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個人情報管理に初のオープンソースフレームワーク 「Project Higgins」開始


 米IBM、米Novell、オープンソース企業の米Parity Communicationsの3社が、個人情報管理ソフトウェアを開発するオープンソースプロジェクト「Project Higgins」を開始すると2月27日(米国時間)発表した。ID管理ソフトウェアとしては初のオープンソースプロジェクトになるという。この分野では、米Microsoftの「InfoCard」や、デバイスを使う米VeriSignの「VeriSign Identity Protection」(VIP)など新しい技術が次々に登場している。Project Higginsはどう切り込んでいくのだろう。


 Project Higgins発表の数日前、米カリフォルニア州で開催された「RSA Conference 2006」では、Microsoftの会長兼チーフソフトウェアアーキテクトBill Gates氏が、開発中の「InfoCard」のデモを披露した。タイミングが重なったこともあって、対抗馬としてProject Higginsへの注目度を高めることになった。

 Project Higginsは、「ユーザーを中心にすえた個人情報管理の実現を目指す」という。ユーザーは自分の銀行口座番号、電話番号、クレジットカード番号などのID情報を部品(サービス)として細分化して持つ。ユーザー自身が、誰とどの情報を共有するかを決められるのが特徴だ。

 IBMの発表によると、保険会社に個人情報と医療記録など幅広い情報へのアクセスを許可したり、ケーブルTV会社にはより範囲の狭い情報のみにアクセスを許可する、といったことが可能になるという。また、開示・共有する個人情報を変更する際は、1回の編集作業で済むとしている。Linux、Windows、Mac OSなど各種のOS、各種のID管理システムに対応する予定だ。

 Project Higginsのベースになっているのは、個人情報やデジタル管理に関するハーバード大学法科大学院バークマン・センターの研究成果だ。プロジェクトは、IBMが設立(その後非営利組織として独立)したEclipse Foundationが運営し、Parity Communicationsが出資する「SocialPhysics」チームが率いる。現在「Higgins Milestone 0.2.0」の段階だ。

 IBMは、Project Higginsの成果を自社ID管理ソフトウェアのTivoli製品群に組み込む考えで、ディレクトリ製品などを持っているNovellも自社製品に取り込むと予想される。


 個人情報管理では、これまでにも、米Sun Microsystemsが中心となって設立した業界団体Liberty Allianceの“連邦型のシングルサインオン技術”などがある。だが、サービス提供側が個人情報を持つことに対する抵抗は根強い。そこで、個人情報はあくまでユーザー自身が持つようにする次世代情報管理技術に注目が集まっている。

 Project Higginsが興味深いのは、ユーザー中心というコンセプトだけではなく、オープンソースという開発手法をとることだ。これによって、迅速な開発、広範な適用が期待できる。特に、IBMもNovellもオープンソース企業として知名度があり、大規模なオープンソース開発者コミュニティを抱えている。こうしたことからも、かなりのインパクトを持つことになりそうだ。

 MicrosoftのInfoCardも、Project Higginsと同様、ユーザー側が個人情報を管理する仕組みをとっている。同社はInfoCardを昨年5月に明らかにしており、同社によるとWindowsのみを対象とし、同社の次期OS「Windows Vista」、「Internet Explorer 7.0」などの製品で採用される予定だ。

 一方、Project Higginsは、各ID管理システムのAPIとして機能することを目指しており、InfoCardもこの中に取り組む可能性がある。Project Higgins対InfoCardという見方もできるが、InfoCardが個人ユーザー向けの認証管理技術であるのに対し、Project Higginsは企業向けとして採用が進みそうだ。

 なお、Higginsの名称は、タスマニアの尾長ヒギンズネズミに由来するという。小さな市場がたくさん存在する現在の業界を例えるマーケティング用語“Long tail”(長い尾)とかけたのだという。



URL
  Project Higgins
  http://www.eclipse.org/higgins/
  米IBMのプレスリリース(英文)
  http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/19280.wss


( 岡田陽子=Infostand )
2006/03/20 09:19

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