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ワークステーション市場に一石を投じるパーソナル・スーパーコンピュータ [後編]


Transmetaの元共同創業者で、現在はOrion Multisystemsの社長兼CEO(最高経営責任者)のコリン・ハンター氏


 コンピューティングクラスタは、スーパーコンピュータにも匹敵する高い演算性能を実現できる一方で、その多くはかなり大かがりで扱いづらいシステムだ。そこで、同等の性能を持つシステムを一つの小さなボックスに収めた画期的な製品が、Orion Multisystemsのパーソナル・スーパーコンピュータ「Orion Desktop/Deskside Cluster Workstation」である。

 今回は、Transmetaの元共同創業者で、現在はOrion Multisystemsの社長兼CEO(最高経営責任者)のコリン・ハンター氏に同社のパーソナル・スーパーコンピュータが登場した背景とその特徴をお聞きした。後編では、DS-96の増設による性能向上、CPUにEfficeonを選択した理由、64ビットコンピューティングへの対応について取り上げる。


基幹ネットワークを10Gigabit Ethernetで接続して性能向上の飽和を防ぐ

 Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationのプロセッサボードには、前編でも取り上げたヘッドノードおよび演算ノードに加え、これらを接続するためのGigabit Ethernetスイッチコントローラ、バックプレーン接続用のI/Oボードコネクタなどが搭載されている。ノード単体を見ると、プロセッサとヒートシンク、DIMMスロット(DDR SDRAM対応)、サウスブリッジ、Gigabit Ethernetコントローラ、ATAインターフェイスコネクタなどが搭載されている。また、I/Oボードコネクタを介してミッドプレーンと接続されるが、ここにはクラスタシステムの画面表示を行うためのクラスタフレームバッファや外部ストレージなどが接続される。


Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationに内蔵されているプロセッサボード(出典:Orion Multisystems、以下同様)。
ノードを構成する回路。プロセッサとヒートシンク、DDR SDRAM対応のDIMMスロット、ALiのサウスブリッジ、インテルのGigabit Ethernetコントローラ、HDD接続用のATAインターフェイスコネクタなどが搭載されている。

Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationのシステムアーキテクチャ。ノード間はGigabit Ethernetで、12ノードを単位としたグループ間では10Gigabit Ethernetでそれぞれ接続されている。
 プロセッサボード内のノード間はGigabit Ethernetによって接続されている。また、プロセッサボード間は、I/Oボードコネクタを介して10Gigabit Ethernetによる通信が行われる。つまり、8枚のプロセッサボードを装備するDS-96は、12ノードを一つのグループとして、グループ内のノード間をGigabit Ethernetで、グループ間を10Gigabit Ethernetで接続する形となるわけだ。クラスタを構成するノード数が増えていったとき、Gigabit Ethernetですべてのノードを接続すると性能が飽和しやすい。DS-96は、基幹のネットワークを10Gigabit Ethernetにすることで多ノード構成でも演算性能を十分に発揮できるように工夫されている。

 もし、96ノードで足りない場合には、外部コネクタを経由して追加のスイッチなしに合計4台までDT-12/DS-96を増設可能だ。また、それを超える場合には、10GBASE-CX4に対応したスイッチングハブで接続していけばよい。Orion Desktop/Deskside Cluster Workstation側では増設可能な台数の上限は特になく、アプリケーション側のサポートノード数とスイッチ側のポート数によって上限が決まる。

 例えば、12ポートの10Gigabit Ethernetスイッチ(富士通のXG800シリーズなど)を使用すれば、DS-96を最大12台、ノード数に換算すると最大1152ノードまで増設できる。アプリケーションがすべてのノードをフル活用できたとすれば、演算性能は1TFLOPSをゆうに超える。このレベルに達すれば、確実にTOP500入りを果たせる。「複数のDS-96を束ねてこうした超高性能クラスタを構成したいというお客様もすでにいらっしゃいます。弊社としても、TOP500入りを果たす最も簡単で安価な方法として、DS-96に基づく超高性能クラスタを提案していくつもりです(ハンター氏)」。


ノード向けのプロセッサにはTransmetaのEfficeonを搭載

Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationの各ノード向けに搭載されているTransmetaのEfficeon TM8800。富士通あきる野工場の90nmプロセスルールで製造されており、プロセッサ自身は現時点で1.7GHzまでの製品が発売されている。
 Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationのカタログには、搭載プロセッサとして「High performance/watt x86 processor(1Wの消費電力に対する処理性能が高いx86系プロセッサ)」と記載されているが、具体的にはTransmetaのEfficeon TM8800(動作周波数1.2GHz)を搭載している。消費電力あたりの処理性能が高いx86系プロセッサという意味ではインテルの超低電圧版Pentium Mあたりも候補に入ると思われるが、Efficeonを選択するに至った理由をハンター氏は次のように説明する。

