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オンラインインフラを目指すOffice Live-現状の実力をチェックする


 Windows VistaとOffice 2007の陰に隠れるように、ひっそりとスタートしたOffice Live。米国では、昨年の夏頃からベータテストが開始され、11月15日には正式に有料サービスとしてスタートしている。日本では、米国で有料サービスが開始した後、12月11日からベータテストが開始され、2007年後半の有料サービスを目指している。

 そこで、今回は、Office Liveが何を目指し、日本でどのような業種をターゲットにしているのかなどを、Office Liveを担当しているマイクロソフト株式会社インフォメーションワーカービジネス本部 製品マーケティンググループ シニアプロダクトマネージャの鍵山仁一氏のインタビューを交えて、解説していく。


Office Liveはビジネス拡張のためのオンラインサービス

 Office Liveは、「最新の機能を小規模ビジネス向けに、オンラインサービスとして提供していくためのオンラインインフラ」(鍵山氏)と同社ではコンセプトを説明している。ネーミングから勘違いされやすいが、Office Liveは、最新のOffice 2007をオンラインで提供するASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)ではなく、Office 2007を入り口として、ビジネスを拡張していくためのオンラインサービスと考えるべきだろう。

 このOffice Liveは、3つのサービスレベルに分けられている。

・Office Live Basic(ベーシック)
 インターネットのドメイン名取得サービス、ホームページ開設のためのデザインツール、独自ドメインによる電子メールアカウント、ホームページ訪問者などの動向を分析するレポートツールなどが用意されている。料金は無料。

・Office Live Essentials(エッセンシャル)
 Office Live Basicの機能+インターネット上の専用ワークスぺースと顧客管理機能(Office Live Business Contact Manager)が用意されている。日本での料金は未定。米国での料金は、月額19.95ドル。

・Office Live Premium(プレミアム)
 Office Live Essentialsの機能+日本独自機能として、SharePoint Service上で構築された小規模事業所向けのグループウェア「GroupBoard Workspace」がオンラインで提供される。さらに、Essentialsで提供されているWebサイト、ストレージ容量を2GBにアップ、独自ドメインによる電子メールアカウントを50個、専用ワークスぺースのディスク容量を1GBにアップしている。日本での料金は未定。米国での料金は、月額39.95ドル。

 この他に、「Office Live Collaboration」というオンラインサービスもベータテストが開始されている。これは、Office Live Premiumから、独自ドメイン、Webサイト構築、電子メールなど機能を除外したインフォメーションワーカー向けのサービス。このサービスでは、ファイル共有、ドキュメント共有、カレンダー、データバックアップなどが提供されている。これらのサービスは、SharePoint Serviceをベースとして構築されている。そのほか、GrooveのLiveバージョンの「Office Live Groove」(Grooveを年間79.95ドルで使用できる)などもプラスアルファのサービスとして提供されている。


Office Liveの機能を試す

Office Liveでは、取得した独自ドメインのメールをWindows IDとして登録する。また、個人確認のため、無料のBasicであってもクレジットカードが必要になる
 それでは、Office Liveの機能をみてみよう。今回テストしたのは、Office Live Premium。Premiumは、BasicやEssentialsのアッパーコンパチブルの機能を提供している。異なる部分は、GroupBoard Workspaceとディスク容量、電子メール数などだ。

 独自ドメインに関しては、Office Liveの登録を行うときに、.com、.org、.netなどに関しては無料で取得できる。.JPドメインに関しては、追加費用をかければ取得できる。また、これ以外に、ユーザーが既に取得しているドメインがあるなら、そのドメインをOffice Liveに移行することもできる。

 ベータテストということで、EssentialsやPremiumも無償でテストできる。しかし、登録時にクレジットカードが必要とされる。これは、ベータテストでも、キチンと実在するユーザーや企業に参加してほしいというためだ(フィッシング詐欺やスパムメールを出す業者に使用してほしくないため)。

 実際、登録を行ってみると、クレジットカードの確認を行うため、外部のサービスにOffice Liveがアクセスするのだが、まだデータのやり取りに問題があるようで、あるクレジットカードでは請求先住所が異なるということで登録を進めることができなかった。別のクレジットカードに変更すれば、すんなりと登録が終了した。このあたりの問題点は把握しているようで、本格稼動までに修正していきたいとしている。

 Office Liveの登録が終了すると、個別サイトの設定画面が表示される。登録後、すぐにメール送信やWebサイトの構築などは可能だが、Webサイトの公開、電子メールの受信などはOffice Liveの登録後24時間ほどかかる。


