6月20日、マイクロソフトにとって初のERP「Dynamics AX 4.0」が発売された。同日開催された記者会見では、パッケージの概要、価格、販売パートナーなどとともに、「人を重視したERP」(ダレン・ヒューストン社長)という特徴が発表された。このメッセージは具体的にどんな機能を指すのか。そしてERPベンダーとしては最後発となるマイクロソフトが、どのように顧客を獲得していこうとしているのか。
後編となる今回は、製品のラインアップや価格などのさらなる詳細や、Dynamicsで推進しようとしているプラットフォーム戦略などについて、ビジネスソリューションズ事業統括本部 MBSプロダクトマーケティング本部の御代茂樹本部長と、前回に引き続きビジネスソリューションズ事業統括本部 MBSプロダクトマーケティング本部の國持重隆AXプロダクトマネージャに詳細を聞いた。
■ 情報統合が狙いなら「Advanced Management Edition」
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ビジネスソリューションズ事業統括本部 MBSプロダクトマーケティング本部の國持重隆AXプロダクトマネージャ
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ラインアップには、ビジネスアプリケーションとして一通りの機能を備えたAdvanced Management Editionと、会計管理機能を中心とした限定版のBusiness Essentials Editionが用意されている(資料提供:マイクロソフト株式会社)
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―6月20日に開催された記者会見で、「Advanced Management Edition」と「Business Essentials Edition」の2つのパッケージがあることが発表されました。会見の際の説明では、それぞれのパッケージの機能やターゲットの違いが、今ひとつよく理解できませんでした。それぞれのパッケージの違いをあらためて説明してください。
國持氏
まず、機能的な違いを説明しますと、「Business Essentials Edition」に含まれているのは、会計管理機能を中心とした機能。一般会計機能に加え、銀行管理、売掛金管理、買掛金管理といったものが含まれます。もうひとつの「Advanced Management Edition」には、会計機能に加え、サプライチェーン管理、生産管理、プロジェクト管理、CRM、人事管理、業務分析といった機能が含まれます。
―Advanced Management Editionに含まれているCRMとは、すでに発売されている「Dynamics CRM」のことですか?
御代氏
いえ、Dynamics CRMとは違います。Dynamics AXに含まれているCRMは、顧客管理やテレマーケティングなど、実践的な機能が中心となっています。
國持氏
話を2つのパッケージの違いに戻すと、Business Essentials EditionとAdvanced Management Editionには、機能の違いとともに、利用できるオプションに違いがあります。Business Essentials Editionで利用できるオプションは、人事管理機能など基本的なものが中心となります。
それに対し、Advanced Management Editionで利用できるオプションはもっとたくさん用意されています。よくデモでお見せするWebアプリケーションの開発や、バランススコアカードといったものは、実はAdvanced Management Editionのオプションなんです。
御代氏
昔、ERPが登場した時にいわれていた「管理会計を実現するため」なら、Business Essentials Editionで十分だと思います。しかし、現在、「ERPを導入したい」と考える企業が望むのは、「情報の統合」ではないでしょうか。この情報の統合を実現するための機能を用意しているのはAdvanced Management Editionです。おそらく、ほとんどのユーザーがこちらを選択するのではないかと思います。
―それなら、最初からAdvanced Management Editionのみを販売する方がわかりやすかったのではないですか?
國持氏
そうはいっても、少人数の企業でDynamics AXを導入したいという要望もありました。そういう場合は、最初にBusiness Essentials Editionから導入してもらえばいいということで、2つのパッケージを用意しました。
御代氏
米国ではDynamics AX 4.0は、2006年に発売されています。日本での発売が遅れたのは、会計に関しては単にメニューを日本語に直したにとどまらないからです。日本の商習慣に合わせるため、「日本語化しました」というより、「日本版を開発した」といった方が正しい。外資系ベンダーが発売する会計ソフトはどうなのか?と心配されている方もいるかもしれませんが、その点は安心していただきたいと思います。
■ アプリケーションそのものが安価なら業務改革のためにコストをかけられる
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ビジネスソリューションズ事業統括本部 MBSプロダクトマーケティング本部の御代茂樹本部長
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―率直な印象ですが、Advanced Management Editionは47万7545円、Business Essentials Editionは27万10円。ERPにしては安価すぎるのでは?
