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マイクロソフトがビジネスアプリケーション「Dynamics」を投入する狙いとは?


 9月8日、「Microsoft Dynamics CRM 3.0」が発売になった。マイクロソフトにとって初めての業務アプリケーション領域への進出だけに、発売前から話題を集めていた製品だ。ビジネスモデルとしても、これまでのパートナー経由での製品販売ではなく、直販を仕掛けてくるのではないかという見方もあったが、7日に開催された記者会見では、「パートナーとの連動によるビジネス」であることを強調した。

 マイクロソフトが業務アプリケーション分野に進出し、パートナーとのビジネスを続けていくことを強調する狙いはどこにあるのか。この製品を担当する、業務執行役員 マイクロソフトビジネスソリューションズ事業統括本部の宗像淳統括本部長と、同プロダクトマーケティング本部の新保将製品戦略部長を直撃した。


ビジネスアプリケーション分野でもプラットフォームベンダになりたい

業務執行役員 マイクロソフトビジネスソリューションズ事業統括本部の宗像淳統括本部長
―CRMをはじめとするDynamicsシリーズは、マイクロソフトにとって初めての業務ソフト分野への進出として話題を集めています。業務ソフト分野に進出する狙いはどこにあるのでしょう?

宗像氏
 Dynamicsシリーズは、アプリケーションそのものというよりもアプリケーションのベースとなるものだと考えています。つまり、これまでのマイクロソフト製品同様、プラットフォーム製品なんです。ただ、何でもできるプラットフォームではなく、業務アプリケーション専用のプラットフォームになってきます。


新保氏
 Excelを思い浮かべて考えていただくと、わかりやすいのではないかと思います。Excelは単体で利用してもらうこともできますが、特定の用途向けのテンプレートを活用すると、より簡単に自分がやりたいことを実現することができます。年度末が近づくと、Excelをベースにした確定申告ソフトがたくさん出てきますが、同じものをすべてオリジナルで作ろうとすると、時間も、手間も半端ではなくかかってくる。しかし、Excelを使えば、計算のための機能やWindowsとの親和性といったことをあらためて確認することなく、利用できます。

 Dynamicsシリーズも同様で、マイクロソフトがすべての市場をとってしまおうとするのではなく、業務アプリケーションを作っているベンダの皆さんは、ベースにDynamicsを使ってもらって、ノウハウやアイデアの部分にのみ注力してもらえればいい。面倒な部分はDynamicsシリーズ側でやってしまいますから、ということなんです。

 この点は今回発表したCRM以上に、2007年発売予定のERP製品「Dynamics AX」を見てもらえれば、より理解しやすくなってくると思います。


―しかし、自社ですべて開発するからこそ、他社にはない特性を持ったアプリケーションを作ることができると考えるアプリケーションベンダもいるのではないですか?

宗像氏
 すべて自社でやりたいというベンダさんを否定するつもりはまったくありません。そういうアプリケーションは今後もニーズがあると思います。ただ、我々はこれまでになかった新しい選択肢を提供したのだと考えています。

 大規模企業システムの場合でいえば、完成された巨大なERPアプリケーションを選択するか、1からオリジナルのアプリケーションを開発するか、という2通りの選択肢しかありませんでした。

 Dynamicsシリーズはその中間というのか、価格は既製品の価格で、なおかつ自社のノウハウを生かすことができるアプリケーションを作ることができるプラットフォームです。フルオーダーパッケージはもちろん、価格が高くつきすぎて、カスタマイズ要求が出しにくかったというお客さまにとってもメリットは大きいと思います。


新保氏
 例えば、私が脱サラして、自分が持っている土地に商店を建てるとします。その場合、建物を建てることが目的ではなくて、店を建てて商売をやることが目的です。建物を建てることに時間やお金がかかりすぎてはしかたがない。業務アプリケーションを利用するユーザーさんも同じだと思うんです。アプリケーションを作ってもらうことが目的ではなく、それを活用することで自分の会社をよくすることが目的なんです。

 Dynamicsという製品は、これまでフルオーダーメイド住宅しかなかったところへ新たに登場した2×4(ツーバイフォー)の規格型住宅みたいなものです。短期間に目的の建物を建てることができる。


