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サーバーの生産拠点に見る、NECのものづくり改革への取り組み

山梨県甲府のNECコンピュータテクノ訪問記

山梨県甲府にあるNECコンピュータテクノの外観

 日本電気株式会社(NEC)は9月28日、同社のサーバー製品の生産拠点である山梨県甲府のNECコンピュータテクノの様子を報道関係者に公開。同時に、同社のものづくり改革への取り組みを明らかにした。

 同社では、今年7月15日付けで、ものづくり革新ユニットを新設。片山徹執行役員専務を担当として、全社規模でのものづくり改革に挑んでいる。その改革は、生産拠点の効率化だけにとどまらず、全社物流網との連動、営業部門との連動など、全社を横断するSCMにまで及んでいる。

 「生産革新は、経営革新そのものといえ、今後は、この取り組みを、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアおよびSIサービスにも広げていくことになる」と片山執行役員専務は語る。

 サーバーの生産を行うNECコンピュータテクノは、物流までを含めた生産革新の成果が出ている最先端工場のひとつともいえ、10月末からは、首都圏に限定して、これまで発注から納品まで5日間かかっていたサーバーの納期を、4日間に短縮。他社にまねができない体制をつくりあげた。これも生産革新および物流革新による成果だといえる。

 NECコンピュータテクノでの取り組みをベースに、同社のものづくり改革への取り組みを追った。


片山徹執行役員専務
山本正彦執行役員常務
NECコンピュータテクノ 那須賢治社長

トヨタ生産方式による生産革新

NECコンピュータテクノが取り組んできた生産革新

生産革新による高い効果があがっている
 NECは、1992年から、同社の生産拠点であるNEC長野にトヨタ生産方式を導入し、生産革新に取り組んできた。

 94年には、日本初の一人完結型のセル生産方式である「ワープロ屋台」を導入するなど、1人あたりの生産性を2倍に、フロア生産性を10倍にするなどの成果を収めてきた。

 この生産革新は、NEC長野以外の同社の生産拠点にも広く受け継がれたほか、各生産拠点に定期的にトヨタ出身のコンサルタントが訪問。トヨタ生産方式は、NECの生産拠点における共通的な考え方として浸透してきた。

 パソコンを生産している米沢の生産拠点では、生産性が6.5倍、活フロア15000平方メートル、棚卸資産半減という成果も出ていたという。

 だが、生産拠点の効率化は推進されても、その前工程となる営業部門からの受注情報の入手、計画生産予測の精度向上などの改革、さらに生産後の物流、納品といったシステムの見直しが遅れており、生産改革の成果が十二分に発揮されているとはいえなかった。

 そこで、NECは、生産改革の領域を、受注から納品に至るまでのインフラ全域に拡大。物流改革と連動した取り組みへと進化させてきた。

 「生産現場を中心にムダ取り、流れ作りを行ってきた革新運動を、バリューチェーンに関わるすべての直接、間接部門に展開する。ジャストインタイム、自働化というトヨタ生産方式の柱とともに、平準化という3つめの柱にも取り組み、市場の振れを吸収し、効率よく生産を行うためのサプライチェーンマネジメントの確立に取り組んできた」と片山執行役員専務は語る。

 営業部門は受注が確定すると、生産拠点に対して、製品の種類、搬入日、納地を指示。これを受けた工場ではリアルタイムでの納期回答を行い、同時に、部品の調達指示をカンバン方式で行う。また、これらの物流は、すべて定期配送便の動きにあわせて行われるようになる。生産された製品は、同様に定期配送便を利用して、客先最寄りの配送センターで品揃えされ、直接、顧客先に搬入されることになる。

 定期配送便は、同社の各生産拠点、半導体や液晶モジュールなどのグループ会社の生産拠点も定期的に巡回しており、複数の工場間で同期した物流網を作ることで、コストの削減とともに、納期の明確化などが図れるようになったという。


NECは、生産拠点で実現した生産革新を、物流、営業、マーケティングへと広げた。
NECが実現した物流改革。営業、工場、物流との連動によって実現した。
これがNECが構築した定期配送便体制。この配送便の動きにあわせて、調達、生産が進められ、納期が決定する。

