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突然の幹部交代、揺れるNovell


 Linux大手の米Novellが揺れている。“ネットワークOSの雄”から“Linux企業”に大きくかじを切って約3年。6月下旬に、CEO、CFOの突然の解任・交代という事態を迎えた。同社の戦略は破たんしたのだろうか―。


 Eric Schmidt氏(現Google CEO)のあとを引き継いで、5年間CEOを務めてきたJack Messman氏が6月21日解任された。Linux企業への転換を主導してきた同氏のあっけない退場だった。同時にCFOのJoseph S. Tibbetts, Jr.氏も解任され、CEOには、社長兼COOのRonald W. Hovsepian氏が就任。CFOは後任をみつけるまでの暫定的な布陣となっている。

 同社にとっては新製品「SUSE Linux Enterprise 10」の投入直前にあたる。従来路線が継承されるかがポイントとなったが、Hovsepian新CEOは電話会見で、「ビジネス戦略の加速が私の最優先事項だ」と述べ、これまでのLinux戦略を引き続き推進していく考えを確認した。

 このニュースを受け、52週低迷が続いていた同社株は9.2%高の6.55ドルにまで上がった。市場は、このトップ交代を好感したのだ。

 Novellは、ネットワークOSの草分けであるNetWareを擁して、かつてはこの分野で独占的な地位を誇った。だが、Windows NTの登場、さらにOSが標準でネットワーク機能を持つ時代になると、次第に影が薄くなっていった。

 NDS(Novell Directory Service)などの製品も投入したが、なかなかジリ貧状態から脱することはできなかった。こうした状況を打開するのが、Linuxへの進出であり、LinuxとNetWareを組み合わせた製品ラインの開発だった。

 同社は2003年8月、GNOMEプロジェクトの創始者Miguel de Icaza氏らが創設した米Ximianを、同11月には欧州の有力Linuxディストリビューター独SuSE Linuxを買収すると発表した。世界最大規模のLinux企業の誕生である。

 この戦略は当初、成功を収め、1年後に発表した2004会計年度第4四半期(2004年8-10月)決算では、黒字転換を果たす。


 だがその後、2005会計年度(2004年11月-2005年10月)では失速する。米Microsoftとの独占禁止法違反訴訟の和解金3億9500万ドルという“ボーナス”が入ってスタートした年だったが、第2四半期は純損失1560万ドル、第3四半期は210万ドルの黒字(前年同期比91%減)、第4四半期は純損失490万ドルとなった。

 結局、同11月には、全社員の1割を超える600人のレイオフを発表するところまで追い込まれた。Novellは、これによって年間1億ドル以上の費用削減が可能になるとしている。

 2005会計年度は、第1四半期に180万ドルの純利益を計上したものの、売上高は2億7400万ドルで、前年同期比5%減と低迷しており、出口が見えない状態だ。

 このNovellに対してアナリストや株主が厳しい評価を下すのは、ライバルの米Red Hatが非常に好調であることの影響が大きい。

 Red Hatが6月28日に発表した2007会計年度第1四半期(2006年3-5月期)決算は、売上高が前年同期比38%増の8400万ドル、純利益は同11%増の1380万ドルだった。サブスクリプション販売は同45%増の7150万ドルに達している。これに対し、Novellのサブスクリプション販売は1000万ドル程度。Linuxビジネスでは圧倒的にRed Hatに軍配が上がる。

 売上高2億7830万ドル(2006会計年度通期)のRed Hatが、四半期だけで同程度の売上高規模を持つNovellを追いつめている。さらにRed Hatは今年に入って、米JBossを3億5000万ドルで買収した。これによってエンタープライズ市場でのRed Hatの優位はますます強固になるとみられている。この勢いの差がRed HatとNovellの明暗を分けていると言っていいだろう。


 米Gartnerは、6月23日のリポートでMessman氏について「経営のリーダーシップを維持することができず、Novellの市場に対する価値をはっきりした形で示すことができなかった」と指摘している。

 Novellがマーケティング戦略にたけていない、というのはこれまでしばしば指摘されてきたことだ。コンサルタント出身のMessman氏は、この分野があまり得意でない。これに対し、Hovsepian氏は、IBMでは開発、販売、マーケティング、サービスを統括した経験があり、セールス・マーケティングに強い。Hovsepian氏がトップになることは、社長就任時からの既定路線で、今回のトップ交代には、遅すぎたという声さえ出ている。

 では、Novellは、これからどうしていけばいいのか。

 Gartnerのリポートでは、Novellにとって次のことが必要であるとしている。すなわち、1)継続的な成長の達成、2)Red Hatと競ってのシェア獲得、3)ID・リソース管理市場での継続的な成長の達成、4)「Novellとは、いったい何者なのか?」を明確にすること―である。

 Messman氏はSuSE買収を発表した際、「OSの経験があり、世界的な技術サポートを提供できるのはNovellだけだ」と語った。依然として、これは同社の強みであり、復活のカギとなるだろう。



URL
  Novellのプレスリリース(英文)
  http://www.novell.com/news/press/item.jsp?id=985&geoFilter=US
  Gartnerのリポート(英文)
  http://www.gartner.com/DisplayDocument?doc_cd=141669


( 行宮翔太=Infostand )
2006/07/03 08:59

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