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Oracleの次世代IT基盤「Fusion Middleware」を探る【第一回】

Oracle Fusion Middlewareとは何か?

 「Oracle Fusion Middleware」(以下、Fusion Middleware)とは、米Oracle、国内では日本オラクル株式会社が提供するミドルウェア製品群の統一ブランドである。2005年に発表された「Project Fusion」では、Oracleが保有するアプリケーション群「Oracle Applications」を2008年までに融合し、統合型アプリケーション製品として提供できるように開発を進めていくという。このProject Fusionには、PeopleSoft、JD Edwardsなど新たにOracleの製品群に加わったものも含まれる。そして、このProject Fusionを支える基盤となるミドルウェア製品群がFusion Middlewareなのだ。

 この特集では「Fusion Middlewareとは何か」という基本的な疑問を解決し、その本質を明らかにしていく。そのため各回において、日本オラクルの担当者に直接取材しながら、Fusion Middlewareの全体像に迫る。1回目となる今回は、Fusion Middlewareの概要について、執行役員 システム事業推進本部長の三澤智光氏に話を聞いた。


Fusion Middlewareの製品戦略構想とは

Fusion Middlewareのアーキテクチャ。データベース、ミドルウェア、アプリケーションのすべての層でデータ、プロセス、セキュリティが統合される
 Fusion Middlewareは、アプリケーションサーバーを中心に、ミドルウェア層でアプリケーションを連携させるEA(Enterprise Architecture)基盤となる製品群である。革新的な価格と包括的なコンポーネント構成で支えられているFusion Middlewareは、セキュリティを確保しながらデータやプロセスを統合し、アプリケーションの連携によってサービスとして提供する。

 EA基盤となる上でOracleがもっとも重視していることは、「標準化された技術の上に構成されること」である。そのためFusion Middlewareでは、Webサービス、ESB(Enterprise Service Bus)、あるいはBPEL(Business Process Execution Language)といった標準的な技術を使用して、SOA(Service Oriented Architecture)を実現しようとしている。

 無論、「標準的な技術」といううたい文句は、ほかのミドルウェアベンダでも同じように使っている。現在のITがおかれている状況を考えれば、過去の投資を活用し必要な部分に効果的に投資できるSOAはユーザーの自然な要望であり、標準的な技術の上に構成されていることが必須条件となる。では、Fusion Middlewareはほかのミドルウェアと何が違うのだろうか。

 三澤氏によれば、Fusion Middlewareの最も大きなアドバンテージは、データ、プロセス、セキュリティの統合を行うコンポーネントがすべて、ミドルウェアの一部として提供されていることにあるという。これまでのようにBest of breed型に製品を組み合わせて利用するのではなく、Oracleのデータベース製品もが、コンポーネントとして統合化されている。同社がこれまでデータベースのトップベンダとして培ってきた技術がFusion Middlewareと密接に結びつき、データ統合やセキュリティ統合が非常にシンプルな形で実現できる。これが、Fusion Middlewareの強みなのである。


ベンダロックオンではない「ホットプラガブル構想」

 このように、Fusion MiddlewareとしてOracleが多くのコンポーネントを提供しているため、いくら標準の技術を多く用いているとはいっても、「これを導入するとベンダロックオンになってしまうのではないか?」と思う人もいるだろう。しかし、Oracleはなにも「すべてをOracleの製品に置き換えろ」と言っているわけではない。これは、2005年のOracle OpenWorldで発表された「ホットプラガブル(Hot-Pluggable)構想」からもうかがうことができる。Plugという言葉が示すように、Fusion Middlewareのコンポーネントは、差し込んだり埋め込んだりすることができる。たとえば、アプリケーションサーバーがIBMやBEAの製品であっても、Fusion Middlewareのほかのコンポーネントの動作は保証されるということである。これが同社がアプリケーションサーバーや各コンポーネントを標準技術に準拠させることに徹底してこだわる理由である。

 「結局のところ基盤は何でもいいのではないでしょうか。重要なのは必要なサービスが提供されることであって、どの基盤の上で実現されているかではありません。なぜ日本企業の多くはJ2EEのエンジンに何千万円もお金を払っているのでしょう。J2EEのエンジンそのものに価値があるとすれば、運用管理がどれだけ楽かという程度の問題です。究極的にはフリーになっても構わないとすら思います」(三澤氏)。