 現在、NECでは、ネットワークおよびIT製品に関しては、リアルタイム納期回答および100%の納期回答遵守を実現。「お客と工場が直結し、営業、生産、調達、納品までがすべて同じルールで運用することで実現した仕組み。業界最先端の生産、物流体制が構築できた」(NEC執行役員常務・山本正彦氏)としている。

 生産および物流体制の改革によって、サーバーおよびビジネスPCでは、注文から納品までのリードタイムを2分の1に短縮したほか、納期に関するトラブルやパートナーからの納期問い合わせ件数が激減。その分、NEC社員が販売パートナーに対する営業支援を行える体制を確立できたという。また、生産棚卸では、全体で約4割の改善、計画生産品では約8割減といった改革が実現した。さらに、物流では、外部倉庫を約6割減としたほか、運行トラック台数も約4割減とした。

 こうした物流改革は、生産拠点が強くなることが前提だという。「強い生産拠点が完成することで、物流や需要の変動を吸収し、はじめて効果的な仕組みができあがることになる」と山本執行役員常務は語る。


最先端生産拠点、NECコンピュータテクノでの取り組み

 NECコンピュータテクノは、サーバーやスーパーコンピュータの生産などを行う拠点である。

 山本執行役員常務は、「生産拠点と営業の間には、なんともいえないお互いの不信感があった。いったとおりに物を作ってくれないと営業がいえば、せっかくいい物を作っても、営業が売ってくれないと工場側がいう。生産革新は、こうした双方の不信感を取り除くところから始まった」と、2000年に開始したNECコンピュータテクノにおける生産革新のスタート当時を振り返る。

 NECコンピュータテクノでは、トヨタ生産方式の導入によって、流れラインの導入、水すましと呼ばれる部品供給係を採用した工場内レイアウトの変更、工程の連続化や工程の単純化、カンバン化の促進に加え、工場内でのストアづくり、ルート便化などの物流分野にもメスを入れはじめた。さらに、出荷便と連動した生産方式の導入、自働化への転換などを進めた。

 その結果、「BTOによる受注生産にも柔軟に対応でき、納期回答も即時に行える体制を作り上げ、さらに、物流改革によって、資材調達の改革、出荷便にあわせた生産による納期日時の保証といった効果も生んだ。市場のニーズに敏感に反応し、個別の管理者を置かなくても、全体がひとつのシステムとして自律的に機能する生産の仕組みができた」と、NECコンピュータテクノの那須賢治社長は語る。

 現在、NECコンピュータテクノでは、97年に比べて、生産リードタイムを5分の1に削減、棚卸資産を60%削減。さらに、生産性を4倍、製品品質を2倍に引き上げたという。


NECコンピュータテクノは、トータルコスト競争力で「中国に勝つ」と宣言する。
 「コスト競争力、技術開発力、変動対応力、効率的な生産、生産技術力、設計・製造品質といったトータルコスト競争力において、中国の生産拠点に勝てる力があると判断している。これは、生産拠点の革新だけではなく、全社トータルの革新によって実現されるものであり、それがそのまま経営革新に直結することになる」と、那須社長は語る。


全社に波及するものづくり改革

 生産革新は、経営革新とする同社にとって、この考え方は、DNAとしてNEC全社に定着させる必要がある。

 ものづくり革新ユニットの存在意義もそこにある。

 片山執行役員専務は、「売り上げが横ばいのなかでも、きちっとした利益を出すには、外部に流出する費用を削減することが必要。その点でもものづくり革新の果たす役割は大きい」と語る。

 ものづくり革新ユニットでは、プロセス改革と付加価値取り組み活動の2本の柱を掲げる。

 プロセス改革では、キーコンポネント価格の低減や開発購買の推進などによって、2005年度には前年比14%減にあたる3300億円のコストダウンを図るほか、開発プロセス改革として、外注費の抑制やプロジェクトマネジメントの強化に取り組む。また、SCM生産革新として棚卸残高で前年比約1割減、回転日数で同社初の40日を切るレベルにまで引き下げる考えだ。


ADSLモデムでの付加価値取り込み事例

生産革新を経営革新につなげると片山執行役員専務は語る。
 一方、これまで外部流出していた付加価値を取り込む方向で、今年度400億円の固定費削減を目標とする活動を開始する。すでに、ADSLモデムでは、これまで外部から調達していた部品を内製化へとシフトすることで、付加価値の内部取り込みに成功している。

