IT関連だけでなくビジネス誌や一般紙にも話題にのぼることが多くなったブログやRSS/Atomフィード(以下、フィード)。個人用途だけでなく、商品のプロモーションや顧客とのコミュニケーション窓口、あるいはメールに代わる情報配信ツールとしての認知も広まりつつある。そしてこうしたツールをよりビジネス利用に最適化して、提供しようとする動きも広まっている。
7月に設立されたFBS(Feed Business Syndication)は、こうしたベンダーが集まり、フィードを使ったビジネスモデルの提案やテクノロジーの開発、導入事例を紹介するなど、ビジネス活用を推進するとしている。そこで、主幹メンバーの7社を例に、フィードを使ってどのようなビジネスが展開されているのかまとめた。
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■ RSSリーダー・ブログ機能を搭載したポータルサービス、サイボウズ
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cybozu.netのイメージ
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FBSの事務局を務めるサイボウズは、ブログやRSSリーダー機能を備えたビジネスパーソン向けポータルサイト「cybozu.net」を8月22日より公開した。利用は無料だが、提供される全機能を利用するには、同社または利用者からの招待が必要となる。
現在公開されているcybozu.netはα版で、RSSリーダーで収集したニュースをもとにブログで自分の見解などを書くことをサポートする機能を備えている。しかし、まだ同社が予定している機能はすべて搭載されておらず、またユーザーからバグの発見や要望などを受け付けて、操作性や安定性を向上させている段階だ。
同社プロダクト本部ビジネスポータル事業担当プロダクトマネージャーの小川浩氏によると、今後は社内外にあるビジネスに役立つ情報を効率的に収集・検索する仕組みを実装し、広告(後述のRSS広告社が提供するシステムなどを採用)や、企業・組織へのシステムのOEM提供を主な収入源に事業を展開する予定だという。
■ URL
サイボウズ株式会社
http://cybozu.co.jp/
cybozu.net
http://www.cybozu.net/
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・ サイボウズ、ビジネスパーソン向けポータル「cybozu.net」サービス開始(2005/08/22)
■ フィードを使った広告ビジネスをいち早く展開するRSS広告社
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RSS広告のイメージ
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RSS広告社は、多くのWebサイトやメールマガジンなどで収入源となっている広告をいち早くフィードに持ち込み、ビジネス展開を開始している。読者にとっては賛否両論ありそうだが、記事を解析し、内容に関係しそうな広告を表示することで、読者の趣向にマッチングしやすい広告を表示できるという。
これと似た広告としてGoogleが広く展開している「Adsense」がある。RSS広告社によると、Adsenseとの違いは、Adsenseは1ページ全体にある言葉から表示する広告を決めるのに対し、RSS広告はブログなどにおける1つ1つの記事から表示する広告が決まるので、より精度の高いマッチングが可能になるという。
例えば1つのブログにおいても「グルメ」「旅行」「会社の愚痴」といった具合にさまざまな話題の記事が掲載されていることが多く、それが1ページ内に並んで表示されたとすると、Adsenseではこれらのトピックを総合して解析されてしまい、内容と関係のない広告が表示されてしまう可能性が高い。RSS広告は、フィードが記事ごとにブロック化されるため、グルメの話題の記事ならそれに関する広告を表示されやすく、精度が高くなるとのことだ。
また、フィードに入るタイトルや要約文と広告が混同して読者に不快感を与えるといったことがないように、広告はテキストではなく画像にするといった配慮のある広告メニューも用意されている。
フィードとビジネスを結びつける上で広告は非常に大きなウエートを占めているといえる。次期バージョンのIEにRSSリーダー機能が標準搭載されるなどのきっかけでフィードの利用が広まれば、この市場は爆発的に拡大する可能性を秘めていそうだ。
■ URL
株式会社RSS広告社
http://www.rssad.jp/
■ 関連記事
・ 検索エンジンやRSSを利用した「効率的」広告ビジネスが本格化へ(2005/06/21)
■ 社内専用「イントラブログ」を開発するブログエンジン
