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世界陸上大阪大会を支えるエプソンのリザルトシステム


 1991年の東京大会以来、16年ぶり2度目の日本での開催となる、IAAF世界陸上2007大阪大会(第11回世界陸上競技選手権大阪大会)が、8月25日から9月2日まで大阪市長居陸上競技場で開催されている。

 世界陸上は、オリンピック、サッカーワールドカップと並び、世界三大スポーツイベントと呼ばれ、全世界約200カ国において競技の模様が放送されるなど、世界的にも高い関心を呼んでいるイベントだ。

 この世界的なスポーツイベントにおいて、リザルトシステムを構築、運用しているのがセイコーエプソンだ。このほど、その様子を取材する機会を得たので紹介しよう。


大阪の道頓堀界隈も世界陸上一色に かに道楽のかにも応援 食い倒れの人形も

情報を一元管理し、全世界に配信

 セイコーエプソンは、長年にわたり、世界陸上大会のリザルトシステムを担当している。

 タイミング(計測)を行うセイコーとの緊密なパートナーシップによって構築されたタイミング/リザルトシステムが、華々しい陸上競技の祭典を、影でしっかりと支えているといっていい。

 エプソンによって運営されるリザルトルームは、本会場となる長居陸上競技場のメインスタンドの裏側にある。部屋からは直接、競技場の様子は見えないが、協議結果、選手情報のすべてが、このリザルトルームに集約されている。


大会運営本部などが入るフロア。この先にリザルトルームがある リザルトルームの入口。このフロアに入るためには何重もの警備をパスしなくてはならない リザルトルームの内部の様子

セイコーエプソンのブランド・コミュニケーション推進部・小松秀敏専任部長
 「3年前からIAAF関係者などと協議を進め、大阪大会ではどんなシステムを構築すべきかを検討してきた。2年前に行われた前回のヘルシンキ大会にも、大阪大会の関係者がシステムの視察に訪れた。この大会に向けての新たに構築した仕組みはないが、ハードスペックの強化や操作性の向上などの改善を加えてきた。8月14日から設営を開始し、その後の試験運用を経て、開催当日を迎えた。この分野に精通しているエプソンのイタリアのスタッフ37人を含む、45人体制で運用しており、安定したシステム稼働には、これまでの長年の経験が生きている」と、リーダーであるセイコーエプソンのブランド・コミュニケーション推進部・小松秀敏専任部長は語る。同氏は、35年間にわたり、スポーツイベントのリザルトシステムに関わってきたスペシャリストだ。

 リザルトルームには、選手の情報やスタートリスト、競技での記録を管理するリザルトサーバー、CIS(コメンテータ・インフォメーション・システム)と呼ばれるテレビの実況や解説者などが利用する情報提供システム向けサーバー、IAAFのホームページに掲載する情報やマスコミ向けに情報を配信するインターネット用サーバーなどが設置されており、エプソンでは、これらの大会、選手、記録に関する情報を一元的に管理し、世界に向けて配信するという役割を担っている。


リザルトルームに設置された基幹サーバー。右側にはUPSがある テレビ局向けに配信されるデジタルビデオ信号データの機器 エプソンのイタリアのスタッフが運用を手助けしている

公式記録をリザルトサーバーに配信

 リザルトルームが管理する情報のなかで、多くの人が注目するのは、やはり記録である。

 陸上競技は、マラソンや競歩のような「ロードレース競技」、砲丸投げや幅跳びなどの「フィールド競技」、100メートル走などの「トラック競技」に分かれる。

 ロードレース競技では、設定された各計測ポイントから得られた情報を、リザルトサーバーへと送信する。エプソンの社員が、ポイントごとに配置され、情報配信が的確に行われていることをサポートする。またフィールド競技ではフィールドの横に設置された端末から、サーバーに情報を配信するとともに、フィールド内に設置されたイベントボードにも結果を表示する役割を担う。

 トラック競技では、最終的には、写真判定に基づいて導き出されたタイムを公式記録として、フォトフィニッシュルームに置かれた端末から、サーバーに登録するという仕組みだ。

 トラック競技の計測は、胸のゼッケンに埋め込まれたセンサーと、ゴール地点に設置されたセンサーによって計測される。また、同時にゴール地点にカメラを設置し、写真判定を行う。カメラは、1万分の1秒までの映像を映し出すことが可能な特殊カメラである。この映像にカーソルをあわせれば、自動的にフィニッシュ時点での記録が表示される。

 100m走などのクラウチングスタートの場合は、号砲のタイミングと、スターティングブロックから足が離れたタイミングを計り、フライングかどうかを判定しているという。

 サーバーに送信されてきた記録情報は、IAAFの公式認定を受けたあと、競技結果として配信される。

 配信されるのは、CIS、放送局、IAAFのインターネットサイトなどである。


フォトフィニッシュルームの入口 フィールドに設置されたカメラ フォトフィニッシュルームにも3台のカメラが置かれる

ゴールを判定するセンサーと、フィールドに設置されたカメラ(反対側の上部) 写真判定システム。カーソルをあわせるとタイムが表示される 写真判定画像はプレス向けにも配布されるほか、選手にも提供される