手持ちのVISAカードを使ってみたが、正しい請求先住所を入力しているのに、請求先住所が異なるとして、エラーになり、登録ができなかった
Office Liveの登録が終了すると、メイン画面が表示される。最初に作成したアカウントがサイト全体の管理者となる

Office Liveの電子メールの画面
 電子メールは、同社がLiveサービスでテストしているWindows Live Mailが使用されている。電子メールとしての使い勝手は、Outlookによく似ている。また、Office Liveサイト上に用意されているOutlook ConnectorというソフトをOutlookにインストールすれば、OutlookでOffice Liveのメールアカウントを管理することができる。

 これ以外にも、Liveサービスでは、複数のメールアカウントを管理する「Windows Live Mail desktop」というサービスがベータテストされている。このサービスを利用すれば、複数のメールアドレスを持っているユーザーは、一括して管理できるようになるから便利だ。

 このほか、Office Liveメールは、同社側のサーバーでウイルスチェックを行ってくれる。このため、ウイルスに侵されるということは少ないだろう。

 また、Office Liveメールの画面デザインも、ユーザーによって簡単に変更できる。ただ、あらかじめ決められたデザインを選択するだけの機能しかない。このサービスを利用するユーザーにとっては、自社の電子メールシステムというように、背景やデザインをカスタマイズしたいだろうが、このあたりは現状ではできない。できれば、電子メールのサイドに、更新されたドキュメントの情報、GroupBoardの情報を簡易表示してくれるサイドバーのような機能があれば、電子メールのクライアントを開けば、ここからさまざまな情報にアクセスできるようになる。


Outlookと似ている画面となっている。ウイルスチェックは、サーバー側でTrendMicroのウイルスチェックソフトが起動して、チェックしてくれる 電子メールの画面デザインは簡単に変更できる。ただし、用意されたテンプレートを選択するしかできない

 電子メールをテストしてみて、動作に問題がある部分があった。メールの送受信機能自体には、まったく問題はないが、画面の上部にある「Office Liveメール」というバナーが表示されなかったり、表示されるべきボタンがなかったりと、このあたりは、まだ問題が残っているのだろう。

 電子メールには、連絡帳(アドレスブック)、カレンダーの機能などが付属している。ただし、連絡帳、カレンダーの情報は、Webブラウザ上で入力しなければならない。これは、非常に面倒だ。Windows Vistaなら、WindowsカレンダーやWindowsメールがあるので、これらのソフトからデータを取り込んで、自動的に同期してくれると便利だ。また、Excelなどで作成した表データを取り込めるようにしておくと、いちいちWebブラウザでデータを入力しなくても便利だろう。


カレンダーの画面。このカレンダーは、ネット上に公開して、複数の人で利用することもできる
予定表を入力。通知にメールアドレスを入れておけば、MSN Alertsを使って、通知が自動的に送信される
個人のスケジュールと共有のスケジュールを表示してみることもできる

カレンダー機能では、日本の休日などはデフォルトでセットされていない。このため、ユーザー自身の手で休日のセットを行う必要がある 日本の休日をセットして、いくつかのスケジュールを入力したカレンダー 管理者であれば、簡単に新しい電子メールアカウントを作成することができる。メールの保存容量は、一人一人に2GBとなっている

 致命的なのは、現状で、電子メールにアクセスして、元のOffice Liveのメイン画面に戻れないことだ。どこを探しても、このようなボタンが存在しない。この部分は、ぜひとも修正してほしい。

 Webサイトの構築も、デザインテンプレートが決まっていて、それ以上のデザインを作ることができない。当初は、決められたデザインでもいいが、ある程度Webサイトを運営していくと、これではあまり表現力がなく、集客力に響く可能性もある。できれば、Movable Typeのようにプラグインで機能が拡張できるようにしたり、カスタマイズしたCSSやHTMLを記述できるようにすべきだろう。やはり、ビジネスで長く使ってもらえるようにするには、コンテンツマネージメントシステムとして、Webサイトが構築できようにした方がいい。Office Live上でWebサイト構築を請け負う事務所が出てきたり、テンプレートを販売するユーザーが出てくると面白くなるのだが。


Office 2007のリボンインターフェイスを持った画面で、Webサイトのデザインを行うことができる
簡単にイメージを変更したり、表を挿入したりすることも可能。ただ、デザインは用意されているテンプレートから選ぶしかない。デザインのカスタマイズに関する自由度は低い

いくつかのモジュールをWebサイトに追加することもできる
Webサイトの色なども、Office 2007などのようにあらかじめ統一されたイメージパターンが用意されている

