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「前略プロフ」爆発的ヒットを生んだ、楽天のケータイ戦略のゆくえ
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Eビジネス研究所が開催する「Eビジネス研究会」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」として講師に招き、業界の動向や将来のビジョンについて、参加者とのインタラクティブな質疑応答を交えたセミナーを行っています。この連載では、講演を行う前のEビジネスマイスターに、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。
今回は、10月24日にEビジネス研究会の講師として登場していただく楽天・浅見氏に話を伺いました。
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Eビジネスマイスター:浅見 貴之
楽天株式会社(ジャスダック:4755)
開発・編成統括本部 プロデュース本部
新サービス部門 部門長
2000年2月、楽天株式会社へ入社。ケータイ版「楽天市場」や楽天グループ共通の会員システム、ポイントシステム等の主要サービスをプロデュース。現在は、開発・編成統括本部 新サービス部門の部門長としてコンテンツ/メディア/ポータル/コミュニュティおよび新規インキュベーションサービスの開発部署のマネージメントを主に担当している。
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―こないだちょっとお聞きしたんですが、新タワーになってから、昼食がタダとか?
浅見氏
ええ、しかも朝食もタダ。社員や業務委託の人たちのヤル気につながってます。9時半が始業なんですが、朝食は9時までに食べることになってて。就業時間を守るのにも一役かってるみたいで。
―すごいですね。これは福利厚生の一環?
浅見氏
ええ、元々ある程度決まっていたことです。8月15日に新タワーに引っ越してきて、9月1日に発表されました。社員はまさかタダになると思っていなくて、ワッと喜んで。
―そもそも、新オフィス移転の目的って何?
浅見氏
うちは引越しが多くて、本社機能を持っている会社としては4回目の引越しなんです。グループも含め、みんなで集まろうという姿勢なんです。
以前は、楽天とインフォシークは別々のビルに入っていた。それを、同じビルで、同じフロアにいて顔が見える関係にしようと。それによって、パワーを集結させるという狙い。社長室も、いつでも話をしに入って来いというオープンスタンスでいますからね。
―営業力を重視する企業だと、朝早く来て全員集まるカルチャーがありますよね。どこも規律を重んじている。
浅見氏
ええ、規律もありますし、情報共有が欠かせないということですね。地方拠点もあるんですが、四元中継で結んだりして、全社会議に参加してもらっています。本社側の会議場には20ほどのスクリーンがあって、テレビ番組みたいに地方からの中継が見られるんですよ。
―ところで、浅見さんは、楽天でのキャリアが長くて、2000年入社だとか。
浅見氏
もう、古い順で言うと20番台になっちゃいましたね。
―ということは、楽天市場のサービス立ち上げにはいろいろ関わって来られた?
浅見氏
そうですね。僕は2000年2月に入社しまして、最初はコンテンツの編成チームにいました。楽天市場の、時節に合った企画をするところです。例えば今の時期だとお歳暮とクリスマスシーズンの企画をやりましょうとか。2000年というのはiモードさんを初めとする携帯コンテンツが盛り上がり始めていた時期ですよ。そこで、ケータイ版楽天市場の立ち上げにプロデューサとして関わるようになって。その後、プロデュース部という組織ができてからは、楽天グループ共通の会員システムとか、サイト内で仮想通貨の役割を果たしている「楽天スーパーポイント」の立ち上げなども担当しました。
その後、事業部長として、開発だけでなくP/Lも見ながら運用もやるという立場になりました。コミュニティ関連のブログやSNSのような事業、新規サービスの開発、社員の育成にも携わっています。
―それらのマネージャーを兼任してるってこと?
浅見氏
ええ、開発にメンバーサービス、ブログ…、4つほどの部署や役割を兼任してます。僕は開発もやって、事業もやって、サポートもやって、育成もやってますから。これら全部を実際に担当している人間は社内にもほとんどいないと思います。
―そんな浅見さんから見て、ネットビジネス成功の秘訣は? 楽天出身のOBの中から、「GREE」や「みんなの就職」など、新たな事業を立ち上げて成功した方もいらっしゃるしね。
浅見氏
うちはもともとベンチャーですし、社員にはステップアップしてくれと言っています。独立していく人も多いかな。
楽天のビジネス成功の最大の秘訣は、非常にシンプルですが、「成功のコンセプト」というものです。
社員証の裏には、それが書いてありますし、市販されていた楽天イーグルスのメモ帳の裏にもなぜか、書いてあるんです。社長の著書「成功のコンセプト」も、もうすぐ発売されます。
※成功のコンセプト:楽天が掲げている5つのコンセプトは、「1,常に改善、常に前進 2,Professionalismの徹底 3,仮説→実行→検証→仕組化 4,顧客満足の最大化 5,スピード!!スピード!!スピード!!」。書籍「成功のコンセプト」も今年10月に発売される。
―三木谷さんも、Eビジネス研究会の講師として来てくれたらいいのに。
浅見氏
社長が僕たちに言っているビジネス成功のコンセプトは、「スピードが大事」「常に改善、常に前進していこう」といったようなシンプルな哲学です。
また、「ひとけ」というコンセプトがあって、単なる情報だけでなくて、ユーザーや店舗とのコミュニケーションをインターネット上に存在させるということ。ユーザーがいるという感覚を、サービスにいかに埋め込むかを重視しているんです。つまるところ、ユーザーオリエンティッドなサービスということ。Web 2.0の風潮は、創業当初からやっていることです。
―そうやって、ユーザー重視の戦略を貫いてきた楽天の強みと言うと?
浅見氏
われわれのサービスの一番の強みは、会員ビジネスなんですね。広告販売を中心にしているようなポータルサイトとは、考えそのものが違うんです。もちろん、会員のデータベースを持ったり、システムを維持していくにはお金がかかりますが。
―最近では、「前略プロフ」が爆発的な人気になっていますね。これも浅見さんが部門長をされているとお聞きしていますが?