フィールド競技の会場から情報を配信するブース ブースからはフィールドイベントボードにも情報を配信する

実況に利用される情報が提供されるCIS

 CISは、テレビでの実況の際に、実況担当者、解説者などが利用する端末だ。タッチパネル方式となっており、リアルタイムで更新される記録、スタートリストなどの情報を瞬時に得ることができる。メインスタンドに設けられているテレビ解説者およびプレス席には550台のCISが設置されており、この情報をもとに全世界にテレビ中継で情報が配信されることになる。

 「かつては、アシスタントディレクターがカンペを出して情報を提供していたが、いまは、実況するアナウンサーが、CISを利用して自ら情報を入手するという使い方になっている。すでに操作に慣れているプレス関係者が多いため、むやみにインターフェイスを変更できないという制限もある。そのため今回もヘルシンキ大会と同様の操作環境にしている」という。


CISの端末。会場に550台が設置されている CISの画面の様子。左側の項目から必要な情報を選ぶ 操作はタッチパネルで行う

CISに配信するデータはPCを使って作成する 会場に設けられたプレス席。左右にあるのがCIS CISは、関係者が使用する通路にも置いてある

 また、報道関係者の拠点となっているプレスセンターにも、エプソン製プリンタで印字した紙の形で、同様の情報が提供される。所定の棚に行けば、記者はこれを自由に入手できる。

 さらに、IAAFのインターネットサイトへの情報配信もリザルトルームから行われるほか、放送局が使用するグラフィック画面データについても、リザルトルームで編集し、これをテジタルビデオ信号として放送局に配信している。そのためリザルトルームには、放送局と同じ機材が一部持ち込まれている。

 「ミラノにあるIAAFのサーバーにストリーミングのデータをアップロードするといった作業も増えている。欧州は通信環境が悪いため、どうしたら最も速くアップロードできるのかといったルートを探すといったことも、連日、試行錯誤しながら解決している」という。

 そして、会場内の大型ビジョンへの情報配信も行われる。「大型ビジョンは、メーカーごとというよりも、競技場ごとによってプロトコルが異なるため、大会ごとに対応しなくてはならない。大阪大会の場合、本会場は松下電器製だが、選手がウォーミングアップを行う会場は東芝製であり、それぞれにあわせる必要があった」という。

 一方、出場選手の情報は、リザルトルームの端末から、IAAF(モナコ)のデータベースにアクセスして入手する。ここには、氏名、国籍、性別、歳などの基本情報はもとより、自己最高記録、シーズン最高記録などの情報も含まれる。

 エプソンではこの情報を活用しながら、シーディングルームで決定した予選の組み合わせや、準決勝および決勝において、選手がどのレーンを走るのかといった情報を入力し、リザルトシステムに蓄積。ここから競技前にスタートリストなどを作成する。これも、CISへの配信や、紙に印字した形での配布が行われる。

 また、CISではフラッシュインタビューというコーナーがあり、そこでメダリストのインタビューシーンなどが随時再生できるようにしている。


プレスセンターの様子 リザルトルームから配信された情報は紙に印字されて棚ごとに仕分けされる これがプレス向けに配布されるスタートリストや記録の情報

連続稼働に向けた体制を整備

会場に張り巡らされた情報配信、電源供給のためのケーブル
 競技場内部だけでなく、世界中への情報配信を支えるリザルトシステムだけに、バックアップ体制も万全だ。

 リザルトシステムでは、7台のサーバーを導入しているが、そのうち半分がバックアップ用。また、UPS電源も導入し、会場の停電時にも連続稼働ができるようにしている。

 「ヘルシンキ大会では、大雨の影響で一時停電したことがあったが、リザルトルームのサーバーは問題なく稼働し、情報を全世界に配信していた。ただ、フィールドの端末からのデータ送信ができなかったため、その際には、インカムや電話を利用して処理するという手法をとった」という。

 万全のバックアップ体制によって、記録は確実に全世界に配信されるようになっているのだ。

 世界的に注目を集める世界陸上。今日も、暑い大阪で、トップアスリートたちの挑戦が繰り広げられている。

 それを、セイコーエプソンのリザルトシステムがしっかりと下支えしているというわけだ。


協賛各社から記念グッズなどの販売が行われているコマーシャルブース。エプソンはプリンタの出力サービスを行っていた 表彰台の背景を使用し写真を撮影。3台のプリンタを駆使して、その場で写真をプリントアウト このほか、読売新聞との提携で号外を印字して発行。左下にはエプソンブース来場者の記念写真を印字


URL
  IAAF世界陸上2007大阪大会
  http://www.osaka2007.jp/
  セイコーエプソン株式会社
  http://www.epson.jp/


( 大河原 克行 )
2007/08/28 00:00

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