宗像氏
 2×4住宅という例えをすると、イメージが固まってしまうので、ひとつ付け加えておくと、Dynamicsというのは業務のためのエンジンでもあります。かなり性能のいいエンジンなので、これを利用してベンツのような高級車を作ることだって不可能ではありません。


本当は製品名に「CRM」とつけたくはなかった

プロダクトマーケティング本部の新保将製品戦略部長
―9月7日に開催された発表会では、Dynamics CRMを使ってのデモはまったくありませんでした。発表会後、後方に設けられていたデモコーナーで初めて製品を見ましたが、最初に画面を見た時には、Outlookを使っているのかな?と思ってしまいました。

新保氏
 「Outlookかと思った」というのは、実は重要なキーワードなんです。私たちは、実際に製品を利用されるエンドユーザーの皆さんにも、「Outlookを使っているつもりだった」といってもらえればと思っているんです。

宗像氏
 そういう意味では、本当は製品名に「CRM」とついていなかった方がいいかもしれません(笑)。ただ、CRMという名前がないと、本当に何のための製品かわからないこともあって、CRMという名称が入っていますが…。


―製品名にCRMがない方がよかったという意味をもう少し詳しく説明してもらえますか?

宗像氏
 既存のCRMが持つイメージを打ち破りたいという気持ちがあります。経営層は「現場ではどんなことが行われているのかわからない」という点に不安を感じているし、生産性があがらないという悩みを持たれている。CRMの必要性はあるはずなんです。


新保氏
 記者会見でご説明した時に、「米国に比べ、日本でのCRM普及率は低い」という実態を紹介させていただきました。日本ではCRMへのなじみが薄く、「CRMってどんなものなのか、よくわからない」という人も多いと思うんです。その疑問はあえて残しておいたままにしておいた方がいいと思っています。と、いうのも、これまでのCRMは、「わざわざ使うもの」だったからこそ、普及が進まない一面があったのではないかとわれわれは考えているからです。


宗像氏
 それまで使っていたアプリケーションをやめて、わざわざ新しいアプリケーションを立ち上げて、報告書を書くとなれば、作業を始めてしまう前に構えてしまうし、作業を面倒くさいものと感じてしまうでしょう。でも、すでにやっている仕事の延長でちょこちょこっと作業をしていたら、実はそれがDynamics CRMだった、というアプリケーションの方が、ユーザーの皆さんにとってはプラスだと考えました。


―確かにCRMやSFAといったアプリケーションは、経営者層は導入に前向きでも、現場サイドからは、「余分な仕事がひとつ増えた」と導入を反対する声があると聞きます。営業活動を始め、個々の顧客とのやり取りをきちんと記録し、残す習慣がない会社がまだまだ多いので、ある企業の方が言っていた「入力作業を定着させるだけで、一苦労」という企業が多いのが本当のところだと思うんです。

新保氏
 「うちの会社はCRMを導入しました」というとかっこうはいいですが、あまりに大層なものと思いすぎて、現場の担当者は使うのが面倒なものだと考えてしまうケースも多いと思います。「お客さまとのメールでのやり取りが、知らない間にCRMやSFAになっていた」というのであれば、現場サイドも違和感なく、使ってもらえると思うんです。


宗像氏
 これはアメリカでも同様だそうです。日本に比べればはるかにCRMの普及率は高いアメリカでも、Dynamics CRMは意識せずに利用できるということでどんどん利用者が増えているそうです。


パートナーには一足早く3月から説明を実施

―デモンストレーションを見た時に、Exchange Serverをはじめとしたサーバー製品とあわせて利用する必要があるのかな、という印象を受けました。

宗像氏
 ご指摘の通り、Dynamics CRMは、Active DirectoryやExchange Serverなどとセットで利用することで、最強の製品となります。この点はパートナーの皆さんから、大変評価していただきました。日本市場はサーバーの浸透率、活用率がまだまだ低いのはご承知の通りです。「Dynamics CRMが登場することで、サーバー製品が売りやすくなる」と言っていただきました。


―ただ、その一方で「導入するのに敷居が高いと考えられがちな、サーバー製品とセットで利用しなければ、真価が発揮できない」ともいえるのではないですか?

