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Oracleの次世代IT基盤「Fusion Middleware」を探る【最終回】

BIプラットフォーム「Oracle Business Intelligence」

 連載の最後となる今回はFusion Middlewareのビジネスインテリジェンス・プラットフォーム「Oracle Business Intelligence(以下、Oracle BI)」についてである。「ビジネスインテリジェンス」とは、企業内に蓄積されたデータを分析・加工し、ビジネスの意思決定に必要な情報をとりだすという仕組みである。

 ご存知のように、Oracleはデータを扱う高い技術をもったベンダである。また、ビジネスインテリジェンスとは、「データ」をビジネスに価値のある情報として加工するための技術である。そのためビジネスインテリジェンスは、ほかのFusion Middlewareのコンポーネントや、Oracle Databaseが持つ機能を連携させることで実現する仕組みであるともいえる。そこで今回は、日本オラクルのシステム事業推進本部 営業推進部 マネージャー 枇榔(びろう)貴子氏より、ビジネスインテリジェンス戦略について話を聞いた。


Oracleのビジネスインテリジェンス戦略

システム事業推進本部 営業推進部 マネージャー 枇榔(びろう) 貴子氏
 「ビジネスインテリジェンス」という言葉自体は、80年代の終わりに米Gartnerのアナリストが使いはじめたのが最初だといわれ、それほど新しい概念ではない。日々業務を支えるITシステムが蓄積する情報は、企業の抱える資産であり、その数値的なデータの裏づけによって、的確な意思決定を実現しようというのが目的である。

 ITに対して積極的な企業では、数年前からビジネスインテリジェンスを導入しているケースもある。しかし「分析処理に時間がかかる」「利用できるデータの蓄積量に乏しい」「データの整合性がとれない」「企業内に分析の専門家がいない」といったことが原因で、それほど定着している企業は多くないのが現状である。

 ところが、ハードウェアの処理性能が向上したこと、ユーザーの情報リテラシーが向上したこと、そしてなによりERPパッケージなどの普及によって分析の対象となるデータが蓄積されるようになったことによって、ビジネスインテリジェンスがあらためて注目されるようになってきた。

 「Fusion Middlewareではこれまで部門ごとに分散したデータも統合できるようになっています。最近では部門システムにも多くのデータが蓄積されるようになってきました。このようなデータをビジネスに生かさない手はありません」

 またOracleでは、Oracle BIによって、企業全体でさまざまな角度からの分析データを、さまざまな立場のユーザーに提供しようと考えている。そのため、現状ではOfficeソフトなどでデータの集計や分析を行っている層も、Oracle BIの潜在的なユーザーと認識しているようだ。

 「データ分析というと、多次元データベースなど大掛かりな分析を想像されやすいのですが、Excelによる売り上げ管理など日々の業務でデータを分析している人は意外に多いのです。今後のビジネスインテリジェンスは、現場担当者などステークホルダー全員が、業務の状況を把握するために必要な情報を確認できるような技術になっていくと当社は考えています」(枇榔氏)。

 このようにOracleが提案するビジネスインテリジェンスは、これまでのような経営者やアナリストといった経営層に特化された機能ではなく、企業全体で経営情報を可視化するしくみを目指している。そのためには、Data Hubsによるシングルデータモデルや、プロセス統合、セキュリティ基盤などFusion Middlewareで実現している機能が、なくてはならないものになってくるのである。


「Business Intelligence Discoverer」による検索・分析機能

Oracle BIによる分析画面のイメージ
 ビジネスインテリジェンスというと、ポータルから分析レポートや業績指標(KPI)を見るものだと思っている人も多い。もちろんOracle BIにも、検索・分析のための「Oracle Business Intelligence Discoverer(以下、Discoverer)」というツールが提供されている。

 Oracle DatabaseのデータやOracle Databaseに統合されているOLAP機能、マイニング機能は、すべてDiscovererから利用できるため、Javaアプレットベースの「Discoverer Plus」によって、GUIからデータベースの情報を検索・分析を実行し、作成した分析レポートはDiscoverer Viewerによって、Webブラウザから情報の共有と分析ができる。同じ情報をDiscoverer Portlet Providerによって、ポータル上で公開することも可能だ。また、Discovererでは、HTMLやPDFといった標準的なフォーマットでファイルに出力することもできる。

 さらに定型帳票ツールの「Oracle Application Server Reports Services」からは、ファイルへの出力以外にも、印刷リクエストなどパブリッシングのさまざまな機能が提供されている。また、J2EEエンジン上のReportsランタイムをコールすることで、Reports JSP機能が実装され、任意のHTMLファイルにデータベースから抽出したデータを埋め込むこともできるようになっている。

 「Discovererなどビジネスアプリケーションとして華やかな部分は、Oracle以外のベンダもいろいろな製品をもっています。一見するとこれらの製品にはそれほど差がないように見えますが、当社のビジネスインテリジェンスは、このデータを見せるためのバックエンドがほかのベンダとは大きく異なります。リアルタイム・ビジネスインテリジェンスをデータベースのレイヤから保証することができるのは、いまのところ当社だけです」(枇榔氏)。