御代氏
それに対する回答は2つあります。まず、「マイクロソフト製品は、販売しても儲からない」というパートナー企業からの指摘がありますが、Dynamics AXに関しては、通常の製品販売とは異なる契約形態をとっています。詳細は明らかにできませんが、この価格帯でも十分に収益が出る契約をパートナーには提示しています。
もう1つの回答は、ユーザーの皆さんに対してです。何億円も出さないと買えないERPであればよいのでしょうか?そうではなく、もっと顧客視点で価格設定しているERPの方が望ましいですよね。その観点からこの価格を設定しました。
―確かにコンシューマ製品であれば、1円でも安い方がいいというのがユーザー心理です。ところが、基幹システムで利用する製品となると、「そんなに安くて、大丈夫なのか?」という不安を感じるユーザーもいるのではないですか?
御代氏
我々はもっとERP利用者のターゲットを広げたいと考えています。1億円出してERPを導入することはできないが、もっとリーズナブルな価格であれば、ERPを導入したいと考えるお客様はたくさんいるはずです。そういうお客様を獲得していくことで、ERP市場のすそ野を広げたいと考えています。
國持氏
実は社内ではこの価格もまだまだ高すぎるのではないか?という意見もありました。今回示した価格はあくまでもアプリケーション自身の価格であり、このほかにサーバー製品は別途料金が必要になるからです。もちろん、すでにサーバー製品を導入されているお客様にとっては追加コストを必要とせずに導入できるというメリットもありますが。
御代氏
もともとアプリケーションの価格というのは、システム全体からすると微々たるものに過ぎないはずなんです。なぜなら、ERPを導入するお客様はアプリケーションを導入することが目的ではなく、業務改革を行うことが目的のはずですから。従って、アプリケーションそのものの価格が安価であれば、コンサルティングであるとか、業務改革を実施する際に必要となる部分にコストをかけることができます。1億円のERPを導入して、アプリケーションに無理矢理あわせていくのではなく、会社に合わせた業務改革を行った上で導入できるのがDynamics AXだと思います。
■ 経営者が見たいデータを出すために使われてきたのはマイクロソフト製品
―現実的には、ほとんどの企業がすでになんらかのERP、もしくは会計システムといったものが導入していると思います。マイクロソフトはERPベンダーとしては最後発といっていい。果たして、これから市場参入をして勝ち目はあるのでしょうか?
御代氏
そこは非常に楽観的に考えています。先ほど、「現在の企業は、情報統合を望んでいる」とお話ししました。既存のERPには、例えば人事といったものについては、データが統合されていないソフトが多い。「データ統合できますよ」といわれているERPでも、実態を見ると手入力やバッチ処理を行ってなんとか情報共有しているにすぎないケースが、まだまだ多いのが実態です。
しかし、SOAのような概念が登場し、時間が経ってそれが浸透されてきた現在には、手入力やバッチ処理による情報共有では、「現在、あるべきビジネスの姿が実現できていない」とジレンマを感じている経営者の方も多いのではないかと思います。
―その「現在、あるべきビジネスの姿」とは、どんなものですか?
