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ソフトウェア産業の活路を-オープンソースに傾倒する欧州
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欧州連合(EU)は、以前からプロジェクトへの出資などオープンソース活動を支持してきたが、今年に入って欧州委員会(EC)が新たに発表した報告書によると、オープンソースは、EUが掲げる競争力の強化という目標のために戦略的に重要なのだという。オープンソースに対して好意的な内容で、同時に米国への対抗意識も浮かび上がってくる。
この調査報告書は、ECの出資の下で、オランダ・マーストリヒト大学MERIT(国連大学新技術研究所)がまとめたものだ。欧州におけるオープンソース(FLOSS:Free/Libre or Open Source Software)の実態と、それがICT(情報通信技術)や経済に与える影響を調べている。
まずオープンソースの現状として、欧州は、北米、アジアと比べて採用が進んでおり、貢献という点では最も活発という。たとえば、OSにおけるオープンソースのシェアは、欧州は他の地区よりも高く、個人開発者のコラボレーションでも欧州がリードしているという。調査では、こうした個人開発者のオープンソースへの積極的な参加が、中小規模企業の成功につながっていると分析している。
経済に与える影響では、オープンソースは直接的、あるいは間接的に欧州経済に貢献しているという。適切な品質管理とディストリビューションがなされたオープンソースコードは、経済価値にすると120億ユーロ(約1兆9000億円)に相当すると試算。そして、こうしたオープンソースコードは過去8年間、18~24カ月に倍増するペースで増えているともいう。
全ITサービスに占めるオープンソースソフト関連サービスの割合も増えており、2010年には32%に達する見込みだ。オープンソースは社内開発されるソフトウェア全体の29%を占め、欧州のGDPにオープンソースが占める割合は2010年には4%になると予想している。
また、研究開発分野のオープンソースの利用・奨励は、米国に比べて低いICTへの投資を埋め合わせることになるとしている。企業は、無償で利用できるオープンソースソフトウェアの開発に、これまで12億ドルを投資している計算になる。
オープンソース開発はほとんどの場合、ボランティア(無償の貢献)という形をとるが、雇用に与える影響としては、プロプライエタリソフトの“パイ”を奪うものではないようだ。
調査では、米国でプロプライエタリソフトのベンダーが全ソフトウェア開発者の1割を雇用しているに過ぎず(ITユーザー企業は7割)、オープンソース開発者がプロプライエタリソフトの雇用を侵食する可能性は低いとしている。オープンソース開発者の多くが大手IT企業に雇用されているが、この実態についてはきちんとした数字がない。だが、最近の雇用需要におけるオープンソースとプロプライエタリは7対3の比率であり、オープンソース関連スキルに対して高い需要があるとも述べている。
さらには、オープンソースはスキルと開発環境を提供し、地域で価値が付加されるものであることから、中小企業の誕生や雇用創出につながるとも述べている。欧州はベンチャーキャピタルによる支援が米国ほど活発ではなく、歴史的にソフトウェア事業が立ち上がる能力が低い点を考えると、オープンソース開発者が多いという欧州の現状は、新規にソフトウェア事業が立ち上がるチャンスにつながる可能性があると評価している。
このように、調査報告書はオープンソースについてかなり好意的な内容だ。
ちょうど時期を同じくして発表されたのが、学校における「Windows Vista」と「Office 2007」導入についての英国教育工学事業団(BECTA)の調査だ。BECTAは、このなかで、相互運用性への懸念、魅力的な機能の欠如などを挙げ、学校が早期に導入する理由はみあたらないとして「早期導入には反対」と明記している。Officeでは、オープンソースを含めた選択肢を持つよう推奨している。Microsoftにとっては頭の痛いことである。
欧州がオープンソースに傾くのには、世界のソフトウェア産業が米国ベンダー中心であることへの焦りが背景にあるだろう。欧州は2000年に採択した国際競争力強化とデジタル化計画「リスボン戦略」、および2006年の見直し版「i2010」などを通じて、経済成長と雇用の安定・創出を目指している。だが、成長市場であるソフトウェアでは、米国にリードを許している状態だ。
独ミュンヘン市など域内公共機関のオープンソース採用は、米国企業にライセンス料を支払うのではなく地元ベンダーを活用できるというメリットもある。今回のECの調査からは、オープンソースをなんとかして生かせないかと探るEUの心境も垣間見える。
2つの調査報告書からみて、EU加盟国の政府や企業は、今後、オープンソースへの支持をさらに強めることになると考えられる。だが、調査報告書でも指摘している通り、オープンソース関連のビジネスという点では米国がリードしている。欧州の課題は、オープンソースの奨励と開発者の育成のほかに、雇用や起業など別の環境整備も含まれそうだ。
■ URL
ECとマーストリヒト大MERITによるオープンソース調査
http://ec.europa.eu/enterprise/ict/policy/doc/2006-11-20-flossimpact.pdf
BECTAのプレスリリース(英文)
http://news.becta.org.uk/display.cfm?cfid=708685&cftoken=a20832040d40c8a7-12F00B4A-E129-51C7-16442A337E9E88CF&resID=28267&page=1658&catID=1633
( 岡田陽子=Infostand )
2007/01/22 09:04
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