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米Googleのオフィスアプリ参入、その狙いは?


 米GoogleがWebベースの表計算アプリケーション「Google Spreadsheets」の試験提供を開始した。これまで電子メールの「Gmail」、カレンダー機能の「Google Calender」など、検索エンジンを軸に次々にサービスを拡大してきたGoogleだが、今度は米Microsoftの牙城であるオフィスアプリケーションに参入することになる。Googleが狙っているのは何か、整理してみよう。


 ユーザー限定でスタートしたGoogle Spreadsheetsについて、同社はGoogle Labsの試験提供であることを強調している。だが、オフィスアプリ分野に参入することは間違いない。というのは、今年3月にWebベースのワープロを提供する米UpstartleのWritely事業を買収しており、“オフィススイート”と呼ぶのに必要な機能をそろえつつあるからだ。

 現在、Microsoftはオフィススイート分野で9割以上のシェアを占めるといわれている。そこでGoogleはどんな戦略をとるのだろう。

 オフィスアプリ分野におけるMicrosoftとGoogleと同じ関係にあるのが、業務アプリケーション分野での米Oracleや独SAPと米Salesforce.comだろう。Salesforce.comはホスティング形式で業務アプリケーションを提供しており、中小規模企業顧客を獲得している。同社は現在、単なるホスティングサービスからカスタマイズ機能を提供し、既存顧客を取り囲みながら、顧客層を拡大している。

 だが、Googleのサービスは無償で、月額料金制のSalesforce.comと単純には比較できない。Googleの戦略を読み解くためには、GoogleがGoogle Spreadsheetsでの事業モデルと、狙っているユーザー層を考えねばならない。

 事業モデルに関しては、同社の収益源は広告だが、オフィスでも広告サービスを展開することになるのだろうか? これは現時点では不明確だ。

 ユーザー層については、少なくとも現時点では、Googleが狙うのがMicrosoft Officeを使いこなすパワーユーザーではないことは明らかだ。Google Spreadsheetsの機能は基本的なものにとどまっており、いまのところグラフ化機能もマクロも使えない。また、パワーユーザーを獲得するためには、プライバシー懸念やセキュリティの課題を克服しなければならない。

 だが、MicrosoftのExcelレベルの機能を必要としないユーザーは、企業、個人ともに存在するはずだ。業務アプリケーションでSalesforce.comが見出したような市場を、オフィス分野でGoogleが見出すことは考えられる。


 また、オンラインアプリケーションという特徴も要となる。Google Spreadsheetsでは、ユーザーは、電子メールにより、共有したいユーザーを呼び出し、IMでチャットしながらファイルを共有、編集できる(現在、共有できるユーザーはGoogleアカウントを持つ人のみに限られている)。共有機能は、GMailやGoogle Talkなどのコミュニティを持つGoogleには、新しい付加価値の提供となるはずだ。実際、Googleは公式ブログで、同アプリケーションの共有機能にハイライトをあてたエントリーを掲載している。

 共有に付随するアクセス性もオンラインアプリの特徴だ。Google SpreadsheetsはMicrosoftのExcelのフォーマットであるXLS、それにCSVの両方式で作成した表計算シートをインポート/エクスポートでき、保存はXLS、CSV、HTMLをサポートしている。ファイルはオンラインストレージに自動保存できる。

 このような特徴を考えると、Googleが狙うのはMicrosoftの置き換えというより、補完とも考えられる。外出時にファイルにアクセスしたい、他の人と共有したい、など、時と場合に応じてオフラインアプリケーションとオンラインアプリケーションを行き来できれば便利だろう。ユーザーは常に、新しいサービスに対して、新しい使い方を見出してきた。オフィス分野でも利用の多様化は起こるだろう。

 GoogleがMicrosoftのテリトリーに進出する一方で、MicrosoftもGoogleのテリトリーに進出している。昨年11月にオンラインサービスの「Windows Live」と「Office Live」を提供しており、検索分野では、自社開発の検索広告サービス「adCenter」の提供を開始している。

 Web 2.0という言葉に象徴されるようにネットは新しい時代を迎えている。GoogleとMicrosoftは、それぞれ別の方向から、この新しい時代にアプローチしており、両社の戦いは新しい局面に入ったといえる。



URL
  米Google
  http://www.google.com/
  Google
  http://Spreadsheets.google.com/
  Writely
  http://www.writely.com/
  米Googleのプレスリリース(英文)
  http://www.google.com/press/annc/spreadsheetss.html
  米Googleの公式ブログ(英文)
  http://googleblog.blogspot.com/2006/06/its-nice-to-share.html


( 岡田陽子=Infostand )
2006/06/12 08:49

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