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BlogEngine Enterpriseをベースとする日立のイントラブログサーバー「iB」のイメージ
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ブログエンジン株式会社は、ブログをイントラネット内に設置し、社内での情報交換などに利用する「イントラブログ」向けに開発されたパッケージ「BlogEngine Enterprise」の開発を行っている。手軽に記事の投稿やコメントができるといったブログの特徴は変わらないが、企業内での利用に求められる機能がいくつも盛り込まれている。
例えばアカウントやブログの管理機能において、1アカウントでいくつものブログを立ち上げたり、逆に1つのブログで複数のアカウントから記事の投稿ができる。また、ブログごとにアクセスや閲覧、投稿などの権限を細かく設定することができる。イントラブログは、部門やプロジェクトなどでの情報共有やコミュニケーションの促進が主な目的となるので、こうした管理機能の充実が、1ユーザー1ブログが原則のブログと大きく異なるところといえるだろう。
BlogEngine Enterpriseは、Javaプラットフォームとオープンソースソフトウェアを中心に構成されており、エンドユーザーの要求に応じたカスタマイズ提供も可能だ。なお、同社では直接エンドユーザーへの提供は行っておらず、日立製作所のイントラブログサーバー「iB」などへOEM提供を行っている。
■ URL
ブログエンジン株式会社
http://www.blogengine.jp/
■ 世界の社員のブログを公開する「フィードのインフラベンダー」サン
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ジョナサン・シュワルツ氏のブログ
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サン・マイクロシステムズ株式会社は、ほかのFBS主幹メンバーと異なり、フィードに直接かかわる製品の提供は行っておらず、これを支えるテクノロジーの提供を行っている。フィードがサービスとして稼働するにはWebサーバーやアプリケーションサーバーなどが必要であり、サンはこうしたインフラとなる製品や開発ツールのベンダーという位置づけだ。
また、同社はフィードのなかでもAtomへのかかわりが深い。というのは、米SunがAtomの仕様策定に参画し「XMLの第一人者」ともされているTim Bray氏をテクニカルディレクターとして2004年に迎え入れているからだ。Atomは、RSSとは異なるフォーマットで記述されており、対応ソフトウェアの統一的な呼び出し規約「AtomAPI」を規定している。ブログツールなどのプログラムがAtomAPIを実装することで、相互に連携しやすくなるという特徴を持つ。
現在、Feedの生成はPHPを利用するのが一般だが、同社ではJava/J2EEやJavaRSS/Atom Feed APIを活用することで、大規模かつ革新的なフィードアプリケーションの実現が可能となるとしている。
なお、Sunでは社長兼COOのジョナサン・シュワルツ氏をはじめ、ワールドワイドの従業員が参加するブログを公開している。
■ URL
サン・マイクロシステムズ株式会社
http://jp.sun.com/
Sun従業員のブログサイト
http://blogs.sun.com/
ジョナサン・シュワルツ氏のブログ
http://blogs.sun.com/jonathan/
■ 「Googleとは違う方向」の検索サイト、テクノラティ
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Technorati Japanのサイト
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株式会社テクノラティジャパンが運営する「Technorati Japan」は、一言でいえば「ブログ専用の検索サイト」。記事中にあるキーワードを含むブログを更新順に検索することができる。7月1日に国内で正式サービスが開始された時点で国内外合わせて1150万サイトを検索対象としており、また「ブログの数は5カ月ごとに倍増している」と同社では説明している。
ブログ専門検索の特徴は、各ブログで更新された内容が検索結果に反映されるスピードが速いことだ。ブログの更新を伝えるpingを受けると、生成されるフィードをいち早く収集し、内容をデータベースに取り込む。Technoratiで比較的多くのブログで取り上げられていると思われるキーワードを検索すると「○時間○分前(に更新された)」という検索結果が並ぶ。
