無線LANカードをインストールするために使われるというもので、2枚までのLANカードを装着できる。またテストMACモジュールは大規模エミュレーション用のクライアントエンジンであり、128までのクライアントをエミュレート可能。さらにRFテストモジュールは、擬似的にさまざまな無線LANの配置を作成するための物で、IEEE 802.11のステーション、アクセスポイントおよび適用デバイスをともに接続するために使用できる」とテスト範囲を拡大させる各種テストモジュールの機能をアピールする。

 具体的には、たとえばテストMACモジュールがあれば、ソフトウェア的に128のMACアドレスを作ることができ、この結果それこそ実機を使ってテストしようとするときに必要な128台のPCを用意せずとも、エミュレート機能によりこのテストを実現できるというわけである。なお1つのシャーシでは、16のクライアントかアクセスポイント、あるいは1024までのソフトクライアントをサポートできるようになっている。

 具体的な製品は、モジュール用のスロット3個をもった「Azimuth 300Wシリーズ」と同8個をもった「Azimuth 800Wシリーズ」がある。価格は最小構成でAzimuth 300Wが1000万円程度、Azimuth 800Wが一通りのモジュールをそろえて2000万円程度である。「一見高価そうに思えるが、シールドルームをもってPCをそろえたりする従来方法からすればかなり割安のはず」とミューレル氏はいう。これら製品は、IEEE 802.11a/b/gをサポートしている。


無線LANテストの標準化をめざしてIEEE 802.11t誕生

 ミューレル氏は、「UWB(ウルトラワイドバンド)やWiMAXなどの登場に伴い、これら新しい規格にも対応していくし、またVoIPのハンドセットが入れられるテストヘッドも投入する予定」と、今後のアジムスの戦略をちょっぴりにおわせる。

 また、「無線LANのテストに関し、これまでスタディーグループであったものが7月1日付けでワーキンググループに昇格した。IEEE 802.11tと呼ぶワーキンググループでは、無線LANにおけるテスト手法の標準化を進めている。ここではアジムスのチャールズ・ライト氏がチェアマンをつとめており、このグループには現在9社入っているが、たとえば、それぞれ異なるベンダでも同じプラットフォームを使用してテストしようということが議論されている。業界では別方式の対抗馬的なテスト手法もあるが、アジムスのソリューションがデファクトスタンダードになっていくはず」と自信をみせる。2005年1月~3月には何らかの形で標準化のめどがたつ、という。

 なお、Azimuth 300W/800Wシリーズは、今回の「NetWorld+Interop 2004 Tokyo」で、Best of Show Awardのネットワーク測定製品部門でグランプリを受賞した。



URL
  米Azimuth Systems,Inc.(英語)
  http://www.azimuth.net/
  株式会社東陽テクニカ
  http://www.toyo.co.jp/


( 真実井 宣崇 )
2004/07/15 00:00

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