 ベンダの立場から考えれば、すべて自社製品を採用してもらうことにこしたことはない。ユーザーにとってみても、データベース、アプリケーションサーバー、そのほかのコンポーネントも同一の製品でそろえるほうが、管理が一元化がしやすく最終的にはコストが安く抑えられることが多い。しかし、すでに動いているシステムを、そっくりOracle製品に移行するというシナリオは現実的ではない。やはり多くの企業ではFusion Middlewareの中の欲しい機能だけを部分的に導入していくことになるだろう。同社が提供する製品でプロプライエタリなのはデータベースくらいなものである。もちろん、このような部分導入であっても、Fusion Middlewareは効果を期待できるという。そして、その結果としてほかのサービスでもFusion Middlewareを利用したいと思わせることができれば、Oracleのミドルウェア戦略は成功したと言えるだろう。

 「Oracle製品が嫌なら、(採用を)やめてくれても別に構いません。同じアーキテクチャにのっとっているのであれば、アプリケーションサーバーや、その他のコンポーネントがどのベンダのものであってもいいのです。しかし、ここまでの思想でミドルウェアを開発しているベンダが当社以外のどこにあるでしょうか」(三澤氏)。


サービス提供で鍵となる「拡張性と可用性の確保」

執行役員 システム事業推進本部長の三澤智光氏
 さらに三澤氏は、「ITは将来的にソフトウェアそのもののライセンスではなく、サービスとして提供されるようになる」と考えている。もはやエンドユーザーにとってサービスのバックエンドが何で実現されているかは問題ではなく、サービスレベルが保たれていることだけが重要になるというのだ。いっぽうサービスを提供する側の利益は、ユーザーと契約したレベルでサービスを実現するためのコストに大きく左右されることになるという。

 「仮に10%ユーザーが増えたためにパフォーマンスが低下してしまったことを想定してください。お客様から見れば10%増えただけなのですから、請求額も10%増しか納得はしてくれません。ところがサービス提供者はハードウェアを増強し、契約したサービスレベルを維持しなければならないのです。このような状況でサービス提供者は、4CPUから8CPUのサーバーに買い換えなければならないのでしょうか。それよりも安価なサーバーを並べて、グリッドでサービスを実現するほうがいいではないですか」(三澤氏)。

 仮想化技術はどのベンダも積極的に取り組んでいる課題である。前述の例のようにシステムのスケーラビリティの確保という面だけではなく、システムの可用性という側面からもグリッドの技術は重要な意味を持っている。Fusion Middlewareでは、ストレージ、サーバー、データベース、アプリケーションサーバー、アプリケーションをプールして透過的に分散できるようになっている。データベースやアプリケーションが特定のハードウェアに縛られていないので、いずれかのサーバーがダウンしても、ほかのサーバーが作業を継続することができる。

 また、アプリケーションサーバー上のコンポーネントは冗長構成が可能なように設計されているため、これらのコンポーネントの上で動作するアプリケーションの可用性も向上させることができる。もちろん、バックアップ、クラスタリング、障害検知、障害時リカバリといった機能も充実している。さらにFusion Middlewareでは、ワークロード管理機能やプロビジョニング機能によって、システムの負荷を制御して適切に分散させることができる。システム負荷に応じてリソースを効率よく利用できるのだ。

 「企業でSOA導入が進めば進むほど、データベースの拡張性と可用性が重要になります。カットオーバーしたあとにも変わり続けるデータベースやアプリケーションを、どのように監視して管理するか、どのように自動化するのかが課題になるでしょう」(三澤氏)。


なによりも求められるのは“コスト”

 では、Fusion Middlewareで実際に解決できる課題とは何だろうか。まず挙げられるのは、コスト面だという。今さら指摘されるまでもなく、現在多くの企業がITのコストに悩んでいる。この現状を三澤氏は、「企業がコストに執着せざるを得ないのは、バラバラに散っているソフトウェアをつなぎ合わせることが現在の重要な課題になっているため」と分析する。これまで一般的な企業のシステムでは、部門ごとにシステムが構築され、それぞれ独立したデータベースと個別の業務アプリケーションを動かしていた。企業内で複数のシステムが縦割りで存在しているため、他の部門とのアプリケーション連携が困難で、重要な資産である「情報」はそれぞれのシステムに散在するという問題を抱えてしまうのだ。

 「レガシーマイグレーションなど、まったく異なるアーキテクチャの上で動いているアプリケーションを融合させたいと思ってはいても、コストが膨大であるため踏み切れない企業が多いのが現実です。コストの問題があまりにも大きいため、現在のITの停滞にもつながっているのです」(三澤氏)。