浅見氏
9月末時点で、会員数は437万人に達しています。主に中高生の間でクチコミによって広がっていて、まだまだ会員数は増える勢いがあります。「プロフ」は本来、自己紹介ツールとして使われるものですが、実際の使われ方には作り手側の意表をつくようなものもありますよ。
自己紹介の項目に「前世」「生まれ変わったら」とか、「世界平和に必要なのは」なんていうユニークな質問を入れてあるのですが、それを生かして、「プロフ」を頻繁に更新しているケースが目立ちます。
先日、前略プロフのユーザーにアンケートを送ったところ、3時間で3000件の回答がありました。この反応の速さにもびっくりしましたね。
これ、正式には「cgi-boy 前略プロフィール」っていう名称なんですよ。ユーザーの間では「プロフ」なんですけどね。ブランディングとして、cgi-boyを使ってます。楽天のロゴは、よく見るとちっちゃく入ってるだけです。
※プロフとは:プロフィール(自己紹介)サイトの略称。最も有名なサービスが、楽天グループの「前略プロフィール」である。あらかじめ用意された数十の質問の中から自分が公表したいものに答えていくだけで、簡単に自己紹介サイトが作れることが受け、中高生の間で大ヒットしている。現在は、自己紹介という枠を超えて、趣味を共有する場、自己表現の場として利用価値が拡大しつつある。
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前略プロフィールのトップページ
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―楽天のブランドとは関係なくヒットしたということ?
浅見氏
そもそも前略プロフのユーザーは10代から20代前半。楽天市場は決済を持たない人は利用できないんで、この層への認知度は高くないんです。サービス自体が時流に乗って盛り上がったということですね。われわれとしても、注目して手を打っています。ちょうど今も、ページリニューアルを行っているところなんですよ。
SNSサイトですと、18歳以上でないと登録できないサービスも多いですが、前略プロフのユーザーはそれらのSNSに入る前の年齢層が利用している。今までに開拓されていないユーザー層を囲い込むことができたという点で、楽天市場サービスとのコラボレーションなど、今後の展開も楽しみになっています。
※「前略プロフ」は2007年9月7日にページリニューアルを行っている。操作面の改善とともに注力されているのが、「個人情報を書き込まない」などのルールやマナーの啓発だ。若年層をターゲットとするサービスならではの苦労、それに対するノウハウも蓄積できたと浅見氏は語っている。
―今後の戦略についてはセミナーで詳しくお話いただくとして、「前略プロフ」の最近のトピックは?
浅見氏
セミナーでは、タレントオーディションの話をします。これは、あるとき昼休みに考えついたアイデアだったんですよ。
ほかにも、セミナーではユーザーがどう楽しんで使っているのか利用例を紹介したり、そこから見えてきたケータイユーザーの行動特性も考察したいと思っています。
―こういったユーザー主導のコンテンツは、魅力が多い反面、無法地帯に陥る危険性もある。ユーザーオリエンティッドなサービスを展開するにあたって、どんなところに注意を払うべき?
浅見氏
サポートを受ける立場から見ると、ユーザーが喜びの声を企業に伝えることは、まずない。ナマの声を聞くのはつらいですよ。クレームを寄せてきたお客様の気持ちが喜びに変わるという体験を何度もして、一人ひとりのユーザーの顔が見えるくらいに理解しなきゃいけません。ユーザーからのどんな意見やクレームも無視しちゃいけない、すべてをルールで縛りすぎちゃいけない、と社員に伝えるようにしています。
―組織的な取り組みとしては?
浅見氏
専門のチームを置いて、サイトの監視をする人材の育成を含めた教育をしています。対応基準は、各サービスによって異なります。
企業への攻撃を誘発するような書き込みは、サイト巡回によって削除しています。すべてのコンテンツをリアルタイムに巡回することは物理的に無理ですから、ユーザーの通報を受けて、それに対応すべき規定も作っています。
コミュニティーサービスを立ち上げた企業がぶち当たる課題が、クレームや通報を受ける体制や、対応に関するデータがどれだけ蓄積されているかだと思います。
―監視チームには、クレーム対応の専門家もいらっしゃる?
浅見氏
いえ、専門部隊といっても、必ずしも専門家が対応に当たる必要はないと考えています。受けたクレームや通報を、レポートして経営に上げて改善する、そのサイクルを回せるように教育しています。
サービスの立ち上げにあたっては、「事業、サービス、ユーザー」という三者の視点を考える必要がある。そういうバランス感覚をもったプロデューサを育てたいと思っています。
今回のキーワード:ユーザーオリエンティッド
ユーザー志向、ユーザー中心主義などと訳される。第一段階としては、ユーザーが求めるサービスがあること、ユーザーにとって使いやすいことが必要条件となるが、よりユーザーの満足度を高めるためには「ユーザー主導型」であるべきだと言われている。楽天市場などのショッピングサイトは、購入した商品のレビューを書き込めるなど、ユーザーが商品の価値を評価する仕組みを作り、今日のユーザーオリエンティッドなWebサービスの土台を作った。楽天では、ブログ、SNS、プロフなどサービスが進化しても、ユーザーがいるという感覚を、サービスにいかに埋め込むかを重視するスタンスは創業当時から変わらないと言う。
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10月24日に開催される第92回「Eビジネス研究会」のEビジネスマイスターとして楽天・浅見氏が登場します。詳しくは、こちら。
■ URL
Eビジネス研究所
http://www.e-labo.net/
楽天株式会社
http://www.rakuten.co.jp/
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木村 誠 1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』としてITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサルティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES-Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。 |
2007/10/17 09:14
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