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驚異的な伸びを示すSharePoint Server 2007-その理想と現実を見る【後編】


 前回は、マイクロソフトから見たMicrosoft Office SharePoint Server 2007(以下、MOSS 2007)に関してまとめたが、今回はMOSS 2007を実際に販売・インテグレーションを行っている、株式会社大塚商会と日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)に話を伺った。大塚商会は中小規模の企業に強く、日本HPは大・中規模企業をターゲットとしている。


MOSS 2007はファイルサーバーの代わり? 大塚商会

マイクロソフトの発表会資料。ワールドワイドでも好調なのがわかる
 「MOSS 2007は、マイクロソフトがいうとおり、相当売れています。実際、われわれのところでもライセンス数だけを考えれば、前年の20倍という数字を出している月もあります。MOSS 2007は、400%増というのが今年の実績になりますね」と話すのは、大塚商会サービス&サポート本部 ソリューション&SI部門 テクニカルソリューションセンター インフラグループ MSソリューション課 課長の清水達哉氏だ。

 だた、よく話を聞いてみると、以前のSharePoint Portal Server 2003はあまりにも売れていなかったため、MOSS 2007の売れている状況が目立つようだ。

 「現在、MOSS 2007が売れている層は、中堅企業層ですね。こういった企業が文書管理システムとして導入している例が多いです。以前のバージョンは、セキュリティ面などで使いにくかったり、アプリケーションのターゲットもよくわからなかったイメージですが、MOSS 2007になり、ある程度はっきりしたということでしょう。現在導入をされているお客様の多くは、以前のバージョンを一度検討されたお客様が多いですね」(清水氏)

 「MOSS 2007自体は、インストールが簡単です。でも、インストールしても、実際にはソリューションとしてきちんと動かすことができないことが多いです。マイクロソフトは、簡単とはいっていますが、実際はきちんとしたコンサルティングが必要になっています。それも、システムを動かすということよりも、どのような文書を管理するのか? 作成からアーカイブまでの流れをきちんとコンサルティングする必要があります。MOSS自体は、やはり空っぽな箱なので、有効な使い方をするためには、コンサルティングが必須になっています」と語るのは、大塚商会マーケティング本部 テクニカルプロモーション部 Microsoftグループ課長の米田仁哉氏だ。

 「お客様がMOSS 2007の導入を決められる大きな理由は、ドキュメント管理やファイルサーバーの統合、企業内ポータルといったことですね。ただ、マイクロソフトのマーケティングがうまいのか、マイクロソフトのセミナーを受けられたり、MOSS 2007のパンフレットを見て、『MOSS 2007って何でもできるんだ』と思われて、連絡されているケースが多いです。まあ、実際MOSS 2007って、やろうとすれば何でもできるんですけどね…」(大塚商会マーケティング本部 テクニカルプロモーション部 Microsoftグループ テクニカルスペシャリストの西田陽子氏)

 確かにMOSS 2007は、幅広い機能が用意されているため、エンドユーザーにとっては何でもできると思いがちなのだろう。

 「実際、お客様とミーティングしている時に、MOSS 2007のいろいろな機能を説明していくと、本来のテーマとは別にこの機能が欲しかったといわれる場合もあります。ただ、実際に導入する段になるといろいろと問題が出てくるため、それなりにハードルも高いですね。先ほど話が出たように、MOSS 2007自体はシステムですので、エンドユーザーがどのようなコンテンツをMOSS 2007に持ち込んで、運用していくかという部分が大きな問題となっています。このため、単にライセンスを売って、おしまいというビジネスではないですね」(西田氏)


 エンドユーザーは、MOSS 2007のどのような部分にメリットを見いだして、導入をしているのだろうか?

 「現在、導入されている企業のほとんどが、コンテンツマネジメントですね。会社で作成されるほとんどの文書は、WordやExcelなどのデータなので、これらの文書をセキュリティ性の高い文書管理システムに保存しておきたいという目的で使用されています。また、IT部門では、会社のあちこちに勝手に立てられたファイルサーバーを全社的に一括して管理したいという必要性からも出てきているようです。これは、日本版SOX法といった高度なコンプライアンスというよりも、いろいろセキュリティということでは新聞紙上でも話題になっているので、わが社でも遅れると大変といったことがあるからでしょう。あと、文書管理ということだと、IT部門も予算が取りやすいといった理由もあるのかもしれません。ITシステムに関しても、データベースや電子メール、ウイルス対策といったことが、ある程度できあがったので、次のステップでいろいろ大変な文書管理に手をつけ始めたといえるでしょう」(米田氏)

 また、MOSS 2007は、Office 2007との連携が強化しているが、エンドユーザー環境ではすべてのクライアントPCにOffice 2007が導入されているとは限らない。このあたりは、エンドユーザーはどう思っているのだろうか?