 問題となるITのコストとは、ハードウェアやソフトウェアのイニシャル、ランニング、運用管理の各コストである。また、Best of breedでシステムを構築するのであれば、さらにインテグレーションのコストが必要となる。このようにFusion Middlewareは、ITが抱えるコストの問題を解決するための、Oracleからの回答である。過去の投資を有効に活用できるSOAの基盤、グリッドコンピューティング、データベース層からアプリケーション層まで統合された管理機能による運用コストの削減など、ソフトウェアそのものの価格だけでは計れないベネフィットが存在する。そして何よりもOracle Data Hubsによってシングルデータモデルが提供されるため、ミドルウェアのレベルで情報を統合的に管理することができるようになる。この段階で、これほどデータベースとの統合が進んでいる製品は、いまのところFusion Middlewareくらいなものだろう。


すでに待ったのきかない「コンプライアンスの遵守」

 また、コストと同じかそれ以上に深刻なのが、セキュリティの問題である。個人情報保護法や日本版SOX法など、日本でもITに関連する法整備が進んでいる。企業は可及的速やかにコンプライアンスを順守するように、ITを変えていかなければならない。Fusion Middlewareでは、Identity Managementなどの、セキュリティやID管理を一貫して管理するインフラストラクチャを提供している。また、データベースのレベルでも暗号化や監査といったセキュリティに関する機能が提供されている。

 「もはや経営とITは融合せざるを得ないところまできています。日本版SOX法が施行された場合、経営者は自分たちのシステムが安全であることを証明できなければなりません。アプリケーションロジックがどうなっているのか、脆弱性はないのか、あるいはどのような改善が必要なのかを証明するには、システムの監査を自動化するしかありません。プログラムレベルでシステム全体を監査する当社のEnterprise Managerのような“ツール”が必要になるでしょう」(三澤氏)。

 三澤氏の指摘するように、ビジネス層もITに対して、無関心でいることはできない状況にきている。たとえ企業のトップであっても、今や情報システム部門に「任せた。やっておけ!」では通用しなくなった。業務プロセスがどのように動いていて、どのようなアプリケーションが、どのように連携しているかを明確にし、その上で自分たちの開示している情報は正しいのだということを証明しなくてはならないのだ。これは自分たちの業務を知っているビジネス層の役割である。もちろんビジネス層の要求をITに反映させるのは、情報システム部門の役割である。


 「仮に個人情報漏えいが起こったとして、情報が漏えいしたことを証明できるでしょうか。また、『自分たちはここまでセキュリティコンプライアンスの高いシステムを運用していたが、不幸にも情報が漏えいしてしまった』と証明できなければ、生き残っていくことはできません。Oracle Database 10gには、ファイングレイン監査という機能があり、重要な情報に誰がいつアクセスしたのか追跡することができます。しかし、パフォーマンスの低下を理由に、このスイッチを入れていない企業も多いのです。あと少しハードウェアに投資すれば回避できる問題なのに、セキュリティへの投資を惜しんだ結果、コンプライアンスが順守できなくなってしまうのです」(三澤氏)。


データベース、ミドルウェア、アプリケーションを総合的に提供することの強み

 Fusion Middlewareは、企業のITが「本当に効率よく業務を進めるにはどうしたらいいのか。どうしたらシステムのセキュリティを維持できるのか」という視点で開発された製品群である。

 「企業内に複数のシステムが縦割りに分断して存在し、それぞれのアーキテクチャも異なるような状況で、どのようにITのコストを削減してセキュリティを確保していくのでしょう。これらITの直面している問題に対して、Oracleのアプローチ以外のどんな方法で実現できるのか逆に問いたいです」(三澤氏)。

 このように三澤氏がのぞかせる自信は、Oracleが明確なコンセプトをもって、データベース、ミドルウェア、アプリケーションのすべての層で製品を開発しているという裏付けがベースになっている。これまでデータベースベンダとして広く認知されてきた同社であるが、ここ数年はアプリケーションやミドルウェアの戦略も強く推し進めている。データベース、ミドルウェア、アプリケーションを融合させるための基盤となるFusion Middlewareは今後の注目に値するだろう。

 次回は、Fusion Middlewareのうち、企業内に分散している情報を効率的に管理するためのOracle Data Hubsに焦点を当てて、具体的なメリットを考察する。



URL
  日本オラクル株式会社
  http://www.oracle.co.jp/
  Oracle Fusion Middleware
  http://www.oracle.co.jp/products/middleware/


( 北原 静香 )
2006/01/27 00:00

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