Enterprise Watch
バックナンバー

「Adaptive Infrastructure」の全容が明らかに-仮想化と自動化は何をもたらす?


テクニカルセールスサポート統括本部 ソリューション技術本部 インフラストラクチャーソリューション部 ソリューションアーキテクトの山根正士氏
 2005年、次世代データセンターのインフラ基盤を実現する「Adaptive Infrastructure(以下、AI)」という構想が日本HPにより打ち出された。「24時間365日自動化されたデータセンターを実現する」など、これまでは大きな目標や方向性が説明されてきたAIだが、2006年のMercury買収、2007年のOpsware買収などを経て、いよいよ実際に製品を組み合わせた1つのソリューションとして、その具体像が明らかになってきた。

 「2008年は理想からAIを現実にする年」。そう語るテクニカルセールスサポート統括本部 ソリューション技術本部 インフラストラクチャーソリューション部 ソリューションアーキテクトの山根正士氏にデモおよび詳細を伺った。


ITサプライチェーンを自動化するAI

AIの概要。ITサプライチェーンの自動化する

アーキテクチャモデル

大まかに4つのステップを踏む
 データセンターではいま、スペース不足、運用の複雑化、増え続ける消費電力など、さまざまな問題が叫ばれている。AIとは、こうした問題を解決する、データセンターの次世代インフラ基盤のことだ。

 具体的には、データセンターのITサプライチェーンを自動化する。現状データセンターでは、顧客ごとに異なる環境でシステムが運用されている。リソースが足りなくなるたびにハードウェアが買い足され、構築されたシステムはそれぞれ横連携することなく孤立して、これが運用を複雑にする原因となっている。山根氏の言葉を借りるならば、「システムは個別最適化され、その結果サイロ化してしまっている」のがデータセンターの現状だ。

 データセンターのインフラ基盤をAIに刷新することで、こうした問題の解決が期待される。核となるテクノロジーイネーブラーは、「ITシステム&サービス」「電源&冷却」「マネジメント」「セキュリティ」「仮想化」「自動化」の6つ。もっと具体的には、旧Mercuryの構成管理製品や旧Opswareの自動化製品、日本HP製ブレードサーバーなどが利用される。さらに仮想化技術を用いることで、システム同士を有機的に連携させ、ITサプライチェーンの自動化を実現していく。

 「データセンターを全体最適化することで、運用コストを大幅に削減。またシステムを標準化することが可能になり、顧客から見ると、均一のサービスを受けられるようになるのがメリット。例えば、より手軽な発注、迅速なシステム構築といったことが可能になる」(同氏)。

 では、具体的にAIによるデータセンター業務の流れを見てみよう。注意したいのは、すべてが自動化されるわけではないということだ。山根氏によれば、「まだ完全自動化の時代ではない。判断や承認作業には人の手が必要。逆に定型作業はITに任せるというアプローチを採用している。肝心なのは、人とITのバランスをどう取るかという点」という。

 ではそのバランスの下、具体的にどんなデータセンター環境が実現するのか。デモの内容をふまえながら、紹介していく。シナリオとしては、1)リクエストの受け付け、2)構築プロセスの自動化、3)構築後のキャパシティ管理、4)サーバー配置の最適化、と大まかに4つのステップを踏む。


リクエストの受け付け

リクエスト受付からサービスリリースまでの流れ
 1)で提供されるのは、データセンターサービスの顧客が使うサービスポータルだ。データセンターを利用したい企業のIT管理者は、まずこのポータル画面から、自社に必要なシステムのスペックなどをリクエストすることになる。

 例えば、顧客企業内でExchange Serverが必要になったとしよう。このポータル画面を使ってExchange Serverの注文を行うことになる。まずポータル画面でExchange Serverを選択し、ユーザー数、ユーザーあたりのストレージ容量、求めるレスポンスタイム、システムが置かれるロケーション(地域)、可用性、Exchange Server自体の名前、管理サーバーの名前などを入力する。すると、条件に応じた金額が表示される。イメージとしては、「HP Directplus」でスペックを選択してPCを購入するのと似ている。