 「確かに、いろいろなデモを見て、OfficeとMOSS 2007の連携を見られて、使いたいと思っているお客様は多いです。でも、Office 2007でしか使えませんというと、非常に残念がられています。おもしろいのは、Office 2003やXP、2000では、MOSS 2007のOffice連係機能は使えませんと話しても、特にMOSS 2007の導入をやめられるお客様はいらっしゃいません。MOSS 2007のOffice連携は、ある意味、お客様にとってMOSS 2007を導入するメインの目的ではないのでしょう。Office 2007でなければ、MOSS 2007が使えないわけではありません。別にWebインターフェイスで使っても、それほど使い勝手が悪いわけではありません」(米田氏)

 やはり、多くの企業では、それほどOffice 2007自体が普及していないため、Office systemとしてMOSS 2007を利用しているわけではないのだろう。それでも、MOSS 2007自体には、魅力があるのかもしれない。

 「企業にとって、文書管理は、今まで手のつけたがらなかったことなのです。何度かやろうとしても、ソリューションが高価で、一部の業種に向けたモノが多かったのです。これに比べてMOSS 2007は、コストも安くて、一般のオフィスで使われているOffice文書をスムーズに管理できるので、重宝がられているのかもしれません。また、ゴミ箱のようになっている各部門のファイルサーバーをどうにかしたいというのも、一つの目的だと思います」(清水氏)

 どうやら、MOSS 2007自体は、ポータルサイトとして利用されているよりも、ファイルサーバーや文書管理システムとして利用されていることがほとんどなのだろう。検索に関しては、ニーズはあるようだが、MOSS 2007に入っているSearch Serverは、日本語検索という面では国産メーカーの検索ソフトに比べると一歩も二歩も遅れている。このため、あまり使われていないのが現状のようだ。


 「MOSS 2007には、ブログやウィキなどの機能もありますが、われわれのお客様ではほとんど使われていません。個人が情報を発信するという文化は、あまり日本の企業には当てはまらないのかもしれません。ただ、ポータルサイトとしての機能は、最低限使われているようです。会社からのお知らせや各部や課に向けたお知らせなど、今まで掲示板や紙で回していたモノをポータルに掲載することで、非常に簡単に処理できるようになったということはお客様の声として聞いています。お客様によっては、BI機能は興味を持たれているようです。ただ、開発が必要だったり、オプションのコストがかかることがわかると、検討はされますが、これをメインにMOSS 2007を導入されるお客様はほとんどいらっしゃいません」(米田氏)

 MOSS 2007自体は、非常に評価が高い。しかし、Windows Serverで提供されているWindows SharePoint Services(WSS)がMOSS 2007の足を引っ張っているようだ。

 「ある程度、技術スキルのある会社ならWSSで、必要なシステムを作り上げてしまいます。WSSだとタダですから。また、グループウェアの機能は、MOSS 2007よりもサイボウズなどの方が優れている場合もあります。だから、MOSS 2007を使われてるお客様は、文書管理にフォーカスを当てたモノになるのでしょう。個人的には、WSSから安いコストでアップグレードできるようなパスがあれば、WSSを使っているエンドユーザーがMOSS 2007にアップすると思うのですが…」(清水氏)


大・中規模企業においてもMOSS 2007の導入は文書管理 日本HP

 「ここ数カ月間の仕事は、ほとんどMOSS 2007の提案ばかりですね。お客様の要求仕様を見てみると、ほとんどがMOSS 2007にマッチするようなモノばかりです。実際、マイクロソフトのおっしゃるとおりMOSS 2007の案件が増えていて、大変な状況です」と話していただいたのは、日本HP コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション戦略本部 ソリューション戦略第一部 SPRBグループの星川一弥氏だ。

 「日本国内の案件で多いのは、チーム内の情報共有システムというものです。今までのような部や課というカテゴリーだけでなく、さまざまなプロジェクトやチームが社内を横断して作られている状況においては、ITシステム上で素早い情報共有の手段が必要とされていました。実際、今までのように、プロジェクトやチームのメンバーが、身近にいるとは限りませんし、最近では海外の工場ということも当たり前になってきています。こういったときに、MOSS 2007を使った情報共有システムはフィットしたのでしょう。」(星川氏)

