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米SunのCEO交代、Schwartz氏はSunを再建できるか?


 米Sun Microsystemsは4月24日、CEOの交代を発表した。Sunの共同創業者で、22年間CEOとして同社を率いてきたScott McNealy氏は会長に退き、新CEOには40歳のJonathan Schwartz社長兼COOが就任した。Schwartz氏はSunを復活させることができるのだろうか―。同氏を待ち受ける課題をチェックする。


 Schwartz氏は、CEOを務めていたベンチャー企業のLighthouse DesignがSunに買収されたことを受けて、1996年にSunに入社した。2004年、Ed Zander氏がSunを去った後にCOO職を引き継いで以来、McNealy氏と共に表舞台に立ち、Sunを率いてきた。ポニーテールの髪で、ソフトな印象のSchwartz氏は、早くからブログを展開した幹部としても知られている。そのブログでSunの未来や戦略を効果的ににおわせるなど、毒舌のMcNealy氏とは異なる独自のやり方でリーダーシップを発揮してきた。Schwartz氏はCEO就任後もブログを続けると宣言しており、「(Sunは)CEOがブログをする最初のFortune 500企業となった」と4月30日付のブログに記している。

 今回のCEO交代に対しては、株価が約7%上昇するなど、市場は好意的に反応している。だが、Schwartz氏を待ち受けている道のりは決して平坦ではなさそうだ。

 Schwartz氏のCEO就任の日に発表されたSunの直近の四半期業績によると、会計年度2006年第3四半期(2006年1月~3月)の売上高は前年同期比21%増の31億7700万ドル。だが、損益では2億1700万ドルの純損失を計上し、3四半期連続の赤字となった。

 2000年のドットコムバブル崩壊に直撃されたSunは、それから6年が経過しようという現在も、完全に回復できていない。業績落ち込みの原因は、企業がIT投資を控え、安価なサーバーやソフトウェアを求めるようになったことだ。同社は、サーバーでは2004年にx86サーバーの提供を開始し、OSでは2005年にSolarisのオープンソース化に踏み切ったが、新しいトレンドへの対応は遅れた。


 同社の現状を分野別にみると、ハードウェアでは、x86サーバー事業は好調で、マルチコアのUltraSPARCチップも順調に開発が進んでいる。ストレージでも米StorageTekを買収、今後の展開が期待されている。

 だが、ソフトウェアでは軌道に乗っているとはいえず、「Sun Java Enterprise System」「Sun Java Desktop System」のサブスクリプション提供、MicrosoftやGoogleとの提携などは、まだ成果が出ているとはいえない段階だ。

 Sunは、Javaなど革新的な技術を生み出してきたが、それを収益に結びつけるという面では、あまりいい実例を持っていない。オープンソースで人気が高まっている「OpenOffice」(Sunの製品としては欧米などで「StarOffice」、日本では「SunOffice」として提供)での同社の貢献・取り組みを伝えるマーケティングは大きな効果を生んでいない。開発ツールでも、現時点では、IBMがオープンソース化したEclipseに押されている。

 Schwartz氏はCOO就任前はソフトウェア担当上級副社長を務め、Solarisのオープンソース化などを手がけた。また、ブログで過去にGPL3への意見を述べたこともあり、同氏が、今後CEOとしてソフトウェア事業をどう導いていくのかは大きな注目ポイントだ。具体的には、次世代デスクトップOS「Looking Glass」(開発コード名)の開発、Javaとオープンソースの関係、オープンソース化したSolarisの今後などが挙げられる。


 サービス分野はどうだろうか―。Sunは1CPUあたり1時間1ドルの従量課金サービス「Sun Grid Compute Utility」構想を2005年に打ち出し、先ごろ米国内で一般向けに試験提供を開始した。調査会社の英Ovumは、サービス分野でのSunの潜在力について、「LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)に代表されるオープンソース導入の土台となるサービスを提供できるシステムプロバイダの1社」、と高く評価している。この分野は比較的新しい事業で、「the Network is the computer」という同社のスローガンを具体化するものでもある。サーバーで築いた同社の名声を生かすことができれば、新しい収益の流れを生むだろう。

 こうした現状のなかで、Schwartz氏が打ち出す戦略は、まだ明らかにはなっていない。

 これまで、同社を批判する声の多くが、各分野で抱える問題のほかに、広すぎる製品ラインアップ、膨大な研究開発費・人件費を改善すべき点に挙げてきた。それに対し、McNealy氏は自論である「the Network is the computer」を貫き、その実現のみに傾注していたといえる。

 Schwartz氏もブログでMcNealy氏のビジョンを改めて賞賛しており、新CEOの下のSunも戦略や方針には大きな変更はないようだ。だが、米CNET News.comは、(“the Network is the computer”という)戦略は同じでも戦術(ロードマップ)が変わるかもしれないことを同氏がにおわせたと報じている。

 McNealy氏のCEO引退は、一つの時代の終わりを印象付けるものでもあり、同氏をたたえる声や惜しむ声がインターネット上で多く見られる。そのMcNealy氏が育てたSchwartz氏への期待も高く、業界はその一挙一動に注目している。



URL
  Jonathan Schwartz氏のブログ(英文)
  http://blogs.sun.com/jonathan
  米Sun MicrosystemsのCEO交代のプレスリリース(英文)
  http://www.sun.com/smi/Press/sunflash/2006-04/sunflash.20060424.2.xml
  英Ovumのコメント(英文)
  http://www.ovum.com/go/content/c,63843
  米CNET News.comの記事(英文)
  http://news.com.com/2100-1014_3-6065119.html


( 岡田陽子=Infostand )
2006/05/08 09:15

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