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社内情報共有ツールとしてのブログ、その運用ノウハウを探る


 個人ユーザーの間で急速に広まっているブログを使って、社内情報共有やコミュニケーションの活性化につなげられないか。そんな考えを持つ有志らが集まって事例やノウハウを共有する勉強会が12月10日に開催された。会には、すでに社内ブログを導入している、あるいは検討している企業担当者のほか、シックス・アパートやサイボウズなどのベンダー関係者も集まった。


シックス・アパートが企業へのブログ展開を本格化

日本オラクルのシステムと組み合わせた活用例。部門ごとのブログへの書き込みがRSSフィードにより本部・全社ポータルに集まり、全社の情報をポータルから閲覧できるという

カシオ計算機が導入した社内ブログの例
 ブログが個人の情報発信ツールとして定着しつつあるのは周知のとおりで、ビジネスにおいてもPRやマーケティングなどを目的としたブログを公開する企業が増えている。対してブログを社内(イントラネット)で利用しているという企業はまだ少なく、認知されているとは言えない状況だ。しかし、ブログの特性がインターネットだけでなくイントラネットにおいても有用であり、従業員同士の情報共有・コミュニケーションツールとして拡大させようと、いくつものブログサービスベンダーが動き始めている。

 世界で初めてトラックバック機能などを搭載したブログツール「Movable Type」を開発したシックス・アパートは、12月にブログの社内利用推進を目的に日本オラクルと協業すると発表した。Oracle Databaseに対応するだけでなく、エンタープライズ領域で実績を持つ日本オラクルの「お墨付き」を得ることで、ブログに関心のない、あるいは「ブログ=個人の日記」だと考える企業担当者に、ビジネスツールとして認識してもらう狙いもある。シックス・アパート事業開発担当ディレクターの安田俊彦氏は、これを契機に社内ブログの普及を加速させると話す。

 同社ではすでにいくつもの導入実績がある。カシオ計算機は2004年7月より社内ブログの導入を開始し、社内CMS(Contents Management System)および情報ポータルとして活用している。導入前は情報の共有を目的としたサーバーが部門ごとに乱立し、しかも大半が放置され更新されてないという状況だったが、経理や総務など全社に情報発信する部門からこれをブログ化し社内ポータルに統合、合わせて経営陣にもブログを用意し従業員へのメッセージングツールとした。結果、各部門からの更新頻度や、経営陣からのメッセージが増加したという。

 また大手小売業のA社は、この12月より、本部や商品企画部門と全国の店舗を結ぶコミュニケーションツールとしてブログの活用を始める。それまでは、店舗につき1つのメールアドレスを配布し、本部からの情報伝達のみ行われていて、正社員しか参照することができなかった。ここへ新たに全社員、およびアルバイトも閲覧・書き込みができるブログを構築し、本部と店舗だけでなく店舗間での現場に即した情報共有、コメント機能を使ったディスカッションを可能する。ここで得られた情報を新たな商品企画にも結びつけたいという。

 このほか、会に参加した大手食品メーカーの参加者から、Lotus Notesを使って仕事に関係のあるなしを問わないトピックを社内報的な感覚で掲載し、従業員間の交流を促進しているという事例も紹介された。

 いずれも、それまで従業員の頭の中や、直接の対話でしか生まれなかった情報を形にし、CMSに蓄積・共有しようとする試みといえる。ブログをすることが目的ではなく、手段としてブログが適当であったといえる。

 安田氏は今後、数千、数万人規模のエンタープライズシステムにもブログが適用されるとし、そのためにはより信頼性の高いセキュアなシステムの構築、および既存のエンタープライズシステムや検索エンジン、ファイル管理システムなどとの連動が必要となると語った。


ブログにどんな情報を書き込めばいいのか?会社にとってのメリットは?

 こうしたシステムにおいてはシステムの機能もさることながら、導入する目的の策定や、導入後の運用方法も重要となる。どんな情報を共有したいのか、それによって得られるであろうメリットは何かをはっきりしなければ予算や人員を割り当てられないし、運用方法がまずければ誰も情報を書き込まなかったり、掲載されるべきでない情報が流出してしまうこともある。会では参加者によってこうした課題への意見交換がなされた。

 共有する情報においては、業務に関連するものとして、業務日報、業界動向などのニュース、客先などで話題となったこと、新規事業や業務改善などの提案、会議や研修の議事録、業務上疑問に思ったこと、などが挙げられた。また、自己紹介や趣味など、直接業務に関係ない話も許可することでブログの利用や交流を促進するという意見も出た。

 ただ情報を載せていくだけでなく、コメント機能を使ったフィードバックやディスカッションを行うことが、知識の持ち合いや相互理解を深めていくことも重要であり、従来のメールなどと異なる点だ。さらに、RSSリーダー機能を利用することで新たな書き込みをタイムリーに確認でき、短時間で反応を得ることができる。このあたりのツールは今後さらに便利な機能が搭載されていくことが予想される。

 しかしこうしたことで得られるメリットを数字に表すなど具体化が難しく理解されにくい。そこでまず経営層や管理部門など、全社的にメッセージを発する立場にあって情報共有に理解を示す人から試験的に導入していくのが得策ではないかという意見が多数出た。また初期の段階では、関係者による積極的なコメントによってフォローしていく必要があるかもしれないという。

 対外的なビジネスブログにおいて、まず社長ブログが有名になった例からも、会社を代表する者が率先して行うことが重要であることを示しているといえる。こうした書き込みや、これに対するコメントを見ることで、「自分はこういうことを書いてみたい」と思う従業員も出てくるだろう。

 書き込みに対する心理的不安を排除することも活性化を進める上で必要となる。上司が部下の書き込みやコメントを見て「斬新な意見」などと評価すればモチベーションが上がり、「仕事と関係ない」と一方的に決めつけ叱責してしまうようなことがあるとモチベーションが下がる。ブレーンストーミングと同様に批判は極力避けるべきだろう。ただし、部内での機密情報が書き込まれるのも問題であり、ガイドラインの策定や責任の所在を明確にする必要がある。

 概して、ほかのITと同じくまずは上層部に情報共有への理解を得て、そこからトップダウン式に導入していくのが定石と言えそうだ。インターネット上にブログを開設するのと比べると配慮しなければならない点は多いが、ITを活用し業務を効率化する新しいビジネスツールとしてブログが活用されるシーンが増えていきそうだ。



URL
  Intra Blog/SNS Users Group
  http://iug.typepad.jp/
  シックス・アパート株式会社
  http://www.sixapart.jp/

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  ・ 日本オラクルとシックス・アパート、法人のブログ利用推進に向け協業(2005/12/06)


( 朝夷 剛士 )
2005/12/13 08:59

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