こうした情報を生かしTechnoratiでは、トップページで過去12時間で最も検索された話題のキーワードを、ほぼリアルタイムで表示している。また、各ブログからリンクされているニュースサイトなどの情報源や、本・DVD・ゲームなどのランキングもあり、常に更新されている。つまり、ブログの特性を生かし、“たった今”ネット上で話題となっているニュースなどがわかるサイトともいえる。さらに、先の衆議院解散を受け8月9日より総選挙特集を開始するなど、注目の話題を新たな切り口で分析するといった試みも行われている。
一般的な検索サイトは、検索結果に反映されるのに早くても2日前後かかるといわれている。同社では「生きている情報をいかにリアルタイムに伝えるか、という点ではGoogleとは違う方向」と説明している。
■ URL
株式会社テクノラティジャパン
http://www.technorati.jp/
■ フィード導入に必要な機能を提供する「RSS Suite」
ルート・コミュニケーションズが提供する「RSS Suite」は、フィードの作成からその効果測定まで、企業がフィードを導入するにあたって必要となる機能をASPで提供するサービス。フィードの生成は既存のWebサイトやメールマガジンなどのソースからの自動生成することができる。さらに情報をジャンル分けし、ユーザーが好みの情報の含まれるフィードを選択して購読できるシステムを構築することも可能だ。
フィードの配信数や、配信したフィードからどれくらいの読者がWebコンテンツにアクセスしたかをカウントし、表やグラフで表示するのが効果測定機能だ。ジャンル別や時系列といった切り口から自社コンテンツの利用傾向やRSSの効果を図ることができる。同社では今後、フィードだけでなくブログやソーシャルブックマークなどからの訪問者のカウントも可能とし、ネット上の口コミによる影響を測定できるように機能拡張する予定だという。また、ユニークな機能として、デスクトップの壁紙にキャンペーンや更新情報を表示する「RSS gadget」というプロモーション向けツールの提供も行っている。
代表取締役の塚田耕司氏によると、クライアントにはさまざまな業種があるが、特に「人材派遣や不動産売買、旅行代理店」といった業種で導入や問い合わせが増えているとのこと。次々と発生する大量の情報をWeb上でエンドユーザーに伝える手段としてフィードへの注目が集まっているといえそうだ。
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RSS Suiteの効果測定イメージ
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壁紙にフィードを使って情報提供する「RSS gadget」
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■ URL
株式会社ルート・コミュニケーションズ
http://www.rootcom.jp/
RSS Suite
http://www.rsssuite.jp/
■ 研究者の視点からフィードの活用方法を提案するグルコース
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RSSリーダー「glucose」
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有限会社グルコースは、国立情報学研究所や早稲田大学の学生らによって設立されたベンチャー企業。RSSリーダー「glucose」、RSS配信サーバー「glucose server」の開発・提供をしており、NTTレゾナンドのポータルサイト「goo」が提供する「goo RSSリーダー」にも同社の技術が活用されている。ちなみに、このgooへの技術提供が会社設立のきっかけであったという。
glucoseは、一般的なメーラーと同じ3ペイン型としてはかなり早い段階でリリースされたフリーウェア。同じコア技術を持つgoo RSSリーダーと合わせると、これまで30万以上のダウンロードがあり、数あるRSSリーダーの中でも高いシェアをほこるとしている。同社はこのglucoseを核に、gooリーダーのようなソフトウェア開発やRSS広告に関する技術提供により収入を得ているという。
しかし、同社の大向一輝氏によると、glucoseは同社の構成メンバーの研究課題である「メタデータの設計と活用」における成果物の1つという位置づけのようだ。フィードは、データの属性を一定の書式で定義し、効率的な検索やWebサービスを実現するメタデータと深い結びつく。グルコースがFBSに加盟したのは、研究者として、フィードの商用利用が進むにつれて予想される“ベンダーによる独自の拡張によってフィードの意義が崩壊する”ことを防ぐ「お目付役としての立場もある」と大向氏は語っている。
■ URL
有限会社グルコース
http://glucose.jp/
( 朝夷 剛士 )
2005/09/02 08:50
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