新保氏
 今回、「Small Business Edition」というバージョンを用意しました。これはSmall Business Server専用の製品で、サーバー製品は持っていないというお客さまであっても、Small Business Serverを利用すれば、サーバー製品群をそろえることができます。


―記者会見でも、「パートナーの皆さんとの連携」を重視していることが伝わってきましたが、発売前の製品に50社のパートナー企業が賛同するというのは大変珍しいことだと思います。

宗像氏
 米国で2005年12月にDynamics CRMが発表されて、それ以降、憶測記事も含めて色々なニュースや情報が飛び交いました。そこで、早い段階からパートナーの皆さんにマイクロソフトとしての真意をお伝えしなければならないと考えまして、この3月からパートナーの皆さんへのご説明などを開始しました。

 そこで強調させていただいたのは、「Dynamicsシリーズのビジネスモデルは、パートナーの皆さんと一緒にビジネスをしていくという形態である」ということが第1点目。第2点目として、「マイクロソフトとして、パートナーの皆さんがビジネスをしたり、アプリケーションを開発したりするのに適したインフラ環境はきちんと整えていきます」ということでした。

 「マイクロソフトがパートナーを経由しないビジネスへと移行しようとしている」という憶測記事も出ていましたから、パートナーの皆さんの反応は非常に気になりましたが、ネガティブな反応をされるパートナーさんは皆無でしたね。これは、記者会見の中で、沖電気工業の坪井さんがご指摘いただいたように、CRM製品での圧倒的な勝ち組といえる製品がなかったことにも起因しているのではないかと思います。


―業務アプリケーションを開発しているパートナーさんの反応はいかがでしたか?

宗像氏
 もちろん、マイクロソフトが提供するそのままの形態でDynamics CRMを使われるお客さまもいるかもしれませんが、日本の場合、それはレアケースだと思うんです。やはり、お客さまの業務ノウハウを生かしたカスタマイズや、ある業種向けに特化したノウハウといったものを入れ込むことが必要になってくるはずです。

 実際にDynamicsの構造もそういうことができる構造になっていますし、例えばOBCさんでは、Dynamics CRMと奉行シリーズを連動させるといったデモンストレーションをされています。

 来年登場するERPでも、同じように既存の業務アプリケーションとの連動は可能です。マイクロソフトが作ったのは、業務アプリケーションのプラットフォームであるということは、理解していただけたと思っています。


今バージョンはマルチテナンシーには未対応

―CRMのような製品は、自社でサーバーを運用していくのが難しい企業でもニーズがあると思います。そういった企業向けに、SaaSモデルでのアプリケーション提供といったことは検討していますか?

新保氏
 今回発売したDynamics CRM3.0は、マルチテナンシー対応とはなっていません。つまり、このバージョンを使ってある事業者がWebベースで提供していくといったことは難しいんです。


宗像氏
 ただ、確かにニーズとしてはSaaSで提供して欲しいというユーザー層がいることも理解しています。現時点では何もコメントしようがないですが、将来的には対応を考えていく必要はあるでしょうね。


―SaaSモデルでCRMを提供する、セールスフォースドットコムのような企業がありますから、「なぜ、マイクロソフトはSaaSはできないの?」という声もあるでしょうね。

宗像氏
 ただ、価格で比較してもらえば、決して今回発表した製品でも負けていないと思います。それにSaaSで製品を提供しているベンダにない強みがパートナーさんの存在だと思っています。

 SaaSモデルでは、パートナーさんと連動したビジネスモデルが確立していないように思います。しかし、実態として日本のユーザーさんは、「困った時に相談できる相手」を必要としています。マイクロソフトのビジネスモデルは、あくまでもパートナーありきですから、結局はユーザーさんにとっても大きなバリューとなってくるのではないかと思うんです。


―かなり、準備を整えて発売を迎えたことはよくわかりましたが、Dynamics CRMが日本市場に浸透していくまでにはどれくらい時間がかかると思いますか?

宗像氏
 数カ月で…というのが希望ですが、実際は結構、時間がかかると思います。製品を認知してもらうためには、パートナーのセールス担当者の皆さんに製品を理解してもらって、地道にユーザーさんに広めていってもらうしかありませんから。記者会見で、(代表執行役社長の)ダレン・ヒューストンが、「3年から、5年くらいのスパンで市場が変わっていく」と話していましたが、それくらいの長期レンジで、当社の7本柱の1つとなるようなシリーズに育てあげるつもりです。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/
  Microsoft Dynamiccs
  http://www.microsoft.com/japan/dynamics/default.mspx

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( 三浦 優子 )
2006/09/08 08:59

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