 「なぜこのタイミングでMOSS 2007なのかといえば、Notesや国産のグループウェアからの乗り換えという案件が多くなっています。確かに、国産のグループウェアは日本の企業にとっては、かゆいところに手が届くシステムですが、少しニーズが変化してきたのでしょう。また、以前のバージョンではガリガリとしたカスタマイズが必要でしたが、MOSS 2007になって開発がそれほど必要なく、ユーザーの要件を満たすモノができます。MOSS 2007では、エンドユーザーができるカスタマイズの範囲が増えたためです。また、マイクロソフトが提供しているグループウェアのGroupBoardは、MOSS 2007上で動作するため、日本的なグループウェアが必要ならこれで十分ということでしょう」(星川氏)

 「MOSS 2007が売れている理由は、Officeソフトで作成した文書をさまざまなメンバーと簡単に共有できるということからでしょう。MOSS 2007は、今までの静的なデータの共有から、Web 2.0的で、動的な情報共有ができるということをメリットに感じて導入されているのでしょう。すぐに、Web 2.0的なソリューションが作れるわけではないですが、こういった将来性のあるシステムということなのでしょう。ある意味、Notesユーザーなどがやりたかったことが、マイクロソフトのソリューションでもできるシステムなのかもしれません」(日本HP コンサルティング・インテグレーション統括本部 ソリューション戦略本部 ソリューション戦略第一部 SPRB ソリューションビジネスリードの三輪祥宏氏)


 「多くの企業では、Officeドキュメントをデータとして情報共有をしています。しかし、MOSS 2007が期待しているOffice 2007を全面的に導入されている企業は、非常に少ないです。この意味では、MOSS 2007を導入しても、目に見えるメリットが現れるわけではありません。もう一つ大きな問題となっているのは、Active Directory(以下、AD)の存在です。マイクロソフトのソリューションのほとんどが、ADがベースとなっています。このため、ADがきちんとしていない企業では、MOSS 2007を導入する時に問題が出たりします。ADがきちんと導入されているお客様はそれほど多くないため、これに関しては問題になると同時に、われわれインテグレータにとってはビジネスチャンスといえるのかもしれません」(三輪氏)

 やはり、規模の大きな企業においても、クライアントPCすべてにOffice 2007が導入されているわけではないようだ。このため、MOSS 2007の大きなメリットといえるOffice連携は、エンドユーザーが使っている環境では、幻となってしまっている。

 また、ADの整備に関しては、今後マイクロソフトのソリューションを導入する時のボトルネックになっていくだろう。企業で利用するマイクロソフトのソリューションのすべては、ADをベースとしたものになっている。便利な機能だなと思うと、必ずADが必要になっている。このため、マイクロソフト製品を利用する企業にとっては、本格的なAD構築が必須となってくるのだろう。

 「MOSS 2007は、ADが前提ではありません。この部分は、譲っちゃった部分なのかもしれません。MOSS 2007でもADを使用しないとNTLM認証といったセキュリティ部分が利用できないため、MOSS 2007を活かしきることはできません」(三輪氏)

 いろいろ話を聞いていると、全社的な文書管理というよりも、プロジェクトやチーム単位での文書共有といった用途にMOSS 2007が利用されているようだ。

 「MOSS 2007では、非常に簡単にプロジェクトチームが構成できるので、この部分はメリットに感じてらっしゃるエンドユーザーさんは多いです。ビジネスをしていく上では、関連会社や取引先や業務委託会社とさまざまな会社と連携していかなければならないため、きちんとした情報共有は必須事項になってきているのです。また、MOSS 2007で情報共有を行われる大きな理由としては、メールサーバーがパンクしだしていることもありと思います。ビジネスに関係する人たちに、WordやPowerPointで作ったファイルを送信するだけで、相当のデータ量となっています。こういったことが、MOSS 2007では簡単に解決できます」(三輪氏)


 日本HPがMOSS 2007の導入を手がけている企業としては、やはりSharePoint Portal Server 2003からのアップグレードのユーザーが多いようだ。

 「現在は、以前のバージョンからアップグレードされる会社やMOSS 2007を待たれていた会社からの仕事が多いです。例えば、Notesを導入されていたお客様にとっては、特定のフォルダにドキュメントを入れれば、自動的にセキュリティがかかるというのが当たり前でした。しかし、SharePoint Portal Server 2003ではこういったことができませんでした。今回のMOSS 2007では、RMS機能より、フォルダにアップするだけで、自動的にあらかじめ決められたセキュリティが付与されるので、非常に使いやすくなっています。これがやりたかったというお客様が多いですね」(三輪氏)

 MOSS 2007の一つの特徴といえる個人サイト(ブログ、ウィキ)に関しては、日本では使われているのだろうか?