 「私は、たしかにTransmetaの元共同創業者という立場にありますが、それだけの理由でEfficeonを選んだわけではありません。むしろ、Transmetaの創業者だからこそ、Transmetaの製品に対しては厳しい目を持っているつもりです。Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationに搭載するプロセッサを選定するにあたり、Transmetaのみならず、インテル、AMDのプロセッサも実際に比較、検討しました。この結果、消費電力あたりの処理性能に最も優れたプロセッサはEfficeonであることが判明しました。Efficeonと比較されるプロセッサには超低電圧版Pentium Mがあります。双方ともに消費電力は8W前後ですので、プロセッサ単体で見ればPentium Mも有力な候補になります」。

 「しかし、Efficeonはノースブリッジの機能を内蔵しているのに対し、Pentium Mはノースブリッジを別途搭載しなければなりません。ノースブリッジを追加することで消費電力が2Wほど増えますので、同じ条件で比べたら絶対的な消費電力の差は2Wあるわけです。2Wといえばささいな違いかもしれませんが、Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationはクラスタ構成なのでノード数ぶんのかけ算になります。つまり、DS-96であればノースブリッジの消費電力は合計192W、電源ユニットの効率が約90%だとすると電源ユニット側の消費電力は213Wも増えます。電源ユニットの供給上限は1340Wですので、そのうち213Wも消費するとなるとノード数をかなり減らさなければなりません。しかし、これでは消費電力あたりの処理性能がEfficeonよりも落ちてしまうのです」。


64ビットプロセッシングへの対応も前向きに検討中

 もう一つ気になる点として、64ビットプロセッシングへの対応がある。Efficeonは32ビットプロセッサだが、クラスタシステムの世界では64ビットプロセッシングへの対応も避けては通れない。Transmetaの元共同創業者としてEfficeonの後継プロセッサに対する64ビット対応を提案するといった働きかけはあるのだろうか。

 「Transmetaに限らず、インテルにもAMDにも消費電力あたりの処理性能が高い64ビットプロセッサを強く希望しています。しかしながら、現時点ではこうした64ビットプロセッサはまだ発売されていません。64ビットに一番近い製品としては、AMDのTurionモバイル・テクノロジがあります。ただし、TurionはEfficeonに対して消費電力あたりの処理性能が半分(32ビットでの比較)となってしまいます」。

 「現状のシステムでは、32ビットプロセッサでも十分な性能が出ていますが、2006年になると64ビットにポーティングされたクラスタアプリケーションが増えるため、64ビットの重要性が急速に増すと予測されます。このようなタイミングで、Turionを搭載した新製品を発売する価値はあると思っています。あくまでも64ビットへの対応を前面に出し、ノード数を減らした新たな製品群として発売することを検討しています(以上、ハンター氏)」。

 80年代に登場したミニコンは大型コンピュータを置き換え、90年代に登場したワークステーションはミニコンを置き換えてきた。このとき、演算性能はあまり落とさずダウンサイジングを推し進めながら、使い勝手を大幅に向上させてきた。そして、今回登場したOrion Desktop/Deskside Cluster Workstationは、標準化されたクラスタ技術を利用することで現行のワークステーションを置き換えようとしている。

 「世界中では、クラスタが急速に普及しています。また、インテルやAMDがマルチコアプロセッサを発売するようになり、パソコンの世界でもある種のクラスタ技術が征服しつつあります。このような状況の中で、ソフトウェア開発者は、ソフトウェアコードのクラスタ版を作らざるを得ない立場にあるといえます。弊社のOrion Desktop/Deskside Cluster Workstationは、ソフトウェアコードをクラスタ向けに移行しようとしているソフトウェア開発者の努力を必ずや実りあるものにするでしょう(ハンター氏)」。

 Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationの価格は、システム構成にもよるが、DT-12は1万ドル、DS-96は10万ドルのレンジになるという。昨年10月に製品の出荷を開始している米国が市場を先行しているものの、すでに豊橋技術科学大学をはじめ、日本の顧客もいくつか獲得し始めている。1GFLOPSあたり1000ドル以下という圧倒的なコストパフォーマンスを達成したOrion Desktop/Deskside Cluster Workstationにぜひ注目したい。


Orion Desktop/Deskside Cluster Workstation向けのソフトウェアパッケージ。Orion最適化ドライバを同梱したFedora Core 2をベースとする。
Orion Desktop/Deskside Cluster Workstationが対象とするクラスタ用途。ライフサイエンス、医療、ビジネス/金融分析、地球科学、製造、政府/国防、メディア/エンターテインメントなど、幅広い用途に対応できる。


URL
  Orion Multisystems
  http://www.orionmulti.com/

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( 伊勢 雅英 )
2005/07/22 00:00

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