 サイトレポートツールのAdvanced Web Analyticsだが、現状では必要最低限の機能しかない。詳細な分析を行うには、もう少し機能が必要になる。

 Business Contact Managerは、顧客情報などを管理するツールだ。CRMとして最低限の機能だが、SalesforceなどのSaaSに比べると比較にならないほど基本的な機能しかない。また、不便なのは、電子メールの連絡帳(アドレスブック)などと連携していないことだ。必要なユーザーには、自動的にBusiness Contact Managerの情報が、電子メールにも反映されるべきだろう。

 GroupBoardやプロジェクトマネージャー、ドキュメントマネージャーなどは、SharePoint Serviceで提供されているものとほぼ変わらない。特にプロジェクトマネージャーなどは、チャートでプロジェクトの進行を表示したりすることも可能になっている。


Advanced Web Analyticsは、基本的に分析機能だけだ。Google Analyticsに比べると機能が少ない。ただし、検索エンジンからアクセスしたユーザーがどのくらいあったのか? ヒットしたキーワードはなんだったかなどは分析できる Business Contact Manageの画面。CRMの機能としては最低限の機能がサポートされている

GroupBoardの画面。SharePoint Service用に配布されているものとまったくかわらない
 「ビジネスアプリケーション」「ワークスペース」などは、SharePoint Serviceによって構築されているため、テンプレートを活用することで、ユーザーの必要なデザインや機能を作り上げることができる。ここでも、テンプレートを多く用意する必要もあるし、構築のサポートをする会社が出てくると便利だろう。

 ベータ版ということを考えると、Office Liveはまだまだ改良の余地が多い。最も大きな問題は、電子メール、Webサイト、ビジネスアプリケーション、ワークスペースなどの機能は、Windows LiveのサービスやSharePoint Serviceなど同社が持っているいろいろなサービスやソフトを集めてきた点だ。このため、データが統合化され、サービスとして使いやすいというわけではない。まだまだ、それぞれのブロックごとにデータが存在する。このようなサービスのメリットは、統合されたデータをさまざまなサービスで利用できることにより、効率化を図ることが重要になる。本番サービスが始まる頃には、Office Liveがこのようなサービスになっていれば、使いやすいものになっていると思うが…。


日本と米国で異なるビジネス環境をどうクリアするか

 Office Liveは、小規模事業所(SOHOや個人事務所、小企業など)をターゲットにしたオンラインサービスだが、日本と米国ではビジネス環境が異なる。このため、Office Liveも日本では微妙な位置づけのようだ。さらに、米国では用意されているいくつかのサービスが日本では提供されていないため、Office Live自体が単なるWebサイト、電子メールサービスと思われがちだ。


Office Accounting Express 2007の画面。タスク志向のUIになっているため、複雑な操作をしなくても会計処理を行うことができる
 日本では、Office Live Basicだけを見れば、Webサイトの構築、独自ドメインの取得、独自ドメインによる電子メールサービス、トラフィックレポートツールのAdvanced Web Analyticsなどになる。これに対し米国では、Live Searchに対してキーワード広告を出稿するための支援ツールOffice Live adManager(実際に広告出稿はadCenterが担っている)が用意されいる。さらに、Office Accounting Express 2007というソフトが無料で提供されている(執筆時点)。このソフトは、eBayなどのオークションサイトへの商品の登録を簡単に行ったり、在庫管理、課金などを一括して行えるもの。課金は、クレジットカードだけでなく、PayPalなどへの対応が図られている。小さな会社にとっては、会計関連を一手に引き受けることができるソフトだ。もちろん、Outlook、Word、Excel、Moneyなどのソフトとも連携できる。さらに、オンラインバンクやクレジットカード会社とも連携して、会計処理が行える。そのほか、Office Liveに参加している各社のサービスや製品を紹介する「MarketPlace(マーケットプレース)というコーナーも用意されている。

 米国でのサービスメニューを見ていると、Office Liveは、インターネットを市場として利用する小規模企業(SOHOや数十人の会社)などをサポートするためのオンラインサービスということがコンセプトになっている。自社のWebサイト構築、検索広告、商品の販売などを統合化したオンラインサービスといえるだろう。これは、Googleの検索広告ビジネスに対抗したものかもしれない。Googleでは、検索キーワード広告の出稿システム、Webサイトの分析ツール、独自ドメインによる電子メール、Webサイト構築、Checkout(PayPalのような電子マネーサービス)などが用意されている。しかし、Office Liveほど統合されたパッケージとして提供されているわけではない。そこで、Microsoftは多くのユーザーが利用しているOffice 2007を使って、オンラインのビジネスが簡単に展開できることが、Googleと比べて強みになるのだろう。