御代氏
財務会計や販売のソフトは、「基幹業務ソフト」と呼ばれています。基幹業務ソフトというと変化が少ないものと思われがちですが、経営力を強化していくために、革新的な技術をどんどん取り入れることができる時代となってきたのではないかと思います。
私が最初に仕事を始めた頃、銀行の第3次オンラインシステムの開発に携わったことがあります。1980年代には最先端のITが第3次オンラインだったわけですが、当時は「リアルタイムでどんなことが行われているのか、把握したい」という声があっても、それを実現することはできませんでした。ところが現在は、SQL Serverのスナップショット機能を使えば、簡単に見たいデータをリアルタイムに確認できる。
もともとマイクロソフトのアドバンテージは、「ここから先をどうつなげましょう?」と改めて考えなくても、「つなげる」ためのコンポーネントやツールをすでに持っていることだと思います。経営者が見たいデータを出すために使われているツールも、マイクロソフト製品がたくさん使われています。
これまでマイクロソフトが提供していたのはサーバー製品やコンポーネントだけでした。そこにDynamics AXという製品を発売したことで、サーバーやコンポーネントを生かす、一貫性が出てきたと思います。
■ OSとは違う意味で「プラットフォーム」を実現
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標準機能とカスタマイズ部分が分離した階層構造になっているため、サードパーティが独自に機能を拡張して提供するための“プラットフォーム”として利用しやすくなっているという(資料提供:マイクロソフト株式会社)
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―マイクロソフト自身が、ERPをはじめ基幹業務ソフトを発売することに対しては、危機感をあらわにするITベンダーも多いのも事実です。それに対しマイクロソフトでは、「Dynamicsシリーズはあくまでもプラットフォームである」という主張をしていますが、今回のDynamics AXの記者会見を見ると、プラットフォームというよりは一個で完結した商品という印象を受けました。
御代氏
実は今回の記者会見にあたっては、プラットフォームという側面は抑えたプレゼン内容とすることを心がけました。我々にとって初のERPですから、「半完成品」という印象を与えてしまうとマイナスになると考えたからです。
実際には、Dynamics AXは先行して発売している「Dynamics CRM」よりもプラットフォームとしての要素を強く持っている製品だと思います。ただし、プラットフォームといってもOSとは意味が違うプラットフォームになると思います。
國持氏
米国ではパートナー企業が開発した業種ソリューションを「MDIS(Microsoft Dynamics Industry Solutions)」として、マイクロソフト自身が提供しています。日本でどういった対応となるのか決定していませんが、Dynamics AXが業種アプリケーションを開発・販売していくプラットフォームとなっていることは確かです。
御代氏
このMDISというのは、日本のオフコンビジネスに近いビジネスモデルです。オフコンは、日本のコンピュータメーカーがソフト、ハード込みで開発・販売していました。ですからAXとはまったく提供形態は異なります。が、ソフト開発会社や地域でオフコンを販売していた企業が開発したアプリケーションの一部を、ハードメーカー自身が販売するケースがありました。ISVが開発したソフトを、もともと製品を作っていたベンダーが販売するという点では、共通するところがあります。
―業種アプリケーションを開発する企業から最近あがっている声として、「以前はOSのバージョンアップに対応するだけでよかったが、最近はセキュリティパッチにも対応しなければならない。その対応は容易ではない」というものがあります。Dynamics AX対応のアプリケーションであれば、その辺の負荷は軽減されるのでしょうか?
國持氏
Dynamics AXに準拠したアプリケーションであれば、対応の必要がない部分もあります。そういう意味では、業種アプリケーションを作っているベンダーにとっては負荷が軽減されるといえるでしょう。
御代氏
今お話したアプリケーション開発とともに、「サービスのためのプラットフォームとなる」という点がDynamics AXの最大の特徴です。最初にお話ししたように、経営者の皆さんは情報を統合し、SOAのようなパラダイムシフトの大転換に対応したいと考えている。そうしたERPのパラダイムシフトを実現していくプラットフォームとなるのがDynamics AXです。
これは今までのプラットフォームの概念とは大きく異なる発想だと思います。しかし、これからはサービスを提供するためのプラットフォームの重要性がもっと増してくるはずです。Dynamics AXは、その先駆けとなる製品でもあります。
―オンラインへの対応は行われるのでしょうか?コンポーネント型の製品ということで、SaaS対応にもしやすいのがDynamics AXの特徴とも思えるのですが。
國持氏
実はその点は先日の記者会見でも言及されていたのですが、うまく伝わっていなかったようなので、あらためて説明します。日本での実施予定は具体的に決定してはいないものの、米国ではホスティングサービス事業者向けにDynamics AXを提供するビジネスがスタートしています。
ただし、マイクロソフト自身がオンラインサービスとして提供しているLiveブランドをつけてサービスを提供するか、否かまでは現段階では決定していません。その点については、日米どちらでも同じ状況です。
■ URL
マイクロソフト株式会社
http://www.microsoft.com/japan/
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( 三浦 優子 )
2007/07/19 00:00
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