リアルタイム・ビジネスインテリジェンス

Oracleのビジネスインテリジェンスソリューション
 枇榔氏が触れたように、Oracle BIの特長は、「リアルタイム」なビジネスインテリジェンスであるということだ。もちろんリアルタイムといっても、それが数秒前なのか、数分前なのか、あるいは数時間前なのかといったレベルの差はあるが、重要なことは必要な情報を分析したいというニーズが発生した場合に、最新の情報をすぐに入手できる状態に維持されているということである。

 必要な情報をすぐに入手するというのは、非常に当たり前のように思う人もいるかもしれない。しかし、従来からあるビジネスインテリジェンスでは、データウェアハウスに蓄積されたデータをそのままの形では利用しない。まず業務システムからのデータは、ETL(抽出:Extract、変換およびクレンジング:Transform、挿入:Loading)のフェーズを経て、データウェアハウスへと蓄積される。

 しかし、従来型のビジネスインテリジェンスでは、データウェアハウスに蓄積されたデータを部門や業務といった用途にわけて、個別のデータマートとして格納するのである。つまり、企業内には目的別のデータマートが複数存在することになる。そして格納されているデータに対して、時間、地域、製品カテゴリといった多面的な分析がOLAP(Online Analytical Processing:多次元分析処理)ツールによって実行された後、やっとユーザーの求める分析データが生成されるのだ。

 「ほかのベンダのビジネスインテリジェンス製品と比較した場合もっとも特徴的なのは、当社製品が複数のデータマートを持つ必要がなくなるということです。データマートが分散している従来型のビジネスインテリジェンスでは、データの蓄積や分析に段階を踏まなければならないので、どうしても情報の新鮮味が薄れてしまいます。さらに、組織変更や製品カテゴリの変更が発生すると、データマートを作りかえる必要があり、これはかなり工数のかかる作業になります。そしてなにより、分散したデータマートは管理が大変です」(枇榔氏)。

 Oracleの提唱するリアルタイム・ビジネスインテリジェンスでは、蓄積されたデータを複数のデータマートにわけることなく、Oracle Databaseの上で一元的に管理する。もちろん、OLAP機能もOracle Databaseに統合されている。

 ほかのベンダがデータマートを分散させるのは、取り扱うデータを小さくすることで処理性能を向上させたり、多くの要求がひとつのデータウェアハウスに集中することを避けるためである。しかし、Oracle Databaseであれば、大量に発生するトランザクションを効率よく処理し、さまざまな要求にも応じることができる。つまり、Business Intelligenceは、Oracle Databaseの機能の高さに支えられているのである。また、Oracle Database 10g Release 2には新たにデータマイニングの機能が実装されたため、ビジネスインテリジェンスでも効果的に活用できるようになった。


統合されたアーキテクチャとセキュリティコントロール

 そもそもビジネスインテリジェンスは「経営情報」という企業にとって重要な資産を扱う機能であり、そのセキュリティは重要な課題である。これまでビジネスインテリジェンスではデータを共有することに重点が置かれることが多かったが、ビジネスインテリジェンスを利用する層が増えるにつれて、どのようにデータが管理されるかをしっかりと意識する必要に迫られている。

 「個人情報保護法や(制定が予定されている)日本版SOX法といった法律が広く認知されるようになったために、データに対するお客様の意識も変化しています。これまでのビジネスインテリジェンスは情報共有を主眼に考えられてきましたが、これからは『誰に』『いつ』『どんな情報を』公開するのかをコントロールし、その上で情報共有を実現しなければなりません」(枇榔氏)。

 Oracleのビジネスインテリジェンスでは、データは統合されたデータウェアハウスで管理されるため、ここでも、ID管理、データの暗号化、監査ログの収集といったFusion MiddlewareとOracle Databaseの統合的なセキュリティ管理基盤の威力が発揮される。目的別にデータマートを複数もっていると、それだけ管理しなければならない項目が多くなり、情報が漏えいするリスクも高くなる。この意味でも、データマートが統合されているがゆえのメリットを受けることができるわけだ。


データベース、ミドルウェア、アプリケーションが統合されているからこその強み

 ビジネスを支えるビジネスインテリジェンスは、いま表示されている情報がいかに新鮮で、質の高いものであるのかが重要なポイントである。Oracleでは質の高いデータをより迅速に収集して分析するには、データを一元的に管理して、ビジネスプロセスとデータを統合し、大量に発生するトランザクションを効率よく処理するアプローチが最適であると考えたのである。そして、それこそまさにFusion Middlewareの目指すデータベース、ミドルウェア、アプリケーションのすべての層で統合された形ということもできる。

 この連載ではFusion Middlewareを構成するいくつかのコンポーネントに注目して、Oracleが目指している次世代のIT基盤がどういうものであるのかに迫ってみた。紹介できなかったコンポーネントもあったが、Oracleが目指す次世代のミドルウェア戦略とは、情報を資産としてきちんと管理し、SOAの基盤となり、ビジネスのプロセスをITで効率化するという非常に基本的な機能だということが理解いただけただろう。

 しかし、その基本的な機能を同じアーキテクチャの上で、しかも統合的に提供できるベンダはそれほど多くはない。繰り返しになるが、Oracleがデータベース、ミドルウェア、アプリケーションというすべての層において製品を展開しているからこそ、こうした戦略が実現できるのである。



URL
  日本オラクル株式会社
  http://www.oracle.co.jp/
  Oracle Fusion Middleware
  http://www.oracle.co.jp/products/middleware/


( 北原 静香 )
2006/02/24 08:35

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