 「確かに、米国と日本ではビジネス環境に大きな差があると思います。日本は米国ほどオンラインを市場として利用したビジネスが成功しているとはいえないでしょう。ですから、Office Liveでインターネットに乗り出していない小さな会社が、オンラインビジネスに乗り出せるようなインフラを提供したいと考えています。日本の中小企業の多くは、独自ドメインの電子メール、独自ドメインによる自社のWebサイトはまだまだ普及していません。インターネットのアクセス環境を持っている会社は70%ぐらいありますが、独自ドメインのメールやWebサイトを持っている会社は15%ぐらいです(従業員20名以下の企業、個人事業主を対象に調査:マイクロソフト調べ)。この数字を見れば、自社ドメインが無料で取得でき、電子メールやホームページ作成ができるOffice Liveはメリットが大きいでしょう」(鍵山氏)


 鍵山氏が言うように、無料で独自ドメインが取得できるOffice Live Basicは、小さな会社やSOHOにとってはメリットはあるが、ITに対して積極的な会社なら、すでに独自ドメインを持っていたりするだろう。独自ドメインの電子メールやホームページが作成できるよりも、オンラインによるビジネスチャンスの拡大ということが重要だ。

 米国では、Live Searchへの出稿やeBayのオークションとの連携など、ビジネスを展開する上で重要な機能が提供されている。しかし、日本ではMicrosoftが開発したadCenterは運用されておらず、Overtureのシステムを利用している。このため、日本のOffice Liveは、現状のOvertureをベースとしたシステムに連携するのではなく、日本国内でのadCenterへの移行を待っている状態ともいえる。

 「Office Liveは、今年の後半(秋頃)に有償サービスとしてスタートします。それまでは、EssentialsやPremiumも無償でテストしていただけます。もちろん、Basicは有償サービスがスタートしても、無料でご使用できます。われわれとしては、できるだけ早い段階で広告システムをOffice Liveに組み込みたいと考えています。ただ、今年後半のバージョン1では間に合わないでしょう。できるだけ早いタイミングで広告システムを組み込んだバージョン2に移行したいと考えています」(鍵山氏)

 現在、同社オンラインサービス事業部では、「Microsoft Digital Advertising Solution(マイクロソフトデジタルアドバタイジングソリューション)」という名称で、MSN、Windows Live、Office Online、Xbox Live、Windows Mobileなどのサイトへの広告出稿を集中的に管理しようとしている。


 確かに、今年中には、adCenterの日本版が提供され、Live Searchなどのキーワード広告がOffice Live上から利用できるようになっても、根本的には集客力のあるマーケットをどのように確立するかという問題がある。

 検索エンジンの利用頻度を見たときには、Googleがトップとなり、Yahoo!やMSN Liveが後を追っている。広告を出稿する側としては、利用頻度が高いメディアを選択した方が、消費者にリーチしやすいだろう。

 ポータルへの出稿ということを考えると、Googleはポータルサービスは行っていないが、Yahoo!が膨大なトラフィックを集めて、日本では一人勝ちのような状況になっている。確かに、MSNなどもそれなりのトラフィックがあるが、広告媒体として見るとYahoo!を凌駕(りょうが)するようになるには現状は厳しいだろう。

 また、ECのマーケットとしてみると、小売りのマーケットとしては、楽天が大きなメディアとして存在するし、Yahoo!オークションも非常に大きなマーケットとなっている。

 これらのことを考えると、Office Liveというプラットフォームを積極的に利用するメリットはどこにあるのかと考えてしまう。確かに、オンラインでのビジネスを展開しようとする会社にとっては、Office Liveはハードルが低いものかもしれない。しかし、実際のビジネスに結びつくマーケットや広告メディアを考えると、他に魅力的なサービスが存在する。わざわざOffice Liveに固執する必要はないだろう。

 だからこそ、Office Live自体はオンラインビジネスを支えるインフラのような存在になる必要があるのだろう。これを実現するには、日本国内では、Yahoo!や楽天などの企業と提携する必要がある(米国でeBayと提携しているように)。また、Office Liveが現状で提供しているサービスだけでは、オンラインビジネスを展開するには不足している。例えば、バックエンドにSQL Serverを設置して、テンプレートにより在庫管理、販売管理システムが構築できるようになったり、これらの商品データベースから簡単に自社Webサイトでオンラインショップが構築できるようになったりする必要があるだろう。

