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Windows Vista発売延期、その影響は


 米Microsoftの次期OS「Windows Vista」のリリースが2007年1月に延期された。さらに、Microsoft Officeの次期バージョン「2007 Microsoft Office」もこれに合わせて1月に繰り延べられることが正式に発表になった。シェア9割ともいわれるOSベンダー最大手の同社が主力OSの後継の発売を延期することは、業界にさまざまなインパクトを与えている。また、Microsoftにも痛手となる。


 VistaとOfficeは、年内リリースを目指して開発が進められてきた。Microsoftの3月21日の発表によると、2007年1月に延期するのはコンシューマ向けだけで、ボリュームライセンス契約をしている企業向けには2006年11月にリリースする予定という。Officeの延期発表は24日付で、やはり企業向けは分離して、10月に提供するとしている。

 発表のなかでプラットフォーム・サービス部門副社長のJim Allchin氏は「製品の品質と、すぐに使えることがWindows Vistaの重要要素だが、ホリデーシーズンの間に新しいパソコンにWindows Vistaを配布するには、より長い準備期間が必要となる。われわれは、この理由から、企業向けとコンシューマ向けのリリースを分離することを決めた」と説明している。

 また3月23日には、Windowsを担当するプラットフォーム・サービス部門を組織変更し、Office担当のSteven Sinofsky氏がWindows事業部のトップに就任すると発表した。Vistaの開発を率いてきたAllchin氏は年末に引退の予定だったが、Vista発売まで現職にとどまるという。

 MicrosoftはVistaのリリース延期を、セキュリティ、ドライバ、性能面の課題を解決するためと説明しているが、メディアは別の理由探しも行っている。オーストラリアのSmartHouse.comは、コンシューマ向けVistaに統合されるMedia Center機能の問題のため「最大60%のコード書き換えが行われる」と報じた。XboxチームがWindowsチームに移って作業を行うというものである。ただし、Microsoftの広報担当者は他メディアの取材に対し、「まったくの憶測」と全面否定している。


 ところで、Vistaのリリース時期が延期されるのは、実質的にこれが初めてではない。構想が明らかになった当初、Vistaリリースは2003年を想定していたという。Vistaの最初の評価版は2003年にリリースされている。2006年リリースが正式に発表されたのは翌2004年8月だ。この時、同社はリリースを優先させるために、ファイルシステムの「WinFS」などの目玉機能を削除することも併せて発表している。

 そして今回の発表となった。2006年内というターゲットを外したことは、11月から始まる年末商戦という最大の売り込み時を逸することになる。Microsoftは「Windows 95」並の大ヒット狙って大がかりなプロモーションを計画していた。

 このVistaの遅れで悪影響を被るのは、小売店、PCメーカーをはじめとするハードウェアベンダー、そしてWindowsユーザーだ。一般消費者は、OSのパッケージを購入するよりもインストール済みのPCを買う方が多い。ちょうど米Intelの「Intel Core」など、ハードウェアベンダーは新世代のアーキテクチャを発表しており、この時期にリリースを予定している。また、コンシューマ向けのVistaが登場する1月は、年のうちでもPCの売り上げが振るわないとされる時期だ。年末商戦でVista人気にあやかろうとしていたPCベンダーやOEMメーカーにとって、今回の遅れは大きな痛手となりそうだ。

 だが、セキュリティなど重要な機能が不完全なまま市場に登場するよりも、きちんとした製品を出そうという姿勢を評価する声もある。米CNET News.comによると、Intelや米AMDはコメントを避けているが、米DellなどのPCベンダーは決断を支持したようだ。


 一方、Vistaの遅れが追い風となりそうなのは、米Apple Computer、それに米Novellなどオープンソース陣営だろう。

 Appleはすでに、IntelのCPUを搭載した新機種を前倒しで発売して勢いをつけている。おりしも、iPod人気でMacに再びスポットが当たっているタイミングでもあり、注目が集まっている。また、オープンソース陣営がプッシュするデスクトップLinuxも、Novell、米Sun Microsystemsなどの大手が力を入れているだけでなく、「Ubuntu」などの無償版も知名度を上げている。64ビット対応などの先進性だけではなく、これまで弱みとされてきたユーザビリティを改善したものもある。

 もちろん、最も大きな影響を受けるのはMicrosoft自身だ。Vistaはすでに3年遅れており、再度の遅れにより信頼が損なわれた。また、XPの登場から5年が経過している。遅れに遅れて登場したVistaが期待以下の出来だった場合、ユーザーのWindows離れを引き起こす可能性も否定できない。それは、かつてWebブラウザの「Internet Explorer」が経験したことでもある。



URL
  ニュースリリース、Windows Vistaのロードマップ変更(英文)
  http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/mar06/03-21WindowsVistaDeliveryPR.mspx
  ニュースリリース、組織再編(英文)
  http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/mar06/03-23PSDReorgPR.mspx
  ニュースリリース、2007 Microsoft Officeの発売日(英文)
  http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/mar06/03-24OfficeTimingPR.mspx
  CNET News.comの記事
  http://news.com.com/2100-1016_3-6052372.html
  SmartHouse.comの記事
  http://www.smarthouse.com.au/Computing/Platforms?Article=/Computing/Platforms/R7G5G6U4


( 岡田陽子=Infostand )
2006/03/27 09:09

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