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デルのCIOに聞く、PCベンダーの情報システム戦略
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システム投資は9カ月での回収が前提に
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デル株式会社が推進するデルモデルの実現には情報システムの存在が欠かせない。在庫を最小限にするとともに、短いリードタイムで、ユーザーの要求仕様にあわせたパソコンを供給するその仕組みは、世界最大のパソコン出荷台数を支えるとともに、パソコンメーカーとしては他社の追随を許さない高い収益性をあげることに直結している。では、デルの情報システム投資は、どんな基本方針のもとに推進されているのだろうか。また、社内においてはどんな位置づけにあるのだろうか。デルの北アジア地域CIOである山田祐治氏が、デルの情報システム戦略について、本誌のインタビューに答えた。
■ 失敗事例も含めて自社の活用法を外部に公開
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デル株式会社 北アジア地域CIOの山田祐治氏
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―デルの情報システム部門の位置づけはどうなっていますか。
山田氏
社内情報システムを構築、運用するという役割はありますが、それだけでなく、当社のすべてのシステムが、企業の売り上げ拡大やコスト削減にどれだけ貢献しているのか、最小の投資で、最大の効果をあげるためにはどうすべきかという検証の役割を担っているのです。「デル・オン・デル」という言い方をしていますが、デルが、デルの製品を自ら社内で活用することで、そのメリットとデメリットを追求するというわけです。加えて、実際にこの効果を外部に対して発信していくという役割を担っています。私も、自分の仕事の3分の1の時間は、実際にお客様のもとに出向いて、当社の情報システム部門の考え方や取り組みをお話する。同時に、お客様からの要求も聞き、これを製品の改良などにフィードバックする。このあたりが、他の情報システム部門とは違う役割の部分だともいえます。この四半期だけで約60社のお客様を対象に、直接訪問したり、セミナーを開催したりといったことをしています。お客様の規模も、社員500人程度から数万人規模までさまざまです。
―自社の情報化投資の事例を提供するということは、もちろん失敗事例も公開すると。
山田氏
そうです。当社の最大の失敗は、2000年までの情報化投資戦略だといえます。当時は、エリアごとや部門ごとに情報システムが個別に構築されていたことで、経営層に適切な情報がタイムリーに伝わらないという問題が起きていた。なかにはレガシーシステムを導入している部門もあった。ただ、それまでは各エリアごとの部分最適を目指していましたから、それはそれでよかった。だが、グローバル戦略に打って出るという時に、この仕組みではうまくまわらない。情報システム部門も全世界で3600人以上に膨れ上がっていましたし、本社のあるオースティンでは40以上のビルにIT担当者が分散し、数多くのアプリケーションと数多くのデータが存在していた。米国では、年間350以上ものプロジェクトが進行していたが、残念ながら中央主導型のガバナンスがないという状況でした。また、大規模な投資をしたにも関わらず、結局、完成しなかったというシステム投資もありました。
―これは、当時のCEOであるマイケル・デル氏の判断ミスなのですか。
山田氏
急成長を遂げた会社ですから、すべてが思惑通りに進むとはいいにくい面があると思います。2000年までの間は、部分最適を追求していたわけですが、各国の高い成長を支えるという意味では、これが最適だったといえます。しかし、それがグローバル戦略という上ではいくつもの課題が出てきた。もちろん、最初からグローバル型の情報システムの構築に挑めばよかったという指摘もあるでしょうが、その当時には、情報システム部門の多くのリソースをWebによる直販モデルの構築に注いだ時期でもありました。そのときに、Webによる販売の仕組みを構築できたからこそ、ここまでの成長があるともいえます。
■ ビジネス部門と共同で責任を持つ仕組みづくりが大事
―2000年以降は、デルの情報化投資戦略は大きく変換しているということですか。
山田氏
ITチームにおいて、明確なビジョンを掲げました。根本から考え方を変えたといってもいいでしょう。そのビションにはいくつかのポイントがあります。例えば、グローバル戦略を前提にした情報システムの構築とともに、9~12カ月で回収できないものには投資をしないという前提があります。それ以上の期間がかかる投資案件は、見送るか見直す形にしています。スピードの早い業界ですから、回収に1年以上かけていては次の投資ができなくなり、結果として競争力がなくなる。
一方、売上高に対する情報化投資比率を、従来の1.8%から1%以下とすることなどを2001年から5か年の目標として取り組んでいますし、同時にアプリケーションのITリソースの75%を新規開発にあてること、すべての戦略的プロジェクトは安定稼働から6カ月以内には全世界へと展開することも視野に入れています。当然のことながら、システムの稼働は計画通りにすすめること、なるべくならば計画よりも前倒しで稼働させることを前提としています。昨年の実績では、86%のシステムがオンタイムで稼働オていますし、今年度は95%のシステムが予定通りに稼働することになります。
―オンタイムで稼働させるコツというのはあるのですか。
山田氏
ビジネス部門のコミットメントを得るということです。情報システム部門に丸投げではなく、オンタイムで稼働させることについても、共同で責任を持つ。オンタイムで稼働させるためには、このように双方が責任を持つ仕組みづくりが前提にあるべきです。それと、本当に必要なシステムなのかをプランニング段階で徹底的に検証する。情報システム部門が、ビジネス部門の下請けになってしまって、なんでもかんでも受け入れるというのでは、適切な情報化投資と予定通りの稼働は無理です。情報システム部門とビジネス部門が話し合って案件を絞り込むという作業も必要です。また、稼働したシステムに対する監査も必要です。実際に動かしてみて、ビジネスに対してどれだけの貢献があったのかを監査する。そして、その効果に対してもビジネス部門がコミットする仕組みを作っておくのです。当社には監査を行うチームを設置しています。このチームの存在が、より投資効果の高い情報システムの構築につながるという好影響を及ぼしています。
―情報システム部門の人材育成にはどんな点を心がけていますか。
山田氏
2000年までの情報化投資を振り返ると、ビジネス部門が要求しないようなものまで投資をしていたということもありました。それは、情報システム部門が、ビジネス部門をきっちりと理解していなかったこと、つまり、ユーザーとの距離感があったともいえます。また、同じことばかりを担当していると、その目線でしか判断できなくなり、固定概念に縛られてしまいがちになる。
こうしたことを避けるために社員をローテーションするということもやっています。いま、情報システム部門にはITスキルだけではなく、ビジネスにどれだけフォーカスできるか、自分の知識だけでなくチームやユーザーとの連携を図り、そこでいかにリーダーシップを発揮できるかといったことが求められている。リーダーシップ、ビジネスフォーカスといった点についてもスキルを高めていることを社員に求めています。
■ URL
デル株式会社
http://www.dell.com/jp/
( 大河原 克行 )
2004/09/22 10:55
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