 このようなサービスを用意していかないと、プロバイダーやサーバーのハウジングサービスを行っているデータセンターなどが提供しているサービスとほとんど違いがなくなる。

 「現状のOffice Liveのサービスで、われわれは満足しているわけではありません。半年以上ベータ版による無償サービスを続けることで、ユーザーのニーズがどこにあるのかなどを探っていきたいと考えています。さらに、Office Liveをプラットフォームとして日本独自のサービスを展開してもらえるような仕組みも考えています。例えば、Office Liveに他社のオンラインサービスを連携させたり、いろいろな業務ソフトをオンライン上で提供できるようになればと考えています」(鍵山氏)

 同社では、Office LiveをSalesforceのようなオンライン上に構築されたオンデマンドのCRMサービスにすることはあまり考えていないようだ。確かに、SaaS(Software as a Service)も視野に入っているようだが、米国でのOffice Liveを見ているとオンラインビジネスを展開するためのインフラを提供しているように思われる。


プラスアルファのサービス提供が必要

 Office Liveは、小規模の企業や個人事務所にとっては気になるサービスかもしれないが、現状ではまだまだ完成されたものとはいえない。単に、独自ドメインが無料で取得でき、電子メールやホームページが作れるということでメリットがあるだろう。個人でも利用できるから、独自ドメインを取得するには便利かもしれない。

 現在は、ベータ版ということでEssentialsやPremiumも無料でテストできるが、有償化されても、現状のサービスで使いつづけるかといえば疑問が残る。やはり、有償サービスとしては、早急にプラスアルファのサービスが提供されていかないと、単なるASPサービスと変わらない。実際、Premiumで提供されているSharePoint Serviceをベースとしたファイル共有やGroupBoard WorkSpaceなどの機能なら、他のプロバイダーもASPとして提供している。このことを考えれば、Office Liveでなければならないということはない。単なるASPサービスとして料金とサービスを比較して選択すればいいことになる。やはり、Office Liveならではのサービスを早急に提供すべきだろう。

 もう一つは、Office Liveが新しい広告メディアを提供したり、ビジネスに直結するマーケットプレースを提供することができるようになれば、Office Liveを利用するメリットもできる。同社が絶大的なインストール数を誇るWindows OSに直接広告メディアを提供するようになれば、Googleよりもメディアとしてのリーチ力はあるだろう。ただ、現状では、法的な問題や提供形態の問題など非常に高いハードルがある。しかし、将来的に、広告付きの無料Windows OSといったものが提供されるようになれば、絶大な広告メディアになるだろう。このときは、Office Liveは注目するサービスになっているかもしれない。


 なお、原稿を書き上げた後の2月23日に、Googleが企業向けのSaaSサービス「Google Apps Premier Edition」を開始すると発表している。このサービスは、独自ドメインを利用したメール(Gmail)、独自ドメインを使ったWebサイトとWebサイト作成ツール(Page Creator)、チャット&IP電話(Google Talk)、スケジューラ(Google Calender)、ワープロ&表計算ソフト(Google Docs and Spreadsheets)などが、1アカウントあたり6300円で提供される(ちなみに、Google Appsでは、提携したドメイン登録業者を経由して、年間10ドルで新しいドメイン名を取得することができる)。

 特筆すべきは、Gmailの容量が2GBから10GBにアップされていることと、Gmailの稼働率を99.9%保証することだろう。

 Office Liveでは、このような稼働率保証も行われていないし、ワープロや表計算ソフトも提供されていない。独自ドメインの取得サービスは、Office Liveでは提供されいるが、Google Apps Premierでは提供されていない。

 ちなみに、Google Apps Standardは、無償でサービスが提供されている。Premierと提供しているサービスはほぼ同じだが、Gmailの容量は2GB、稼働率保証は行われない、管理者向けの各種APIの提供も行われないという違いがある。

 Google Apps Premierは、企業における情報システムの基礎となるメールやWebサイト、ワープロ&表計算などを提供している。一方、Office Liveは、Google Apps PremierにはないSharePoint ServiceやGroupBoardなどのグループウェアをオンラインで提供している。このような違いはあるが、現状においては、Google Apps Premierは、Office Liveの相当タフな競合サービスといえるだろう。やはり、Office Liveとしては、早く元々のコンセプトの小規模事業者向けのさまざまなサービスや市場を構築していかないとGoogleのスピードに取り残されてしまうかもしれない。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/
  Office Live
  http://office.microsoft.com/ja-jp/officelive/


( 山本 雅史 )
2007/03/02 09:03

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