 顧客は、コストパフォーマンスを考慮しながら、条件を調整することになる。例えば、クラウドコンピューティングを基盤とするAIでは、システムをどの地域に構築するか選べるようになっている。日本国内を選択すれば価格は上がるし、海外を選択すれば、多少のパフォーマンス低下と引き替えに価格は安くなる。

 納得の条件で購入を決定すると、そのリクエスト内容がITの言葉に変換され、データセンター内の構成管理データベース「Universal CMDB」に蓄積される。


サービスポータル。構築可能なシステムがカタログとして表示されている。ユーザーはここから任意に選択する Exchange Serverを選択した例。ユーザー数などの条件を入力していく 条件に応じて価格が表示される

システム構築の自動化

 受け付けたリクエストは、タスクとしてITサービス管理ソフト「HP Service Manager」で管理される。同ソフトは、機能的には企業内の問い合わせに対するヘルプデスクの役割を果たす製品で、ITIL v3.0に沿った管理を行えるのが特長。同製品でタスク管理を行い、Universal CMDBでリソース全体の構成管理が行われる。管理された情報を基に、ハードウェア、ストレージ、ネットワークなどのプロビジョニングツール「HP Operations Orchestration」でシステムの自動構築が可能となる。

 HP Operations Orchestrationを利用すると、ハードウェアがすでに用意されているならば、あとはリソースを選択してボタンをクリックするだけで、OSやソフトの配布、インストール、設定などシステム構築を自動化できる。そうして構築された情報はUniversal CMDBに追加され、以後の構成変更も常に検知して情報を更新してくれる。

 もしもハードウェアの準備が整っていない場合は、物理・仮想環境の統合管理ソフト「HP Insight Dynamics-VSE(以下、HP ID-VSE)」で柔軟に下準備することが可能だ。通常、ハードウェアを設置して配線、インストールメディアの準備、電源オンといった作業が必要となるが、HP ID-VSEにより、最適なハードウェアの選択、必要なストレージ、ネットワークとの接続、電源オンまでの手順を自動化することが可能という。

 さらに、データセンター側で事前定義がしっかりとされていれば、顧客が発注した段階で、リクエストの受け付け、システム構築までを完全自動化することができるという。今回の例でいうと、Exchange Serverのリクエストが受け付けられた時点で、データセンター管理者が何の操作をすることもなく、自動的にユーザーが指定したスペックの条件に従って、Exchange Serverが構築されるのだ。

 また、「データセンター内に新しくExchange Serverを追加した結果、全体の構成にどのような影響が出るか、構築作業以外にやらなければならない作業がないか、シミュレートして管理者に知らせることも可能」(山根氏)という。


HP Service Managerの画面。ユーザーリクエストをタスクとして管理 Universal CMDBの画面。リアルタイムに構成管理できるほか、システムを新規追加したことによるほかへの影響も把握できる HP ID-VSEの構成管理ビュー。物理環境・仮想環境をまとめた“論理サーバー”という考え方で管理できる

構築後のキャパシティ管理

キャパシティ管理画面。ワークロードのヒストリカルデータを参照している
 構築後の運用段階でも、AIにはデータセンター管理者の負担を軽減する仕掛けがある。主役となるのが、HP ID-VSE。同ソフトでは、物理環境・仮想環境を「論理サーバー」という概念で管理する。これにより柔軟なリソースのキャパシティ管理が行えるようになる。

 例えば、物理サーバー上の仮想マシンは、簡単にほかの物理サーバーに移し替えることができる。これは、仮想化技術のよく知られたメリットの1つだ。論理サーバーという概念では、これと同様のことが物理サーバーに対しても行えるという。すなわち、論理サーバー上の物理サーバーを簡単にほかの論理サーバーへ移し替えることができるというわけだ(実際には物理サーバーのプロファイルを移動させるわけだが)。