 「日本人の精神性からいけば、個人が情報を発信するというのは使いにくいですね。ただ、会社のマネジメント層は、使わせたがっています。今までの日本企業では、人材があまり流動しないため、ある人に聞けばよく知っているというプロがいました。しかし、日本でも、人材が流動化してきているため、担当者がいなくなると、まったくわからなくなるということは避けたいというようになってきています。だからこそ、個人の知をなんとか、ITシステム上に残していければということで、MOSS 2007のメリットを感じていらっしゃる企業もあります。もう一つは、IT部門側で情報をパブリッシュすることが、膨大な業務になってきています。できれば、個人や部門で簡単に情報をパブリッシュして、IT部門の業務を軽くしてほしいということが本音なのかもしれません」(星川氏)

 この部分に関しては、MOSS 2007のシステムというよりも日本人のワークスタイルといったことが関係しているのかもしれない。また、業務として個人で情報発信を行うというワークスタイルはまだまだ日本では定着しないのかもしれない。技術部門にとっては、いろいろなトラブルや調べものの情報をアップしていくことで、同僚だけでなく、自分自身にもメリットがある。このため、将来的には、全社員がメリットを感じてもらい、ブログやウィキが定着するかもしれない。

 「MOSS 2007は、まだまだファイルサーバーや文書管理システムとして導入されています。ワークフローやフォームシステムなどは、使われてはいません。この部分は、MOSS 2007でも機能が弱い部分です。MOSS 2007では、ばらばらに立っていたイントラシステムが、MOSS 2007という1つのシステムに統合されていくことだけでも喜ばれます。MOSS 2007では、ファイルサーバーやWebなどのシステムが1つになることで、実際に利用するユーザーにも単一のUIで利用できるようになるだけでもメリットのようです」(三輪氏)


MOSS 2007の本当の強みは?

 MOSS 2007に関するインテグレータの取材を終えて感じたのは、マイクロソフトがいうほどエンドユーザーは高度な機能を使っているわけではないということだ。MOSS 2007のニーズとしては、やはりファイルサーバー代わり、文書管理システムとしてのようだ。

 ただ、単機能の文書管理システムではなかなか企業での導入は進まない。MOSS 2007ならば、コンテンツマネジメント、BI、ワークフローなどの機能が用意されているため、将来的にはこういった機能が利用できるかもしれない。ある意味、いろいろな機能があるからお得といったイメージがあるのかもしれない。

 もう一つの問題点としては、企業が作るドキュメントのほとんどがOfficeで作成されているということだ。このため、OfficeとMOSS 2007との親和性は、大きく期待されている。ただ、MOSS 2007と連携できるのはOffice 2007に限られる。企業においては、最新のOffice 2007を全面的に導入されているわけではない。このため、MOSS 2007を導入した企業が、機能を100%活かしきっているわけでもないようだ。

 それでも、MOSS 2007が売れているのは、単なるファイルサーバーを何とかしたい、セキュリティがかかる形で文書を管理したい、全社共通で使えるポータルが必要といった非常に基本的な機能が評価されているからだろう。

 ポータルサイトとしては、さまざまなWebパーツが用意されているが、現状では静的であまり使いやすいとは思えない。このあたりは、SP1がリリースされるとAjaxが使用できるようになるため、Exchange ServerのOutlook Webアクセスのような動的で一般ユーザーにとって使いやすいインターフェイスが実現できるだろう。マイクロソフトでも、Ajax対応のWebパーツはいろいろと用意しているが、日本向けのAjax Webパーツがどのくらい用意されてくるかによって、使い勝手も違ってくるだろう。



URL
  Microsoft Office SharePoint Server 2007
  http://office.microsoft.com/ja-jp/sharepointserver/
  株式会社大塚商会
  http://www.otsuka-shokai.co.jp/
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/

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( 山本 雅史 )
2007/12/26 00:01

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