 部品だけでなく、製造装置の内製化なども大きく寄与することになる。

 「グループ内調達の促進によるバリューチェーン強化を進めることで、装置とデバイスの両部門が、開発段階から製品ロードマップを共有し、グループ内のキーパーツの競争力強化にもつなげることができる。これにより、全社規模での経営革新へとつなげる」(片山執行役員専務)という目標にも挑んでいる。

 そして、NECが今後取り組むものづくり改革は、ハードだけでなく、ソフト、SIサービスにも展開することになる。

 NECの生産革新は、生産拠点での革新にはじまり、物流、営業を巻き込んだサプライチェーン全般へと広がることで成果を収めている。これを、今後は、横展開することで、NEC全社およびグループ会社を巻き込んだ経営革新へと発展させることになる。


 NECコンピュータテクノは、サーバー、スーパーコンピュータなどの生産拠点。マザーボードからの一貫生産を行っている。その様子を紹介しよう。


生産棟4階は、マザーボードの生産ライン。SMTラインが4本設置され、一日約700枚のボートが生産される。多品種少量生産となり、40種類以上のボードを混流生産している。4Wayのサーバーでは約4000点の部品が実装される。混流のため、一日7回の段取り替えを行うというが、かつてはその作業に30分かかっていたものを、現在は10分でできるようになったという。
マザーボードの検査ライン。自動化した検査システムによる確認のほか、目視でも行われる。間締めで13メートルのラインスペースの削減に成功。これにより検査ラインの最後には、完成品ストアを設置することができた。現在、同ストアには0.5日~1.5日の在庫を確保。カンバン方式によって、マサーボードが組立ラインに投入される。

3階のサーバー生産ライン。黄色の服はライン担当者を示す。管理者は赤などの色分けがされており、ひと目でわかるようになっている。
工場内はトラベラーと呼ばれる生産指示書によって生産が進められる。すべてバーコードで管理されているが、スーパーコンピュータでは、RFIDによる管理システムの導入が始まっている。

これがNECコンピュータテクノで使われているカンバン。信玄と呼ばれる管理システムからの受注情報をもとにカンバンを発行する。
カンバンは、部品をとると、前工程に送られることになる。

部品ストア。重要度によって色分けされており、重要なものは安定的に部品を確保するように注意している。
部品ストアはラインの近くに置かれている。かつては風林火山の4ラインがあったが、風ラインと火ラインを統合して北斗ラインを新設。現在、林、山、北斗の3ラインで、旧4ライン体制以上の生産数量をこなしている。
部品は、みずすましと呼ばれる供給係が、カンバンの指示にあわせて供給する。供給の台などはすべて手作り。

ラインの部品棚は上下稼働式となっており、それを動かすことで異機種混在の生産でも柔軟に対応できるようになっている。 ラインには、モニターが設置され、部品の取り付け指示などが示される。これも混在生産への対応手段のひとつ。

風ラインと火ラインを統合した北斗ラインの横にポッカリあいた空きスペース。ここの効率活用がこれから始まる。
生産されたサーバーは、梱包され出荷口へ。下の白い線は、トラックの大きさと同じ。青い線のなかに製品を積み込む。便別の積み付け予約が行われる。定期便には自由席も一部用意し、配送体制に柔軟性を持たせている。

部品などの入荷口は1階にある。入荷時点で、ラインごとに仕分けされる。
工程から降りてきたカンバンを、1階の部品入庫口で仕分けする。TOPICSと呼ばれるソーティングマシンによって、サプライヤーごとにカンバンを取りまとめ部品を発注する。
かつてここには自動倉庫があったが、これを昨年12月に撤廃した。

自動倉庫跡には、機械加工設備を導入し、機械加工の内製化に取り組む。現時点では教育機関や研究所、他の工場にあった古い機械を集めただけだが、今後、モールド加工までやりたいという。
現在、機械加工設備では、マザーボードの生産ラインで使用するマスキングボードを内製化。5分の1のコストで生産できるという。将来的には、外販も予定している。


URL
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/

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( 大河原 克行 )
2005/10/04 00:00

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