 運用段階では、キャパシティ管理を行うツールや論理サーバーという概念により、サービス品質の維持を行っていく。キャパシティ管理ツールでは、物理・仮想双方のワークロードをヒストリカルデータとして参照できる。もしもオーバーワークとなっているシステムが存在したら、リソースプールの中で最適な再配置をシミュレーションしてくれる。これにより例えば、数台の物理リソースを仮想マシン上に移行した際、各ワークロードの効率がどう変化するか、ビフォー・アフターが把握可能となる。

 データセンター管理者は、こうした柔軟な環境や便利なツールを使って、運用の効率化することができる。


サーバー配置の最適化

HP ID-VSEを使うと、ドラッグ&ドロップによる物理・仮想リソースの移行が可能
 最適なシミュレーション結果が得られたら、HP ID-VSEを使って、実際にサーバーの再配置を行っていく。論理サーバー内の物理・仮想環境は、ドラッグ&ドロップで簡単にほかへ移行できる。物理環境Aから物理環境Bへの仮想マシンの移行、サーバーブレードAからサーバーブレードBへの物理環境の移行。論理サーバー上では、このどちらの移行もたやすく行うことができる。

 また、移行シナリオをあらかじめ定義しておくことも可能。例えば、サーバー統合シナリオ、既存VMwareの稼働停止シナリオなどを定義しておくことで、こうした作業も半自動化することができる。

 なお現状のAIでは、移行には人の判断が必要となる。それはキャパシティ管理やシミュレーションの結果を判断するのに、いまはまだどうしても人の頭脳が必要となるからだ。しかし、「将来的には、インフラ全体の構成管理からキャパシティ管理まで、自動的に行えるような環境も目指している。例えば新たなハードウェアを追加導入した場合や、あるシステムで一定以上の高負荷となった場合、キャパシティ管理ツールやHP ID-VSEが収集する情報から、リアルタイムにリソースキャパシティが最適化される環境も構想している」(山根氏)という。


移行シナリオ 既存サーバーの状況を表示 VMへの自動システムコンソリデーション。HP ID-VSEでは、この際移行先として最適なサーバーを5つ星評価で提示してくれる

AIはすでに製品として提供可能

市ヶ谷本社内のAISS
 以上、4つのステップにより、データセンターのITサプライチェーン自動化が実現する。詳細は日本HP市ヶ谷本社に設置されたデモ環境「Adaptive Infrastructure Solution Showcase(以下、AISS)」にて体験することができる。

 AI構想の発表とほぼ時を同じくして誕生したAISSは、第1世代として日本に開設されたのを皮切りに、米国・中国・韓国・フランスなど各国へ世界展開され、いまではクラウドコンピューティング環境としてより高度なデモが行われるようになっている。

 そうして熟成されてきたAIは、実用化レベルで自動化技術を実装することに成功しており、すでに製品として提供できるレベルにあるという。「実際のシステム、設計書、参照アーキテクチャを備えており、1ラックから導入可能な次世代インフラ基盤として、すでに顧客への営業活動も開始している」と山根氏は語る。

 日本HPでは、これをSaaSビジネスの基盤プラットフォームや、大規模システムの統合プラットフォームとして訴求する構えだ。営業活動の手応えとしては、「顧客の声を聞くと、かなり大規模なデータセンターでないと導入のメリットが得られないのではとの声が多い」と、普及にはもう少し時間がかかりそうな雰囲気。しかし、「マルチテナントが宿命のISPでは、採用に進み始めると見ている。実際に中小企業の顧客に話を聞くと、SaaSは今後必ず使いたいと思っていて、その時、サービス提供側はこうした仕組みを導入して、コスト削減の差別化を図ってほしいという声が出ている」と一定の手応えも感じつつあるとのことだ。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/


( 川島 弘之 )
2008/10/03 08:49

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.