Enterprise Watch
バックナンバー

WiMAXフィーバー、モバイルブロードバンドの到来か


 高速無線通信技術のWiMAXが脚光を浴びている。WiMAXは10月19日の国際電気通信連合(ITU)の勧告を受けて、3G規格「IMT-2000」の6番目の地上波無線インターフェイスとなった。これに続いてCisco SystemsによるWiMAX機器ベンダーの買収や、台湾政府による6億6400万ドルのWiMAX技術への投資など、関連ニュースが伝えられている。モバイルブロードバンド時代の幕開けを感じさせる動きだ。


 WiMAXは固定網から発展した無線技術で、最大伝送速度70Mbps、伝送範囲は約50km。無線ブロードバンドを実現する技術とされている。米国電気電子学会(IEEE)が「IEEE 802.16」として標準化を進めており、まず2003年1月に、「IEEE 802.16a」が承認され、同4月には、業界団体WiMAX Forumが発足して、WiMAXを強力に後押ししている。

 世界の現在の状況を見ると、韓国で派生技術である「WiBro」の実装が進んでおり、KT(Korea Telecom)などが商用サービスを提供している。また、米国ではSprint Nextelが2008年の商用サービス提供に向け、準備を進めている。日本では、アッカ・ネットワークス、KDDIなど固定と無線の両キャリアが実験を行っており、総務省の周波数帯割り当てに向け、それぞれが連合を組んで名乗りを上げている。

 WiMAXに期待されていたのは、銅線など固定網ベースのブロードバンドサービスが利用できない地域でネットワークを補完するという役割だった。モバイルブロードバンドは、デジタルデバイドを解消するための重要なポイントであり、それには伝送範囲の広いWiMAXの持つ効果とメリットは大きい。

 こうしたことから、とくに固定通信網の整備が遅れている途上国では、WiMAXに大きな期待が寄せられた。調査会社のカナダMaravedisとインドTonse Telecomのレポートによると、インドのWiMAX加入者数は2014年に2100万人に達する見込みという。インドではRelianceなどのキャリアが一部地域でWiMAXサービスを開始しており、今後は、より大きな規模で普及が進むとみている。また、ジャマイカのニュースサイトThe Jamaica Observerも、ITUの勧告により、ジャマイカ国内で一般市民向けのWiMAXの実装が進むだろうと伝えている。

 途上国だけではない。デジタル先進国の台湾でもWiMAXへの期待は大きい。ITUの発表の翌週、台湾政府が今後数年間でWiMAXに6億6400万ドルを投資すると発表した。英Reutersによると、台湾政府はすでに今年7月、WiMAXライセンスを6社に付与しており、今回のWiMAX開発にあたり、米Motorolaなど5社をパートナーとして指名したという。


 WiMAXにとって、ITUで国際標準と認められたことは大きなマイルストーンだ。同時に、WiMAX技術(IEEE 802.16m)は4G(IMT-Advanced)においての足場も持つことになる。それには政治的な要素も見え隠れする。

 今回ITUが承認したWiMAX仕様「IEEE 802.16e」は、固定網無線技術ではなく、移動体通信の要素を持っている。802.16eは「モバイルWiMAX」ともいわれ、Sprint Nextelなど、多くの携帯電話キャリアが実装を計画している。

 WiMAXは、技術的には現行の携帯電話向けモバイル通信技術に対抗できる。これまで、GSM、WCDMAなどの携帯電話の無線規格は、欧州主導で標準化が進められてきたが、WiMAXが国際標準になったことで、米国企業も同じ土俵で競争できるようになった。このため、米国と米国企業にとって、WiMAXは戦略的に重要な技術と位置づけられている。こうした背景からか、中国はITUの会議では反対票を投じたと伝えられている。

 ともあれ、現在のWiMAX熱は、モバイルブロードバンド市場の潜在性を反映したものである。通信関連の調査会社、英Informa Telecoms&Mediaでは、WCDMAの発展系であるHSPA、CDMA2000の発展系であるEV-DO、そしてWiMAXなどのモバイルブロードバンド技術の加入者数は、2011年には固定網ブロードバンドサービス(DSL、ケーブル、FTTH)の加入者数を上回ると予測している。時代は固定から無線へと移りつつあるのだ。

 WiMAXは今後、WCDMA/HSPA、その発展系となる「LTE」(Long Term Evolution、別名Super 3G)と対抗しながら共存することになる。Intel、そしてGSMで大きな役割を果たしたNokiaもコミットしている。コスト、オールIPサービスなどのメリットを生かし、実装が進むだろう。

 Informaのレポートによると、2012年時点では、HSPAが依然優勢ながら、OFDMAとMIMOではWiMAXがリードし、長期的にはインストールベースからLTEが有力な技術になる、という複雑な予測を出している。モバイルブロードバンドの時代に向け、戦いの火ぶたは切って落とされたのである。



URL
  ITUのニュースリリース
  http://www.itu.int/newsroom/press_releases/2007/30.html
  Cisco Systemsのニュースリリース
  http://newsroom.cisco.com/dlls/2007/corp_102307.html
  The Jamaica Observerの記事
  http://www.jamaicaobserver.com/magazines/Business/html/20071023T210000-0500_128635_OBS_UN_RULING_ON_WIMAX_WIDENS_OPTIONS_FOR_DIGICEL__CONSUMERS_.asp
  Reutersの記事
  http://www.reuters.com/article/companyNewsAndPR/idUSTP1081820071022
  Tonse Telecom/Maravedisの調査レポート(PDF)
  http://www.tonsetelecom.com/files/WiMAX_India_Tonse_Maravedis_2nd_edition_brochure.pdf


( 岡田陽子=Infostand )
2007/10/29 09:05

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.