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Vistaの新機能をめぐるMSとセキュリティ企業の不協和音


 長年、米Microsoftとパートナー関係にあったウイルス対策ソフトウェアベンダー各社が、Microsoftを公然と非難している。問題としているのは、リリースが迫る「Windows Vista」の2つのセキュリティ機能だ。Microsoftは先週末、独禁法対応の一環として方針を転換、この扱いを変更すると発表した。これまでの経過をまとめた。


 Vistaは、ボリュームライセンス向けには11月、消費者向けには来年1月にリリースされる予定だ。その大きな強化点としてセキュリティ機能があげられる。Microsoftはすでに「OneCare」ブランドでセキュリティ市場に参入しているが、今、セキュリティベンダー各社が懸念しているのは、OSに統合される「PatchGuard」と「Windows Security Center」という2つの機能だ。

 10月2日、米McAfeeは英Financial Times紙に全面広告を出し、Microsoftが競争を阻害しているとアピールした。最大手の米Symantecも同調している。

 PatchGuardは64ビット版のみの機能で、サードパーティを含む外部からのカーネルへのアクセスを遮断する。「Windows XP」の64ビット版から加わった機能で、カーネルへのアクセスを遮断することで、OSを安全にできるという考えから導入された。

 これまでセキュリティベンダー各社はカーネルへのアクセス権限を持ち、これにパッチをあてることでセキュリティサービスを提供してきた。そのアクセスが遮断されると、脅威に迅速に対応できなくなる―というのが彼らの主張だ。また、PatchGuardは、すでにハッカーに破られており、OSを安全にすることにはならないとも述べている。

 Windows Security Centerは、ユーザーが自分のシステムのセキュリティを管理できるセキュリティダッシュボードだ。ベンダーのセキュリティ製品が提供する管理機能と同じような役割を果たす。「Windows XP Service Pack 2」から加わった機能だが、Vistaでは無効化が難しくなる点を各社は問題視している。


 全面広告を打ったMcAfeeは「Microsoftのアプローチは誤りであり、イノベーションと競争を阻害する」と主張。OS市場を独占するMicrosoftは、セキュリティ技術をコントロールするつもりであり、このようなアプローチの場合、もし、そのセキュリティ技術がうまく機能しなかったら、世界の97%のデスクトップが危険にさらされることを意味する、と続けている。

 SymantecのCEO、John Thompson氏も、Microsoftのアプローチを「フェアではない」と批判している。10月8日、スペイン・バルセロナで開催された技術イベントで、同氏は「マーケティングではなく、技術でフェアに戦うことを要求する」と述べた。

 こうした動きに対し、Microsoft側は、1)PatchGuardはユーザーの安全のために必要な機能で、Microsoftのセキュリティチームさえもアクセスできない、2)パートナーとは協業する―の2点を強調した。

 また、英Guardianの取材に応じた同社の担当者は「こんなことは言いたくないが、(セキュリティベンダーの苦情は)医者が患者に病気でいてほしいと願っているのと同じに見える。どうやら、(ベンダー各社は)Windowsの安全性が向上すると、自分たちの市場がなくなると思っているようだ」とも漏らしている。

 今回のセキュリティベンダーの批判は、90年代後半にWebブラウザ、メディアプレーヤーをめぐって起こった議論と似ている。

 OSで支配的な地位にあるMicrosoftは、OSにWebブラウザやメディア再生プレイヤーをバンドルすることで、その分野の専業ベンダーのシェアを侵食していった。これに対し、各国で独占禁止法違反問題が持ち上がり、Microsoftに批判的な空気が強い欧州では、2004年3月、欧州連合(EU)が4億9700万ユーロ(約696億円)という巨額の制裁金支払いと是正措置を命じた。その後、今年7月には、是正措置を順守していないとして2億8000万ユーロの追加支払いを命じている。MicrosoftとEUの争いは現在も続いており、EUはVistaについても調査中だ。

 McAfeeとSymantecの両社に加え、フィンランドのF-Secureが、セキュリティ分野のEUの調査を支持すると表明している。

 こうした動きを受けて、Microsoftは先週末になって、セキュリティ企業への譲歩を明らかにした。他のセキュリティ企業がAPI拡張経由でカーネルにアクセスすることを認め、併せて、べンダーのコンソールがインストールされている場合は、Windows Security Centerを部分的に無効にできるようにするという。

 これに対し、セキュリティ企業側は「技術面の詳細な情報を受け取るまでは判断できない」と慎重な構えだが、解決への光明は見えてきた。今後の展開が注目される。



URL
  米McAfeeのポジションペーパー(PDF)
  http://www.mcafee.com/us/local_content/misc/vista_position.pdf
  米Symantec
  http://www.symantec.com/
  英Guardianの記事
  http://technology.guardian.co.uk/weekly/story/0,,1892777,00.html
  米Microsoftのプレスリリース(英文)
  http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/Oct06/10-13VistaReleasePR.mspx


( 岡田陽子=Infostand )
2006/10/16 09:04

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